働きながら発達障害がある息子を育てて知った、睡眠習慣の大切さ【乳幼児睡眠アドバイザー】
乳幼児睡眠アドバイザー・睡眠改善シニアインストラクター・睡眠健康指導士の鶴田名緒子さんは、乳幼児から高齢者まで幅広く、睡眠生活改善のための活動をしています。鶴田さんが睡眠の大切さに気づいたきっかけとなったのは、発達障害のある長男の子育てだったそうです。鶴田さんの子育ての経験と、睡眠を見直したことで長男にどんな変化があったかについて聞きました。
乳幼児健診では「経過観察」、でも一時預かりで「ほかの子と違う」と言われ・・・
――現在鶴田さんの長男は15才となったそうですが、乳幼児期のころの発達の様子について教えてください。
鶴田さん(以下敬称略) 乳幼児期から発達はゆっくりでした。6カ月ぐらいのころからは、抱っこしても反り返ってしまって、じっとすることができず、抱っこひもに入れようとしてもすごく嫌がっていたのを覚えています。歩き始めたのは1才半を過ぎたころでしたが、歩けるようになってからは常に歩き回ってすぐどこかへ行ってしまうので、目が離せなくなりました。
2才くらいになって地域の子育てサークルに入ったのですが、みんなと遊んだり工作したり、ということにまったく興味を示さず、自分の好き勝手に行動するので、とても大変で・・・結局サークルもやめてしまいました。息子の育てにくさを感じてはいたものの、当時は発達障害についての知識はほとんどなく、「子育てってこんなに大変なんだな・・・」と1人で悩んでいました。
乳幼児健診でも言葉が出ないといった項目に○はついていたけれど、「経過観察」と書かれただけで、それ以上のことは指摘されませんでした。
――長男に発達障害があるとわかったのはいつごろでしょうか?
鶴田 3才のころ、あまりにも毎日大変なので、少しだけリフレッシュさせてもらおうと、地域の保育園の一時預かりに半日預けてみたんです。お迎えに行ったら「この子は普通の子と違うからうちでは預かれません」って言われました。
自分の中でも「この子は人とちょっと違うのかな」と少しずつ感じていましたが、半日預けただけの保育園からそんなふうに言われたことがものすごくショックでした。帰宅して泣きながらインターネットで発達を見てくれるところがないか検索をしました。
地域の病院を片っ端から調べたら、たまたま近所に子どもの発達を見てくれる小児科があったんです。キャンセル待ちでいっぱいだったようですが、私が号泣しながら電話をしたら、ただならぬ雰囲気を察知したのか、見てもらえることに。そこで検査の結果、息子は「広汎性発達障害です」と言われました。3才のときでした。今では呼び方が変わって「自閉スペクトラム症」といわれています。
――発達障害とわかるまでの3年間、大変な子育てを頑張っていたんですね。
鶴田 正直、当時は子育てが楽しいって全然思えなくて、毎日がとてもつらかったです。どこに支援を求めたらいいのかもわかりませんでした。ママ友と一緒に子どもを公園に連れて行っても、うちの子だけ走ってどこかへ行ってしまうので、私は追いかけ回すのに精いっぱい。ほかの親子とかかわることもできず、孤独で悲しかったです。
小児科で診断をされた時点では、私は発達障害といってもいつか治るんじゃないかと、どこか楽観的に思っていたんです。でも、ある療育施設で自閉スペクトラム症の子が主人公の絵本を見たときに、その子の特徴として描かれていた、「その場でくるくる回転する」といった様子が息子と同じだったんです。それで、息子は自閉スペクトラム症なんだ、一生治ることはないんだな、と気づきました。
――療育などには通ったのでしょうか?
鶴田 3才で自閉スペクトラム症とわかってから、息子の特性に合う幼稚園を探したんですが、なかなか見つかりませんでした。いろいろと探す中で、障がい児と健常児を一緒に預かり統合保育をしている保育園を見つけました。その保育園に入るためには私が就業している必要があったので、出産前に働いていた大学事務の仕事に再就職することにしました。
療育は、その保育園に臨床心理士の先生がいて対応してくれました。月に1回、障がい児の親の会が開かれ、園長先生・保育士さん・当事者の親が集まっての話し合う場もありました。統合保育施設だったので、健常の子ともかかわりあうことができ、自然な形でインクルージョン教育を取り入れてくれた保育園でした。
その後、小学校は地域の小学校の支援級に通い、中学校は支援学校へ。現在息子は15才になりました。
自閉スペクトラム症とてんかんがある息子。育て方を考え直した
――長男の特性がわかったあと、睡眠生活改善のきっかけとなったのはどんなことだったんでしょうか?
