親になること、子どもを育てることに「母性・父性」は関係ない【YouTuberふたりぱぱ】
日本人のみっつんさんとスウェーデン人のリカルドさんは、2011年に結婚し、現在は7歳になる息子を育てる国際同性婚カップルです。家族3人でスウェーデンのルレオで暮らしています。YouTube『ふたりぱぱ FutariPapa』で発信をするみっつんさんに、同性カップルファミリーとの子育ての情報交換のことや、多様な家族の形について話を聞きました。
親が何人でもあたたかな愛を交換し合う関係が家族
――スウェーデンで暮らすみっつんさん。みっつんさんの近くの知り合いでは、どんな家族の形がありますか。
みっつんさん(以下敬称略) 僕とリカのように代理母出産で子どもを授かったゲイカップルの家族、養子縁組で子どもを持ったゲイカップル、レズビアンカップルと男性1人の3人が親として育児をするコーペアレンツ(共同養育)の家族もいます。
コーペアレンツの場合は、友だち同士のレズビアンとゲイとか、ゲイとその友だちのストレートの女性などいろんなパターンがあります。育児をする親が一緒に住むこともあるし、一緒に住まないこともあります。彼らを見ていると、一緒に住んでいる人だけを家族と考えなくていいんだな、と感じます。
LGBTQのコミュニティの中では、『Choosen Family(チューズンファミリー:選択家族)』という考え方があります。LGBTQの人たちが性的マイノリティであるという理由で、家族との関係が悪くなったり、結婚できなかったりする中で、互いを支えあう過程で友だちやコミュニティの仲間が家族になってきた、という歴史から培われてきた考え方です。
だから、親が1人でも2人でも3人でも、一緒に住んでもそうじゃなくても、お互いに愛を交換しながらあたたかなつながりを感じられれば、それは家族といえるんじゃないかな、と思います。
――子どもを持ったゲイカップル同士で、情報交換する機会はありますか?
みっつん ふたりぱぱのYouTubeにも出てくれている、アメリカに住む日本人と韓国人のゲイカップルのアッパとダディは双子の女の子を育てています。彼らとはいろいろな話をするけれど、子育ての話も多いです。アッパとダディの子育ての様子を見ていると、2人同じ月齢の子どもがいるって実質的に本当に大変だなと思うけど、親2人が一緒にタイムキーピングしながら手際よく育児しているな、という印象があります。
ふたりぱぱのYouTubeで僕の子育ての様子を見て「手際がいい」「声のかけ方がいい」とコメントをくれる方もいるんですが、実は僕はけっこういい加減なところがあるんです。YouTubeではそこは見せていないかも(笑)。毎日試行錯誤しながら子育てしているから、アッパとダディの子育ての話を聞くのはとても参考になります。
また、ルレオの自宅のすぐ近所にいるふたりママは子どもが4人いて、一番上がティーンエイジャーで、一番下の子はうちの息子より小さいので、子育ての話を聞いて参考にすることも。同性カップルと子どもの話をすると共通項があるから、同じような境遇の仲間がいることの安心感もあります。
同じような境遇の人と経験に共感しあう安心感
――共通項とは具体的にはどんなことですか?
