「大人がいっぱいいるときほど要注意!」ママ・パパへのアンケートで、意外に多かった年末年始の事故1位は?
今度の年末年始は、昨シーズンと比べて帰省や旅行の計画を立てているママ・パパも多いのではないでしょうか。そんな普段とは違う場所で過ごすときほど、赤ちゃんの事故・けがに注意したいところ。「たまひよ」アプリユーザーに「冬の旅行や帰省先で、赤ちゃんがけがをしてしまったり、危なくてヒヤッとした経験はありますか?」というアンケートを実施。集まった体験談から、気をつけたいことを学びましょう! 子どもの事故に詳しい、佐久総合病院佐久医療センター 小児科医長 坂本昌彦先生に親が注意したいことを聞きました。
【ヒヤリ体験・1~3】最も多かったのは「転落」。赤ちゃんの転落事故でこわいのは、頭のけがにつながりやすいところ
【体験談1】まだ寝返りができないときにマットレス(厚さ15cmくらい)に寝かせていたら足の力だけでマットレスから落ちてしまってあせりました。
【体験談2】寝返りができるようになってきたころ。ベッドに寝かせ、一瞬離れたときに転落。けがはなかったけれど、ソファや机もつい寝かせてしまう可能性があるので、気をつけねばとおもいました。
【体験談3】外出先でおむつ替えしたとき、荷物を置く場所に手間取っていたら、頭から落ちそうに!
――アンケートで最も多かったのは転落のヒヤリ体験。赤ちゃんの転落事故はどんなことに注意が必要なのでしょうか?
坂本先生(以下敬称略) 乳幼児の転落事故でこわいのは、頭のけがにつながりやすいことです。赤ちゃんは体幹に比べて頭が大きいため頭から落ちやすく、防護技術が未熟なため両手で頭を守るということがまだできません。また、大人に比べて頭蓋骨が薄いため、重篤なけがにつながりやすいんです。とくに2歳未満は90cm以上の高さからの落下には十分注意しましょう。
――転落事故を起こさないために、どんなことに気をつけるといいのでしょうか?
坂本 昨日までできなかったことが今日できるようになるのが赤ちゃん。寝返りをする前でも手足の力で移動してソファから転落することはありますし、昨日まで寝返りできなかった子が今日できるようになるかもしれません。どんな状況で事故が起きやすいか知っておくことが大切です。乳幼児の場合、ベッドやソファから落ちる事故が多いです。お世話後はベビーベッドの柵を上げる、ソファには1人で寝かせないなどの対策が大切です。
実家などでは「赤ちゃんを寝かせるならココ!」という安全なスペースを用意して、周囲の大人の共通認識にしておくといいでしょう。
――アンケートでもソファやベッドから転落しそうになったというヒヤリ体験が数多くありました。そのほかにはどんなところからの転落に注意が必要でしょうか?
坂本 生後3カ月未満の乳児の頭部外傷で入院した35例を調べたところ、約半数の18例が抱っこひもやスリングなどからの転落だったという調査結果もあります(※1)。抱っこひもやスリングは使用説明書をよく読み、注意事項を把握してから使うことが大切です。バックルのとめ忘れやベルトのゆるみがないか確認し、前かがみになるときは赤ちゃんを手で支えて転落を防ぎましょう。
帰省時は、ばあば・じいじが抱っこひもやスリングで赤ちゃんを抱っこすることがあるかもしれません。ベルトなどは、ばあば・じいじなどの体形に合わせて調節してください。普段使い慣れていない人が使うときこそ、改めて使用説明書を確認しましょう。
【ヒヤリ体験・4~6】次に多かったのが「転倒」。転んでも大きなけがにつながらない工夫が必要です
【体験談4】赤ちゃんと一緒でもOKというホテルでベビールームに泊まったとき。室内の家具の角にコーナーガードがついていて「安心!」と思っていたら、まさかの座卓にだけついてなかった。しっかり角がある四角い座卓で、「この部屋でいちばん危ないのこれでは?」と思った。それにつかまって伝い歩きをする娘が転ばないかヒヤヒヤした。
【体験談5】つかまり立ちをし始めたころ、転んでテーブルの角に目の下を思いきりぶつけて真っ青になった。
【体験談6】一緒におふろに入っていたときのこと。浴槽内で滑って転び、浴槽のふちで顔を打ちました。
――おすわりやつかまり立ちが始まると、転倒でヒヤリとすることが多くなるようです。転倒を防ぐにはどうしたらいいのでしょうか?
坂本 赤ちゃんは頭が大きく、重心が高いため体のバランスをくずしやすく、よく転びます。子どもが転倒するまでは“わずか0.5秒しかない”という報告があります(※2)。一方で大人が危ないと思って体を動かし始めるまでに0.2秒かかるといわれているので、0.3秒でかけ寄り子どもを支えないと転倒は防げませんが、それは不可能です。
すべての転倒を予防するという考え方ではなく、転んでも大きなけがにつながらない工夫が大事です。転倒したときに頭をぶつけそうな家具にはクッションシートをはる、赤ちゃんがつかまりやすい棚やテレビなどの家具は、つかまった拍子に転倒しないように固定するなどの工夫で、大きなけがにつながるのを予防することができます。
もちろん、転倒リスクが高い行動を避けることも大切です。たとえば歩行器は転倒リスクが高いので使わないほうがいいでしょう。
――普段、自宅で歩行器を使っていなくても、年末年始に帰省したら実家や親せき宅で「家にあったから、使ってみたら?」と歩行器をすすめられることがあるかもしれません。歩行器はどんなところに注意が必要なのでしょうか?
