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「昔の常識が今の非常識になっていることも」60年のキャリアをもつ小児科医・原先生に聞く子育ての昔、今、未来

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病院で治療を受けている赤ちゃん
●写真はイメージです
maroke/gettyimages

埼玉県所沢市の、はらこどもクリニック院長・原朋邦先生は、60年のキャリアをもつ小児科専門医です。開業は1991年のこと。それ以前は、大学病院や国立病院の小児科に勤務していました。
長いキャリアをもつ原先生だからわかる、子どもたちを取り巻く環境の昔、今、未来について聞きました。

子どもを重篤な病気から守るためにはワクチン接種を

原先生が、小児科医になったのは今から60年前。スタートは熊本大学医学部。小児科助手を経て、国立西埼玉中央病院小児科で勤務しました。

――先生が小児科医になった当時のことを教えてください。

原先生(以下敬称略) 厚生労働省の人口動態調査によると、2021年の死因順位は0歳は第1位が「先天奇形、変形および染色体異常」、第2位が「周産期に特異的な呼吸障害など」。1~4歳は第1位が「先天奇形、変形および染色体異常」、第2位が「悪性新生物」です。

しかし私が小児科医になったばかりのころは、乳幼児の死因で多いのは感染症でした。とくに感染性胃腸炎になると、脱水で亡くなる子が多かったです。ロタウイルス感染症などが代表です。
今でこそ、子どもが感染性胃腸炎になって下痢や嘔吐をすると、小児科医は脱水にならないように、こまめに水分を与えるようにママ・パパに伝えますが、当時は下痢や嘔吐がひどくなるからとできるだけ水分を与えないように一般的には指導していました。今では考えられないことです。小児医療の進歩を感じます。脱水を防ぐための輸液の販売が開始されたのが昭和30年代後半のこと。そして2020年10月にロタウイルスワクチンの定期接種がスタートしてから感染が減りました。

――先生が小児科医になった当時は感染症で亡くなる子が多かったということでしたが、ワクチンの普及によって感染症で亡くなる子が減ったということでしょうか。

原 私が小児科医になった1960年代当時は、感染症になると肺炎や髄膜炎などの合併症になり、亡くなってしまう子が多くいました。

予防接種の整備が進み、現在ではワクチンを接種することで、かかると重篤になりやすいはしかや細菌性髄膜炎などの病気から赤ちゃん・子どもを守ることができます。
子どもの定期接種は生後2カ月から始まります。2023年7月現在、B型肝炎ワクチン、ロタウイルスワクチン、ヒブワクチンなど10種類のワクチンが定期接種になっています。
ワクチンは、接種できる月齢になったら忘れずに受けてほしいと思います。定期接種と任意接種を区別することなく、現在はまだ任意接種のおたふくかぜのワクチンも受けましょう。

現在国内で、大人のはしかの感染がみられます。はしかは免疫を持っていない人が感染すると、ほぼ100%発症するといわれていて、感染力も非常に強く、重症化することもある怖い感染症です。
とくにママ・パパ世代では、1972年10月1日生まれ~1990年4月1日生まれは、麻疹ワクチンは1回しか接種していない年代です。万一、感染すると重症化することもありますし、妊婦が感染すると流産、早産を起こすこともあります。該当するママ・パパは、2回の接種が必要なので、ぜひ追加接種を受けてください。

鉄棒が設置された当日に落下事故が! 時代に関係なく、環境が変化すると事故は起きやすい

事故で亡くなってしまう子は、後を絶ちません。厚生労働省の人口動態調査の、2021年の死因順位を見ると、0歳児の死因の第4位は「不慮の事故」。1~4歳では第3位が「不慮の事故」です。

――先生が小児科医になられたころも不慮の事故で亡くなる子は多かったのでしょうか。

原 子どもの不慮の事故は、環境と大きく関係しています。
私は1938年生まれですが、私が子ども時代、小学校での鉄棒による事故はゼロだったと思います。理由は戦争によって、学校の鉄棒が軍に献納されて鉄棒がなかったからです。しかし終戦から5年がたち、学校に鉄棒が設置されたら、その日のうちに鉄棒から落下してけがをする子がいました。

