SHOP

内祝い

  1. トップ
  2. 赤ちゃん・育児
  3. 仕事
  4. 虐待で逮捕された保育士も。今問題になっている「不適切保育」って? しつけとの違いは?【専門家】

虐待で逮捕された保育士も。今問題になっている「不適切保育」って? しつけとの違いは?【専門家】

更新

母と落ち込んでいる子を叱る
●写真はイメージです
takasuu/gettyimages

主に就労などの理由で日中子どもを見ることのできない保護者に代わり、子どものお世話をする保育園。ところが、そんな保育園で、園児を逆さづりにするなどの虐待行為が行われ、保育士が逮捕されるというショッキングなニュースに驚いた人も多いのではないでしょうか。その事件以降、「不適切保育」という言葉をニュースなどで目にするようになりました。「不適切保育」とは、どんなことなのか、しつけとはどう違うのか「保育園を考える親の会」顧問の普光院亜紀さんに聞きました。

「不適切保育」とは子どもの人権を軽視し、心身に悪影響を及ぼす保育のこと

報道などで目にするようになった「不適切保育」とは、どんな行為なのでしょうか。全国保育士会の「人権擁護のためのセルフチェックリスト」では、「不適切保育」について以下の5つの項目を紹介しています。

1.子ども一人ひとりの人格を尊重しないかかわり
2.物事を強要するようなかかわり・脅迫的な言葉がけ
3.罰を与える・乱暴なかかわり
4.一人ひとりの子どもの育ちや家庭環境を考慮しないかかわり
5.差別的なかかわり
(出典:全国保育士会「人権擁護のためのセルフチェックリスト」)

「この5つの項目は、保育士が自分の保育を振り返るためにまとめられた項目です。
ママ・パパにとっては、実際に報道された事例を見るほうが、『不適切保育』がどんなものなのかわかりやすいでしょう」(普光院さん)

2022年に「不適切保育」として報道された事例は以下のようなものがありました。

■カッターナイフでおどす
■逆さづりにする
■足をつかんで体をひきずる
■椅子にくくりつける
■弁当容器で頭をたたく
■「ブタ!」「あっちいけ」と罵る
■「顔面偏差値低いよね」などと話す

「事件として報道された例に共通するのは、子どもの人権、人格が尊重されず、子どもの心身に悪影響を及ぼしている保育であった、という点です」(普光院さん)

「不適切保育」として報道された行為は、しつけとは別物

「不適切保育」は「しつけ」と称して行われていることも多いようです。

「しつけと称して、『不適切保育』として報道されたような行為をするのは大きな間違いです。
しつけは大人の言うことを聞かせ、服従させることではありません。定義はいろいろありますが、もともとは“いい生活習慣や社会性を身につけさせること”だと思います。本来、保育園は集団生活の中で楽しく“いい生活習慣や社会性”を身につけられる場であるはずです」(普光院さん)

保育園は集団生活であり、決められた時間や順番、ルールなどがあるものです。ある程度は子どもに「我慢させる」ケースもあるのではないでしょうか。

「質の高い園では、生活や遊びの体験の中で自然に“いい生活習慣や社会性”を身につけられるような工夫をしています。子どもの発達に合わせて話したり、手本を見せたり、援助したりしています。子ども自身が試行錯誤することで、子どもが自分で見通しを持って生活できるように導いています。

集団生活で“我慢させる”というよりも、たとえば、保育園でお散歩の時間の前になったら、〇〇ちゃんがおもちゃを片づけるから、自分も片づける、にんじんが苦手だったけれど、〇〇ちゃんがおいしそうに食べているから食べてみた、というように周囲からいい影響を受けて、子ども自身が自然に“こうすると気持ちがいいな”と思うようになれるのが理想です」(普光院さん)

保育園に限らず、家庭でも親が「こうしてほしい」と伝えて子どもが言うことを聞かず、感情的に怒ってしまう、という場面があるかもしれません。

「親だってそういうことがありますよね。
保育士も人間ですから、疲れていたり、体調が悪かったりすることもあるでしょう。思うようにならなくてイライラしたり困ったりすることもあるかもしれません。
でも、相手が大人だったら、言うことをきかないからといって、逆さづりにする、足をつかんで体を引きずるなどのなどの行為をするでしょうか? 相手の間違った行いを注意するときだって、そんなことはしませんよね。

