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私はいらない子なんだ……病気や障害のある子の「きょうだい」が直面する現実と生きづらさとは

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特集「たまひよ 家族を考える」では、妊娠・育児をとりまくさまざまな事象を、できるだけわかりやすくお届けし、少しでも子育てしやすい社会になるようなヒントを探したいと考えています。
 
病気の子どもの辛さ、大変さには多くの人が関心を寄せますが、その影に隠れて見過ごされやすいのが、病気や障がいのある子どもの「きょうだい」たちです。親はどうしても病気の子どもの看病や世話に手を取られるため、きょうだいは寂しい思いを抱えることになりがち。自分は必要のない存在だと感じたり、時には親と一緒に病気の子の世話をする「ヤングケアラー」の役割を担うこともあります。
そんなきょうだいたちに寄り添い、支援をしているのがNPO法人しぶたねです。しぶたねの代表・清田悠代さんもまた、難病の弟さんの闘病生活を経験した1人。清田さんに、病気や障がいのある子どものきょうだいが直面する問題やしんどさ、親の葛藤、必要な支援などについて聞きました。

辛いと思う自分は悪い子。だから誰にも言えない

上のイラストは、「(特別なニーズのある子どもの)きょうだい」が感じやすい気持ちの代表的なものです。きょうだい支援の世界的な先駆者であるドナルド・マイヤー氏がまとめたものを、NPO法人しぶたね(以下、しぶたね)が、アレンジしました。

「病気のあるお子さんときょうだいさんを育てておられる親御さんがこの絵を見ると、『こんな思いをさせているのか』と不安になるかもしれませんが、全てのきょうだいさんがこうした思いを抱えるわけではありません。子どもの背景や感じ方はさまざまで、1人1人違います。
ただ、これらの気持ちを抱えるきょうだいさんが多いのは事実です。子どもは大人にとても気を使っていることがあり、特にきょうだいさんは家族に遠慮して、『マイナスの感情を持つ自分は悪い子だ』『これを話したらお母さんが悲しむかも』と思い、1人で抱え込む子が少なくないんです」

そう教えてくれるのは、しぶたねの代表・清田悠代さん。ご自身も難病の弟さんの闘病生活を支えた経験を持ち、その中で目の当たりにしたきょうだいたちの辛い現実を変えたいとの思いから、2003年、きょうだいをサポートするボランティアグループ「しぶたね」を設立。2016年にNPO法人化しました。

「しぶたね」の「しぶ」は、「シブリング(sibling、きょうだい)」の「しぶ」、「たね」は、「きょうだいが安心していられる場所、安心して話ができる人が増えるように、その『たね』を蒔いていこう」との思いが込められています。

病院にも家にも「居場所」がないきょうだいたち

ほとんどの病院の小児病棟は、感染予防のために、中学生以下の子どもは病棟の扉より中に入ることができません。親が入院中の子どもに面会する間、きょうだいは毎日何時間も、廊下で1人、ポツンと待つことになります。そのためしぶたねでは、きょうだいと廊下で一緒に過ごす活動をボランティアで行なっています。

「活動で出会ったきょうだいさんが『ここは僕のための場所なんだよね?』と確認してくれたことがあります。病院には何百人もの大人がいて、病気の子のための人も場所もたくさんありますが、きょうだいさんのための人や場所は、ほとんどありません。
病院は自分の居場所ではないと感じているきょうだいさんは多く、話しかけても『あ、自分のことは別にいいんで』と拒否したり、プレゼントを渡しても『これは入院している○○ちゃんにあげる』と、自分を除外してしまうことが多いんです」(清田さん)

しかし、一緒に家族を待ちながら遊ぶ中で、ポロリポロリと気持ちを話してくれることがあるそうです。

「ある女の子は、一緒に遊んでいた他のきょうだいさんのお母さんが迎えに来たのを見て、私のエプロンの端っこをギュッとつかみ、『教えてあげる。うちのお母さんは入院している妹ちゃんのことは迎えに行くけど、私のことは迎えに来ないと思うよ』と。こんなふうに感じているんだと、心をギュッと掴まれるような思いになることがよくあります」(清田さん)

そういう子を見るたびに、預かりスペースで「あなたが来てくれてうれしいんだよ」ということが伝わったらいいなと思うと清田さん。

「親は病気の子のことを心配し気遣い、身を粉にして頑張っています。そんな状況で、きょうだいさんを後回しにせざるを得ないこともあります。
でも、きょうだいさんは『子どもだから話してもわからないだろう』と家族の蚊帳の外に置かれてしまうこともあれば、『あなたも協力してね』と頼られていることもあります。知らない間にさまざまな責任や『こうするべき』にさらされ、病院だけでなく、家でも自分の居場所を見つけにくくなってしまうんです」(清田さん)