時代に関係なく、子どもの事故は環境が変化すると起きやすいです。家庭では、とくに新しいものを買ったりしたとき注意が必要です。今で言うならば、強力なネオジム磁石などのマグネットセットの誤飲やジェルボール洗剤の誤飲なども、その一例です。

昔は「自己肯定感」という言葉は使わなかったけれど、自己肯定感を高める言葉かけはしていた

原先生は、小児科医60年のキャリアの中で、さまざまな親子を診てきましたが、「時代が変わっても子育てで本当に大切なことは変わらないし、変わってはいけない」と言います。

――時代と共に子育て観は、ずいぶん変わったと思いますか。

原 変わったこともありますが、ママ・パパがわが子を思ったり、心配したりする気持ちは、時代が変わっても同じだと思います。
育児書などによく「自己肯定感をはぐくむ」と記されていますが、「自己肯定感」という言葉が一般的に使われるようになったのは、ごくごく最近のことでしょう。

自己肯定感とは、「ありのままの自分でいい」と自分自身を受け入れることでしょう。自己肯定感を高めるには、乳幼児期からのママ・パパのかかわり方が重要で、その子のいいところを認めて、ほめることが大切です。
昔は「自己肯定感」なんて言葉は、一般的には使われていませんでしたが、子どもが歩き始めると、ママ・パパは「あんよが上手♪ あんよが上手♪」とリズムに合わせて口ずさみ、子どものことをほめたものです。こうしたかかわり方が自己肯定感を高めることにつながります。

逆に毎日のようにしかられていては、自己肯定感ははぐくめません。なかには「自分は、本当にダメだ」「自分なんていないほうがいい」と思いつめてしまう子もいるでしょう。
いくら時代が変わっても、子育てで本当に大切なことは変わらないし、変わってはいけないと思います。

多様な家族のカタチを柔軟に受け入れる時代に

現在日本は、少子化対策が重要課題となっています。その一方で、子育ての大変さが改めてクローズアップされています。

――先生から見て、少子化や子育て環境など、今の日本の子どもを取り巻く環境はどのように映っていますか。

原 少子化については、これからの日本は、もっと柔軟に多様な家族のカタチを受け入れなくてはいけないでしょうし、受け入れることになると思います。
私が以前、診療していた子が、大人になってアメリカで暮らしています。その子は未婚ですが、精子バンクで子どもを授かったそうです。アメリカでは、とくに特別視されることもないようです。
日本もこうしたことが「当たり前」と思われる時代が来るでしょう。家族のカタチは、ますます多様化すると思います。

また子育ての大変さについては、昔は2世代、3世代で同居している家族が多くて、ワンオペ育児という状況になりにくかったです。子育ては、サポートしてくれる人が必要です。それは家族でなくても構いません。地域に根差した小児科医の立場からは、小児科は「よろず相談」を受け入れる場になることが必要だと考えています。
今、子どもとかかわる人たちが、みんなで子育てをしていくという時代になっていますし、ますますそうなっていくべきでしょう。

お話・監修/原朋邦先生 取材・文/麻生珠恵 たまひよONLINE編集部

2022年に生まれた日本人の赤ちゃんは、77万747人で過去最少。少子化に歯止めがかかりません。
原先生は「昔から、子どもは宝といわれるけれど、子どもを育てるママ・パパも宝です。また子育てをしていると、ママ・パパ自身も子どもに育てられていることに気づくと思います。子育てにマイナスのイメージだけを持たないでほしい」と言います。

●記事の内容は2023年7月の情報であり、現在と異なる場合があります。

原朋邦先生(はらともくに)

PROFILE
小児科医。1969年熊本大学大学院医学研究科修了。国立西埼玉中央病院小児科医長などを経て、1991年はらこどもクリニック(埼玉県所沢市)を開設。院長を務める。

『小児科一筋60年の医師が説く 子育て5つのカギ』

「よりそう」「ゆだねる」「まもる」「あたえる」「つながる」の5つの心構えで、子育てのハードルはぐっと低くなる。ベテラン小児科医が、子育てをするうえで大切なことをつづった育児書。
原朋邦著/1650円(幻冬舎メディアコンサルティング)

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