子どもの発熱は「熱の高さ」より「熱が出ている日数」が重要!その理由は?発熱時のおうちケアのポイントも解説【ママ小児科医】
小児科医・白井沙良子先生は2児を子育て中のママです。白井先生は日々の診療の中で多くのママ・パパたちと接しています。ママ・パパたちから質問が多いことや、季節や時期に合わせて知っておきたいことなど、さまざまな情報を発信する連載「ママ小児科医さよこ先生の診療ノート」の第2回目です。今回は発熱のときのおうちケアについてです。
過去10年で類を見ないほど、子どものさまざまな感染症が流行
「ここ1カ月くらい、熱が出てはおさまって、また熱が出て・・・と、繰り返している気がします。うちの子、何か変な病気ではないですか?」(1歳)
「熱が出ているときって、離乳食は1度ストップしたほうがいいのでしょうか?おふろも入っていいのか気になります。」(9カ月)
「冷却シートが気持ちよくて好きみたいなんですけど、あれって熱下がりますか?」(3歳)
だらだらと鼻水やせきなどの風邪症状が続く、発熱を繰り返すという内容は、生後6カ月ごろから3歳くらいまでの子どものママ・パパからとてもよく相談を受けます。特別な病気ではなくても、せきが1カ月近く長引くことがある、というのはこの連載の第1回でも紹介しましたが、発熱についてはどうなのでしょうか?
保育園児を対象とした研究(※1)では、発熱など風邪症状のためにお休みする日数は、0歳では年間で約20日に及ぶともいわれています。年齢が上がるにつれて徐々に減ってはいくものの、頻繁に発熱すること自体は、子どもでは異常なことではないのですね。ウイルスなどの感染症に対して、体がしっかりと戦っている、つまり免疫機能がはたらいている証拠でもあるので、熱が出ていること自体が必ずしも悪いことではありません。
とはいえ子どもの発熱は、毎回心配になるもの。新型コロナウイルス感染症が五類感染症となったあとも、インフルエンザ、咽頭結膜熱、溶連菌、ヘルパンギーナ・・・と数々の感染症が、過去10年に類を見ない流行状況(※2)になっています。発熱時のホームケア、受診の目安、解熱剤の使い方など、子どもの発熱に少しでも安心して対応できるようになるポイントを説明します。
「熱の高さ」より「熱が出ている日数」が大事
「夜中に39度や40度近く出てしまって・・・、こんなに高い熱が出て、子どもの脳に影響がないのか心配です」(1歳)
高い熱が出ると、子どもの脳や発達に影響がないのか、という声もよく聞きます。ただし結論からいえば、熱の高さと疾患の重症度は、必ずしも関係ありません。乳幼児は熱がこもりやすく、とくに重篤ではない病気でも39~40度の発熱がみられることは多くあります。
医学的には、「熱の高さ」より「熱が出ている日数」に注目します。発熱が3~4日以上続く場合は、細菌感染症や川崎病など、いわゆる風邪(ウイルス感染症)以外の原因が隠れていないかを検討する必要があるからです。熱で受診する際も、熱の高さよりは「38度以上の発熱が、いつから・何日間続いているか」を伝えるほうが、診療がスムーズに進みます。
冷却ジェルシートは解熱効果なし。おふろは負担がない程度で
熱が出たときに、おでこに貼る冷却シートを使ったことがあるママ・パパもいるかもしれません。ただし冷却シートには、全身の体温を下げる効果はありません。さらに窒息のリスクもあります。過去には実際に、乳児の口や鼻をジェルシートがふさいでしまう窒息事故がありました(※3)。ひんやりする、などの感触は子どもにとって快適かもしれないので、もし使うならば上記をよく踏まえたうえで、必ず保護者が観察できる状況のもとで使ってください。
体温を下げたいなら、保冷剤などを体に当てるほうが効果的です。タオルでくるんだ保冷剤を、大きな血管が通るわきのしたや脚のつけ根にはさむといいです。子どもが嫌がる場合は無理に冷やさず、部屋を涼しくしたり、(生後6カ月以上の場合は)解熱剤を使ったりして対応しましょう。
なお「熱があるときは、おふろはやめたほうがいいですか?」(2歳)という相談もよくありますが、とくに発熱しているときにおふろに入ってはいけないということはありません。ただし疲れていたり、ぐったりしていたりする場合は、シャワーで軽く洗うだけ、タオルで体をふくだけなどでも問題ありません。
解熱剤は安心して使って
「解熱剤を使ったら、治りが悪くなるから、使わないほうがいいよってママ友に言われて・・・、使わないほうがいいんですかね?」(2歳)
体温を下げる薬である、解熱剤(アセトアミノフェンなど)。これは病気そのものを治すわけではありませんが、立派な対症療法の一つです。解熱剤を使ったからといって、病気の治りが遅くなるという明確なエビデンスはありません。一方、熱が高くても子どもが元気に過ごせている場合は、無理に解熱剤を使う必要はありません。
また解熱剤で熱が下がらないからといって、重症というわけではありません。発熱は、正常な免疫機能がはたらいている証拠でもあるので、単なる風邪(ウイルス感染症)であっても、どうしても解熱剤を使っても発熱することはあります。
なお解熱剤には座薬・シロップ・粉薬・錠剤とさまざまな剤形がありますが、いずれも効果は同じとされています(※4)。子どもが飲みやすい、また保護者が使いやすい剤形を医師に伝えましょう。
食事や授乳は、普段どおりでOK!イオン飲料は飲みすぎに注意
発熱しているからといって、必ずしも食事の内容を変えないといけない、という医学的なエビデンスはありません。離乳食の形態もミルクの濃さも、普段どおりで構いません。
