今注目の栄養素“亜鉛”。病的に欠乏している子も!幼児期の「亜鉛不足」で何が起こる⁉【小児科医監修】
鉄やカルシウムなど、成長著しい2~5歳ごろの幼児期に必要な栄養素はたくさんありますが、今、注目されているのは「亜鉛」。『医師が教える 子どもの食事50の基本』の著者である小児科医の伊藤明子先生は、「10人に1~2人の子どもが、病的に亜鉛が欠乏しているというデータがある(※1※2)」と話します。不足するとどんな影響が出てくるのでしょうか? 亜鉛の作用や、2~5歳の子どもに効果的な亜鉛のとり方について聞きました。
亜鉛が不足すると、皮膚炎、口内炎、発育不全などさまざまな症状が
――亜鉛とはどんな栄養素なのでしょうか?
伊藤先生(以下敬称略) 亜鉛は日常生活においても身近なミネラルです。抗酸化作用に優れていますから、たとえば金属のサビ止めには「亜鉛メッキ」が使われています。
私たち、大人の体の中にも常に約2gの亜鉛が存在していて、300以上の酵素反応にかかわっています。全身にわたって分布し、細胞分裂などに重要な働きをもたらすため、2~5歳ごろの子どもにとっても成長・発達するために必要不可欠。厚労省では、1~3歳は1日あたり3mg、4~8歳は5mgの摂取を推奨しています。
ところが大人を含め、日本人は平均して亜鉛が不足しがち。子どもの場合は、約13%に病的な亜鉛欠乏が見られました(※1※2)。
――亜鉛が不足するとどうなりますか?
伊藤 医師向けの「亜鉛欠乏症の診断基準」では、亜鉛が不足すると皮膚炎、口内炎、脱毛症、小児の発育障害、味覚障害、嗅覚障害、免疫力低下などがあることが指摘されています。
たとえば子どもの場合は、皮膚トラブルがなかなか改善しない、ドライスキン、やたらと風邪をひきやすい、体重があまり増えない・身長が伸びない、口内炎がしょっ中できる、といった症状が見られます。
また欧米では亜鉛不足はうつや不安と関連があるという考え方が主流です。アメリカでは亜鉛を「antidepressants(抗うつ剤)」と呼ぶ医師もいます。
――『医師が教える 子どもの食事50の基本』では、コロナ後遺症と亜鉛不足の関連性も指摘されていました。
伊藤 はい。私が診た患者さんでは、血液検査で亜鉛が欠乏している人ほど、脱毛の後遺症がありました。中高生ではコロナ感染後に気分が落ち込んでしまう、朝起きられないという子もいて、検査をするとやはり亜鉛が欠乏していたのです。亜鉛をしっかり補充する処方をすると、たいていみんなよくなっていきました。
亜鉛不足になる理由は?
――子どもの亜鉛不足の理由には何が考えられるでしょうか?
伊藤 通常、生後5~6カ月で始める離乳食ですが、1歳ごろまで開始を遅らせる親がいまだにいます。1歳ごろまで離乳食を開始せず、母乳だけで栄養補給をしていると、残念ながら栄養障害が起きる可能性が高いです。また、亜鉛は動物性タンパク質を含む食品に多く含まれているので、卵や肉、魚を使った食事を避けていると不足することがあります。
そこまで極端ではなくても、亜鉛豊富な食材をあまり食べていないため、必要量がとれなくなっているということも。亜鉛は牡蠣(かき)、さば、いわし、ごま、小麦胚芽にたくさん含まれているのですが、大人も含め、これらの食材をあまり食べない、という声はよく聞きます。
食わず嫌いせずに、食事でしっかり亜鉛を補給
――牡蠣やいわしは苦手な子もいます。どうやってあげるといいでしょうか。
伊藤 2~5歳ごろは、牡蠣は見た目がイヤだ、という子もいますね。そのまま食べさせるのではなく、小さくカットしたり炊き込みごはんにしたりすれば食べてくれることも多いようです。ただし、牡蠣は食中毒予防のため、しっかり加熱してから食べさせることが大切です。
さばはみそ煮に、いわしはかば焼きにすると食べやすいでしょう。小麦胚芽はシリアルに混ぜる、小麦粉代わりにしてパンケーキやクレープを作る方法もおすすめです。
――食事だけではなくサプリメントで亜鉛を摂取してもいいでしょうか?
伊藤 食事で不足する場合は子ども用のサプリメントを活用しても構いません。ただし、含有量が少ない商品もあるので、できればサプリ選びは信頼できる医師に相談するといいでしょう。
亜鉛が強化された乳幼児向けの栄養機能食品もあります。信頼できるメーカーのもので、価格も高すぎないようであれば、検討してみてもいいと思います。
取材・文/中澤夕美恵 たまひよONLINE編集部
亜鉛は子どもだけでなく大人も不足しがちなミネラル。とくに現代の食生活は加工食品の割合が多くなっていて、亜鉛をとりにくくなっているそう。ママやパパも「太りたくないから野菜だけ!」と過剰な食事制限をして、卵や肉、魚を避けていたり、「忙しいからパンだけ!」と炭水化物や加工食品ばかりを食べていたりすると、亜鉛が不足しがちに。健康のためにはバランスのいい食生活がポイント。亜鉛が豊富な牡蠣、さば、いわし、ごま、小麦胚芽を食事に取り入れ、時にはサプリメントも利用して、亜鉛を意識して摂取するといいでしょう。
※1 https://www.pediatriconcall.com/articles/nutrition/zinc-deficiency-in-children/zinc-deficiency-in-children-patient-education#:~:text=Mild%20zinc%20deficiency%20can%20lead,acrodermatitis%20enteropathica%2C%20and%20hair%20loss(2022年11月20日)
※2 Ahsan AK, et al. Zinc Micronutrient Deficiency and Its Prevalence in Malnourished Pediatric Children as Compared to Well-Nourished Children: A Nutritional Emergency. Glob Pediatr Health. 2021; 8.
●記事の内容は2023年4月の情報であり、現在と異なる場合があります。
「医師が教える 子どもの食事50の基本」
毎日の食卓で「何をどう食べるか」で、子どもたちの体や心、脳の状態、性格は変わる! 小児科医が医学的根拠に基づき「子どもの食」をわかりやすく解説。目からうろこの情報がぎっしり詰まった一冊です。伊藤明子著/1650円(ダイヤモンド社)