『不適切保育』として報道されたような行為は、やはり『しつけ』や『一時的に感情的になった』というのとは別物だと思います。明らかに、弱い立場の子どもたちに向けた人権侵害なのです」(普光院さん)

「不適切保育」は、さまざまな要因がからみあって起こるもの。

普光院さんが講演時に使用しているという資料。「『不適切保育』は大きく分けて5つの要因が複雑にからみ合って起こると考えています」(普光院さん)  画像提供/普光院亜紀さん

「不適切保育」があったと報道された保育園はごく一部であり、大部分の保育園は子どもの人権を尊重して保育を行っていることでしょう。しかし、近年、「不適切保育」の問題が目立つ理由はどこにあるのでしょうか。

「『不適切保育』として報道されたような行為は、最近になって突然行われ始めたのではなく、一部ではありますが、昔からそれに近い事例はあったと思います。
報道などで目にすることが多くなったのは、虐待として保育士が逮捕される大きな事件があったからかもしれません。
ただ、世界的な人権意識の高まりの中で、子どもの保育についても、子どもの人格や権利を尊重する考え方が広まってきたことで、近年、保育現場の問題行為が表面化してきているということはあると思います。

『不適切保育』はさまざまな要因がからみあって起きると考えられています。
『給食は絶対に完食させる』などの規律を守ることを過剰に重視する保育方針や、保育現場に余裕がないなどの保育側の問題もあれば、保護者と保育士のいい関係性ができていないなど、家庭との関係の問題もあるでしょう。
構造的な問題として、国からの保育現場への支援、質へのお金のかけ方がたりないこともあると考えています」(普光院さん)

現在、厚生労働省策定の保育士配置基準は、保育士1人当たりの子どもの人数を0歳児が3名、1、2歳児は6名、3歳は20人、4歳以上が30人を上限としています。保育士の給与の低さや保育士不足も問題になっています。

「海外の基準と比べると、3歳以上の子どもの数が多すぎます。
2023年4月に発足するこども家庭庁の予算案では4歳以上の30人上限を25人上限に緩和する策が講じられていますが、そもそも保育士の人材がたりないという問題もあります。
保育士の配置基準を改善して、待遇を改善することが最優先ですが、同時に、子どもの人権を尊重できる人材を育てることも重要です」(普光院さん)

保育体制の現状は厳しいですが、私たち保護者ができることはあるのでしょうか。

「保育士の行為を表面的に見て疑うのではなく、子どもがどう感じているか、保育士はどういう意図で子どもに接しているかを保護者が理解することが大切です。また、保育士を取り巻く厳しい環境についても理解しようとする姿勢も必要でしょう」(普光院さん)

監修/普光院亜紀さん 取材協力/保育園を考える親の会 取材・文/岩崎 緑、たまひよONLINE編集部

「保育園を考える親の会」

社会の中で「不適切保育」という言葉が増え、保育士に対し、以前よりも厳しい目を向けてしまうこともあるかもしれません。「不適切保育」が行われていたのはごく一部の園でのことで、大多数の保育園では子どもの人権を尊重した保育をしています。保護者は過剰に心配しすぎず、保育現場が置かれている環境を理解したうえで、保育園を大切なパートナーとして、お互いを尊重し合えるといいのではないでしょうか。


●記事の内容は2023年4月の情報であり、現在と異なる場合があります。

赤ちゃん・育児の人気記事ランキング
関連記事
赤ちゃん・育児の人気テーマ
新着記事
ABJマーク 11091000

ABJマークは、この電子書店・電子書籍配信サービスが、著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスであることを示す登録商標(登録番号 第11091000号)です。 ABJマークの詳細、ABJマークを掲示しているサービスの一覧はこちら→ https://aebs.or.jp/

本サイトに掲載されている記事・写真・イラスト等のコンテンツの無断転載を禁じます。