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生涯、毎日注射が必要になった息子。「どうして…」と母は泣いた【1型糖尿病を知る①】

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4歳のるかくん。発症後に入院した病院にて

1型糖尿病は、すい臓にあるインスリンを作る細胞が破壊されてしまう自己免疫疾患です。小児期を中心に発症し、日本人の子どもの年間発症率は10万人あたり2人程度(※)。発症後は様々な合併症を防ぐために、生涯にわたって血糖値を測定しながら注射や医療機器でインスリンを補充注入し続けなければなりません。

本シリーズでは2回に分けて、4歳で1型糖尿病を発症した男の子・るかくんと、るかくんをそばでずっと見守ってきた母・笹原加奈子さんの体験談を紹介します。

※…認定特定非営利活動法人日本IDDMネットワーク ホームページより

「何でまた、自分のところに?」 母が息子の発症に泣いた理由

入院中のるかくん

るかくんの体に異変が生じたのは、4歳になったばかりの頃でした。母の笹原加奈子さんは「1年近く、るかはずっと具合の悪い状態が続いていました」と当時を振り返ります。

「最初は溶連菌から始まり、百日ぜき、血小板減少性紫斑(しはん)病と、病気を繰り返していました。紫斑病が治る少し前の時期、すごく機嫌が悪くなって、大好きだった幼稚園も『行きたくない』って言い始めたので、これは絶対に何かあると思いました」

 2月に入ると、るかくんは暑くもないのに何回も水を飲むようになり、おしっこも1時間で4回くらい行くようになったそうです。(これは、もしかして……)と、加奈子さんはすぐに病院に連れていきました。加奈子さん自身、1歳の時に1型糖尿病を発症していて、40年以上にわたり病気と向き合ってきました。そんな加奈子さんから見て、るかくんは1型糖尿病の高血糖の症状によく当てはまるものだったといいます。

「るかは即入院になって、いろいろな検査をしてもらいました。糖尿病専門医の先生が来るまで4日ほど結果待ちの状態でしたが、その間、私はインターネットで必死に“他に血糖値が上がる病気はないか?”とか“他に多尿になる病気は?”などと調べていました。今だったら自信を持って、『1型糖尿病でも大丈夫!』って言えます。でも、あの頃は他の病気だと思い込みたいくらい、“なんでまた、自分の大事な息子のところにも1型糖尿病が来ちゃうんだろう?”って、受け入れたくない葛藤がありました」

大の注射嫌いの息子が「おれは絶対やらない!!」と大泣きした

 「もう分かるかもしれないけれど…」。以前から顔見知りだった糖尿病専門医の先生は、そう切り出して、加奈子さんにるかくんの1型糖尿病発症を伝えました。

「息子はまだ小さかったから、その時ぴょんぴょん跳ねて私のそばにいたんですけど、私はもう、だーっと泣いてしまって…。他のお母さんはきっと『1型糖尿病? なんだろう?』というところから始まると思うんですけど、私の場合はどんな病気か分かっているからこそ、一番大事な息子が発症したことに涙が出てしまったんです。ただ、症状がつらくなっていく手前で早期発見できたのは幸いでした」

 病院でいろいろな検査をする中で、るかくんの1型糖尿病は、加奈子さんからの遺伝ではないことが分かったそうです(※)。「でも、やっぱり私のせいじゃないか…という思いは、しばらく消えませんでした」と加奈子さんは振り返ります。

 るかくんの発症が分かった時点で、大きな問題が立ちはだかりました。1型糖尿病は体内でインスリンを作れなくなる病気なので、注射などで毎日4回以上インスリンを注入する必要がありますが、るかくんは大の注射嫌いだったのです。

「るかはちっちゃい頃から、私がインスリンを注射しているのを見ては『かあちゃん、ぼくにはしないよね?』って言っていたんです。私はそのたびに『大丈夫だって! るかは1型糖尿病じゃないでしょ、しないよ』と言ってきたのですが、入院したその日から注射が必要になりました。るかが『やんないって言ったのに!! おれはぜったいやんない!!』って大泣きした時は、私もつられて泣きそうになってしまいました。私自身は1歳で発症したので、物心つく頃には注射が当たり前になっていました。4歳で発症したるかは、注射への恐怖があるところから始まった分だけ、つらかったと思います」

※…1型糖尿病は先天性の病気ではなく、遺伝して同じ家系の中で何人も発病することもまれだといわれています。(認定特定非営利活動法人日本IDDMネットワークホームページより)

