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「いい意味で予想を裏切ってくれた」世界初、三つの高難度手術を同時に行い成功!希少な先天性心疾患から赤ちゃんを救う【医師監修・体験談】

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退院後のつむぎちゃん。音の出るおもちゃで遊んだりするのが大好き。

妊娠中に「修正大血管転位症(しゅうせいだいけっかんてんいしょう)」、「大動脈弓低形成(だいどうみゃくきゅうていけいせい)」という二つの大きな心臓の病気が見つかった、西田つむぎちゃん(仮名)。生後8カ月のとき、長野県立こども病院で、世界初高難度の三つの同時手術を受けました。
手術を受けたときのことやつむぎちゃんの成長について、夫の隆さん、妻の美穂さん(ともに仮名)に話を聞きました。3回シリーズの3回目です。

手術のメリット・デメリットの説明を受けて、世界初の同時手術を決断

つむぎちゃんが、長野県立こども病院で修正大血管転位症、大動脈弓低形成という先天性心疾患の世界初高難度の同時手術を受けたのは、生後8カ月のときです。医師たちは、長時間におよぶ手術を乗り越えられるだけの体力がつくように、つむぎちゃんの体重が10kg近くまで増えるのを待ちました。つむぎちゃんはミルクの飲みがよく成長は順調で、手術のとき体重は約8.7kgありました。

修正大血管転位症は、左右の心室が入れ替わってしまう難病で、原因は不明です。
大動脈弓低形成は、大動脈の一部が生まれつき細いために下半身に十分な酸素を含む血液が送れなくなる病気です。どちらも手術をしなければ、命にかかわることもあります。

つむぎちゃんの病気は希少で、二つの病気の合併は、日本で3~4年間に生まれる赤ちゃんのうち1人ぐらいだそうです。

「つむぎの先天性心疾患の治療にはいくつかの方法がありました。今回行った手術の以外にも、フォンタン手術と二心室修復術という分割手術の説明も受けました。
先生方は、小児の心臓手術で実績がある五つの大きな医療機関にも、つむぎの症例についてどの手術がベストと思うかということも聞いてくれていました。五つの医療機関のうち三つは、今回僕たちが選んだ同時手術を選んだという結果も教えてくれました。五つの医療機機関は日本だけではなく、カナダの病院も入っていました。

専門的で難しい話なのですが、医師は時間をかけてていねいに、それぞれの手術のメリット、デメリットを説明してくれました。修正大血管転位症に対するダブルスイッチ手術は、一般的には2~3歳ごろ、体重は10kgを目安に行うとも説明されました」(隆さん)

医師の説明を聞き、何度も話し合った隆さんと美穂さんは、三つの同時手術を選択することにします。

「つむぎの将来のことを考えると、世界で初めての手術だとしても、成功すれば正常な心臓に近い機能を得ることができ、普通に健康に生活できる可能性があるため、この手術にかけることにしたんです」(隆さん)

同時手術のメリットは、一度に両方の病気が手術で治るので、術後、正常な血液循環になることです。分割手術だと、血液循環がうまくいかず低酸素状態になることもあり、救命率が下がることもあるそうです。また同時手術が成功すれば、正常の心臓に匹敵する機能が得られ、運動も可能だそうです。

デメリットは、手術時間が長く、半日程度かかることです。しかも今回の手術は、難易度も高いです。修正大血管転位症と大動脈弓低形成の合併症は、まれなため世界でも同時手術の報告はありません。亡くなるリスクも5~10%程度あります。

12時間にわたる大手術は成功。医師からは『いい意味で予想を裏切ってくれた』という言葉が

術後の麻酔で、まだぼんやりしているつむぎちゃん。

つむぎちゃんの手術が行われたのは、2022年9月、生後8カ月のときです。朝9時に手術室に入り、手術が終わったのは夜9時過ぎ。約12時間にわたる大手術でした。

「私たちはずっと待機室で待っていました。家族は、万一の場合に備えて待機室にいなくてはいけません。

手術中、夫と手術のことや、この先のつむぎのことなどはとくに話しませんでした。ただ、ただ待っているという感じでした。夫は不安だったようですが、私は根拠はないけれど『大丈夫。絶対成功する!』と思っていました。万一、何かあれば予定よりも早く手術は切り上げられるはず。手術が続いているということは、順調に進んでいる証拠と自分に言い聞かせていました。
長丁場なので、私は待っている間、食事をとったりもしましたが、夫は食欲がわかなかったようです」(美穂さん)

12時間の手術が無事に終わってからさらに数時間後、隆さんと美穂さんは医師から、手術の詳しい説明を受けました。説明を受けたのは、日付が変わってからでした。

「医師から『いい意味で予想を裏切って くれて、心臓の補助に用いるECMO(体外式膜型人工肺)を装着せずに済みました。無事に手術は成功しましたが、念のため今日のお昼までは病院で待機していてください』と言われました。

手術前に医師からは、ささいな失敗も許されない手術だと聞いていました。ほんの数ミリずれただけで危ないということも説明されていました。先生は汗びっしょりで、全神経を集中させながら、12時間にもおよぶ大手術を頑張ってくれたんだと感じました。『つむぎの命を救ってくれて、本当にありがとうございました』という気持ちでいっぱいでした」(美穂さん)

