「大人への不信感」「愛されたいのに愛され方がわからない」特別養子縁組で引き取られた子どもたちが変わる姿

前回の記事では、特別養子縁組を希望する側と新しい親を必要としている子どもの現状をお伝えしました。
シリーズ2回目となる今回は、特別養子縁組で子どもはどのように変わるのかをお届けします。
お話を聞いたのは、児童相談所と連携して里親探しをし、養子縁組を促進する国内唯一の社会福祉団体「家庭養護促進協会 大阪事務所」のソーシャルワーカー山上有紀さん。
2018年、当時2歳4カ月の女の子と特別養子縁組をしたママ・パパの体験談も含め、シリーズ全4回でお届けします。
特集「たまひよ 家族を考える」では、妊娠・育児をとりまくさまざまな事象を、できるだけわかりやすくお届けし、少しでも子育てしやすい社会になるようなヒントを探したいと考えています。
家庭に迎えてすぐに起こる子どもの驚きの行動とは…
「幼少期から施設で暮らしている子どもは、人の感情を読み取る力に長けていることが多く、大人の事情や思いなどを感じ取って行動します。それは施設での集団生活に適応できるように、自分の身の置き所を探ったり、どう振る舞うといいかを考えることが習慣になっているからでしょう。
特別養子縁組でママやパパができた子どもに久々に会ったとき、それまでとは違う無邪気さを感じるとホッとするんです」と話すのは、家庭養護促進協会 大阪事務所のソーシャルワーカー山上有紀さん。
幼児期の子どもが養子として「家庭の子」になる。その過程では、ママやパパに対して驚きの行動をすると言います。
家庭に迎えてすぐに起こる子どもの驚きの行動とは…
新しい家族の始まりは、ワクワクしたり、楽しいことがたくさんありそうですが、そうは行かないようです。
「家庭に迎えられた子どもは、過食や偏食、部屋を散らかす、おもらしをする、わざと飲み物をこぼすなど、ママやパパを困らせるような行動をします。そして、5歳6歳の子でも、赤ちゃん返りをすることがあります」と山上さん。
施設での実習ではそのような様子はなかったのに、ほとんどの子どもに同じような行動が見られると言います。
“困った”行動には子どもの切なる想いが…
なぜ、子どもは自分だけを見てくれるママやパパと自分の居場所ができたのに、“困った”行動をするのでしょうか。
「家庭に迎え入れられた子どもは、さまざまな事情で実親から引き離された経緯があります。子どもの心の中には、大人への不信感と大人に愛されたい欲求が入り交じり、複雑な気持ちでいるのでしょう。
“こんな嫌なことをしても自分のすべてを受け入れてくれるだろうか”と、大人の反応を試すような行動を“試し行動”と言います。どんな試し行動をするかは個人差がありますが、裏を返せば“こんな嫌なことをしても、自分のすべてを無条件で受け入れてほしい”という子どもの切なる願いでもあるわけです」と山上さんは話します。
「子どもは、“いい子”や“親が喜ぶ条件に当てはまる子”が愛されることを知っているんです。そして、それが本物の愛情ではないこともいちばんよくわかっています。だから、 “そうじゃない自分”を新しいママやパパは受け入れてくれるか、わが子にする覚悟があるのかを見ているんですね。自分を受け入れてくれたことを見極めて納得しないと、100%甘えられるようにならないんです」
養親希望の夫婦は、協会主催の養親講座で試し行動をする理由や対応のしかたなどを学びます。
「前もって学んでいても、実際に経験するとしんどく感じるママやパパが多いのがこの試し行動です。家庭訪問で様子を見たり、電話で相談にのっています。SOSがあれば、協会が休日でも各ソーシャルワーカーが電話やLINEでやりとりすることもあります」
何歳で迎えても0歳から育て直すことで信頼関係を築く
5歳6歳など、物事の良し悪しやルールなどを理解し始める年代の子が養子縁組することも多いと言います。年代が上の子どもにはどのようにかかわるのがいいのでしょう。
「仮に6歳で家に迎え入れられたとしても、養親さんとのかかわりは始まったばかりですよね。子どもにしてみたら、その家では0歳からスタートさせてほしいと願っていると思うんです。
実親のもとで育つ赤ちゃんなら、泣くたびに「おむつが濡れたかな?」「暑い?寒い?」とママやパパが応えますよね。そのとき、赤ちゃんは“泣いて訴えたら気持ちよくしてくれた!”と実感する。その繰り返しで「この人は信頼していいんだ!」と感じるようになって、親子の深い信頼関係を築いていくと思うんです。
でも、6歳までそういうかかわりを持っていないので、まずは0歳に戻ってその子の欲求に応えるところから始める必要があります。
だから、何歳で迎えても、0歳から育て直してほしいと里親さんに伝えています。赤ちゃんに躾をする親はいないですよね」(山上さん)
