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「わが子が全盲? なんで? 信じられない…」娘のために障害判明から 全盲の子たちのための居場所をつくるまで

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旅行先での1枚。「見えないなら触って感じさせてあげようと、いろいろなところに連れて行きました」(純子さん)

「見た目はほかの赤ちゃんと同じなのに、娘は生後数カ月たっても、目で物を追わなかったんです」と話すのは、埼玉県の岡田純子さん。長女の麻夢(あむ)さん(21歳)は、生まれつきの全盲に加え、知的障がいがある「盲重複障害(もうちょうふくしょうがい)」です。
盲重複障害とは、視覚障害と知的障害など、複数の障害を合わせ持っている障害を差します。
純子さんは、視覚障害を持つ子どものママたちを中心に設立した「非営利活動法人みのり」の副代表理事として、現在も運営に携わっています。

前編となる今回は、麻夢さんの視覚に障害があるとわかった当時から現在までを振り返り、何を思い、どのように過ごしてきたのかをお聞きしました。

~特集「たまひよ 家族を考える」では、妊娠・育児をとりまくさまざまな事象を、できるだけわかりやすくお届けし、少しでも子育てしやすい社会になるようなヒントを探したいと考えています。

視覚に障害のある家族は一人もいないのに…

「妊娠中にトラブルもなかったし、娘を出産した病院でも何も言われなかったし、夫と私の家系に視覚に障害を持つ家族もいない。だから、娘が生まれつきの全盲だと診断されたときは、私も夫もまさに晴天の霹靂で、“なんで? 信じられない…”とすべてを受け止められませんでした」と母の純子さんは当時を振り返ります。

生まれてまもない赤ちゃんの視力は、0.01〜0.02程度。約30cm先にあるものがぼんやり見えるくらいです。赤ちゃんの視力は、繰り返し見ることで少しずつ発達し、動くものを目で追ったりできるようになると言われています。

「生後数カ月たったころ、娘のそばでおもちゃを動かしても、まったく目で追わなかったんです。 少し気がかりでしたが、それ以外はほかの赤ちゃんと同じ様子だったので、大丈夫かなと思っていました」

生後3カ月健診でもとくになにもなし。ただ、純子さんは麻夢さんの「少しの気がかり」について、念のためにと思って専門病院を受診します。

「お医者さんが娘の目にライトを当てると、娘は瞬きもせずに目を見開いたままでした。“あぁ、やっぱりトラブルがあったんだ”とようやく腑に落ちました。
ほかの検査もしたあと、おそらく生まれつきの全盲だろうと診断されました。診察後は大号泣です。あまりのショックでどう家路に着いたか記憶がなくて、ただただ、自分を責め続けました」(純子さん)

「もう治りません」セカンドオピニオンの診断はどこも同じ

小さいころは泣いてばかりだったという麻夢さん。

生まれつきの全盲であることを否定してもらいたくて、純子さんはセカンドオピニオンを求めて奔走します。

「娘を連れ、いくつも病院を回りました。でも、どこへ行っても“もう治りません”“諦めてください”と言われ、また落ち込むんです。
娘は病院で毎回大泣きするし、検査は薬で熟眠させて行うため、受診のたびに娘に負担をかけさせていると思うと、それも辛くて…」(純子さん)

初めての子育てで不安が多い中、純子さんは、麻夢さんの視覚障害をどう捉え、受け入れていったのでしょう。

「初めは、落ち込んで絶望的な気持ちになって、次は現状を否定して“何とかして治すんだ”という思いが湧き出てくる。何かできることはないのか、自分の中にある苦しみをなんとかしようと、もがいてもがいて…という感じです。

そのうち、もがいても現実は変えられないという諦めのような心境になって。“現実を受け入れなくちゃ”と自分に言い聞かせ、この先にある未来に何か希望を見つけようとしていくんです。

この気持ちの変化は、私自身の感情をコントロールするためのもので、不思議と娘に対して“何とかしなくちゃ”というような思いを常に抱いているわけではないんです」(純子さん)

きょうだい育児は大変。布団でぐっすり寝た記憶がない

幼少期に姉妹で水遊びをしていた様子。

麻夢さんには2歳差の妹さんがいます。全盲の長女と幼い妹の幼少期のお世話は、記憶がないほど大変だったと言います。

「上の子は、抱っこかおんぶをしていないとずっと泣いていたので、家事はおんぶでやっていました。
今になって思うんですが、たぶん、目が見えないということで、親の存在を知る手立てが肌の感覚や声だけだったんですよね。だから、不安を感じたりイライラして泣いていたのかなと」(純子さん)

