SHOP

内祝い

  1. トップ
  2. 赤ちゃん・育児
  3. 「指って、5本ないとだめ?」左手全指欠損で生まれた男の子とママの“普通”を巡る10年間【先天性四肢障害を知る③】

「指って、5本ないとだめ?」左手全指欠損で生まれた男の子とママの“普通”を巡る10年間【先天性四肢障害を知る③】

更新

コーくんが0歳の時。元気いっぱいでした。

先天性の疾患で、手足が多くの人とは少し違う形で生まれてくる子どもたちは、約2万人に1人といわれています(※)。そのような先天性四肢障害の当事者・家族をサポートするNPO法人「Hand&Foot」会員、智原美沙さんの次男コーくん(10歳)も、左手首から先がない「左手全指欠損」で生まれてきました。

「すごく大変」「かわいそう」――障害は、どうしても一律にそういったイメージを持たれがちです。しかし智原さんはこれまでを振り返って、「大変な苦労とか、乗り越えるべきこと、というものはなかったです。コーくんが生まれてきてくれたことに、すごくワクワクしていました」と語ります。前後編の2回で、智原さんとコーくんのこれまでの歩みを紹介します。

~特集「たまひよ 家族を考える」では、妊娠・育児をとりまくさまざまな事象を、できるだけわかりやすくお届けし、少しでも子育てしやすい社会になるようなヒントを探したいと考えています~

※裂手裂足症は先天性の疾患で2万人に1人。
※先天性絞扼輪症候群は、指や腕の途中にひもで縛ったようなくびれがある病気です。全指欠損の場合は、数十万人に1人と言われています。(Hand&Foot WEBサイトより)

「あれ?」左手の指がない……

「コーくんはとても安産で、夕方に破水してから3時間後にスポーンと生まれてくれました。でも生まれたばかりのコーくんの手を見た時に、『あれ? 指がないなあ…』と思ったのを覚えています」

智原美沙さんは、次男のコーくんが生まれた直後のことをこう振り返ります。妊娠中の3Dエコー検査でも異常は見られず、生まれてから初めて、左手首から先がない「左手全指欠損」だと判明しました。

ただ、4年前にお兄ちゃんが肺動脈弁狭窄症という心臓疾患を持って生まれ、何回も検査を繰り返していたことから、「目に見えるから、良かった」とも思ったと智原さんは言います。

「長男が目には見えない疾患で、心臓に負担がかかるから泣かせすぎないように…などと、ずっと手探りの日々でした。だから先生から、コーくんは『内臓はどこもピンピンよ!』と言われて、合併症などがないことに安心したんです。それに、夫の大学時代の知人に同じ全指欠損症の人がいて普通に課題をこなしていたと聞いて、『大丈夫やろ』と夫婦で話し合いました」

担当してくれた産婦人科の先生は、これまで何百人と出産に立ち会って、全指欠損症の子を取り上げたのは今回で3人目くらいだと話してくれたのだそう。

「先生は退院の前日、『原因は自分たち医者にも分からないし、神様にも分からない。もちろんお母さんのせいでもない。何でこういう形で生まれてくるのかは、誰にも分からないことなんだよ」と説明してくれました。そしてコーくんに『きみたちが未来を作っていくんだ。頑張れよ』と言葉をかけてくださって、すごく嬉しかったです」

子どもってすごい! いろんなことができるように

保育園時代のコーくん。智原さん手作りのリストバンドを使って、旗を持っています。

智原さんがフルタイムで働いていたこともあり、コーくんは生後3か月の時に保育園に入園しました。

「先天性四肢障害だと入園自体を拒否されるケースもあるのですが、うちの保育園の先生たちは『ほかの子と変わらんよね』という感じで、自然に迎え入れてくださいました。保育園時代は仕事が忙しすぎて、実はあまり記憶がないのですが、先生たちが『今日コーくんがお弁当の包みを一人で包むことができたんです!』などと喜んでくださり、こんなに親身になってくれるんだと感動しました」

左手の指がないことを感じさせないくらい、ハイハイもつかまり立ちも早かったコーくん。智原さんが「もっとゆっくり大きくなって!」と思うほどだったとのこと。2歳になると、服のボタンかけをクラスの中でも早くから工夫してできるように。智原さんは、保育園の先生と相談して、コーくん専用の左手用リストバンドを作り、縄跳びや楽器の演奏ができるようにしました。

「コーくんとは『できない』じゃなくて『こうすればできるんじゃない?』という話をよくしてきたので、自然にできるようになったのかなと思います。ゲームもたくさんのボタンを足まで駆使して押して遊んでいて、子どもってすごいなあ!と思いました。

 もちろん鉄棒など、コーくんには苦手なこともありますが、できなきゃいけないとは思いません。もし私が“みんなと同じ”ようにいろいろできなきゃダメだって思いすぎていたら、私もコーくんも、もっとしんどかったのかもしれません」

