5歳の息子が急性リンパ性白血病に。家族の生活リズムが乱れ、長女は不登校気味に… 奔走する日々から見えてきた、親として大事にしたいこと
特集「たまひよ 家族を考える」では、妊娠・育児をとりまくさまざまな事象を、できるだけわかりやすくお届けし、少しでも子育てしやすい社会になるようなヒントを探したいと考えています。
小児がん拠点病院の医師や看護師らが立ち上げた、病気の子どもと家族を地域で応援するボランティア団体「Cheer Families On!(略して“ちあふぁみ!”)」の活動について、3回にわたって紹介する本連載。今回は、闘病中のお子さんを育てるご家族の状況を知りたいと、急性リンパ性白血病を患っている5歳の男の子、田中玲くん(仮名)のお母さんに話を聞きました。
(記事内の病気や治療に関わる文の監修/神奈川県立こども医療センター 血液・腫瘍科医師 横須賀とも子先生)
耳の下の腫れが気になり受診、診断結果は「急性リンパ性白血病」
――急性リンパ性白血病と診断された長男の玲くんについてお話を聞かせてください。どのようなきっかけで病気が発覚したのでしょうか。
異変に気づいたのは5歳の息子が保育園の年中クラスにあがったタイミングでした。ある日、耳の下が腫れているのに気づいて。触ると、ぽこっと膨れていたんです。「あれ? これはなんだろう?」と気になって、かかりつけ医を受診しました。
そのとき先生に「他に気になることはありますか?」と尋ねられて。そういえば脛(すね)に複数のあざがあるなぁと。なかなか消えないなと思っていたのですが、ちょうど自転車の練習をしていたこともあり、ぶつけてあざができたのだろうと、とくべつ気に留めていなかったんです。
血液検査のための採血後、先生にこう言われました。「ALL(エーエルエル)の可能性がありますね」と。でも私、先生の言葉をちゃんと聞きとれなくて。「ALL」は急性リンパ性白血病の略称なのですが、当時は、そんな単語を聞いたこともありません。「気を落とさないで、しっかりね」と励まされたのですが、私は、どう返答していいか、わからないまま。紹介状を書いてもらい、総合病院で検査することになりました。
――そこであらためて「急性リンパ性白血病」と告げられたわけですね。
はい。まだ確定ではなかったのですが、息子が席を外しているときに「急性リンパ性白血病の可能性が高いです」と告げられました。そのとき、私が先生に問いかけた第一声は、「治りますか」でした。
白血病は、命にかかわる病気。つらい闘病をしなければならない。そんなイメージがありました。先生に、その不安な気持ちを伝えると、「医学は進歩していますから、8割・9割のお子さんが治っていますよ」と。「大人と子どもの白血病は違いますから、インターネットで調べるときには“小児”と付けるようにしてくださいね」と言われたのを覚えています。
自分の子が白血病になるなんて想像もしていませんでした。ただ、告知を受けた直後は私もアドレナリンが出ていたんでしょうね。不思議と、そんなに不安な気持ちはなくて。「きっと治る、大丈夫」と、前向きに捉えていました。
家族の生活リズムが乱れ、 親は仕事の調整に奔走し、長女は不登校気味に
――闘病生活での“治療以外の悩みや困りごと”について教えてもらえますか。
親にとっては「仕事の調整」がいちばん大変でした。
息子には、小1の姉と、1歳半の弟がいます。病気が発覚した4月は、末っ子の育休が明けて、私が仕事復帰するタイミングだったんです。継続して仕事を休みたい気持ちもあったのですが、働かなければ保育園を退園しなければなりません。病気の治療が終わったあと、玲の戻る場所がなくなってしまうかもしれない。それに私自身も仕事を辞めたくはありませんでしたから、なんとか仕事を継続できる道を模索したんです。
職場の上司や同僚が理解をしてくれたのは、本当にありがたく、幸運でした。夫も、定時で仕事をあがれるようにやりくりをして、私か夫のどちらかが、入院している息子に付き添える状態をつくって。ただ、その生活リズムをつくるまでが大変でした。
――玲くんだけではなく、ごきょうだいの子育てもある中で、生活リズムを変えなければならないのは大変ですよね。
そうなんですよね。玲の姉も4月から小学校に通い始めたのですが、しばらくして学校に行けなくなってしまったんです。慣れない小学校生活がスタートしたときに弟が突然入院してしまい、両親も病院に通うことになり、あまりの環境の変化に戸惑ったのかもしれません。
長女と玲は、とても仲がよくて、普段からよく話をしていました。話し相手でもあり遊び相手でもある弟がいなくなって寂しかったのかな。同時に「私が頑張らなきゃ」という気持ちもあったようで「お母さん、病院に行ってきていいよ」とよく言われていました。
入院している玲も、「こっちには看護師さんがいるし、お姉ちゃんのそばにいてあげてよ」なんて言うんですよ。冷静にまわりを見ている、大人っぽい子なんです。二人にそう言われると、子どもに遠慮させてしまっているのかなと気になって。それでも私の体は一つしかありませんし、親としても戸惑いながらの日々でした。
「この絵本を、私に?」 病気の子のきょうだいに贈られたプレゼント
――医師や看護師らが立ち上げたボランティア団体「ちあふぁみ!」が企画した、病気の子のごきょうだいへの「絵本プレゼント」に申し込まれたそうですね。
はい、病院の先生から絵本プレゼントのチラシをいただいて。「病院からのプレゼントだよ」と娘に絵本を渡したら、「えっ? 玲へのプレゼントじゃなくて?」と驚いていました。
入院している玲には、いろいろなプレゼントが届くんです。退屈しないようにと、絵本やおもちゃを送ってくださる方が多くて。ただ姉にしてみたら、内心「なんで弟ばっかり?」と感じていたんじゃないかな。だから病院のスタッフさんが、自分宛てにプレゼントしてくださったことが、とても嬉しかったのだと思います。
