就寝時間を2時間早めたら、朝のかんしゃくが激減、自閉症の息子を育てて気づいた「眠る力」の大切さ【乳幼児睡眠アドバイザー】
乳幼児睡眠アドバイザー・睡眠改善シニアインストラクター・睡眠健康指導士の鶴田名緒子さんは、発達障害の長男の育児を通じて、睡眠習慣を整える大切さを実感したことがきっかけで、睡眠改善の指導に携わるようになったそうです。鶴田さんに子どもの「眠る力」の大切さについて聞きました。
自閉症の息子の就寝時間を2時間早めたら、朝のかんしゃくが減った
――鶴田さんが「眠る力」の大切さを実感したのは、自閉スペクトラム症の長男の子育ての経験からだそうですね。
鶴田さん(以下敬称略) 息子は3才のとき自閉スペクトラム症と診断されました。これからこの子をどうやって育てたらいいんだろうといろいろと調べて、息子には人より睡眠時間を大事にしてあげたほうがいいのかもしれないと気づき、本格的に睡眠について勉強するようになりました。
3才で保育園に通い始めた当時、息子は朝はなかなか起きられずかんしゃくを起こして大変な日々でした。専門家のアドバイスを受け、寝る時間を2時間早く、夜20時に寝かせるようにしてみたんです。すると、息子は朝、自分から起きるようになり、かんしゃくもなくなって落ち着いて保育園に登園できるようになりました。この経験から、睡眠の大切さを実感しました。
――鶴田さんは2014年に+Sleep(プラススリープ)を起業したそうですが、そのきっかけは?
鶴田 息子が4才のときに、睡眠改善インストラクターの資格講座で学んでいました。そこで、子どもの睡眠はすごく大事なのに、なかなかその考えが広まらない、教える人がいない、と聞きました。そこで、育児中のママやパパたちが、地域で睡眠についての話を聞く機会を設けたいと思い、息子の小学校入学後に+Sleep(プラススリープ)を立ち上げました。
――地域のママへの講演を通して、参加者からどんな反応がありますか?
鶴田 小さな赤ちゃんがいるママを対象に、2週間かけて3回の連続講座をやったことがあります。初回は参加者のみなさんの顔色が悪かったんです。とにかくママも赤ちゃんも眠れない、と悩んでいるようでした。それで、睡眠の整え方と睡眠日誌をつける方法を伝え、2週間でどれか1つでもできることをやってみよう、と提案しました。
すると、2回目では参加者の顔色が見違えるほどよくなっていて、赤ちゃんたちも元気いっぱいになっていました。3回目には参加者のみなさん同士の仲も深まるほど。きちんと指導する人がいれば、睡眠習慣が整えられ、心身にこんなにいい影響があるんだと、自分自身の大きな気づきにもなりました。
眠る力をつけてあげることは最大のプレゼント
――子どもにこそ睡眠が大切、という理由を教えてください。
鶴田 子どもがぐずってパニックになる、不機嫌が続く、というとき、何か別の原因があるのかな、自分のかかわり方が悪いのかな、と考えがちだと思うんです。でも、実はただ単に子どもの睡眠がたりないだけ、というシンプルな理由であることが見落とされがちです。
私は自分が自閉スペクトラム症の息子を育てる中で、ほかの子よりかんしゃくを起こしたり落ち着きのなさが見られる子でも、睡眠時間を増やすことで落ち着きが戻ることがあるとわかりました。子どもも大人もだれだって、しっかり眠れれば機嫌がいいと思うし、寝不足だとぼんやりしたり不機嫌になったりしますよね。
――「眠る力」をつけることで、子どもの成長にどんなメリットがありますか?
鶴田 眠っている間は、日中に使った脳や体の疲労の回復が行われます。同時に、睡眠によって日中に起きたことの記憶の整理と定着が行われ脳が発達します。さらに、成長ホルモンが分泌され、骨や筋肉を作り身長を伸ばします。また、免疫力を高め、病気に強い体を作ります。
子どもの成長を考えるとき、どうしても起きている間にどんな活動をするかとか、食べ物でどんな栄養をとるか、といったことに意識がいきがちですが、実は「眠る力」をつけることは子どもの成長発達に欠かせないこと。6才ころまでに、夜はしっかり寝て朝は7時までに起きる「眠る力」をつけてあげることは、子どもが生きる力の土台となるママとパパからの最大のプレゼントだと思っています。
――赤ちゃんなら生後何カ月ころから睡眠習慣を意識し始めるといいですか?