「大事にされている」という実感が少ないきょうだいは、自分の存在価値を感じにくいと言います。そのつらさや不安、不満を誰にも言えず、「大人たちの目が自分に向かないのは、自分に価値がないからだ」と結論づけて諦めてしまう子が多くいます。そして自己肯定感が下がり、「自分は愛される価値がない」「いらない子なんだ」と思ってしまうことが、きょうだいたちと接していて特につらい部分だと清田さんは言います。

きょうだいは仲がいいのが良い、と思うとしんどくなる

NPO法人しぶたね代表の清田悠代さんと、しぶたねプログラムディレクター&きょうだいのためのヒーロー「シブレンジャー」のシブレッドさん。

このようなしんどい思いが続くと、病気の子に対して複雑な感情を抱くきょうだいも少なくないといいます。

「『お姉ちゃんに障害がなかったらよかった』『自分が病気になりたい』など、大人がショックを受けるようなことを言うこともあります。すると大人は、『そんなこと言うもんじゃない』と非難しがちですが、その言葉の裏にはその子の寂しさや願いが必ずありますから、否定しないであげてほしいんです」と清田さん。

「きょうだいは仲がいいのが良い」という価値観があると、親も焦ってしまうし、きょうだいたちも苦しむと清田さんは指摘します。

「以前、ある偉い脳科学の先生が、『人間はきょうだい仲良くと思うけれど、動物のきょうだい関係は食べ物や親のケアを奪い合うライバルである』というようなことをおっしゃっていました。人間も動物だから、仲が良い方が奇跡で、仲が悪いのが普通なんだそうです。実際、どんなに仲の良いきょうだいでも、嫌いな部分もあるのが普通です。
だから、病気の子のこと好きと言ったきょうだいだけを『素晴らしい』とは言わないようにしたいなと思いますし、『あまり好きじゃない』って言う子が自分を責めないといいなと思うんです。病気のあるなしに関係なく『きょうだいの関係はそれぞれでいい』というフラットな感じが広まればいいなと思います」(清田さん)

大人になっても続く辛さ。結婚にも障壁が

きょうだいの辛さやしんどさは、成長して大人になれば消える、病気の子が治ったり亡くなってしまったら終わる、と思われがちです。しかし、現実はそう単純ではなく、大人になってもしんどさが続く場合が少なくないのだそうです。

「自己肯定感が低いまま自分に自信が持てなかったり、常に不安があったり。子ども時代の経験や身についた考え方の癖が、その後の人生にも色濃く影響します。
また、病気や障害のある子が亡くなった後も、親御さんはずっとその悲しみの中にいて、自分はいつまでも見てもらえないと辛く感じたり、逆に親御さんの目がものすごく自分に向くようになって戸惑うなど、悩みは続いていくんです」(清田さん)

大人になって恋愛や結婚を考えた時、病気や障害のある子のきょうだいであることを理由に、結婚相手の親などから将来の介護や遺伝を不安視されたり、差別的な言葉を言われることもあると言います。そのため、多くのきょうだいは好きな人ができた時、まずその周りの人や家族にどう伝えるかでとても悩むそうです。そして一生懸命に伝えた結果、結婚が破談になることが、今の時代でも起こっているのです。

「結婚相手の親も、決してひどい人間というわけではなくて、ただ自分の子どもがかわいく、できるだけ将来に不安がない相手をと思っただけなのかもしれません。でも、将来の家族のケアは誰が担うのかという疑問や、遺伝の問題など、結婚相手の親が不安に思うようなことは、きょうだいたちが小さい時からずっとひとりで抱えて悩んできたことです。さんざん悩んだそのことを、大人になって大切な時に再び持ち出されることも、すごく辛いことです」(清田さん)

親は「ごめんね」ではなく、楽しい気持ちで関われるように

しぶたねではきょうだいが主役になり、仲間と出会い、遊ぶワークショップ「きょうだいさんの日」を開催。

こうしたきょうだいの思いやしんどさを伝える時、清田さんがいつも気にかけている点があります。それは「親御さんの罪悪感を一緒に持たせてほしい」ということだそうです。

「突然わが子が難病だと言われてパニックになっているところに、『きょうだいもこんなに大変です』と言われたら、親もものすごく苦しくなって追い詰められてしまいます。親御さんの中には、きょうだいさんが大好きで気にかけているのに、病気のある子どもの方にかかりきりになってそれを伝える余裕がないと悩んでいる人も少なくありません。
愛しているのにそれが見えない状態は、とてももったいないです。そうした親子をつなぐ糸が絡まらないように、周りの人ができることがあると思います」(清田さん)

