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全盲のわが子たちのために「居場所」を埼玉県に作った母たち、 多くの人に助けられ

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領家グリーンゲイブルズの畑。農作物の栽培・収穫なども行います。

生まれつきの全盲に加え、知的障害のある麻夢さん(21歳)は、盲学校卒業後、「非営利活動法人みのり」が運営する、埼玉県にある多機能型事業所※で焙煎したコーヒーの袋詰め作業やポチ袋の制作などをしています。「生活のサポートを受けながら、いろんな人と話したり、自分にできる作業をするのが楽しいみたい。自宅にいるよりも、作業所にいたいと言ってるくらいですから(笑)」そう語るのは、母で同法人の副代表理事でもある岡田純子さん。

前編では、麻夢さんの障害判明から現在までの様子などをお聞きしました。後編となる今回は、多機能型事業所「領家グリーンゲイブルズ」の誕生秘話や最近の様子、「非営利活動法人みのり」の活動内容などを紹介します。
※https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=83aa8470&dataType=0&pageNo=1

~特集「たまひよ 家族を考える」では、妊娠・育児をとりまくさまざまな事象を、できるだけわかりやすくお届けし、少しでも子育てしやすい社会になるようなヒントを探したいと考えています。

「ここにいる間は娘に障害はない」

2020年4月に開設された作業所「領家グリーンゲイブルズ」の全景。

「ここにいる間は、娘に障害はないんです。だから、きっと生きづらさは感じていないと思います」(純子さん)

母の純子さんが語る“ここ”とは、「非営利活動法人みのり」が埼玉県上尾市で運営する多機能型事業所「領家グリーンゲイブルズ」という作業所です。2020年4月の開設に至るまでには、さまざまなエピソードがあったと純子さんは言います。

「障害者の中でも、視覚障害者は実は少数なんです。娘の盲学校の卒業が近づいてきたとき、あちこちの作業所を同級生のお母さんたちと見て回ったのですが、既存の作業所のほとんどは、目が見えることを前提につくられていました。だから、盲学校卒業後の子どもたちは、行く場所がもともと非常に少ないんです。さらに、家から通える範囲に視覚障害者向けの施設がそもそもなくて、がく然としました。
でも、東京にはあったんです。たとえば、レールつきの天井から紐が垂れ下がっていて、それを持つことで作業者は歩いたり走ることだってできる。体を動かす空間があるのはいいなと思いました」

“東京にあったような作業所が家の近くにもあったらいいのに…”そう願いながらも、自分たちの力だけでは形にならないと諦めていたという純子さん。ところが、幸運な出会いが作業所の設立を導いたと言います。

「私は本当に運がいいんです。同じ志を持った盲学校の先生が協力を申し出てくれたんです。僕もずっと子どもたちのための作業所を作りたかった」と。さらに純子さんのもとに幸運が舞い込みます。作業所を一緒に見て回った一人のお母さんの親族が、埼玉県上尾市の広大な土地を寄付してくれることになったと言います。

「人と人とのつながりやいろいろな方のサポートのおかげで、子どもたちが過ごしやすい“居場所”をつくることができたんです」(純子さん)

「非営利活動法人みのり」の前身は、2015年設立の任意団体「みのりの夢」。2016年7月から「非営利活動法人みのり」として、上尾市を中心に埼玉県全域で活動が始まります。そして、2020年4月、多機能型事業所「領家グリーンゲイブルズ」という作業所が開設されました。

「娘も含め、今もみんな楽しく通っています」(純子さん)

設立して2年、今では、盲学校を卒業した麻夢さんの同級生以外にも多数の利用者が通所していると言います。

「娘のような生まれつきの視覚障害の方や、病気などで視覚を失ったり弱視となった方、その他の障害のある方などにも利用してもらっています。
思っていた以上にニーズがあって、子どもたちの“居場所”としてだけじゃなく、地域社会にも必要な施設がつくれたかなと思っています」(純子さん)

「非営利活動法人みのり」の法人名は、盲学校卒業後の子どもたちの生活が“みのり”あるものになるように、という願いが込められたもの。作業所の運営以外に、農作物の栽培や収穫体験、視覚障がいなどへの理解を深める啓蒙活動※、だれでも参加できるヨガイベント※なども行っていると言います。
※新型コロナウイルスの影響で一時休止する場合もあります。

“僕らは耳で焙煎をする”コーヒー豆は作業所のヒット商品に

「熱で膨らんだコーヒー豆のはじける音を聞き分け、焙煎の具合を判断するんです。作業者は、音を聞き分けたら挙手して職員に伝え、温度や時間などを記録。試飲もします」(純子さん)

「領家グリーンゲイブルズ」では、コーヒー豆の焙煎作業や、点字名刺の制作、ポチ袋作りなどの活動を行っています。中でも、コーヒー豆の焙煎は、作業所の代表的な活動の一つだと言います。
なぜ、コーヒー豆の焙煎作業を始めたのでしょう?

