赤ちゃんの向き癖、ほうっておくと頭の変形の原因に!専門医がすすめる、頭の形をよくする遊び「タミータイム」に注目
「赤ちゃんの頭の形が気になる」というママやパパは多いと思います。赤ちゃんの頭の形をよくするのにはどうしたらいいのでしょうか。また頭の形にあらわれる病気とは? 自治医科大学附属さいたま医療センター 周産期母子医療センター センター長 細野茂春先生に話を聞きました。細野先生は、同院で「乳児頭のかたち外来」を担当。医師、看護師、助産師、理学療法士などが集い頭蓋健診と治療に関する研究を行う任意団体「日本頭蓋健診治療研究会」で理事を務めています。
赤ちゃんの頭の形は、成長したら目立たなくなるとは一概には言えない
赤ちゃんの頭の形は「成長すると目立たなくなる」とよくいわれていますが、赤ちゃんの頭の形に詳しい、細野先生は一概には言えないと言います。
――赤ちゃんの頭の形を気にするママ、パパは多いようですが、乳幼児健診や小児科で相談しても「赤ちゃんが寝返り、おすわりをするようになると、頭の変形は目立たなくなる」「髪の毛が生えてくると、頭の変形は目立たなくなる」と言われることが多いようです。頭の形が気になっても成長を待つしかないのでしょうか。
細野先生(以下敬称略) 赤ちゃんの頭の形のゆがみの総称を位置的頭蓋変形と言います。その中で頭の前後が長いと「長頭症」。頭の左右が長いと「短頭症」。頭の左右一方が斜めにゆがんでいると「斜頭」と言います。
乳幼児健診などで、赤ちゃんの頭の形を相談すると、「赤ちゃんが寝返り、おすわりをするようになると、頭の変形は目立たなくなる」「髪の毛が生えてくると、頭の変形は目立たなくなる」と言われることが多いのですが、そうした背景の1つは、日本では小児科の教科書に位置的頭蓋変形が記載されていないためです。また確かに成長するに従い、頭の形が目立たなくなる子もいます。しかしほうっておいては改善がみられない子もいます。
アメリカの産院では、赤ちゃんに向き癖をつけない指導が。家庭ではタミータイムの実践を
赤ちゃんの頭の変形は、主に向き癖が原因です。新生児期から「タミータイム」と呼ばれるはらばい遊びなどを通して、向き癖をつけないようにすることが大切です。
――赤ちゃんの頭の形をよくするには、どうしたらいいのでしょうか。
細野 赤ちゃんの頭が変形するのは向き癖が主な原因なので、私は産院での指導が必要だと考えています。
アメリカでは産後1~2日で退院しますが、その間に産院では向き癖をつけない指導をして、自宅で行うようにアドバイスします。
しかし日本は、産院では授乳指導や沐浴(もくよく)指導が主で、向き癖をつけない指導は行いません。これは産婦人科医、助産師、小児科医などが一緒になって考えていく今後の課題だと思っています。
――アメリカでも、頭が変形している赤ちゃんは多いのでしょうか。
細野 1992年から、米国小児科学会がSIDS(乳幼児突然死症候群)予防キャンペーンを行い、あおむけ寝を推奨したところ、SIDSの発生率は減ったものの、頭の左右一方が斜めにゆがむ斜頭の割合が40~60%増加したといわれています。
ただしこれは以前のアメリカでは、うつぶせ寝が多かったためです。日本はもともとあおむけ寝が主流なので、アメリカのような状況とは異なります。
――赤ちゃんが寝返りしたりして動くようになると、向き癖は気にしなくていいのでしょうか。
細野 頭の形が気になる赤ちゃんは、首すわりや寝返りが遅いなど発達がゆっくりな子もいます。そのため寝返りができようになるのを待つのではなく、ママやパパが働きかけて向き癖をつけない・向き癖を進行させないようにすることが必要です。
――向き癖をつけないためには、どうしたらいいのでしょうか。
細野 ベビーベッドに寝かせるときに頭の位置をいつも同じにしないで、授乳ごとに入れ替えたり、ママやパパの生活空間のほうに興味を持つので足と頭の位置を度々逆にしたりして一方方向を向かないようにします。あお向けで寝ている赤ちゃんにママやパパが声をかけるときに、同じ方向からではなく毎回違う方向から声をかけることも大切です。