“血のつながりがない”真実、どう伝えるべきか
子どもに養子であることを伝えることを「真実告知」と言います。山上さんたちは、真実告知は必要と考えています。
「子どもには自らの生い立ちや事実を知る権利があります。事前の研修や面接では、真実告知は幼少期から必要と伝えていますが、伝えるタイミングや伝え方はご夫婦で考えてもらっているんです。
“あなたと出会って大好きになって家族になれて本当にうれしい”そうママやパパが心底思ったときに、子どもにわかる言葉で“血のつながりはないけれど、親子なんだよ”ということを伝えてもらえたらいいなと思います。
親子の間に血のつながりがないことを、家庭の間でタブーな話にしてほしくないんです。
子どもが何気ない場面で事実を知ることもあります。たとえば“●●ちゃんがおうちに来たときはね…”などと近所の人から言われて、“私ってどこかから来た子なの?”とママやパパに聞くんです。そのとき親が“そんなはずないわよ! 誰が言ってたの!?”みたいにうろたえると、子どもはその動揺する様子を見て“聞いちゃいけないことなんだ”と思って、親子の間でタブーの話になってしまうんです」
養子縁組が叶うまでの道筋とは
「家庭養護促進協会 大阪事務所」の場合、新聞の連載記事で気になる子どもに出会った人から、まずは協会に問い合わせが来ます。
「多くのご夫婦は、その子どもが気になるきっかけは、“かわいいなぁ”“男の子希望だから気になる”“夫の幼少期に似てる”というようなものです。」(山上さん)
その後、担当のソーシャルワーカーとのオリエンテーション面接を行い、その子どもに申し込むかどうかを考えてもらいます。また、事前の研修(養親講座)も行っています。
「面接では、子どもについての説明だけでなく、養子を迎えたい理由などご夫婦に関することも伺います。とくに複雑な事情を抱えている子どものすべてを受け入れて、わが子として育てていけるかどうかはじっくり考えてもらっています。」
養親講座では、特別養子縁組した先輩ママやパパの体験談を交えながら、子どもとのかかわり方などを学んでもらうそうです。
「面接や研修を受けて申し込みを決めたら、さらに担当のソーシャルワーカーとの繰り返しの面接や家庭訪問を行います。ご夫婦の生い立ちやどのような親にどう育てられたか、親になったらどんな子育てがしたいかなど、じっくりとお話を伺うんです。ご夫婦の出会いや揉めるときの原因や仲直りのしかたなど、細かなことまで聞くので、1回の面接に数時間かかることも。これは、その子どもの親になったとき、どのような親になっていくかを私たちだけでなく、ご自身にもイメージして欲しいからなんです」(山上さん)
その子どものママやパパとして最適かどうか、まずは協会が検討した上で推薦書類を作成し児童相談所に提出。児童相談所はその推薦書類をもとに検討し、委託の決定をします。そうして、ようやく子どもとの初対面となります。
「児童相談所からOKが出たら、施設で子どもと面会して1~2カ月くらい実習をします。その後、家庭に子どもを迎え入れてもらいます。迎え入れてから、家庭裁判所で特別養子縁組の手続きをし、入籍できるまでは1年程度かかります」(山上さん)
特別養子縁組をした家族は、何を思い、どのように子どもを迎えたのでしょう。2018年に2歳4カ月の女の子・なっちゃんを迎えた、ママとパパに聞きました。詳しくはシリーズ3回目に続きます。
取材協力/公益社団法人 家庭養護促進協会 大阪事務所
法律※1に定める許可を受けた養子縁組のあっせん団体(全国22団体※2)のうち、児童相談所と連携して児童福祉法上の里親を探し、養子縁組を促進する国内唯一の社会福祉団体。昭和39年から始まった大阪事務所がこれまでに取り持った、養子・養親里親の数は1422組(2021年3月現在)。昭和37年から始まった神戸事務所もある。
※1民間あっせん機関による養子縁組のあっせんに係る児童の保護等に関する法律
(平成28年法律第110号)第6条第1項
※2厚生労働省家庭福祉課調べ/令和3年4月1日現在
一部のハリウッドスターは、養子の子どもとともに取材に応じることがあります。これは日本に比べアメリカは、養子縁組が盛んな国だからでしょう。日本はアメリカのように盛んではないので、「里親制度はうちには関係ないな」「血のつながりがあるのが家族でしょ!」と考える方がたくさんいると思います。でも、“家族は血のつながりがあって当然”という価値観が多数を占めてしまうと、養子縁組した家族だけでなく、養子縁組という道を選ぼうとする人も生きにくくなってしまうのではないでしょうか。
「養子縁組の家族もあっていいよね」という気持ちを持つだけで、日本の“家族のカタチ”はさらに幅が広がり、よりみんなが生きやすくなるのではないかと思いました。
取材・文/茶畑美治子