鶴田 生後2カ月以降になったら、夜の睡眠を重視した生活リズムを始めるといいと思います。大人が働きかけないと赤ちゃんは眠り方がわかりません。生後2カ月以降になったら、少しずつ「夜は暗いから眠るよ」と室内を暗くし、「朝は明るいから起きるよ」とカーテンを開けて日光を入れるなどから始められます。3カ月くらいからは、日中に起きている時間が長くなり、少しずつ睡眠リズムが整い始めてきます。
子育て悩みに乳幼児睡眠アドバイザーがズバリ回答!
寝かしつけの時間を十分にとることが難しい働くママ・パパたちは、子どもの睡眠についての悩みや気がかりも多いようです。自身も働きながら子育てに向き合ってきた鶴田さんにアドバイスをもらいました。
毎日22時過ぎに寝るのは遅い?
Q 保育園で昼寝をするからか眠くないようで、毎日寝かせるのが22時過ぎになってしまいます。もっと早く寝かせたほうがいいでしょうか?(3才男の子のママ)
【鶴田さんより】
もちろんできれば早く寝かせたほうがいいですが、園でたっぷり昼寝をすると寝つきにくいこともあるかもしれません。連絡帳やお迎えに行ったときに、保育士さんにその日どんな活動をしたか、どのくらい昼寝したかを聞いてみるのも1つの方法です。
寝かしつけで子どもがなかなか寝てくれないと、親も疲れますよね。でも「今日は昼寝をいっぱいしたから寝られないんだな」とわかると、そういう日もあるよね、と考えられます。昼寝が長いかな、と思ったら、「今日は少し早めに起こしてください」と頼んで様子をみるのもいいでしょう。保育士さんと一緒に子育てする感覚でいいと思います。
睡眠時間を早くするのに何から手をつけたらいい?
Q 18〜19時に保育園にお迎えに行き、帰宅後はバタバタ。子どももぐずって家事が進まず、21時前に寝かせたくてもどうしても間に合いません。睡眠時間を早くするために何から手をつけていいかもわかりません。(5才男の子のママ)
【鶴田さんより】
私も同じ悩みがありました。18時に迎えに行って、20時に寝かせるなんて無理ゲーです(笑)。食事は、子どものメニューは割と簡単に作れるものが多いと思うんですけど、ネックになるのって大人の食事だと思うんです。私は毎晩5品くらい作っていたんですが、睡眠を見直し始めて「もう無理だ、やめた!」となりました。
それで、当時折り込みチラシで見たお総菜の宅配を頼むことに。大人はそのお総菜と炊いた白飯にし、子どもの食事だけはささっと作って食べさせて、おふろに入れて寝かせる、という具合に効率化を考えました。夫婦でお互いの時間を棚卸しして、どこが削れるか、妥協できるか考え、時短ができるポイントを探ってみるといいのではないでしょうか。
自分の時間はどうやって作ったらいい?
Q 子どもの寝かしつけに時間がかかって、一緒に寝落ちしてしまうことも。自分の時間が持てなくてストレスがたまります。(2才の女の子のママ)
【鶴田さんより】
私も、仕事と保育園と子どもの通院とで、自分の時間はちっとも取れなかったので気持ちがよくわかります。でも、子どもの睡眠を見直すと同時に、息子と一緒に私も20時に寝るようにしてしまいました。私は7時間寝るとスッキリして、明け方3時ころに起きていました。息子が6時に起きるまでの3時間、自分の時間にすることに。資格の勉強をしたり、趣味のミシンでバッグを作ったり、韓国語を勉強したり・・・。朝の3時間、自分の自由時間があると思うと、仕事も頑張れたし、大変な子育てを乗り越えられた気がします。
お話・監修・写真提供/鶴田名緒子さん 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部
子どもが小さいうちに睡眠習慣を整えてあげることは、心身の健やかな成長にとってとても大切なのだそうです。夜はなるべく早く寝るために、夫婦で家事の時間や分担の工夫を話し合うことから始めてみるといいかもしれません。
●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。
鶴田名緒子先生(つるたなおこ)
PROFILE
慶應義塾大学卒業。乳幼児睡眠アドバイザー・睡眠健康指導士・睡眠改善インストラクター。毎日の眠りを整えて豊かなライフスタイルを実現する「+Sleep(プラススリープ)」を運営し、睡眠講座やイベントを育児サークル、教育機関、行政機関で開催。NPO法人赤ちゃんの眠り研究所理事、オンラインサロン「ねんねの教室」を運営。
『子どもの「眠る力」の育て方』
夜泣きをする、寝つきが悪い、など多くのワーママが悩みを抱える赤ちゃんの眠り。子どもの「眠る力」を引き出し、家族みんなが健やかな生活を送れる睡眠習慣の整え方を紹介します。清水悦子・鶴田名緒子著/1650円(日本能率協会マネジメントセンター)