2023年4月1日、こども家庭庁発足。子育てのしにくさは変わる?日本版DBSやプッシュ型支援の実施も
社会全体でこどもの成長を後押しするため2023年4月に創設される「こども家庭庁」。新たな行政組織が発足することで、子育て当事者であるママやパパ、こどもたちの生活がこれまでとどんなふうに変わるのでしょうか。たまひよONLINE編集部では、内閣官房こども家庭庁設立準備室 奈雲太郎さん、井上泰輔さん、花房勇輝さんに話を聞きました。
“こどもは社会のみんなで育てる”意識を共有
こどもを産み育てることは大きな喜びである一方、子育て世代のママやパパにとっては、男性の育休が取りにくい、電車で迷惑がられる、ベビーカーが邪魔だと言われるなど、社会の目の厳しさを感じることも少なくありません。
――こども家庭庁の発足によって、“乳幼児期の子育てのしにくさ”は変わるのでしょうか。
奈雲さん こども家庭庁はこどもや若者の利益を第一に考える「こどもまんなか社会」の実現をめざしています。
こどもが夢や希望を持てて、こどもにやさしい社会を作るにはどうしたらいいか。そのために、とくに乳幼児期のこどもの育ちについてこども家庭庁設立前から有識者懇談会などで議論を重ねています。「こどもの育ち」を社会全体と共有することで、子育て世代を支えていきたいと考えています。
こどもが育つときには、子育て当事者であるママやパパなど保護者・養育者のほかに、祖父母、教育・保育施設の先生、支援センターのスタッフ、近所の人、商店街の人など、たくさんの人が直接的にも間接的にもかかわっています。かかわり方によって、社会のすべての人がこどもの育ちにかかわる当事者になりうると思っていますが、これまでは、どんな人がどんな形で子育て当事者になるかが見える化できていませんでした。
――とくに乳幼児期のこどもが育ちやすい社会にするために、大切なことは何でしょうか。
奈雲さん 地域の人など直接的にはこどもにかかわりのない人もこどもを支える立場だということを伝えていく必要があると議論されています。
現在は上図の「こどもまんなかチャート」のようにこどもを中心にした社会を見える化して、社会全体がこどもや保護者に対してどう接していくか、すべての人が当事者意識を持ち、こどもの育ちを保障するためにどんなことが必要かを考えている段階です。
そのために大学教授や小児科医や子育てを支援しているNPO法人の人、子育て当事者などで有識者懇談会を開催して、議論を進めています。こどもは社会みんなで支えていく存在という意識を社会全体で共有し、こどもと子育て当事者を支えるアプローチを考え、こどもが育ちやすい社会をめざしたいということです。
当事者の声を聞くことを義務づけた「こども基本法」
こども家庭庁がめざす「こどもまんなか社会」を実現するための考え方や姿勢を表した法律が、「こども基本法」です。
――「こども基本法」について教えてください。
井上さん 2022年6月に国会で成立した「こども基本法」は、自分らしく幸せに成長でき暮らせるような社会をめざして、こどもや若者に関する取り組みを進めていくための基本となる事項を定めた法律です。こども施策を行う上で大切な6つの基本理念は以下のとおりです。
①すべてのこどもは大切にされ、基本的な人権が守られ、差別されないこと。
②すべてのこどもは、きちんと育てられ、生活が守られ、愛され、保護される権利が守られ、平等に教育を受けられること。
③年齢や発達の程度により、自分に直接関係することに意見を言えたり、社会のさまざまな活動に参加できること。
④すべてのこどもは年齢や発達の程度に応じて、意見が尊重され、こどもの今とこれからにとって最もよいことが優先して考えられること。
⑤子育ては家庭を基本としながら、そのサポートが十分に行われ、家庭で育つことが難しいこどもも、家庭と同様の環境が確保されること。
⑥家庭や子育てに夢を持ち、喜びを感じられる社会をつくること。
こども基本法には、こどもの意見を尊重するだけではなくこどもを養育するママやパパの意見も聞いて反映する必要がある、と書かれています。これまでと違うのは、国や地方自治体が、こどもや子育て当事者、支援団体などの意見を聞いて政策に反映することが義務として法律に書かれているところです。
これまでなかった新しい取り組み、日本版DBSとは?
――日本版DBSのしくみも期待されているとのことです。今後どのように取り組むのでしょうか。
2021年12月に「こども政策の新たな推進体制に関する基本方針」が閣議決定されました。その中で、こどもの安全を守るための取り組みの一つとして日本版DBSについて書かれています。教育・保育施設等や、放課後児童クラブ、学習塾、スポーツクラブ、部活動などのこどもが活動する場等において働く際に性犯罪歴等についての証明を求めるしくみの導入に向けて、こども家庭庁設立準備室で検討を進めている段階です。
――新しい取り組みとして、デジタル庁との連携も考えられているそうです。メリットはどんなことですか。
花房さん これまでは、支援が必要な人が自分で行政手続きをしなければならず、病気や仕事や家庭環境などの事情で手続きができない人は支援を受けられない課題がありました。福祉・教育・医療など、これまでバラバラに管理されていたこどもや家庭に関するデータを整備することによって支援が必要な人を特定し、将来的には、支援が必要な人に対して、行政側からアプローチして支援を届ける「プッシュ型支援」を実現したいと考えています。
お話・監修/内閣官房こども家庭庁設立準備室 井上泰輔さん、南雲太郎さん、花房勇輝さん 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部