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うまく言葉が聞き取れない「聞き取り困難症」と診断された二男。これまでの子どもの不安な気持ちを思うと胸が痛くなった【体験談・医師監修】

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6歳3カ月ごろの優翔くん。電車が大好きで、好きな系統の車両が来るまで1時間近くホームで待つことも。

中森由美さん(43歳・仮名)は、晴翔(はると)くん(10歳・仮名)、優翔(ゆうと)くん(7歳・仮名)の母親です。
由美さんは優翔くんが6歳ごろ、「か行」が発音できないのと吃音が気になり、大阪公立医学部附属病院耳鼻いんこう科の阪本浩一先生に相談へ行き、構音トレーニングを受け始めます。発音は10カ月ほどで改善したのですが、詳しい検査をしたところ、「聞き取り困難症」という病気であることがわかりました。優翔くんの赤ちゃんのころから現在までの成長の様子について、由美さんに聞きました。

「ママ」が言えたのは2歳8カ月。6 歳になっても「かきくけこ」が言えない

優翔くんが2歳1カ月のころ。2歳でキックバイクに乗れるようになると、公園遊びが少しずつ楽しめるように。

長男・晴翔くんの妊娠中、切迫早産で入院となった経験があることから、二男・優翔くんの妊娠中も心配していたという由美さん。切迫早産気味になったものの入院には至らず、ほぼ予定日に出産。優翔くんは49.5cm、2875gで元気に生まれてきました。

「運動発達はとても順調で、1歳ちょうどで歩き始め、かけっこも早いし、運動はなんでも得意です。
ただ言葉が出るのがとっても遅く、それがずっと気になっていました。『ママ』と初めて言えたのは2歳8カ月のとき。それまでは『あーあー』『えっえっ』など、喃語のような言葉と指さしでコミュニケーションを取っていました。

乳幼児健診のたびに相談しましたが、『こちらの言うことは理解しているし、指さしなどで自分の気持ちを表しているから大丈夫』と毎回言われ、優翔なりに言葉が出るのを待つしかないんだな~と考えていました。

実際、単語が一つ出たと思ったら急激におしゃべりが上達し、3歳ごろにはまわりの子どもたちと同じように話ができるようになったんです。幼稚園入園までに追いつけた~と、ほっとしました」(由美さん)

でも、少しずつ優翔くんの発音と吃音(きつおん)が気になり始めました。

「話せるようになるのが遅かったから、発音がつたないのはしかたがないよね、吃音(きつおん)が出るのもしゃべりたい気持ちに発語がついていけないからかな~、いずれは直るよねと、あまり気にしないようにしていたんです。
でも年長(6歳)に進級しても『かきくけこ』が発音できず、『おけいこ』を『おちぇいと』と言うなど、<か行>が<た行>に置き換わっていました。

かかりつけの小児科に予防接種を受けに行ったときに、それらのことを相談してみたんです。すると『6歳で<か行>が言えないのは構音トレーニングをしたほうがいい』とのことで、大阪公立大学医学部附属病院耳鼻いんこう科を紹介されました。初診時から優翔を診てくれたのが、阪本浩一先生でした」(由美さん)

構音トレーニングとは、音を作る器官やその動きが未熟な子どもに対して、言語聴覚士が一人一人に合わせたやり方で、言葉や構音(発音)の育ちをサポートしていくものです。

まわりの子の様子を見てあわてて動くことが多いのは、言葉が聞き取れないから?

