ママ・パパがSOSを発信することは恥ずかしいことではない! 小児科一筋60年の医師が教える小児科とのつき合い方

埼玉県所沢市にある、はらこどもクリニック院長 原朋邦先生は、小児科一筋60年のキャリアです。現在は、二男の原拓麿先生が副院長務めて、地域では2代続く小児科として親しまれています。
原朋邦先生に、ママ・パパに知っておいてほしい、小児科の上手なかかり方や受診のコツなどについて聞きました。
小児科の受診や乳幼児健診などは、専用アプリを活用してママ・パパで情報共有を
最近は、パパが子どもを小児科受診に連れてくるケースが増えています。原先生は「小児科の受診は、子どもの病気の経過を正しく医師に伝えることが必要。ママ・パパとの情報共有がカギになる」と言います。
――先生が院長を務める、はらこどもクリニックのホームページでは、診察の助けになるように「ノートの活用」「スマホの活用」をすすめていますが、理由を教えてください。
原先生(以下敬称略) 小児科の診断は、ママ・パパから「症状が出始めた日時」「発熱の経過」「発疹の状態」「便の状態」など、正しい情報を伝えてもらうことが必要です。しかし、なかにはこちらが聞いても記憶があいまいなママ・パパもいます。
そのためノートや専用のアプリを活用して、子どもの様子を記録してほしいと思います。ノートに記録をつけるときは、時系列に正しく記録をつけることがポイントです。
うちのクリニックでは、「ププノート」というアプリを導入しています。診療予約はもちろん、子どもの症状の経過を時系列に写真や動画、コメントつきで記録して、医師とママ(パパ)で共有できます。また身長・体重、熱を記録するとグラフに自動反映されるので、診察の助けになります。
最近は、パパが1人で診察や乳幼児健診に子どもを連れてくることも増えているので、専用アプリを活用して、家族で情報を共有できるようにしておくといいでしょう。そうするとママ・パパ、どちらが付き添っても診察や乳幼児健診がスムーズに受けられます。
――パパが具合の悪い子どもを小児科に連れてきたり、乳幼児健診に連れてくるケースは増えてきていますか。
原 パパ1人で子どもを連れて小児科に来る人は多くなっています。とてもいい傾向だと思います。
私自身は、子どもが3人いますが、子どもが小さいころは国立西埼玉中央病院小児科で勤務していました。診察が終わって夕方、一度帰宅して、夕食を食べて、子どもたちの様子を見てから、再び夜勤に行くような生活でした。わが子とゆっくり過ごすような時間はほとんどなかったです。
夜勤で入院している子どもたちの様子を見回って、泣く子に声をかけたりしていると、看護師さんから「先生のお子さん、〇〇していますか?」なんて聞かれることもありました。でも、わが子のことは「あれ?」と思い出そうとしても、すぐに答えられないような状態でした。
うちは子どもたちが昭和40年代、50年代の生まれですが、当時の日本は、そうした父親が多かったと思います。
今のパパたちには、育休などを有意義に使って、子どもとの時間を大切に過ごしてほしいと思います。
育児情報の基本は、母子健康手帳。ネット情報は医学的根拠がないものも
先生は、はらこどもクリニックで週3回乳幼児健診と予防接種を。週1回診察を担当しています。そこでママ・パパから、さまざまな質問を受けます。
――先生は小児科一筋60年ですが、時代と共にママ・パパからの質問などは変わってきていると感じますか。
原 「子どものことが心配だから質問する」という基本的な姿勢は変わりません。ただ情報収集のしかたは、まったく異なります。
最近は、インターネットで調べて来た情報を小児科医に確認するママ・パパが増えていますが、なかには医学的根拠がないものもあります。
たとえば自閉スペクトラム症の子をもつママから「フェリチン検査(※)をしてください」と言われたことがあります。理由を聞くと「血液中で鉄分の貯蔵や血清鉄濃度の維持にかかわるフェリチンの値が下がると自閉スペクトラム症になるとインターネットで見た。フェリチンを与えれば、自閉スペクトラム症が治るのではないか?」と言うのです。しかし医学的根拠がまったくありません。
インターネットで検索できる情報が常に正しいとは限りません。利益誘導のための情報もあります。子ども関係の情報で「本当かな?」と思うときは、かかりつけの小児科医に確認しましょう。