「コーヒー豆の焙煎は、カフェ店長をしている職員が指導して作業所の開設と同時に始めました。“僕らは耳で焙煎する”っていうキャッチコピーがみなさんの目に留まったみたいで、人気商品なんです。
コーヒー豆の焙煎は、本来、豆の色で判別すると思うんですが、作業所では目には見えない生豆の水分量を“音”で聞き分けて、香りのいいおいしいコーヒーを作っています。

娘もそうですが、視覚障害者は足音を聞くだけで誰が歩いているのかがわかるほど、聴覚が発達しています。コーヒー豆の焙煎は、その特性を活かした活動とも言えるかもしれません」(純子さん)

「領家グリーンゲイブルズ」のコーヒー豆の焙煎は、テレビ番組や新聞記事などでも紹介される、注目の活動。ほかに盲学校から寄付された点字用紙を再利用したポチ袋などの紙製品、イヤホンなどのコードを束ねる革製コードホルダーなども制作。それらのグッズはネットショップでも販売しています。

「娘は焙煎したコーヒー豆の袋詰めやポチ袋の糊付け作業など、自分にできる作業をしています。小さいころは泣いてばかりで、私はずっと抱っこかおんぶをして片時も離れなかった娘ですが、作業所ではディスタンスをとっているんです。ママがずっとそばにいたら、息苦しく感じるかなと思って(笑)。そのくらい毎日楽しそうに過ごしています」(純子さん)

それでも消えない不安、次に必要なのは?

視覚障害や盲重複障害がある方向けに“あったらいいな”と思う支援やサービスを尋ねると、純子さんはこう答えます。

「日常生活でいちばん大変なのは、外での移動です。同行援護(ガイドヘルプ)や生活サポートのようないくつかのサービスはありますが、車の利用ができなかったり費用がかかったり、出かけたい時にサービスの予約が取れなかったりと、自由に外出できないのが実情です。もう少し利用しやすいサービスになったらいいなと思います」

さらに、今すぐにでも欲しいサービスがあると純子さんは続けます。

「子どもたちを始め、視覚障がいがある方などの“終の棲家”がないことに大きな不安を抱えています。
今は親が健在で住む家もある。大変ではありますが、娘の面倒を見ながら作業所に送り出すことができる。でも、親が高齢になってからがとても心配で……。

視覚障害者が安心して利用できる短期入所施設やグループホームが欲しいです。親が元気なうちに少しずつ利用をはじめ、親に万が一のことがあったとき、少しでもスムーズに生活の場を移せるように今から準備をしておきたいです」(純子さん)

今すぐにでも視覚障害者対象の短期入所やグループホームが欲しいと純子さん。でも、資金繰りなども含め、目途は立っていないと言います。

目で見て作業ができない分、職員の増員や資金繰りが大変…

多機能型事業所などの障がい者支援施設の運営は、国からの報酬などで成り立っていると言います。「領家グリーンゲイブルズ」も同様に国からの報酬などをもとに活動していますが、視覚障がいに特化した施設だからこその問題を抱えているそうです。

「視覚に障がいがある方には、目で見ながら作業の説明ができないので、手取り足取りの丁寧な説明が求められます。職員の人数を増やして対応しているのですが、国からの通常の報酬では賄えないのが正直なところで…」

現状は、金融機関からの借り入れや寄付などでなんとか賄っていると言います。

「”娘が快適に過ごせる居場所はママがつくる!”という強い気持ちで立ち上げに臨みました。ありがたいことに、私は幸運な出会いがあって、いろいろな方のサポートを受けることができたからこそ、『非営利活動法人みのり』や多機能型事業所『領家グリーンゲイブルズ』の設立につながりました。

利用者さんにはのびのびと自分らしい活動をしてもらいたいと思っています。私たちの活動を応援していただけたらうれしいです」(純子さん)

取材協力・写真提供/非営利活動法人みのり


・ホームページ
http://ageo-minori.or.jp/

・Twitter
https://twitter.com/NPOminori

・Facebook
https://www.facebook.com/ageominori/

「非営利活動法人みのり」の将来の展望を尋ねると、「視覚障害に特化した作業所をつくらなくても、視覚に障害のある方を受け入れてもらえる社会になったらいいなと思います。
“障害が障害じゃなくなる”社会になるように、活動していきたいですね」と純子さん。
視覚障害の方が抱える生きづらさについて、理解不足な点が多々あったと取材を通じて気づきました。他者と自分の違いを理解して受け入れ、みんなが過ごしやすい社会となるように日々過ごして行こうと実感しました。

取材・文/茶畑美治子

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