2歳1カ月ごろ。人見知り、場所見知りが激しく、ベビーカーに乗っていないときはママに抱っこされていました。

早速、構音トレーニングを始めることになり、「その効果はすぐに表れた」と由美さんは言います。

「言語聴覚士の先生にトレーニングをしてもらったところ、10カ月後の7歳になるころには、<か行>がきれいに発音できるようになったんです。
吃音の様子には波があり、今でもつっかえることがありますが、トレーニングはとくにしていません。前よりは気にならなくなっているような気がします。
『言葉について気になることがあればいつでも連れておいで』と阪本先生が言ってくださったのが心強く、おおらかに見守っていこうと夫とも話していました」(由美さん)

優翔くんが構音トレーニングで受診している中で、長男の晴翔くんのことも阪本先生に相談すると、いくつかの検査を経て、「聞き取り困難症」という症状があることがわかりました。

聞き取り困難症とは、相手の言葉が聞き取れない、聞き間違いが多いなど、音声を言葉として聞き取ることに苦労する病気です。「聴覚情報処理障害(APD)」と呼ばれてきましたが、聴覚の問題だけではないことがわかり、海外では「LiD( Listening difficulties=聞き取り困難症)」と呼ばれることが多くなっており、日本でも「聞き取り困難症(LiD/APD)」と表記するようになってきています。

「阪本先生からのアドバイスで、晴翔が聞き取り困難症だと、優翔も可能性あるかもしれないから、検査をしてみようということになりました。でも、検査の予約は先々まで埋まっていて、受けられたのはその4カ月後、2023年の年末でした。検査の結果、聞き取り困難症と診断されました」(由美さん)

文字を書くとき違う文字に置き換わる

優翔くんが6歳2カ月、幼稚園の年長のとき、由美さんの誕生日に書いてくれたメッセージ。

診断がついてから、由美さんが優翔くんのこれまでのことを振り返ってみると、聞こえの困難が関係していたのかもしれない、と思い当たることがいくつもあったそうです。

「文字を書けるようになった幼稚園の年長のころ、『かえるの<か>はどっちの<か>なの?』と、ひらがな表の<か>と<た>を指さして聞いてきました。
私の誕生日に書いてくれたメッセージは『まま がいすき まま がんじょうびおめでとう』。<だ>が<が>に置き換わっていました。
小学校に入ってからも、国語でイラストの名詞を答える問題で、『ゆうえんぢ(ゆうえんち)』『どうぶ(とうふ)』など、書き間違いがよくありました。

また授業参観のときには、先生が『教科書を開いて』と言ったのに、優翔だけじっとして動かず、まわりの子たちが教科書を開くのを見てあわてて開く、という二男の行動が気になったこともありました。不安感がとても強く、『まわりと同じようにしたい』という気持ちが強い子なので、とても真剣に先生の声に耳を傾けているんです。それにもかかわらず、先生の声が聞き取りにくく、指示通りに動けなかったんだろうなと思います。
お友だちとの関係でも、お友だちが話しかけてくれてもとっさに言葉が出ず、会話にならなくて、うまく関われていない様子でした。

これらはみんな、うまく言葉が聞き取れないことが原因だったのかな、優翔はそのたびにとまどっていたんだろうなと思うと、胸が痛くなりました」(由美さん)

2週間お試しで「ロジャー」を装着。気に入りすぎて返すときは目がウルウルに

人見知りは相変わらずだったけれど、公園遊びを好きになった3歳2カ月ごろ。

発達を専門とする先生を紹介してもらい、優翔くんは発達の検査も受けました。

「優翔は同じやり方にこだわるなどの行動が見られるので、自閉傾向があるのではないかと思っていたんです。ところが先生の見解は、『発達障害ではなく、不安感が強い気質の子』というものでした。

乳児期の優翔は場所見知りが激しくて、お出かけ先で優翔が寝ている間に場所を移動してしまうと、寝る前と違う場所にいることでパニックになり、2時間以上泣き叫ぶようなことがありました。だから出先では、優翔が寝ている間に移動しないように、すっごく気を使っていました。あれも、不安感の強さが原因だったのかなと今は思います。

幼稚園に入ってからは『失敗してはいけない』という気持ちが強くなり、なんでもおにいちゃんのまねをしていました。おにいちゃんがやったとおりにすれば、間違いないと思っていたんでしょうね。幼稚園の卒園制作は、長男・晴翔の作品とまったく同じものを作りました。あまりにもそっくりな仕上がりにびっくり・・・。でも、とってもうれしそうに見せてくれたので『にいにのことが大好きなんだね』とほめました。

