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妊娠36週、胎児が「水頭症で脳の30%が水で埋まっている」と診断。最悪は死産と告げられて・・・【アレキサンダー病・体験談】

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生後2週間のとき、水頭症の治療のためのシャント挿管手術を受けました。

ブルーメンタル由夏理さんのひとり息子、くのくん(6歳)は、日本に約50人、世界でも500人程度しか患者が確認できていない、希少疾患のアレキサンダー病と診断されています。アレキサンダー病は、脳の特定の細胞に病変をきたし、脳内に異常なたんぱく質がたまってしまい、さまざまな症状が現れる遺伝性の病気です。
由夏理さんは学士をアメリカで取得し、イギリスで大学院の医学部に入学。卒業後はイギリスの病院で外科医をしていました。くのくんの病気がわかったあと、「息子の病気を治せる薬を創りたい」という強い思いから、アレキサンダー病の研究が進んでいる日本に帰国。現在は、薬の研究開発にかかわる仕事をしています。
くのくんの妊娠中から6歳になった現在までのことを聞いた、全3回のインタビューの1回目です。

何とも言えない不安感から超音波検査を依頼。その結果、水頭症だとわかる

くのくんが重度の水頭症だとわかったころの胎児の超音波写真。

ブルーメンタル由夏理さんは中学生まで日本で過ごし、高校、大学はアメリカに留学。その後イギリスの大学院の医学部に進みました。アメリカの高校に進学したのは、臨床心理の仕事に興味があったからだと言います。

「実は私は、動脈管開存症(どうみゃくかんかいぞんしょう)という心臓の病気を幼少時に患っていました。大動脈と肺動脈の間にある動脈管は、胎児期には開いていて、通常は出生後に自然と閉じます。これが閉じないという病気です。私の場合は5歳になっても閉じなかったので、5歳半ごろ手術を受けました。
この経験から、子どものころから医学にはとても興味があったんです。中学生、高校生のころは、心の病気を治せる医師になりたいと考えていました。

アメリカの高校を卒業後、アメリカの大学の医学部に進学する予定でしたが、学費がとてつもなく高くて。一方、イギリスの医学部は奨学金を受けられるというので、そちらへの入学を決めました」(由夏理さん)

医学について学ぶ間に、由夏理さんは外科医になることを決めました。

「自分の仕事の結果が比較的早く現れ、患者さんの病状の改善につながる外科の仕事に魅力を感じました。子どものころに心臓の手術を受けたことで、私はとても健康な体になれました。私も患者さんの健康に貢献できる医師になりたいって思ったんです」(由夏理さん)

ドイツ人の夫は同じ医学部で、実技練習グループの仲間だったそうです。

「一緒に過ごす時間が増えたことで自然と交際が始まり、卒業前に結婚を決めました。夫婦ともに外科医としてイギリスの病院に勤務していた結婚4年目に、妊娠がわかりました。夫の実家があるドイツでの出産を予定し、里帰り。周産期健診もドイツの病院で受けていました」(由夏理さん)

妊娠の経過は順調で、何の問題もなく、出産の日を待ちわびていたという由夏理さん夫妻。しかし、妊娠36週目にそれが一転します。

「妊娠36週目の健診の日、“母親の勘”としか言えないような、何とも表現できない悪い予感がしたんです。この日は超音波検査をする予定はなかったのですが、『どうしても超音波で赤ちゃんを見てほしい』と担当医に強く訴えました。
それほど言うなら・・・と超音波検査をしてくれた医師が、画像を見てがく然としているのがわかりました。
そして『重度の水頭症だから、すぐに大学病院を受診してください』と。

そのころは夫も休暇を取ってドイツに帰ってきていたので、2人で自宅から車で数時間の距離にある大学病院に向かいました」(由夏理さん)

