1歳6カ月健診でことばの遅れを指摘されたら?原因探しよりも大切なことって?【ことばの発達専門家】
子どものおしゃべりが始まるのは1歳6カ月ころが目安といわれますが、ことばの発達には個人差があります。だからこそ1歳6カ月乳幼児健診(以下健診)を受けることが大切なのだとか。健診ではどんなことを確認しているのか、ことばの遅れを指摘されたらどんなサポートがあるのかなど、こうざと矯正歯科クリニックの「ことばのきょうしつ」で診療を行う言語聴覚士 山田有紀先生に聞きました。
1歳6カ月健診では赤ちゃんのどんな発達を見ているの?
――1歳6カ月健診ではことばの発達についてどのようなポイントを確認しているのでしょうか?
山田先生(以下敬称略) 3~4カ月・6~7カ月・9~10カ月の健診では、反射や運動の発達の様子を見ていますが、1歳6カ月健診では、それに加えて、初めてことばの発達がチェック項目に入ってきます。まず、積み木を積むことができるか、「ちょうだい」「どうぞ」のやり取りができるか、などを見ます。
人の声に対して応えることはとても大切で、これができない場合は人への意識が低い可能性があります。人への意識が低いと、人との間で使うことばがなかなか伸びにくいことにつながります。
また、聴力に関しては、子どもの耳元で後ろから見えないように音を出して振り向くかを見ています。ことばの獲得には、音の入り口である耳が必要だからです。そのほか、子どもが立って歩けるかの運動機能も確認します。その子が自分で歩いて探索ができると、五感を通じて経験することが増えたり深まったりしてことばの基礎になる世界も広がっていることを意味します。
さらに絵が描いてあるボードを子どもに見せて、「バナナはどれ?」「ブーブーはどれ?」という問いかけに指さしで応えられるかどうかで、コミュニケーションが取れるかを確認します。
このように1歳6カ月健診は、コミュニケーションや、聴力、運動機能の発達の状態を確認する大切な機会です。個性や個人差のある子どもの発達を助けるために、保護者と相談しながら必要な対策を一緒に考えることにもつながります。
――1歳6カ月健診でサポートが必要と判断されたら、医療機関などを紹介されるのでしょうか。
山田 健診で耳の聞こえの問題が見つかったら、耳鼻科を紹介して受診してもらいます。「○○はどれ?」に応じる指さしがなかなかできないとか、積み木を積むのが難しい、場に慣れず、何もしてくれない、という場合は発達に何らかの問題がある可能性を考えます。
その場合は市町村によっても異なりますが、3カ月後くらいにもう一度相談に来てもらったり、療育センターを紹介されたり、地域の発達相談などを紹介したりする取り組みがあると思います。
また、家庭環境のコミュニケーション不足などによってことばの遅れがあると考えられる場合には、保健師さんがフォローに入ったり、保育園に働きかけをして家庭環境を注視してもらうこともあります。
ことばの遅れ、原因探しは意味がない
――ことばの発達の遅れを指摘されて「何か育て方がいけなかったのか」と心配になるママやパパも少なくないようです。先生はどんなアドバイスをしていますか?
山田 子どものことばの遅れがなぜ起きるかは、いろんな要因が複雑に絡み合っていることが多く、はっきりこれが原因と言えないことがほとんどです。だから、原因を探すことはあまり意味がないんですね。過去にさかのぼったところで過去は変わらないですし、1歳6カ月だとすると、これから子どもはいっぱい伸びる芽を持っています。その子に合った方法を探しながら、ことばの力を伸ばしてあげたほうがいいと思います。
私の「ことばのきょうしつ」に相談に来るママやパパも「何か悪かったのか」と気にする人もいますが、ママ・パパのせいではありません、と伝えています。「これから私たちと一緒に、お子さんが変わっていくようにこんなことをしていきましょう」と、未来に目を向けるように話しています。
――コミュニケーションは取れていて意味はわかっているようだけれどことばが出ない、という場合、家庭ではどんなかかわりをしてあげるといいでしょうか?
山田 年齢にもよりますが、1歳代くらいの子なら、子どもがキャッキャッと声を出して喜ぶ反応が出るような体を使った遊びはいいと思います。「たかい、たかい」や「こちょこちょ遊び」などはスキンシップにもなります。あとは、ボールを「いくよー、ポーン!」と声をかけて子どもからも「ポーン!」と声が出るような遊びもいいと思います。ママやパパと遊んで、楽しい、うれしいという感情を伴うかかわりは、楽しみながら自然と声が出るので効果的です。
あとは月齢に応じた本の読み聞かせもいいと思います。親子で一緒に同じものを見て、読んであげて、楽しい時間を過ごすことはことばの発達にもいいでしょう。
4歳でことばが出なかった子が、半年で劇的におしゃべりに
――先生の「ことばのきょうしつ」でことばの遅れが改善した子どもで印象に残っていることはありますか?
山田 4歳2カ月で「1語もことばが出ない」と相談に来たお子さんがいました。「自閉症スペクトラム障害」と診断がついていて、最初の面談では個室内を走り回って、着席するのも難しい状態でした。いろんな病院や療育機関をまわり、いろいろ試したけれどことばが出ない、との相談でした。数回の面談で彼と接しているうちに、しゃべれなくて動きはあわただしいですが、ものすごく力を持っている子だな、と感じたんです。
また、4歳で既にひらがなを理解していて読めていることもわかったので、五十音表を使ってやりたいことやほしいものを指さしして教えてもらう練習をしました。保育園の先生にも小さい五十音表のボードを導入してもらって、彼が指さしでコミュニケーションが取れるように協力してもらいました。
彼は、五十音表、ひらがなを使うことで少しずつ発音も覚えていきました。発音ができるようになってくると、ボードではなくて話したほうが早い、とわかり、半年くらいたったころにはおしゃべりができるように。劇的な変化がありました。
「ことばって役に立つんだな」「人とのコミュニケーションのために使うものなんだな」とわかったことや、「ことばをしゃべったほうが楽だ」ということがわかっていったんだと思います。おしゃべりができるようになると、その後はすごく多弁になって、いろんなことに興味を持つようになりました。
両親も、いろんな病院をまわっても話せなかった彼自身がどんどん変わっていったことで、自分たちも前を向くことができた、と言っていました。現在彼は小学校5年生ですが、将来はこんなふうになってほしい、なりたいというような未来へ向けての話題も増えたそうです。
取材・文/早川奈緒子、ひよこクラブ編集部
子どもの発達の状況を確認し、その子の個性に合ったサポートをするためにも、健診を受けることは大切です。もしことばの遅れを指摘されても、原因は気にしすぎずに、これからことばを伸ばしてあげるかかわり方をする心がけが重要なようです。
●記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。
※当記事では“ことば”とひらがな表記にしています