息子を小児がんで亡くした母。「小児がんの子と家族を笑顔にしたいんでしょ?」というお兄ちゃんの言葉に涙し、芽生えたある思い
2022年9月、宮城県で小児がんの子どもたちとその家族をサポートする「ひまわりスマイルプロジェクト」を立ち上げた千葉友里さん。小児がん支援のレモネードスタンド活動(※)や、子どもを亡くした親を対象としたグリーフケアの会などを定期的に開催しています。千葉さん自身、同年7月に小児がんで三男・雄太(ゆうだい)くんを亡くした悲しみを経て、プロジェクト設立に至りました。千葉さんにそのきっかけや経緯、活動への思いを伺いました。
※レモネードスタンド活動…アメリカの小児がん患者の女の子が、小児がん支援のためにレモネードを作って小児がん治療の寄付金を集めたことをきっかけに始まった活動。世界各国に社会貢献活動として広がっています。
息子が小児がん発症。看病の中で孤独を感じた日々
――ひまわりスマイルプロジェクトを設立したきっかけを教えてください。
千葉 2021年5月、小学1年生だった3番目の息子の雄太が小児がんの一種、脳幹グリオーマという病気だと分かり、余命1年と宣告されました。本当に悲しかったけれど、泣いている暇もないくらい時間がもったいないと感じました。いろいろなことが分からない中でも、限られた1年で少しでも良い時間を過ごすための情報が欲しかったんです。病気のことだけじゃなくて、実際に生活するにあたっての学校生活や先生たちとのやり取り、他の親御さんやお友達にはどうお話するのか、きょうだいにはどうやって接していくのか…。
でも、私たちが住んでいる宮城県では、そういった小児がんの支援団体を見つけることができませんでした。全国組織はあるのですが宮城支部は休会中で、相談員さんに聞いても「家族会などはありません」と言われました。宮城県は東北で唯一の小児がん拠点病院があるところです。それなのに私たち家族の受け皿みたいなものが全くないことに社会から見放された気持ちになり、絶望感や悔しさもありました。
――病気のお子さんや家族が心を寄せられる場が地域にないことは、とても心細いですね。
千葉 幸い、雄太の病気は全国組織の家族会があったので、病気のことについてはそちらで情報のやり取りができました。でも、進んでいく症状にどう対応すればいいのか、訪問看護師さんはどこがいいのか、感情が不安定になったきょうだいたちにはどうすればいいのかといった、リアルな口コミのような横のつながりや支援はないし、周りの心ない言葉に傷つくこともあって、ずっと悩んでいました。
私は以前、看護師を経て保健師として働いていたのですが、医療や行政の立場を経験してきたので、そういった集まりが必要だけれど医療職の人たちはそこまで手が回らないし、行政の人たちは当事者のニーズを知らなかったり、声を上げないと動きにくいのが実情なんだなと思いました。でも、私自身が当事者になったことで家族会などの支援が必要だとすごく感じたので、雄太の闘病を見守りながらも支援団体を立ち上げようとしました。せめて当時私自身が手探りでやっていた、病気の子のきょうだい支援の団体だけでも作りたかったんです。
ただ、当時の病院のスタッフさんたちから「団体を立ち上げるのはすごくエネルギーがいること。今はご自分の子どもたちだけで大変な状況なのだから、無理しないで」と心配されたこともあり、動き出すことはできませんでした。
「小児がんの子とその家族を笑顔にしたいんでしょ?」というお兄ちゃんの言葉に涙
――支援団体の立ち上げは、本当にエネルギーがいることだと思います。その後、どのように「ひまわりスマイルプロジェクト」の設立に至ったのでしょうか。
千葉 雄太は2022年7月に亡くなりました。その時、子を亡くした親の集まりや、亡くなった子のきょうだいへのグリーフケア(身近な人を亡くした悲しみに対する支援)がないか調べたのですが、それもなかったんです。他の地域では、小児がん支援やきょうだいのサポート、グリーフケアなど、1つ1つに特化して活動している団体はいろいろとあるのですが、宮城ではそのどれも見つけられませんでした。
そんなふうに支援の必要性を痛感したとしても、当事者として支援側に立つエネルギーがないという方が大半だと思います。でも、それでも私は「同じ立場として、小児がんのお子さんやご家族が少しでも良い環境を整えられるようにお手伝いができたら」と考えていました。余命1年を宣告されたことで1日1日を生きるのはすごく貴重なことだと雄太に教えてもらったので、一緒に活動する人が現れるのを待つ時間すらもったいないと思って、1人で設立しました。
――設立を決めた時、雄太くんのお兄さんたちも賛成して応援してくれたそうですね。
千葉 「こんな団体を立ち上げるんだけど、一緒にやろうか」と言ったら「やる」と言ってくれました。私が団体名の候補を5つくらい出して相談したときに、お兄ちゃん2人が「ひまわりスマイルプロジェクトがいいんじゃない?」と言ってくれたんです。どうして?と聞いたら、「だって、小児がんの子どもとその家族を笑顔にしたいってことでしょ? だったらこれがいちばん分かりやすくていいんじゃない?」と言ってくれて。理由は特に話していなかったけれど、自分の思いが伝わったんだな、ちゃんと分かっているんだなと嬉しかったです。子どもってすごいなと思いました。
――ひまわりのロゴもお子さんが描いてくれたのでしょうか。
千葉 はい。亡くなった雄太と次男は双子だったのですが、雄太は全部の色が好きだったので、次男が「カラフルなほうがいいかな」と言って、ひまわりの花びらをいろいろな色を使ってカラフルに描いてくれました。字は、長男が丁寧に書いてくれたものを組み合わせてロゴマークにしました。
「雄太が頑張ったから、次は自分が頑張る番」だと思っています
――2022年の9月に設立して以降、どのような活動をされてきましたか。
千葉 レモネードスタンドなどのチャリティー活動や、グリーフケアの会合を開いています。実は自分がいちばん最初にやりたかったのは、今現在闘病しているお子さんと、そのご家族への直接的な支援です。でも私には横のつながりが全くなくて、どのようにつながればいいのかも分かりませんでした。そこで、まずは自分と同じ思いを持つ方々と出会うために、支援活動として象徴的なレモネードスタンドから始めることにしました。
最初のレモネードスタンド活動では、同じ思いの方々とは出会えなかったのですが、自分もがんだという方や、昔お子さんを亡くしたという親御さんとつながることができました。新聞でも紹介されて地域の方々に認知され、地元の企業の方からご支援の声もいただいたので、本当にやってよかったなと思っています。
――悲しみと向き合いながら活動を続けておられる千葉さんの姿に、励まされる方もたくさんいると思います。
千葉 雄太があんなに頑張ったから、次は自分の番だと思って活動している部分もあります。私にとって本当に自慢の息子だったので、再会した時に「ママ、頑張ったね」って言ってもらいたくてやっているのかもしれません。微力ながら、私なりにできることを全力で取り組んでいきたいと思っています。
「ひまわりスマイルプロジェクト」代表 千葉友里さん
看護師、保健師を経て、2022年7月に三男の雄太くんを闘病で亡くしたことを機に同年9月に小児がんの子どもやその家族を支援する「ひまわりスマイルプロジェクト」を設立。レモネードスタンド活動、グリーフケアの会などのイベントや会合を定期的に開催している。
(取材・文 武田純子)
取材日 2022年12月7日