「最悪は死産もありうる」と宣告されるも、元気な産声を上げて息子が誕生

出産入院中の由夏理さんとくのくん。くのくんの容体は落ち着いていました。

由夏理さんは、大学病院で再度超音波検査を受けました。

「私の専門は泌尿器外科で、夫は整形外科。脳神経領域の疾患のことは、2人とも医学部で習った程度のことしか知りません。でも、『脳内の30%が水で埋まっていて、脳の一部がよく見えない状況』という医師の説明は、画像を見れば明らかで、それが胎児に重大な影響を及ぼすことはもちろん理解できました。

赤ちゃんの脳内にたまった水が多すぎて、自然分娩だと脳内の圧力がどうなるかわからないから、妊娠38週目に帝王切開を行うという説明でした。しかも、出産時に最悪は死産もありうると告げられたのです」(由夏理さん)

由夏理さん夫妻にとって、あまりにも大きなショックです。

「目の前が真っ暗になるというのを、生まれて初めて経験しました。説明があったその場で泣きくずれ、帰宅する車内でも帰宅後も夫婦ともに涙が止まらず、1週間はまともに眠ることもできませんでした。

その後受けたMRI検査では、脳の一部がないように見えました。本当にないのか、水に埋まっていて見えないだけなのかは、生まれて見ないとわからないという説明でした」(由夏理さん)

不安に押しつぶされそうになりながら帝王切開術を受けた由夏理さん。男の子、くのくんが誕生しました。

「生まれたばかりで血だらけの息子が元気に産声を発するのを聞いて、うれし涙が止まりませんでした。出産に立ち会った夫の第一声は“Wow!He is cute!”(わあ、なんてかわいいんだ!)。私たち夫婦は幸せに包まれていました」(由夏理さん)

水頭症治療のためのシャント挿管手術で感染し、髄膜炎に

シャント挿管手術を受けたあとの、くのくん。パパに抱っこされて寝ています。

出産入院中、くのくんの容体は落ち着いていたので、5日目に由夏理さんと一緒に退院。家庭で過ごしたのち、生後2週間目にシャント挿管の手術を受けるために、再び大学病院に入院しました。

「脳内にたまった水を排出するシャントを挿管する手術は、水頭症の治療には必要だと医師から説明を受け、理解していました。でも、生まれたばかりの小さな息子の頭に穴をあけ、シャントを挿管することを想像すると、ふびんでいたたまれなくなりました。『健康な体に産んで あげられなくてごめんね』と、何度も謝りました。また、万一のことを考えると不安で不安で、いてもたってもいられませんでした」(由夏理さん)

手術はスムーズに行われ、術後の経過も良好。1週間程度で退院でき、本格的に家族3人の生活が始まりました。

「慣れない育児で悪戦苦闘しつつも、くのを中心にして親子3人で楽しい時間を過ごしていました。ところが手術から2週間ほどたった、くのが生後1カ月のとき、夜中の授乳中に息子の体が普段よりあたたかいように感じたんです。やや高めの平熱でしたが、気になって30分後にもう一度測ったら上がっていました。『なんだかおかしい』と感じ、手術を行った大学病院の救急外来へ。
検査したところ、シャントを挿管する際の術中感染で、髄膜炎を発症していたんです」(由夏理さん)

くのくんは、そのまま緊急入院となりました。

「私は外科医ですから、外科処置は常に術中感染のリスクがあることを理解しています。しかも開頭手術の場合は、髄膜炎など生死にかかわる状況になる可能性があることも知っています。でも、執刀医の事前説明では、簡単な手術でこれまでシャント感染を起こした経験はないとのことでした。文献にもシャント感染はごくまれなケースだと書かれています。それが私の息子には起きてしまった・・・。

術中感染は細心の注意を払えば、大部分は予防できることも、外科医として身をもって知っています。一方で人間がたずさわることに完璧、100%はありません。親としても外科医としてもやるせなさと憤りを感じました。
でも、息子の命を助けるには、この病院で髄膜炎の治療をして、新しいシャントを再度挿管する手術を受けるしかありません。任せて大丈夫だろうかという不安をぬぐえないまま、2度目の入院生活が始まりました」(由夏理さん)