――娘さんが喜んでくれて良かった…。その後の娘さんの様子は、いかがですか。
小学校をお休みしたのは1〜2ヵ月ほどで、今は楽しく学校に通っています。
玲が一時退院したとき、元気な様子を見て安心したみたいで。また入院することがあっても、治療が終われば家に帰ってこられると分かって、張りつめていた緊張がとけた様子でした。入院して半年もすると私たち家族も、新しい生活リズムをつかめるようになりました。
――「ちあふぁみ!」は、病気のお子さんとそのご家族の闘病生活をあらゆる面からサポートしたいと活動されています。このような支援については、どう思われますか。
そんなふうに心を寄せてくださる方々がいるのは本当にありがたいですし、うれしいですよね。一方で、家族によって必要な支援が異なる難しさもあると思います。
たとえば、小児病院はベッドなどの備品が、子どもの身長に合わせてつくられているんです。長時間付き添う大人にとっては、体をかがめたり、よじったりしなければならず、腰痛持ちになる親御さんも多いと聞きます。整骨院に行けたり、マッサージチェアがあったりしたらいいなぁとは思いますが、「あのお母さん、面会に来たのにずっとマッサージチェアに座っている」と思われても、困りますよね(笑)。「そういう支援は不要だ」と考える方も当然いるでしょう。
――「このような支援があったら助かる!」と思うことはありますか。
ささいなことが積み重なって、日々の疲労につながっているなと感じることはあります。個人的な話をすると、私にとっては洗濯が大変。病棟内に洗濯機がないため、使用した衣類やタオルなどはすべて持ち帰ります。子どもが寝るまで付き添い、22時頃に家に帰って、洗濯をしなければならない。だけど、その元気が、なかなかわいてこない日もあるんです。
抗がん剤治療中は家族のものと一緒に洗えず、薬剤や吐しゃ物がついているときは予洗いをしなければなりません。玲が着るパジャマやタオルは毎日洗ってあげたい。生活のメリハリをつけるために着替えもさせたい。でも大量の洗濯物を持ち帰って洗うのが、しんどい。本当に小さなことなんですが……。病院内で洗濯できたらもっとラクになるなぁとは思います。
子育て中のお母さん、お父さんは、もっと“自分の気持ち”を大事にしていい
――最後に、妊娠中のプレママ・プレパパや乳幼児を育てている親御さん、病気のお子さんを育てているご家族に伝えたいメッセージがありましたら、お願いします。
自分の子どもが病気になると想定している親はいないと思います。私自身も、そうでした。健康に成長できるのが一番いい。でも、もしも重い病気になってしまったとしても、必要以上に悲観せずに、まずは“受けとめる”ことが大事なのかなと感じています。
私も最初は思いました。なぜ、うちの子が病気に? 私がなにか悪いことをしたのかなって。「誰のせいでもないよ」と言われても、どうしても考えてしまう。でも自分を責めたり、他のお子さんと比較したりするのって、本当にしんどいんですよね。だからフラットに現実を受けとめて、“私は今どうしたいのか”、自分の気持ちを大事にしようと思いました。
仕事のこともそうです。息子の治療には約2年かかるといわれています。決して短いとはいえませんが、長い人生で考えたら、たった2年です。だから私は、仕事を辞めたら、もったいないと思いました。好きなことを諦めたりやめたりしてしまったら、あとで後悔する気がして。
「お子さんの看病をしながら仕事をしてるの? 大変じゃない?」と言われることもありますが、私は子育てもしたいし、仕事もしたい。それが、私の意思なんです。「子どものために」ではなくて、「自分がそうしたいから決断した」といつでも思える自分でいたいんです。
子育て中のお母さん、お父さんは、もっと“自分の気持ち”に貪欲になっていい、と私は思います。どうしても子ども優先の生活になってしまうのは仕方がありませんが、子どもがいるから、病気を患っているからと、自分の気持ちにふたをしたり、諦めてしまったら、何もできなくなってしまう。私は、息子の闘病中も娘と一緒に演劇を観に行きましたし、今はリモートワークで家と病院を往復する生活だから髪を赤くしてみようかな、なんて考えています。
子育て中や闘病中で、たとえできないことが多くても、日常にあるちょっとした楽しみや挑戦したいことを見つけて、毎日に彩りをつけていけたらと、思っています。
【「ちあふぁみ!」立ち上げメンバー(柳町昌克医師、横須賀とも子医師、岡部卓也看護師)より、ひと言】
たまひよをご覧の皆様、ちあふぁみ!の記事をお読みいただき、ありがとうございます。私たちの個々の力には限界がありますが、ちあふぁみ!メンバーの一人ひとりの「いま私にできること」を合わせて「いま私たちにできること」を模索しています。皆様も、周りの困っている誰かに手を差し伸べたり、頑張っている誰かを応援してみてください。とても不安定な時代だからこそ、それぞれの時間を大切に過ごし、そして周りの方を大切にして頂けたらと思います。
取材・文/猪俣奈央子
【小児がんの子どもと家族を地域で応援するCheer Families On!(ちあふぁみ!)】
このプロジェクトは、神奈川県立こども医療センターで小児がん診療に携わる医療スタッフが中心となって行っているボランティア活動です。神奈川県立こども医療センターの組織活動ではありませんが、神奈川県立こども医療センターや、同センターに入院する患者と家族のための宿泊施設「リラのいえ」とも連携しながら活動を展開しています。(https://cheerfami.jp/)