夜泣きもひどかったという麻夢さん。さらに2歳差の妹。きょうだい育児ならではの大変さもあったようです。

「上の子の夜泣きは、成長とともに収まってきたかと思ったら、次は下の子の夜泣きが始まって…。そのころの私は、布団でぐっすり眠ったことがないかもしれません」(純子さん)

長女は本当に泣いてばかりで、自分から何かに興味を持って遊ぶことがなかったと純子さん。そのため、子育てでは心に留めていたことがあったそうです。

「上の子には楽しみを持って生きてほしいと思って、ピアノを習わせたり、音の出るおもちゃなどで一緒に遊んだりしました。いちばんハマったのは、子ども向けの音楽CD鑑賞でした。CDの歌い手さんのコンサートに連れて行くと、とくに楽しそうにしていました。

服の着脱などの生活習慣は、盲学校でも教えてくれるので、家では上の子が好んで楽しめるモノやコトを見つけてあげようと、いろいろ探しました」(純子さん)

盲学校に通うようになると新たな課題が!

県内に1校しかない盲学校は、自宅から車で片道約1時間。毎日の通学は親の送迎が基本です。遠方から通う人も多く、盲学校には寄宿舎があるそうです。麻夢さんは、「相談児」という親同伴で参加する盲学校の最年少クラスから通い始め、高校部まで在籍しますが、苦あり楽ありの16年間だったと言います。

盲学校では泣いてばかり。でも、心が救われる出会いも

「盲学校には乳幼児対象の教育相談があったのと、私以外の人とのかかわりに慣れるといいかなと思って通い始めました。でも、きょうだいの同伴はできず、下の子は保育所に預けての参加でした。

上の子は、私と一緒に参加しても、不慣れな環境でずっと泣いてばかりでした。きっと、家にいて私に抱っこされて過ごしていたかったんだろうなと思います」(純子さん)

純子さんは、次女を預けた保育所で言われた何気ないひと言で、心が救われたと言います。

「保育所の経営者の方がダウン症のお子さんのママで、“おねえちゃんも一緒にここに来て遊ばない?”と誘ってくれて。“子どもは地域で一緒に育てるのがいいのよ”と言ってくれたんです。
当時、夫は仕事で忙しく、近くに子育ての相談をできる人がいませんでした。だから、あのひと言は本当にうれしくて。そのころから、私もだんだんと肩の力が抜けるようになったかなと思います」(純子さん)

“常に一緒”はしんどかったけれど、あることがきっかけでラクに

「一般的に、子どもは成長とともに友だちと遊べるようになると思うのですが、上の子は知的障がいもあって、友だち同士で遊ぶことが難しいんです。その分、私が上の子の遊び相手にもなりつつ、安全に過ごせるように常に見守っていないといけなくて。
さらに、どこに行くにも保護者同伴が必須でした。とても大事なわが子ではあるのですが、“常に一緒にいないといけない”という日常は時々しんどく感じました」(純子さん)

気を張って緊張状態が続いていた日々も、あることのおかげで、気分転換の時間がつくれるようになったと純子さん。

「上の子が盲学校の寄宿舎を週に1~2回利用できるようになってからは、下の子にかかわる時間や休息がとれるようになりました。
下の子に手がかからなくなると、気分転換もできるようになったんです。寄宿舎があって助けられました」

盲学校卒業後の進路はどうしたら…、悩む日々

「盲学校の中学部に進学するころになると、同級生のママたちが心配し始めるのが、盲学校卒業後の子どもたちの行先をどうするかです。常にママたちの話題の中心でした」(純子さん)
盲学校と同等の居心地のいい“居場所”は、近くにあるのでしょうか。純子さんは家が近いママたちと、まずは「作業所」を見て回ることから始めました。

後編では、純子さんはなぜ「非営利活動法人みのり」を立ち上げようと思ったのか、多機能型事業所「領家グリーンゲイブルズ」設立に至るエピソードや活動内容などについて詳しく紹介します。

取材協力・写真提供/非営利活動法人みのり

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「私は、たくさんの方に助けてもらっていろんなことを乗りきってきました。大変な思いもしましたが、助けを求めてみると、意外とだれかが助けてくれるものです。子育て中のママやパパは、自分たちだけで頑張りすぎないようにしてもらいたいなと思います」と純子さん。
子育て、仕事、家事に追われると、大切な人のためにしていることでも、“しんどくてつらい…”と思いがち。そんなときは、家族や友人・知人、自治体サービスなどに協力を求め、自分だけで抱え込まないようにできたらいいのかもしれません。

取材・文/茶畑美治子

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