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「聞き分けの良い子」を演じる難病の子どもたち、「子どもホスピス」のスタッフがその殻を破るためにしていること

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大阪市の「TSURUMIこどもホスピス」は、命を脅かす病気をもつ子どもとその家族が、自分らしく「より深く生きる」ことをコンセプトに誕生したコミュニティ型子ども向け民間ホスピス。スタッフは看護師や保育士など専門知識を有していますが、あえてその立場を取り払い、子どもと家族に「友」として寄り添い続けています。
このような関係づくりへとたどり着いた理由と思い、子どもたちの様子などを、スタッフの方々にうかがいました。

特集「たまひよ 家族を考える」では、妊娠・育児をとりまくさまざまな事象を、できるだけわかりやすくお届けし、少しでも子育てしやすい社会になるようなヒントを探したいと考えています。

「聞き分けの良い子」を演じる病気の子どもたち

大阪市・花博記念公園鶴見緑地内に、日本初のコミュニティ型子ども向け民間ホスピス「TSURUMIこどもホスピス」が誕生したのは、およそ6年前。これまでに150組の命を脅かす病気(LTC)の子どもと家族が、ここで大切な時間を過ごしてきました。

看護師や保育士など専門知識を持つスタッフたちが何より大切にしているのは「子ども本人の希望や尊厳を守る」こと。しかし、開設当初はその理念と現実がかみ合わず、全員がジレンマを感じていたと、スタッフで看護師の古本愛貴子さんは振り返ります。

「子どもが幼かったり、体がしんどくて気持ちを表現できなかったりする場合、どうしてもコミュニケーションの相手が親御さん中心になります。『TSURUMIこどもホスピス』でどう過ごしたいか、何をしたいかという希望も、親御さんに聞きます。
親御さんは皆、たいへん深く子どものことを考えています。ただそれでも、親御さんが思っていることと子どもが思っていることは、実際には違うことが多いのです」(古本さん)

そうした食い違いを生み出す原因の1つが、子どもたちが抱える重い病気があります。病気と長く闘っている子どもたちは辛い治療を繰り返し受け続けなければならず、生活も大きく制限されます。治療も生活の制限も、子どもにとってはやりたくないこと、しんどいこと、嫌なこと。でも、病気を治すためにはやらなければなりません。

そのため、幼い子どもでも「自分が我慢しなきゃいけない」と察し、「聞き分けのいい良い子」「よくわきまえた子」を演じることが多いのだそうです。

「本当はしんどいのに元気な振りをしたり、やりたくないのに『頑張る』『大丈夫!』と言ったり、興味がないのに『楽しい』と笑ったり……。その子らしい素直な感情や希望を、いろいろな形で封印してしまうのです。
でも、『親』だからこそ本音を言えません。なぜなら、大好きな親が悲しむ顔を見たくないから。親御さんが子どものために頑張っているのをわかっているからこそ、よけいに良い子を演じてしまうのです」とゼネラルマネージャーの水谷綾さんも言います。

子ども本人の希望や尊厳を守る場所でありたいのに、本当の意味では守れていないのかもしれない。そんな思いをスタッフ全員が感じ、それをどう変えていくか、何度も話し合ったと言います。その中で生まれてきたのが、「専門家としてのバッチを外し、子どもに『人(友)』として寄り添う」というコミュニケーションでした。

「友」として遊びふれあうことで、本当の声を聞くことができる

「TSURUMIこどもホスピス」のスタッフは皆、とにかく子どもたちとよく遊び、話をします。親が他のスタッフと話をしている間、子どもとスタッフだけで遊ぶことも多いそうです。

「私たちから『あなたのことを知りたい』と伝えない限り、子どもが自分から考えていることや望んでいることを教えてくれることはありません。思っていることの示し方も、子どもによってさまざまです。
友として一緒に遊び、仲良くなることで、自然と少しずつ本当の声を聞かせてくれることが増えていきます。まあ、友というには年が離れてますけど(笑)」(古本さん)

古本さん自身も素の自分で、正直に子どもたちと向き合います。「聞きたいことがあったら、何でもすぐ聞いちゃうんです」と笑う古本さん。以前、小学生の女の子に「学校はどう?」「薬を飲むのは大変でしょ」などいろいろ聞いたら、「もう、しつこいんだけど!」と怒られたとか。

「ママがすかさずフォローしてくれたんですが、私は逆に、ストレートに気持ちを表現してくれたのがうれしかったんです。普通、小学生くらいになると、遠慮したり良い子になって怒らないことが多いですから。ここでは聞き分けが良い必要はないんです」(古本さん)

重い病気の子どもと聞くと、大人も遠慮して決まりきった対応をしてしまいがちです。例えば、治療の副作用で髪が抜けている子にはそのことに触れないようにするなど。しかし、子どもたちは大人が思うよりずっと自由で強く、オープンなやりとりを受け止めることができると言います。