また「tummy time(タミータイム)」といって、赤ちゃんが起きているときに向き癖をつけないようにする時間を作ることも効果があります。
tummyとは、幼児語でおなかのこと。日本語に訳すと、うつぶせやはらばい遊びのことです。
米国小児科学会では、タミータイムを一定時間行うことによって、後頭部の扁平(へんぺい)を防ぎ、肩甲帯上部(背中上部)の発達を促し、運動のマイルストーン(運動発達の指標)達成を促進できるとして推奨しています。タミータイムの一例を紹介します。
1.ママ・パパの胸の上でうつぶせ寝をする
新生児期から行えます。ママやパパの胸の上で赤ちゃんをうつぶせ寝にします。布団の上で行ってもいいですし、ロッキングチェアーなどに寝て行ってもOKです。
2.親子でうつぶせになって、目線を合わせる
首がすわる前後から始められます。親子でうつぶせになって、ママやパパは赤ちゃんの顔が向いているほうに寝て、赤ちゃんと目線を合わせます。1日、何度か顔の向きを変えて行います。
3.赤ちゃんと向かい合って、目線を合わせる
首がすわり、短時間でも頭を上げるようになったら、親子でうつぶせになって向かい合って目を合わせます。そのときママやパパの顔が高い位置にあると、赤ちゃんと目が合いにくいので、ママやパパは頭を低くするのがポイント。
4.太ももの上に、赤ちゃんをはらばいにする
赤ちゃんの首がすわったら行えます。ママやパパは、床に座り足を伸ばします。赤ちゃんの顔がママ・パパの足先のほうを向くようにして抱き、太ももの上に赤ちゃんをはらばいで寝かせ、頭と体が一直線になるようにしっかり体を支えます。ママやパパは両足をゆっくり上下させたり、優しく揺らしたりして刺激を与えます。
細野 タミータイムは「1.ママ・パパの胸の上でうつぶせ寝をする」ならば新生児から行えます。赤ちゃんが起きているタイミングを見計らい、新生児期は1日2~3回、各3分ぐらいを目安に始めて、赤ちゃんの様子を見ながら回数を増やしたり、時間を延ばしたりしていきましょう。
赤ちゃんの頭の変形は、まれに頭蓋縫合早期癒合症や水頭症などが原因のことも
赤ちゃんの頭の形が悪いのは、すべて向き癖が原因と考えるのは避けたほうがいいようです。時には病気が原因で、頭が変形していることも。
――頭が変形する病気について教えてください。
細野 赤ちゃんの頭が変形する病気はまれですが、たとえば水頭症(脳の一部に髄液がたまり、脳を圧迫する病気)もその1つです。水頭症は、妊婦健診のエコー検査で判明することもあります。
ほかにはごくまれですが、頭蓋縫合早期癒合症(狭頭症)もあります。赤ちゃんの頭蓋骨は、複数の骨で構成されおり、脳が成長するためにすき間が開いているのですが、何らかの原因で早い時期に頭蓋骨が癒合し、頭蓋骨が変形する病気です。
また頭血腫(産道を通過するときに、頭蓋骨をおおっている骨膜の一部がはがれて血がたまったもの)は、産後数週間から数カ月で自然消失することが多いのですが、なかには固まって残ってしまう子もいます。それが原因で頭の形に影響が出ることもあります
こうした病気もあるので、気になるときはかかりつけの小児科で診てもらいましょう。
お話・監修/日本頭蓋健診治療研究会 取材・文/麻生珠恵、ひよこクラブ編集部
2022年4月に行われた「第125回 日本小児科学会学術集会」で、細野先生は「小児科医は乳児期の頭のかたちの親の心配にどう向き合うか」をテーマに講演をしました。
その中で、細野先生は「赤ちゃんの頭の形を気にするママやパパは、自分自身、子どものころから頭の形によって嫌な思いをしたり、苦労した経験がある人もいます。私たち医療関係者は、そうしたママやパパの気持ちを理解することが必要である」と医療関係者に伝えていました。今後、乳幼児健診などで、赤ちゃんの頭の形へのアドバイスが変わっていくかも知れません。
※記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。