発熱に加えて下痢がみられるなど、おなかの調子が悪いときは、うどんやおかゆなど消化のいい食べ物のほうが症状の悪化を防ぐ可能性はあります。しかし食べ慣れた食材や形態でないと、受けつけない子も多いでしょう。そんなときは無理をせず、普段食べているものを食べさせてあげてください。なお体調を崩しているときは、よりアレルギー症状が強く出る可能性がありますので、今までに食べたことのない食材を与えることは避けましょう。
「イオン飲料を全然飲んでくれなくて・・・、お水とかお茶だけでも大丈夫ですか?」(3歳)
「水分を取ってほしいのに、全然飲んでくれないです!脱水にならないか心配で・・・」(1歳)
こちらは発熱時の水分について、あるあるなお悩みです。たしかに発熱時は、汗などで多くの水分が失われるため、より多くの水分を飲めたほうがいいです。目安として、健康なときに摂取する水分の目安量(mL)は1日あたり「体重(kg)×80~100(mL)」、たとえば体重10kgの子どもなら800~1000mLほどになります。
ただし、発熱時はのどが痛かったり機嫌が悪かったり・・・で思うように飲んでくれないことも多いですよね。ただし子どもの体でも「とった水分の量が少なければ、おしっこの量を少なくする」など、脱水を防ぐ機能が通常は働きますので、あまり量にこだわりすぎる必要はありません(後述する受診の目安で、脱水のサインを説明します)。
それよりは、飲み物の種類に気をつけるといいでしょう。食事が進まないときに水やお茶ばかり飲んでいると、低血糖によってさらにぐったりしてしまうこともあります。糖分や塩分が含まれる水分、たとえばジュースやスープ・めん類の汁などのほうが、水分補給としては適しています。ここで気をつけたいのが、イオン飲料。糖分や塩分も含まれていますし、乳幼児向けのイオン飲料もありますが、飲み過ぎに注意してください。ビタミンB1欠乏症によって、筋肉や心臓に負担がかかるリスクがあるからです(イオン飲料には、糖質をエネルギーに変えるビタミンB1が入っていないからです ※5)。
受診の目安は、発熱「以外」の症状に注目!
前述のとおり、発熱が3~4日以上続く場合は、ウイルス感染症(風邪)以外の原因も検討する必要があるため、一つの受診の目安になります。
それ以外の受診の目安は、発熱「以外」の症状に注目するのがポイントです。
・水分がまったく取れない
・起きている間に、おしっこが数時間に1回も出ない
・嘔吐や下痢が続いている
・呼吸が苦しそう
・意識がおかしい、目線が合わない など
発熱時に食事や水分の量が減ると、脱水が心配になりますよね。よくあるのが「唇が乾いているから、脱水だと思います」(11カ月)という誤解です。唇は体の表面にあるので、子どもの場合は脱水ではなくとも、単にまわりの空気が乾燥しているだけでも、乾いて見えます。
医師の診察では口の中が乾いていないか、指先などの血管にも十分な量の血液が循環しているか、などを診ますが、自宅で判断しやすいのは「おしっこの回数」です。個人差もあるので絶対に何回出ていないといけない、という基準はありませんが、起きている間におしっこが数時間に1回も出ないというのは脱水の一つのサインになります。
なお注意点として、生後3カ月未満の乳児については、上記のサインにかかわらず、発熱があるとわかった時点で受診することをおすすめします。免疫反応が未熟なため、髄膜炎や尿路感染症などの細菌感染症にかかるリスクが高い月齢だからです。
また検査については、発熱してすぐよりも、数時間以上たってから受けたほうが、正確な結果が出ることがあります。たとえばインフルエンザの迅速検査(鼻から綿棒を入れて検査するもの)については、発熱してから12時間や24時間以上が経過してから(※6)検査を受けたほうがいいかもしれない、という研究報告があります。発熱間もないと、まだウイルスの増殖量が少なく、検査上では偽陰性(本当はウイルスが鼻腔にいるのに、検査上は陰性と出てしまう)ことがあるからです。全身状態が悪くなければ、まずはしっかり12〜24時間様子をみてから受診するほうが、検査という意味ではメリットがあります。なお、どの検査ができるかは医療機関によっても異なりますので、必ず受けたい検査がある場合は、受診の前にクリニックのHPや電話などで確認するほうが確実です。
文・監修/白井沙良子先生 構成/たまひよONLINE編集部
熱が出てつらそうにしている子どもを見ていると、どうにかしなきゃとあわててしまうこともあるでしょう。「発熱の高さよりも、熱が続いている日数が大切」とのことなので、白井先生解説の受診の目安やおうちケアを参考に、感染症がこわい季節を乗りきりましょう。
※1 保育園児の病欠頻度に関する研究、東女医大誌、第87巻、第5号、頁146~150、平成29年10月
※2 国立感染症研究所、IDWR速報データ、2023年第49週、IDWR速報データ
※3 平成16年度 独立行政法人国民生活センター 業務実績報告書
※4 国立成育医療研究センター、お薬Q&A、解熱剤について
※5 塩田ほか、多量のイオン飲料摂取によりWernicke脳症を呈した乳児例、日本小児科学会雑誌、日本小児科学会雑誌、第118巻第6号、2014年イオン飲料水の多飲によるビタミンB1欠乏症
※6 明石ほか、発症から検査までの時間がインフルエンザ迅速抗原検査に与える影響:前向き観察研究、感染症誌、95:9-16、2021年
●記事の内容は2023年12月27日の情報であり、現在と異なる場合があります。