「先日も、治療の副作用で髪が抜けた子が、幼稚園のお友達に『なんで髪の毛ないん?』って聞かれたそうなんです。それに対して『あんたの髪型の方がへんやし!』って言い返したって聞いて、爆笑しちゃいました(笑)。子どもたちは本当に純粋で強いです。弱いのは大人の方なのかもしれません」(古本さん)

子どもに嘘は言わない、ごまかさない

「TSURUMIこどもホスピス」のスタッフの皆さん。

子どもに友として寄り添い、子どもの尊厳を守るために、スタッフ皆で決めていることがもう1つあると言います。それは「子どもに嘘はつかない」こと。子どもの病気についても、子どもから聞かれたら、わかっていることを正直に話すようにしているのだそうです。

「『TSURUMIこどもホスピス』副理事長で小児科医の原純一先生が以前、『診察で子どもたちに病気のことを説明すると、顔色がパッと明るくなるねん』っておっしゃっていたんです。子ども自身、『体の中で何かが起こってる』と感じているので、説明されてある意味納得でき、すっきりするのでしょう。

その時の先生の言葉で印象的だったのが『子どもたちに病気の説明はするけれど、治るとは言わない。しんどいかもしれないけど、まわりが一緒に支えてくれるよと伝える』と言っていたことです。難しい病気は風邪とは違い、本当に治るか医師でもわかりません。だから嘘は言わない、ごまかさない。
子どもたちと信頼でつながり友として寄り添うためには、それが大切だということを、私たちも今は確信しています」(水谷さん)

「TSURUMIこどもホスピス」のこうしたやり方に、最初は不安や抵抗感を抱く親もいます。しかし、スタッフの子どもへの接し方や、何より心から楽しんで喜ぶ子どもの顔を見るうちに、徐々に考えが変わっていくのだそうです。そして親にとってもこの場所とそのスタッフが大きな心の支えとなっていきます。

「子どものためのホスピスのありようって、結局は『友』だと思うんです。その関係の底辺を支えるのが『正直でいること』。そうして子どもたちに信頼され、安心できる場所になって初めて、心からの語らいや、気を許したさりげない会話が生まれ、ようやく彼らの孤立の殻を破ることができるんじゃないかなと思います」(水谷さん)

「当事者同士が助け合う関係」をつくる新たな取り組みへ

「TSURUMIこどもホスピス」ではこのように、常にスタッフ同士で状況を共有し相談し合いながら、より良い「こどもホスピス」の形を模索しています。その中で、今また新たな試みに取り組み始めています。

「開設当初は、病状が安定している子どもまで幅広く受け入れていたのですが、それによって症状が重い子どもの受け入れが限定されてしまいました。そこで2年目から、症状が重い子どもを中心に受け入れるようにしました。
一人ひとりに丁寧なケア活動を行えるようになった点はよかったのですが、最近、それにより新たな課題が出てきたのです」(水谷さん)

その課題とは、当事者同士の出会いが減ったこと。子どもの症状が重い時は親も、子どもやきょうだい、自分自身の人生のことで精一杯で、他の家族と交流したり気遣ったりする余力はありません。症状が重い子どもを中心にしたことで、そうした状況が生まれてしまったのです。

そんな中、かつて「TSURUMIこどもホスピス」を利用し、病状が回復して地域に戻った親子や、子どもの死を乗り越えた親から、「今なら他の家族に対して何かできることがあるんじゃないか」「話を聞いたり相談に乗ったりすることはできると思う」という声が多く寄せられるようになったのだそうです。

「同じ経験を持つ人が発するメッセージは、スタッフなど支援側が発するものとは違い、大きなインパクトと力を持っています。当事者だったからわかること、同じ立場だったからできるケアもあるはずです。そういう力を、私たちも借りたいと思っています。
そのために今後は、安定期の子どもたちが利用できるプログラムを用意し、当事者同士が助け合う関係をつくる機会を増やしたいと考えています。それを『地域全体でケアをする』環境へと広げていけたら……。そのための議論と調整を、スタッフ皆で始めたところです」(水谷さん)

スタッフだけでなく、当事者同士や地域全体までもが「友」となり、子どもと家族を支える環境を作り出す。そんな新たな試みが始まっています。


「TSURUMIこどもホスピス」では、LTCの子どもたちを、病院ではない、地域の中で育んでいけるよう寄付を受付中です。詳しくは「TSURUMIこどもホスピス」ホームページをご覧ください。


写真提供/TSURUMIこどもホスピス 取材・文/かきの木のりみ

「TSURUMIこどもホスピス」では花博記念公園鶴見緑地内という立地を活かし、施設の一部を「原っぱエリア(パブリックエリア)」として市民に開放しています。また、地域の団体と連携し、市民も参加できるプログラムイベントも開催。病気の子どももそうじゃない子も一緒に遊んだり、さまざまな家族が出会い、交流する場になっています。もしも近くにお住まいならば、一度のぞいてみてはいかがでしょうか。

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