閉胸せず、心臓が見える状態のままで 集中治療室で術後管理

退院日。パパ、ママとやっと自宅へ。

つむぎちゃんは術後、集中治療室に入院します。全身麻酔をしていて、麻酔から完全に意識が戻ったのは13日後ぐらいです。

「心臓の動きが悪くならないように、閉胸は後日行うという説明でした。そのため手術した胸はあいたままで、心臓が見える状態です。胸には、専用のフィルムのようなものが貼られていました。
医師からは『閉胸は術後1週間ぐらいで行いますが、2回に分けて閉じる場合もあります』と説明されたのですが、つむぎは1回で閉胸できました。

胸があいている状態で、絶対安静なのでつむぎは全身麻酔の状態でずっと眠ったままです。
体にさわることはできたので、『つむぎ~。よく頑張ったね~』と声をかけながら、小さな手を握ったり、足をさすったりしていました。閉胸とともに、麻酔の量も少しずつ減らされ、しだいにまぶたがピクピク動き、目を少しずつ開けてくれるようになりました。麻酔のコントロールもつむぎの場合例がないぐらいの長期間だったそうで、慎重に進めてくださったんだと思います」(美穂さん)

10カ月で退院。生まれて初めて自宅へ

つむぎちゃんは、術後24日目に集中治療室から小児科の一般病棟に移り、10カ月のときに退院。生まれてすぐ入院したので、自宅に戻るのは初めてのことです。

「退院のとき、病院からはつむぎの手型、足型を押した記念のシート(写真)が贈られ、医療スタッフの方々から『つむぎちゃん、よく頑張ったね~』『退院おめでとう!』とあたたかい言葉をかけてもらえてうれしかったです」(美穂さん)

「手術後、麻酔を使って絶対安静だったこともあり、運動発達や離乳食の進み具合などは、手術前よりも小さい月齢のころに戻ってしまって、できないことが増えて少し不安になりました。でも、リハビリなどを重ねて、順調に回復しています」(隆さん)

術後の経過は順調。取材をした日に、初めて一瞬だけ手を離して立っち

退院から1カ月がたったころ。栄養をと るために鼻から胃までチューブを入れています。

2023年5月で、つむぎちゃんは1歳4カ月になりました。伝い歩きをして、興味があるものにはすぐに手を伸ばすので目が離せない時期です。
取材をした日には、初めて手を離して一瞬ですが立っちができ、隆さんも美穂さんも「あっ! 立っちした」と驚く場面もありました。

「今、離乳食は1日2回でペースト状です。ヨーグルトが大好きです。十分に栄養をとらないといけないので、ミルクや離乳食がたりないときは、鼻からのチューブで栄養を補っています。
薬も不整脈を防ぐ薬など5種類を1日3回、飲ませています。薬の種類が多いので、組み合わせを間違えないように緊張します。
病院には月3回程度行っていて、循環器小児科などで経過を見てもらっています。また、リハビリテーション科では運動発達を促したり、咀しゃくが上手にできるように練習しています」(美穂さん)

「運動の発達面は少しゆっくりかもしれないけれど、着実にできることが増えていることがうれしいです。離乳食のすすみが手術前に戻ってしまっているのは気になりますが、それも時間が解決してくれると思っています」(隆さん)

すぐに不整脈を発見できるように、自宅には聴診器が

つむぎちゃんの術後の経過は順調で、散歩も許可されるなど生活上での注意点はほとんどありません。

「ただ手足が急に冷たくなったときは、不整脈の疑いがあるから、すぐに病院に連絡するように言われています。
医師から『おかしいなと思ったら聴診器を胸に当ててみてください』と言われていて、自宅に聴診器(写真)を置いています。入院中に、何回か不整脈になっているので、病院に連絡したほうがいい状態はわかります。急に手足が冷たくなるんです。

最近は、少し人見知りが始まったのか、同居する父や母が抱っこしようとすると『パパがいい~』という感じで泣くんです。その姿が本当にかわいいです」(隆さん)

【小沼武司先生から】つむぎちゃんの手術の成功が、小児の心臓手術に一石を投じる

つむぎちゃんは術後の経過がよく、今のところ合併症の心配もありません。このまま問題がなければ、小学校に入学するころには体育の授業も受けられるでしょう。
つむぎちゃんを救命できたのは、妊娠中の的確な診断と、小児科、手術室、集中治療科などのスタッフが一丸となって、取り組んだ結果です。つむぎちゃんの手術の成功は、先天性心疾患を抱える世界中の子どもたちの治療・手術に一石を投じたと思います。

お話/西田隆さん、美穂さん 監修/小沼武司先生 協力/長野県立こども病院 取材・文/麻生珠恵、たまひよONLINE編集部

つむぎちゃんの病気は、妊娠中のエコー検査で判明しています。名前を考えているとき美穂さんは「健康以上に望むことなんて何もない」と思ったそうです。隆さんも「多くのことは望みません。ただ元気でいてくれたら、それでいい。うちは農家なので、将来、一緒に畑で野菜を作れたら最高ですね」と言います。

「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。

小沼武司先生(こぬまたけし)

PROFILE
長野県立こども病院 心臓血管外科部長。医学博士。1996年秋田大学医学部卒。同年4月、東京女子医科大学心臓血管外科入局。三重大学胸部心臓血管外科准教授などを経て現職。心臓血管外科修練指導者・専門医、日本外科学会指導医・専門医、日本循環器学会専門医。

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2023年5月の情報であり、現在と異なる場合があります。

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