注射を克服できた、思いがけない「きっかけ」

 1型糖尿病になった患者は、血糖測定しながらインスリンを毎日注入して、病院での定期検診を受けて様子を見ていくことになります。注射嫌いのるかくんでしたが、退院からしばらくして、思わぬ克服のチャンスが訪れたそうです。

「1型糖尿病の友人の女性と食事をしている時に、るかの前で彼女が注射をスッと打って、スッとスマートに食べ始めたんです。それは私がいつもやっていることなんですけど、るかは大好きでよくなついている彼女だったからこそ影響を受けたみたいで、後日『自分でやってみようかな』って言ってくれました。

 いざやろうとすると『やっぱり怖い…』と言いながらも、私が手を支えて一緒にやってみたら、痛点にも当たらずに、痛みがなくスッと打つことができたんです。この時をきっかけに、少し時間はかかりましたが、だんだん自分一人でできるようになっていきました」

るかくんと、幼稚園のお友だちが起こしたミラクル

園や小学校の子どもたちに1型糖尿病についてを説明するための紙芝居「ゆうくんのからだのおはなし」を、1型糖尿病の子(ゆうくん)を持つママ「えみさん」が作成。えみさんのご厚意で、1型糖尿病のママたちによるLINEグループ「☆IDDM♡Smile☆」のメンバーが、それぞれの子の名前にアレンジして使用させてもらっている。

 自分を奮い立たせて、注射嫌いを克服したるかくん。幼稚園にも再び通うようになりましたが、以前とは違い、園にいる時に血糖測定やインスリン注射をするほか、低血糖になった時には「補食」という、ブドウ糖や牛乳、ビスケットなどの食品や飲料を摂らなくてはなりません。そこで加奈子さんは、保育参観日の時間を使って、幼稚園のお友だちと保護者に、るかくんの病気を説明することにしたそうです。

「るか本人は腹痛で欠席でしたが、るかの症状を説明する紙芝居を持参して、先生に読んでいただきました。それは、こんな内容でした。

“みんなが毎日遊んだり元気に体を動かせるのは、ごはんを食べてエネルギーをとっているから。でも、るかくんの体はパワーがいっぱいになりすぎると、のどがとても乾いちゃったり、トイレにすぐ行きたくなってしまいます。目が悪い人はメガネをかけますが、るかくんは体の中のパワーをちょうどよくするために注射が必要です。るかくんがたまにフラフラしちゃった時は、元気になるために足りないエネルギーを食べたり飲んだりすれば大丈夫。『けっとうち』を測る時は、ちょっと指から血が出るけど、痛くないから心配いらないよ。これからもよろしくね”。

 先生が最後に『みんなきょうりょくしてくれるかな~?』と質問したら、お友達が『はーい!』『まかせて!』と元気いっぱいに答えてくれました。保護者の方々も、励ましの言葉をかけてくださいました」

 こうして、るかくんの新しい幼稚園生活が始まりました。最初の数日間は、みんなが血糖測定や注射の様子をじっと見つめてきたそうで、「教室でやるのはイヤ」と言っていたというるかくん。

「じゃあ、職員室で先生とやればいいよ』とるかの気持ちを汲んで私が伝えると、『でも、もうちょっと頑張ってみる』と言うので、迷いがあるのかな…と様子を見ていました。でも1週間くらいすると、園のみんなが『今日は(血糖値)いくつ?』『るかはそろそろパッチン(注射)しないの?』『(血糖値が)今日はちょっと高いね』って、声をかけてきてくれたそうです。それがるかにとってはすごいミラクルだったみたいで、楽しくなってきちゃったと言っていました(笑)。おかげで、それからはみんなの前で血糖測定も注射も補食も、普通にできるようになりました」

“チーム笹原”として、家族ぐるみで、周囲に支えられながら1型糖尿病と付き合ってきたと加奈子さんは言います。次回は、るかくんが抱いていた葛藤と現在の思い、加奈子さんが携わっている1型糖尿病の支援活動について詳しく話をお聞きします。

笹原加奈子さん

千葉県在住。自身が1型糖尿病患者(1歳発症)。1型糖尿病患者の12歳の息子・るかくん(4歳発症)のお母さん。全国の1型糖尿病を中心とした毎日のインスリン補充が必須な患者やその家族を支援する「認定特定非営利活動法人 日本IDDMネットワーク」事務局員。

認定特定非営利活動法人 日本IDDMネットワーク

(取材・文 武田純子)

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