悲しみで心があふれてしまうことも…。小児がんでわが子を亡くした母が伝えたい、「ひとりじゃないよ」という想い
宮城県に住む千葉友里さんの三男・雄太くんは、小児がんの一種の脳幹グリオーマと診断され、2022年7月に8歳で天国に旅立ちました。千葉さんは現在、小児がんの子どもたちとその家族をサポートする団体「ひまわりスマイルプロジェクト」を立ち上げ、活動を応援してくれる雄太くんのきょうだいと一緒に、日々活動に取り組んでいます。
今回は千葉さんに、ひまわりスマイルプロジェクトの具体的な取り組みや今後のこと、「当事者が支援に携わることの難しさ」についてお話を伺いました。
支援活動が、家族のグリーフケアにもなっている
――先日、千葉さんはお子さんを亡くした親御さんのためのグリーフケア(身近な人を亡くして悲しみを抱える人に対する支援)の会を開催されたそうですね。どのような内容でしたか。
千葉 お子さんの病気や亡くなってからの年数はそれぞれ違いましたが、皆さん「これまで話す機会がなかったけれど、今回を機にお話ししてみようかな」と参加してくださったそうです。「悲しいからあまり話さないように生きてきたけれど、みんな同じ立場で共感しあえるから、話すのは大切なことだと分かりました」という方もいました。今後も引き続き参加したいと皆さんおっしゃっていたので、開催した意味がすごくあったと思います。
――千葉さんのお子さんたちも、「ひまわりスマイルプロジェクト」の活動に協力してくれていますね。
千葉 子どもたちは人のためというよりは、自分たちが楽しんで参加しているようです。レモネードスタンド活動(※)では、いちばん最初に「レモネードスタンドってこういう意味なんだよ」と絵本を見せて説明したのですが、今では一緒に、レモネードを売る時のお店の看板や募金箱の作り方について相談しながら取り組んでいます。
※レモネードスタンド活動…アメリカの小児がん患者の女の子が、小児がん支援のためにレモネードを作って小児がん治 療の寄付金を集めたことをきっかけに全世界に広がった社会貢献活動。
――活動について、お子さんたちとどんなことを話していますか?
千葉 今回の取材の前に、子どもたちに「ママの活動についてどう思ってる?」と聞いてみたんですが、「いいことやってるって思ってるよ」としか言ってくれなかったんです(笑)。もちろん人のためにやっていることですが、この活動が私と子どもたちのグリーフケアの一つにもなっているのかなとも思います。雄太はいなくなってしまったけれど、私たち家族をつなげるような活動を親子で一緒にできているのは、みんなにとっていいことなんじゃないかなと感じています。
時には悲しみの感情があふれ出してしまうことも…
――以前、千葉さんがTwitterで「当事者家族が支援側に回ることの難しさを痛感しています」とつぶやいておられました。どういうことなのでしょうか。
千葉 私は雄太が亡くなって2カ月後に支援活動を始めているので、「強い人ですね」と言われることがあるのですが、むしろ弱いと思っていて。葬儀の時に雄太のお友達からもらったお手紙や写真がいっぱいあるんですけど、見たらとても悲しくなってしまうので、カバンごと取っておいて、今でも見られずにいます。
看護師と保健師として働いていた経験があるので、一歩引いた目で活動できているほうだとは思うのですが、普段は落ち着いて活動に向き合っていても、感情的に揺れてしまう時があります。告知された時に、もう手術できない部位で、治療法がないから残った時間でいい時間を過ごしてくださいと言われたことへの、どこへもぶつけられないやるせなさや悔しさが今でも残っています。こうしてインタビューを受けていても、感情がこみあげて、ワーッと込み上げてきて泣いてしまう時もあって…。今は悲しみと向き合うと生きていくことすらできなくなりそうなので、そこをあえて飛び越えて走っているのかなと思うこともあります。
また、自分は当事者なので熱い想いを持って活動しているけれど、小児がん支援にまったく興味がない態度の人に遭遇することがあります。もちろんその人たちは、亡くなった雄太のことを知るはずもないけれど、雄太の存在をなかったことにされたみたいな気持ちになって悲しくなります。
――率直な気持ちをお話いただいてありがとうございます。「支援側に回ることの難しさ」の意味が、よくわかりました。
千葉 ただ、私は以前、家族会などの支援団体がなくて苦しかったのですが、友達や医療職のつながりで、いろいろな方々に雄太の闘病を助けていただきました。また、当時「自分が倒れないように誰かに支えてほしい」と周りに訴えたら、幸いにも良い先生に繋げてもらえたこともあります。そのおかげもあって最後まで私は倒れずに雄太を支え切れることができたので、自分がまた誰かにそのバトンを繋げることができるのは、すごく意義のあることだと思っています。
頑張っている子どもたちとご家族に「ひとりじゃないよ」と伝えたい
――これからの取り組みで予定されていることはありますか。
千葉 雄太の闘病中から、病気の子どものきょうだい支援をしたいと思っていました。その活動の一環として今、宮城県でグリーフケアをしているクリニックの先生とやり取りしているところです。また、小児・AYA世代がん患者の在宅療養生活支援制度を県内に取り入れるための活動もしていますが、将来的には子どもホスピスを立ち上げる活動をしていきたいと思っています。闘病中のお子さんやご家族、きょうだいをサポートできるという面で、ホスピスの大切さをとても感じています。
――病気を抱えるお子さんをお持ちのご家族に、メッセージをお願いします。
千葉 かつての私のように、親御さんは毎日いろんな感情を抱えながら、一生懸命頑張っているお子さんを見守っていると思います。きょうだいがいるご家庭は、きょうだいのことも気にかけて、自分のことまではとても気が回らなかったり…。そんなふうに、もしひとりで抱えている方がいたら「ひとりじゃないよ」とお伝えしたいです。病気のことを周りに話すこと自体難しいことだと思いますが、できる限り周りにSOSを出したり、甘えたりしてほしいと思います。
私は現在宮城で支援活動をしていますが、ほかの地域でも、同じような立場のママたちがなんとか自分の地域で支援の輪を広げようと、一生懸命活動に取り組んでいます。それぐらいしか私たちにはできないけれど、応援したいという気持ちの人たちが全国にいて、いま頑張っている子どもたちみんなの病気が治って大人になれる未来を願っています。お子さんとご家族の頑張りを、私たちは心から応援しています。
「ひまわりスマイルプロジェクト」代表 千葉友里さん
看護師、保健師を経て、2022年7月に三男の雄太くんを闘病で亡くしたことを機に同年9月に小児がんの子どもやその家族を支援する「ひまわりスマイルプロジェクト」を設立。レモネードスタンド活動、グリーフケアの会などのイベントや会合を定期的に開催している。
(取材・文 武田純子)
取材日 2022年12月7日