鶴田 息子は赤ちゃんのころから、1年に1回くらい熱性けいれんを起こしていました。さらに保育園に入ってからは、熱がないときに保育園でけいれんを起こして救急搬送されることが2〜3回ありました。それで大きい病院に紹介状を書いてもらい検査してもらったら、てんかんがあるとわかって、それも二重のショックでした。てんかんの発作でPICUに4回入院をしたんですが、1回目の入院はちょうど東日本大震災の直後のことでした。余震もあって、輪番停電で病院の照明も暗くて、不安が押し寄せる中、この子をどういうふうに育てよう、とあらためてじっくり考えました。
てんかんについて調べると睡眠不足のときに起こりやすいと知りました。思い返すと、その当時保育園に通い始めて環境が変わって疲れていたり、寝る時間が遅くなってしまうことがあったんです。この子は人より疲れやすいのかな、と気づきました。子どもの健康にとって大事なことは食事・睡眠・運動だけど、きっと息子は人より睡眠を大事にしないといけないんじゃないか、と思ったんです。退院後、てんかんの薬を飲んだり通院するのと並行して、家庭で生活リズムを整えるために睡眠について勉強してみよう、と思ったのがきっかけです。
――どんなふうに生活を変えましたか?
鶴田 息子の睡眠を整えるためにしっかり学んで資格を取ろうと思い、資格取得講座に通ったところ、睡眠の研究の第一人者である白川修一郎先生に息子の睡眠について相談する機会がありました。「保育園に通い始めてから、朝起こそうとしてもなかなか起きなかったり、起床後にパニックになって大暴れすることもあり困っています」と相談したら、「何時に寝ていますか?」と聞かれました。「夜22時くらいです」と答えると、白川先生は「睡眠がたりないから就寝時間を2時間早めてください」とだけアドバイスをくれました。
2時間前というと20時です。当時、家事も育児もワンオペで、仕事もあって・・・仕事が終わって保育園に迎えに行って帰宅して20時に寝かせるってすっごい大変です。でも、この子の命にかかわることだから、と一念発起して取り組んでみました。
毎朝困っていた子どものかんしゃくが、ぴたりとおさまった
――就寝時間を2時間早めたら、なにか変化がありましたか?
鶴田 やってみたら、本当にガラッと変わりました。朝あんなにぐずって起きなかった息子が、6時前に自分から目覚めるようになりました。朝食を食べて保育園に登園するには6時半までに起きないといけません。以前はパニックを起こしていたので私も時間がなくて焦っていましたが、息子の睡眠がたりるようになってからは機嫌もよく、パニックがなくなり、朝の時間がとてもラクになりました。
私自身の変化もありました。働きながら子育てしていると、クタクタに疲れますよね。だから、子どもを寝かしつけるときに私も一緒に寝るようにしたんです。20時にベッドに入り、7時間ぐっすり寝て、明け方3時くらいに起きるようになりました。その朝の時間は貴重な自分時間にして趣味を楽しむこともできるように。それで自分の体もメンタルも調子がよくなっていきました。睡眠を変えただけで、息子も私も心身ともにいい変化があり、睡眠ってシンプルにすごいなと思いました。
――長男と自身の体験が、現在の睡眠指導の仕事につながったのでしょうか?
鶴田 はい。息子の健康を守るために睡眠を重視した子育てを実践し、睡眠の大切さを改めて実感しました。
睡眠改善シニアインストラクター・睡眠健康指導士上級・乳幼児睡眠アドバイザーなどの資格を取得して睡眠の学びを深めていくうちに、健常の子でもかんしゃくを起こしたり落ち着きのなさが見られる場合、睡眠時間を増やすことで落ち着きが戻ることがあると知りました。
毎日の生活に睡眠をプラスして人生を健やかに過ごして欲しいと+Sleep(プラススリープ)を起業し、睡眠講座やカウンセリングなどの今の仕事につながっています。
お話・監修・写真提供/鶴田名緒子さん 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部
「3才までの育児は、本当に大変だった。ほかの子と違うな、と感じつつも、発達障害のこともよく知らず、気づかなかった」という鶴田さん。睡眠を調整することの大切さを知り、長男の子育てにもいい影響があったようです。現在15才の長男は支援学校に通っていて、今でも親子で睡眠リズムを大切にした生活を送っているそうです。
●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。
鶴田名緒子先生(つるたなおこ)
PROFILE
慶應義塾大学卒業。乳幼児睡眠アドバイザー・睡眠健康指導士・睡眠改善インストラクター。毎日の眠りを整えて豊かなライフスタイルを実現する「+Sleep(プラススリープ)」を運営し、睡眠講座やイベントを育児サークル、教育機関、行政機関で開催。NPO法人赤ちゃんの眠り研究所理事、オンラインサロン「ねんねの教室」を運営。
『子どもの「眠る力」の育て方』
夜泣きをする、寝つきが悪い、など多くのワーママが悩みを抱える赤ちゃんの眠り。子どもの「眠る力」を引き出し、家族みんなが健やかな生活を送れる睡眠習慣の整え方を紹介します。清水悦子・鶴田名緒子著/1650円(日本能率協会マネジメントセンター)