実際、しぶたねには「きょうだいにも目を向けてあげたいのだけど…」と悩む親御さんからの相談が、多く寄せられるそうです。
親は「こうしてあげないといけないのにできていない」という思いがあるため、「ごめんね」という引け目を持ちながらきょうだいと関わりがちです。するときょうだいはその気持ちを察し、「僕一人でも大丈夫。心配いらないよ」と遠慮してしまう、良くない循環に陥りがちだと清田さんは話します。

「なので、私はいつも『親の手は魔法の手です』とお伝えしているんです。私たちが半年かけて準備したイベントで見られるきょうだいさんの笑顔は、お母さん・お父さんが家に帰って『会いたかったよ』と頭をなでた時の笑顔にかないません。親御さんにはその力があるという自信を、無くさずにいて欲しいんです。
そして『ごめんね』からではなく『うちの子かわいいな』『もうちょっと遊びたいな』など、楽しい気持ちから関わることで、親御さんもいやされたり気持ちが軽くなっていくと思います。親御さんが そう思うことで、きょうだいさんも『自分は愛されている存在なんだ』『お母さん・お父さんを元気にできる存在なんだ』と自信を取り戻せます。そういう場を、しぶたねでもつくっていきたいと思っています」(清田さん)

多くの人がきょうだいの状況を知ることがサポートに

今の日本の社会では、子育てを家庭の中で完結するよう求められがちです。病気の子どもの面倒も、家族だけで見るのが当たり前という空気があります。しかし、それによって行き詰まってしまう人は少なくありません。
そういう状況を変えるために、周りの大人や社会ができることは、実はとても多いと清田さんは言います。

「まず、きょうだいさんが置かれている状況や頑張りを、周りの人が知ってくれるだけでも、とても大きなサポートになります。きょうだいさんはどうしても小さいうちから『ケアを提供する側』に立たされがちです。でも、子どもが、時には命の責任があるような家族のケアをしていて、子ども時代を「子ども」として過ごせないのはおかしいことです。そうした疑問を皆が感じてくれると、きょうだいさんも生きるのがもっと楽になっていけると思います」(清田さん)

世の中に「きょうだいもしんどさのある中で頑張っている」「きょうだいの人生も大事」という認識が広がれば、周囲の大人も気づきやすくなるし、親も周りに相談もしやすくなると清田さん。そして、子どもがピンチになった時や助けを求めたい時、手をさしのべてくれる大人が近くにいることが、子どもを守ることにつながると言います。

子どもが子どもらしく過ごせることを、周りが見守っていくことができる社会。そうした社会の実現を願い、清田さんは活動を続けています。

しぶたねでは「きょうだいさんのための本」 (別紙:冊子を使う大人の方に向けて)を無料配布しています。すべてのページをだれでも印刷できます。
「きょうだいさんたちが、親御さんや周りの大人の人と一緒に書き込んだり、読んでもらったりしながら、ちょっと甘えるきっかけ、愛情を伝えあえる時間につながったらいいなと願っています」(清田さん)

写真提供/NPO法人しぶたね 取材・文/かきの木のりみ

きょうだいは、病気や障害のある子の世話や家事などを担う「働き手」として期待されることも多く、小さい時から「大人」になることを求められがちです。清田さんも中1の時に弟さんの心臓病が発覚し、「その日から子どもをやめなければなかなかった」そうです。
次回は清田さん自身のきょうだいとしての体験と、そこで感じたさまざまな葛藤などについてお伝えします。

清田悠代さん

NPO法人しぶたね代表、ソーシャルワーカー。
自身の弟の闘病生活の中で目の当たりにした「きょうだい」たちの辛い現実を変えたいとの思いから、2003年、小児がんや心臓病など重い病気をもつ子どものきょうだいをサポートするボランティアグループ「しぶたね」を立ち上げ、2016年にNPO法人化。
現在は大阪の病院での活動や、子どもきょうだいのためのワークショップの開催に加えて、全国できょうだいのための冊子の配布や講演活動、きょうだいの応援団を増やしつながるための「シブリングサポーター研修ワークショップ」などを行っている。

ブログ:しぶたねのたね
NPO法人しぶたねFacebook :sibtane

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