みっつん LGBTQの人が家族を持ちたいと思ったとき、一般的な男女カップルのように結婚をして妊娠をして子どもをもつ、といった流れとは違う方法になることが多いです。子どもをもつためにはいくつかの方法がありますが、そこにも難しさや葛藤があったりします。だから同性婚カップルと経験や感情をシェアすることで、「そういう葛藤があるよね」「でもやっぱり子どもを持ってよかったよね」と、子どもを持つプロセスや、その経験で感じたことを共有して、共感しあうことで、子育ての不安が軽くなる気がします。
子育ての不安って、けっこう小さいことの積み重ねだったりしますよね。それは僕らでも、一般的な男女カップルでも、同じなんじゃないかな。小さい悩みが生まれたときに、自分と同じような環境や境遇で子育てをしている人と話すことで、とても勇気づけられることってありますよね。
母性って何?子育てに性別は関係ない
――日本では最近少しずつ変わってきてはいますが、今も性的役割分業の考えは根深くあります。
みっつん 変わってきているとはいえ、スウェーデンから日本を見てみると、まだまだあるんだな~と感じます。ふたりぱぱのYouTubeにも「みっつんさんのほうが母親的役割なんですね」のようなコメントをもらうことがあります。料理やお菓子を息子と一緒に作っている動画への感想なのですが、僕は、料理もお菓子作りも、自分が好きだし、自分が食べたいからやっているだけなんですけど(笑)。僕たちは得意なほうが得意な家事をやっているだけ。
「母性」という言葉を耳にすることがあるけれど、「母性って何?」と思っちゃいます。「母性・父性」という言葉があることによって、女性・男性自身も苦しめられる部分ってあると思うんです。僕たちは生物学的に子どもを産むことはできないから、出産や母乳による授乳に関しての母親の役割については理解できるけど、でも子育てに関しては「母性・父性」とは全然違うことだなと思っています。親としてどういう気持ちで子どもと接するのか、どうやって親の責任を果たしていくのか、ということだけが大事なんじゃないかと思います。
いろんな家族の共通項を探すこと
――以前、スウェーデンでは多様な家族の形があり、暮らしやすいと話していました。今後、日本社会で多様な家族が生きやすくなるために課題に感じていることはありますか?
みっつん 僕たちが住むルレオは、スウェーデンの首都ストックホルムから北に約900 kmほどのところにある人口約7万9000人ほどの地方都市ですが、ここに暮らして気づいたのは、都市と地方の差はとても大きいということです。これは日本でも共通すると思います。とくにマイノリティ性がある問題は、人口が少ない地方はもっとマイノリティになるので、そういう点では大都市のほうが暮らしやすい面が傾向として多いです。それを解決するには、地方で講演会などの啓発活動を行うことや、大人にも子どもにも教育の機会を与えることが大事だと思います。
もう一つ、家族の形について少し俯瞰した見方をする必要があるとも感じます。「新しい家族の形」とか「ニューノーマル」といった言葉を使うと、伝統的家族と対立する価値観のように見られがちだったりしますが、でも実はそうじゃなくて、融合できるものだと思うんです。いろんな家族の暮らし方がある中で、どうやってみんなの共通項があるのかを探し出す作業がとても大事じゃないかな。自分の立場と同じ人たちと話すと悩みが解決することに似ていますよね。
――みっつんさんたちがYouTubeで配信する生活の様子も、一般的な家庭の暮らしと変わらないですよね。
みっつん どんな家族も、子どもを愛し守り育てるところは共通しています。僕たちふたりぱぱの動画がこれだけたくさんの人に見てもらえるようになったのもそこなのかな、と思うんです。「見た目は違うけど、なんかうちと一緒だな」って感じてもらえてるんじゃないかな。
お話・写真提供/みっつんさん 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部
子育てをする親にとって「母親(父親)だから」という言葉は、ときに自分も他人も苦しめてしまう言葉かもしれません。性別にとらわれず、柔軟にパートナーと協力しながら家庭を築くことが、家族みんなにとっての幸せにつながるのでしょう。
「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。
●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2023年11月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。
ふたりぱぱ
PROFILE
スウェーデン人のリカと日本人のみっつんと息子くんの同性婚ファミリーYouTuber。みっつんとリカは結婚後、代理母出産により息子くんを授かり、リカの故郷スウェーデンへ移住。スウェーデンで現在7歳になる息子の子育てに奮闘する様子をYouTubeやブログで発信している。
『ふたりぱぱ ゲイカップル、代理母出産(サロガシー)の旅に出る』
スウェーデン人男性と同性婚をしたみっつんの人気ブログ『ふたりぱぱ』の連載「サロガシーの旅」の書籍化。ゲイが子どもを授かる方法、サロガシー(代理母出産)のプロセスなど、ゲイカップルが子どもを授かるまでの“旅"をリアルに語るエッセイ。みっつん著/1870円(現代書館)