今は不安感を隠すために、自分を大きく見せるようにふるまっている気がします。わざと道路に飛び出したり、阪本先生の診察室で検査機器のボタンを勝手に押してしまったり。幼稚園時代には見られない行動で、落ち着きのなさがとっても目立ちます。
かんしゃくを起こして兄に手や足が出てしまったときは、『暴力で気持ちを表現するのは自分が損するよ』と毎回伝えています。また、衝動的な困った行動に対しては、『していいこととダメなことの区別はついているよね?』と、言って聞かせています」(由美さん)

由美さんは、聞き取りの困難を改善したら優翔くんの不安感が多少でも減らせるかもしれないと考え、聞き取りを補助する「ロジャー」というシステムを2週間試してみることにしました。

「ロジャーを使ってみた優翔は、『先生の声がよく聞こえるんだよ!』と、耳につけた初日にうれしそうに教えてくれました。ロジャーをすごく気に入り、とっても大切に扱っていて、2週間のお試し期間が終わって返さなければいけない日、悲しくて目をウルウルさせていたほどです。

お試し期間中、聞こえ方に差があるようだったので、先日受診したとき、阪本先生に聞いてみたところ、優翔は雑音のある場所での聞こえが悪いタイプとのこと。一方、長男は左右からの聞こえの選択ができないタイプ。長男が使っているロジャーと同じ音量にしていたので、優翔には音量が少したりなかったようです」(由美さん)

優翔くんが聞き取り困難症だとわかってから、由美さん自身のことで気づいたことがあるそうです。

「実は私は学生時代、休み時間のガールズトークがすごく苦手でした。複数の人がワイワイ話していると、だれが何を言っているのかわからず、返事に困るからです。
息子たちの小学校のPTAの集まりでも、隣の人の言葉ははっきり聞き取れるけれど、隣の隣の人の発言はよく聞こえません。『聞き取りにくい声の人だなあ』くらいにしか考えてなかったのですが、ほかのお母さん方は聞こえているようですし、本当は私の聞こえに問題があるのかも・・・。

『もしかしたら私も聞き取り困難症かもしれない』と考えるようになったら、よりいっそう、息子の一番の理解者でいよう、息子が困難を乗り越えるための道を一緒に探していこう、という気持ちが強くなりました。そして、困難や障害があったとしても、家族みんながいつも笑っていられる家庭を築こうと、夫とも話しています」(由美さん)

【阪本浩一先生から】なかなか正しい発音ができないときは、聞き取り困難が隠れている可能性も

聞き取り困難を幼稚園から小学校低学年の子どもで見つけることは、とても難しいと思います。一方、この年代でよくみられるのが、優翔くんにみられた構音の問題です。「機能性構音障害」と言われるもので、言語聴覚士による訓練で多くは数カ月で改善します。しかし、なかなか訓練しても改善しない例もあり、そのような場合、聞き取り困難が背景にあることもあります。言葉の問題と聞き取り困難については、今、研究を進めているところです。

お話・写真提供/中森由美さん 監修/阪本浩一先生 取材・文/東裕美、たまひよONLINE編集部

「聞き取り困難症」は最近わかってきた新しい病気です。この病気について理解しようとしている由美さん。「最初はとまどったし、今も不安があるけれど、困難の原因が小学生の間にわかったのは幸運だったと思います」と話しています。

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2024年3月の情報であり、現在と異なる場合があります。

阪本浩一先生(さかもとひろかず)

PROFILE
耳鼻咽喉科医。大阪公立大学大学院耳鼻咽喉病態学准教授。1989年愛知医科大学医学部卒業。大阪市立大学耳鼻咽喉科、神戸大学医学部耳鼻咽喉科を経て2002年より兵庫県立加古川病院耳鼻咽喉科医長、兵庫県立こども病院耳鼻咽喉科医長(兼務)、2009年兵庫県立加古川医療センター耳鼻咽喉科部長/兵庫県立こども病院耳鼻咽喉科部長(兼務)。2016年より現職。

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