よく笑う赤ちゃんで、発達も順調。このまま大きくなると思っていたのに・・・

生後6カ月ごろのくのくん。このころは元気にすくすくと大きくなっていました。

心配された髄膜炎の重篤な症状は現れず、シャント挿管の再手術も無事終了。ひと安心と思ったところ、術後、くのくんはひっきりなしに泣くようになりました。

「普段、そんなに泣く子じゃないから変だと思いました。何か原因があるはずだと、処方されている薬の内容を確認させてもらったら、鎮痛剤が1回も与えられていなかったんです。『痛くて泣いているんじゃないですか』と担当医に聞いたところ、すぐに鎮痛剤が処方され、その途端、息子は泣きやみました。

やっぱり痛くて泣いていたんだ、2度も手術を受けさせたうえに、痛い思いもさせてしまったと、心がキリキリと痛みました」(由夏理さん)

この入院中に、くのくんの血圧が大人より高いことが発覚。血圧を下げる薬を飲むことになりました。

「アレキサンダー病の診断を受けてから知ったことですが、アレキサンダー病は血圧の調整ができないという症状も現れるので、このときの高血圧もそれだったのかもしれません。
でも、アレキサンダー病の症状の前に長時間痛い思いをしたことが、高血圧を誘発したのではないかと、今でも思っています。人は痛みを感じると血圧が上がります。小さな赤ちゃんでも同様であったかもしれません。
アレキサンダー病の影響で、いずれ自律神経、血圧のコントロールに問題が出てくるリスクは高いですが、あのときの高血圧は激しい痛みによるものであったのではないか。その思いと後悔は今も消えません」(由夏理さん)

妊娠がわかったとき、由夏理さんはできるだけ早く仕事に復帰するつもりでいたそうです。

「外科医は休んでいる期間が長くなると腕が鈍るといわれているので、産後4カ月くらいで復帰する予定でした。息子の水頭症がわかったことで、のびのびになっていましたが、いずれは復帰するつもりでした。

2回目の手術の経過は問題なく、退院したあとの息子は、それまでのことが悪い夢だったかのように、母乳をよく飲み、離乳食をよく食べ、丸々としていました。首すわり、寝返り、おすわりなどの発達も順調。好奇心旺盛でよく笑ってくれ、私たち夫婦にとって、まさに天使のような存在でした。

こんなふうに毎日が穏やかに過ぎていくんだな、仕事に復帰することもできそうだなと思っていたのに、生後9カ月のとき、またもや悪夢のような生活に逆戻り。くのが頻繁にけいれん発作を起こすようになったんです」(由夏理さん)

お話・写真提供/ブルーメンタル由夏理さん 取材協力/アステラス製薬株式会社 取材・文/東裕美、たまひよONLINE編集部

▼続きを読む<関連記事>第2回

妊娠36週目に重度の水頭症であることがわかり、産後、シャントを挿管する手術を受けたくのくん。術中感染による髄膜炎と2度目の手術を乗り越え、健やかに成長していました。ところが9カ月のとき、度重なるけいれん発作に苦しめられることになってしまいます。
インタビューの2回目は、けいれん発作を起こしたときのことや、遺伝子検査の結果、アレキサンダー病と診断されたことなどについてです。

「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。

ブルーメンタル由夏理さん(ぶるーめんたるゆかり)

PROFILE
イギリスのロンドン大学・セントジョージ校医学部卒業。イギリスのケンブリッジ大学病院にて外科医勤務。2021年、希少疾患支援のためのNPO「K.U.N.O.」をドイツで設立。2021年に帰国し、アステラス製薬に入社。創薬研究開発業務に従事。また、京都大学iPS細胞研究所でアレキサンダー病の研究を行うかたわら、アメリカのアレキサンダー病患者会「End AxD」の理事を務める。

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2025年5月の情報であり、現在と異なる場合があります。

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