坂本 つかまり立ちや伝い歩きをするようになると、早く歩けるようにと歩行器を使う人もいるかもしれません。赤ちゃんの喜ぶ顔を見たいという気持ちもわかります。しかし、筋力の発達など、歩くための準備ができないと歩けるようにはなりません。その前に無理して歩行器の力を借りて歩かせると、バランスを崩して転倒する危険があります。アメリカ小児科学会では『歩行器は転落・転倒などのリスクを高めるが、子どもの歩行を促す効果はなく、メリットがない(※3)』と伝えています。
【ヒヤリ体験・7~9】帰省先でもヒヤリ!室内の様子を確認して対策を
【体験談7】パパの祖母の家にいき、昔ながらの電気ストーブに子どもが手を触れてやけどしてしまいました。私もパパも子どもの近くにいたのに、本当に一瞬の出来事で、こわいなと思いました。
【体験談8】帰省のために新幹線に乗ろうとしたときのこと。ベビーカーに子どもを乗せて、夫は後ろからスーツケースを持って乗車しようとしていました。乗ろうとした瞬間、バランスが崩れベビーカーの車輪が新幹線とホームの間に挟まりました。まわりの人の協力ですぐに車輪を抜くことができましたし、きちんとベルトをしていたので子どもにけがはなかったのですが、とてもあせりました。
【体験談9】実家にて。子育てから遠ざかって久しい両親は危機意識が低く、いろいろ困りました。誤飲しそうなものや刃物の取り扱いなど危ないと感じることが多々ありました。
――アンケートの回答には年末年始に自宅外の場所でヒヤリとした体験もたくさんありました。帰省先などで気をつけたいのはどんなことでしょうか?
坂本 多くの人の目があるときほど、案外だれも見ていないリスクがあること、また日常的に子育てしている場所でないと赤ちゃんにとって誤飲、やけど、転落などのリスクがあることを知っておくことが大事です。
「友人宅に数時間遊びに行く」などというときは、親が赤ちゃんから離れる時間はあまりないと思いますが、「数日間実家に帰省する」などの場合は、ある程度室内を確認して対策をしてもらうことが大事です。赤ちゃんが触ると危ないものは手の届かないところに片づけてもらう、赤ちゃんを安全に寝かせるスペースを作る、親がそばを離れるときは「トイレの間、見ていてね」と声をかけるなどを心がけるといいでしょう。
また、新幹線とホームの間にベビーカーの車輪が挟まったという体験談がありましたが、ベルトをしていなかったら大きな事故につながった可能性があります。抱っこひもやスリングからの転落に注意してほしいという話をしましたが、ベビーカーも使用方法を守ることが大切です。
――年末年始は、親せきなど複数の家族が集まることもよくあるでしょう。子育てから遠ざかっている大人にとくに注意してもらいたいことはありますか?
坂本 赤ちゃんに気をつけたい食べ物を知っておいてもらうといいでしょう。お正月は餅を食べる家庭が多いと思います。餅や白玉だんごなどの粘着性が高い食べ物は、のどに詰まらせる危険があります。赤ちゃんには与えない、小さい子どもには小さく切って、必ず飲み物でのどを湿らせながら与えることが大切です。
餅は気をつける家庭も多いですが、忘れがちなのが危険があるとあまり知られていない食べ物。ぶどうやミニトマトのように丸くてつるっとしているものを赤ちゃんや小さい子どもに丸ごと与えると、のどに詰まらせるリスクが高いです。食べさせるのなら、月齢・年齢に合わせて、皮をむいてこまかく刻んだり、4つに切ってからにしましょう。
また、少し前に1歳9カ月の子が外出先でポップコーンを食べていたところ、未破裂のコーンを食べて窒息し、一時意識がなくなったという事故の報告がありました。未破裂のコーンは、かたい豆類と同じように誤えんリスクが高く、注意が必要です。
そのほかにも、いかやたこなどのかたくてかみ切りにくいもの、パンや焼きいもなど唾液を吸って飲み込みにくいものは、のどに詰まるリスクがあります。かたくてかみ切りにくいものは小さい子どもには食べさせない、唾液を吸って飲み込みにくい食材は水分と一緒にとることが大事です。
帰省先など、普段と違う場所で過ごすときや、子育てから離れている大人がたくさん集まるときは、赤ちゃんの事故防止のためにとくに注意が必要。どんな状況で事故が起きやすいかや、気をつけたい意外なものを理解してもらい、「みんなで赤ちゃんを守る」心がけが大切です。
取材・文/たまひよONLINE編集部
年末年始に帰省や旅行の予定がある人は、帰省先・旅行先でいざというときに受診できる病院を確認しておきましょう。事故・けがに気をつけるだけでなく、体調管理にも気を配りたいところ。「子どもの体調が悪いときは、帰省や旅行の予定を取りやめる判断も大切です」と坂本先生。やむを得ない場合には、医師の診断書を提出することで、航空券の払い戻しができる航空会社もあるので、あらかじめ調べておくといいでしょう。
※1 平石のぞみ他. 入院を要した乳児期早期の頭部外傷における受傷機転の特徴と予防策の検討. 外来小児科, 2016, 19(3):270-275.
※2 北村光司 ,西田佳史. 転倒データベースの構築に基づく子どもの転倒による傷害の予防.日本転倒予防学会誌 Vol.10:3-9, 2023
※3 APP website. Baby Walkers :A Dangerous Choice(2023年11月参照)
●記事の内容は2023年12月の情報であり、現在と異なる場合があります。
『小児科医が教える「子どもを事故から守る本」』
子どもの事故の約4割が家庭内で起きています。「目は離れるものだと認識したうえで、大けがをさせない対策が重要」と坂本先生。どんな状況で事故が多いのか知って、子どもを守る対策をしましょう。坂本昌彦著/1980円(内外出版社)