コーくんの左手について、決意した日

恵まれた保育園生活でしたが、ショックだったこともありました。同じ保育園のママに、「生まれつき片方の手がなくて…」と打ち明けていた時のこと。親身に話を聞いていてくれたママは、話を聞き終わると「じゃあ、こっちの手は隠しとこう」と、ベビーカーで寝ているコーくんの左手をブランケットで隠したのです。

「親切心だったと思いますが、隠されたことがすごくショックで……。コーくんの左手は絶対に隠しちゃいけないと、その時に強く思いました。私が隠そうとしたらコーくんも隠すようになってしまうし、どんどんオープンにしていかないと、みんなに手のことをちゃんと知ってもらえないと感じました」

その後、智原さんは周りにも、コーくん自身にも、タブーにするのではなく「コーくんは生まれた時からこの手なんだよ」と積極的に伝えるようにしてきました。

「こうするのが当たり前」を超えていこう

智原さんは、コーくんの周りの子どもたちに「なんでみんな指が5本あると思う?」と質問したことがあります。「んー、わからん」という子どもたちに、「わからんでしょ。コーくんもなんでこの手なのかわからんし、世の中には1本の指の人もおれば、2本の人も、3本、4本の人もおるよ」と伝えると、みんなは「えー、本当!?」と不思議そうにしていたといいます。

そんな会話を繰り返してきたからか、コーくんも周りの子たちも、今では他の子に「おなかにいるときからこの手やけん!」と何でもないことのように伝えているそうです。

「最近ではコーくんも、学校の友達に自分から『1本の指の人はいると思う? ……残念、います!』って、クイズを出すこともあるそうです(笑)。そう考えると、5本じゃない理由ってなんだろう?って、逆に思ったりもするんです。コーくんは鉄棒が苦手だけれど、そもそも5本の指があってもできない人もいる。私だって、5本の指はあるけど、できないこと、大変なこともたくさんあります。

『こうするのが当たり前』に縛られがちな社会ですが、ちょっとずつ『いろんな人がいる』というようにみんなの考えがシフトしていけば、もっと気持ちが楽になる人は増えるのかなと思います」

障害に関係なく、子育てはもっと楽しく自由でいい

ソフトボールに励むコーくん。特製グローブを監督が作ってくれました。

保育園時代から、お兄ちゃんがソフトボールクラブで練習や試合に出ているのを見てきたコーくん。だんだん興味を惹かれ、年長の時に監督に「おれもやりたいんだけど、いい?」と宣言。智原さんも「やりたいならいいよ!」と応援してきました。

「メジャーリーグでは、過去に先天性右手欠損で活躍したジム・アボット投手がいると知っていたので、工夫すればできると思っていました。1、2年生のころはおしゃべりが激しくて監督にもよく怒られていたんですが(笑)、今では『最近頑張ってるね!』と言われるくらい真面目に取り組んでいます」

日々、元気いっぱいに過ごしているコーくん。一方で、智原さんは障害を持つ人たちがよく言われる「受け入れる」「乗り越える」という言葉に抵抗があるといいます。

「長男は生まれつきの心臓疾患で、次男のコーくんは左手に障害を持っています。テレビやニュース記事では、病気や障害というだけで『苦労されてきたでしょう』『いつ受け入れ、乗り越えられましたか?』などと語られがちなのですが、でも“乗り越える”って何だろう? 心臓に異常があったら、左手がなかったら、苦労して、受け入れて乗り越えていかなきゃいけないのかな…?とも思うんです。

私は息子たちのおかげで、今まで見えなかったものが見えて、人生が深く豊かになりました。病気や障害があっても、子育てはもっと楽しんでいいし、もっともっと自由でいいんじゃないかなと思っています」

「これがコーくんの手」と自然に捉え、できることややりたいことを一緒に考えて、共に楽しく歩んできたコーくんと智原さん。次回は、智原さんに保育園や学校などでの周りの人たちとの関わりについて詳しく聞きます。

智原美沙さん(プロフィール)

左手全指欠損で生まれたコーくん(10歳)のお母さん。NPO法人Hand&Foot正会員。出版準備中の絵本プロジェクト(2016年~)の製作メンバーとして、ディレクションやラフ製作に携わる。新聞活動を通して“孤育て”をなくし、お母さんの笑顔あふれる未来をつくる「お母さん大学」「お母さん業界新聞」でも積極的に情報発信を行う。

・NPO法人Hand&Foot

・NPO法人Hand&Foot  Instagram

・NPO法人Hand&Foot  Twitter

・NPO法人Hand&Foot  Facebook

・お母さん大学

(取材・文 武田純子)

赤ちゃん・育児の人気記事ランキング
関連記事
赤ちゃん・育児の人気テーマ
新着記事
ABJマーク 11091000

ABJマークは、この電子書店・電子書籍配信サービスが、著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスであることを示す登録商標(登録番号 第11091000号)です。 ABJマークの詳細、ABJマークを掲示しているサービスの一覧はこちら→ https://aebs.or.jp/

本サイトに掲載されている記事・写真・イラスト等のコンテンツの無断転載を禁じます。