※フェリチン検査とは、血液検査で体内の貯蔵鉄の量を推定する検査です。
――先生は、著書『子育て5つのカギ』の中で、母子健康手帳の活用をすすめています。
原 インターネットなどで調べてママ・パパたちは情報過多になっていますが、私は母子健康手帳が育児情報の基本だと思います。情報が少なかった昔は、母子健康手帳が育児の助けになっていました。
診察でママ・パパに「母子健康手帳を読んでいますか?」と聞くと、「身長、体重などは母子健康手帳に記録しているけれど、読んだことはない」という人が多いです。
確かに今のママ・パパには読みにくく感じるかもしれませんが、月齢ごとの発達の目安や健やかに育つために必要なこと、困ったときの相談先などが記されているので、一度、じっくり目を通してみてください。
ママ・パパがメンタル不調を感じたときは、小児科医などにSOSを出して
コロナ禍になり、乳幼児健診は集団健診から個別健診になった自治体が多かったようです。それによってママ・パパのメンタルヘルスの不調が見逃されるケースが増えています。
――先生はプロフィール欄に「八百屋医者」と記すことがあります。「八百屋医者」の意味を教えてください。
原 八百屋は、野菜ならなんでもあるのが基本です。私がプロフィール欄などで「八百屋医者」と記すのは、子ども関係ならなんでも診るということです。小児科医は子どもの総合診療医という意味です。
コロナ禍になり、乳幼児健診は自治体で行われていた集団健診から小児科での個別健診になりました。
集団健診のメリットは、小児科医が全身の状態をチェックして発育・発達の様子を診るだけでなく、各専門家によって栄養相談、育児相談、心理相談などが受けられることです。こうしたことで、ママ・パパのメンタルヘルスの不調にも早い段階で気づくことができたりしていました。
しかし小児科の個別健診では、ママ・パパからSOSを出してくれないと、気づけないこともあります。またママ・パパからしたら、初めて行く小児科や本当に心が弱っているときにSOSを出すのは困難でしょう。
コロナ禍で産後うつが増えたともいわれていますが、こうしたことも一つの原因になっていると思います。
――なかには、小児科=子どものことだから、自分のことは相談できないと考えるママ・パパもいると思います。
原 小児科は子どもに関することはなんでも診ることが本質だと考えています。子どもに関することには、ママ・パパのことも含まれています。
メンタルヘルスに不調を感じたときはSOSを出してください。相談先の一つにかかりつけの小児科を加えてほしいと思います。
私は、発達障害がある子の相談にも対応しています。発達に課題がある子の支援には「困ったときはSOSを出して、まわりがサポートして困り感を軽減していく。まわりが助ければ、自分で動けるようになる」という流れが大切で、メンタルヘルスに悩むママ・パパにも同じことが言えると思います。
まずはサポートを得ることを第一に考えましょう。そのためには我慢せずに、早くSOSを出してください。
お話・監修/原朋邦先生 取材・文/麻生珠恵 たまひよONLINE編集部
原先生は60年というキャリアの中でさまざまな親子を診てきました。「昔は同居家族が多く、育児で困ったことがあると助けてくれる人が身近にいました。しかし今は、そうした環境にないママ・パパたちが多いです。時代と共に家族のカタチは変わっても、子育てにはサポートしてくれる人が絶対、必要です。子育てのサポーターの1人に小児科医がいることを忘れないでほしい」と言います。
●記事の内容は2023年7月の情報であり、現在と異なる場合があります。
原朋邦先生(はらともくに)
PROFILE
小児科医。1969年熊本大学大学院医学研究科修了。国立西埼玉中央病院小児科医長などを経て、1991年はらこどもクリニック(埼玉県所沢市)を開設。院長を務める。
『小児科一筋60年の医師が説く 子育て5つのカギ』
「よりそう」「ゆだねる」「まもる」「あたえる」「つながる」の5つの心構えで、子育てのハードルはぐっと低くなる。ベテラン小児科医が、子育てをするうえで大切なことをつづった育児書。
原朋邦著/1650円(幻冬舎メディアコンサルティング)