5児のママ!講談師・一龍齋貞鏡「1人目の産後は、夫に“冗談じゃねえ!”と大噴火!」
7歳、4歳、3歳、1歳、0歳の5人の子どもを育てている、講談師の一龍齋貞鏡さん。4人目の産後すぐに真打に昇進するなど、子育てに奮闘しながら芸道に励む忙しい日々を送っています。「共働きをするなら、お互いを思いやりながら家事・育児を分担することが大事だと思う」という貞鏡さんですが、1人目の産後は、「ふざけんじゃねえよ!私ばっかり!」と不満が大爆発した経験があるそうで…。全2回のインタビューの後編です。
結婚したばかりのときはいい妻を演じて我慢していましたが、産後はそんなことも言っていられず、爆発しました
――5人のお子さんを育てながら、講談師としても活躍中の貞鏡さんですが、妊娠・出産で高座を休むということで、あせりや葛藤はなかったですか?
貞鏡さん(以下敬称略) ありましたよ。1人目のときはとくに。でも、長男を出産後、半年後に独演会をして高座に上がったとき、幕が開いた瞬間、お客席から「待ってました!貞鏡!」「待ってたよ、お母ちゃん!」と声が上がったんです。そのときに、「子育ても必死になってやってきたけれど、私には帰る場所が家と高座と2つもある」と涙が溢れました。同時に、「こんなに温かく迎えてくれるお客さまたちに、これからも喜んでもらえるように、高座と子育て、両方ともおろそかにしてはいけないな…」と心に決めました。
でも、今は子育てもしながらなので、時間が限られています。子どもを預けている間は精いっぱい仕事をして講談の勉強をする。子どもたちといるときは、子どもたちとしっかり向き合う。そんなふうに、自分の中で区切りをつけながらやっています。
――今は、時々ベビーシッターさんを利用しながら、夫婦2人で育児を? 夫婦の家事育児の分担はどのようにしていますか?
貞鏡 子どもたちは平日小学校と学童、保育園、末っ子は3カ月なので、今は私が家で見ています。でも、公演は土日にあることが多いので、月に数回、べビーシッターの方にお願いしています。
夫婦での分担はきっちりと決めていなくて、お互い、「たりていないところがあったら、気づいてやろう」というスタンスに。
でも、初めての妊娠のときは、夫は家事はなにもできなくて、ほとんど私がやっていました。結婚したばかりのころ、私は、夫には不満や要望を言わないようにしていたんです。夫が仕事から家に帰って来て、くつろげなかったら悪いな…と思って、いい奥さんを演じていました。たとえば、夫が飲み会で帰りが遅いとき、つわりがつらくてもけなげに「お帰り、お水飲む?」と言って出迎えて、内心は「好きなお酒飲み歩いてきて、ふざけんじゃねえ!」って思っていたんです(笑)。言わずに我慢して。
夫から、「なんでこんなに洗濯物がたまっているの?」「なんで最近買ってきたおかずが多いの?」「つわりってそんなに大変なの?」と言われたときも、「ごめんね、つらくて。でも頑張るね」なんて言っていたんですよ。でも、そんな無理が続くわけがなくて(笑)。出産後は、命がけの子育てが始まり、もうそんな余裕もなくなったので、「冗談じゃねえよ!なんで私ばっかり!!!」とバーンと爆発しました。もう大噴火です(笑)。夫はびっくりしていましたね。
――大噴火のあとは、旦那さんも家事をするように?
貞鏡 はい、今では、なんでもやってくれるようになりました。でも、それまでは、夫はごはんも炊いたことがないし、電子レンジのボタンを押すのすら「大丈夫かな…」というレベルだったので、1つやってくれたごとに、「え~すごい!洗濯物たたむのめっちゃ上手!」と大げさにほめるようにしたんです。ほめると気持ちよくやってくれるので。
あと、1人目の出産のとき、夫は何かと、「おれわからないから、任せるよ」っていうような言い方をしていたんですよ。それで、「任せるって、責任をこっちに押し付けないでよ。2人の子なんだから。手伝うって感覚もダメ、一緒に家事・育児していこうね」というのはしっかり伝えました。
共働きで育児をするうえで、お互いを「思いやる」ってすごく大切なことだと思っています。実は私、以前は「思いやり」という言葉がきれいごとみたいで嫌いだったんです。でも、産後に考え方が変わりました。相手に対して、「今ちょっと大変そうだな」と気づかうことがすごく大事だなと。
たとえば、お盆前でお寺が忙しいタイミングで、「夫は今忙しくてちょっとイライラしているな」って思ったら、何も言わずに私が家事を先取りしてやるようにしています。そうするうちに、私が独演会の前にピリピリし出すと、夫もいろいろやってくれるようになったんですよ。
子育ては「ちょっとつらいから、たんま!」ができないから、高座とのバランスが難しい。育児と仕事の両立は試行錯誤しながら。
――なるほど、思いやりと気づかい、大事ですね。家事と家庭の両立で大変なことや、乗り越える工夫などはありますか?
貞鏡 まだまだ試行錯誤しているところです。子どもたちが生まれる前は、多いときは10時開演・13時開演・19時開演の3公演を務めさせていただくこともありましたが、今は保育園に預けてお迎えに行くまでが仕事の時間。シッターさんに頼んで、夜や土日の公演もつとめさせていただくこともあるけれど、夜の公演はほとんどお引き受けできていない状況です。もう少し増やしたい気持ちもありますが、どの程度お引き受けして、どの程度お稽古が必要か…というのが、刻一刻と変わる子どもたちの状況も見ながらしっかり調整できるのか…という不安もあって。
子育てをしていると、「ちょっとつらいから、たんま! 」ができないじゃないですか(笑)。仕事はそうじゃなく調整ができるといったら語弊があるかもしれないけれど、子育てって調整がきかないことのほうが多いですよね。24時間、夜中でも稼働が必要な場合もあるし、自分がインフルエンザで40度近い熱があるときだって子どもたちにごはんを食べさせないといけないし…。まさに命がけですよね。
そんな中でも、初演が決まっていたら、それに合わせて、初めて申し上げる演目の台本を作って覚えて稽古する必要がある。子どもたちの状況も日々変わるから、それを見ながら、どこまでできるのかという判断が難しいところで…。試行錯誤しながら、少しずつ増やしているところです。
――5人もお子さんがいて、高座の仕事もあると、体力勝負ですよね? 著書でもよく「取りあえずバナナを食べている」とありましたが、忙しい中、そうやってエネルギーを摂取している感じですか?
貞鏡 子どもたちに朝ごはん食べさせて、お弁当つくって、保育園に送って…としていると、もう朝の8時半の段階でクタクタなんですよ(笑)。子どもを産む前は、ビールと塩辛で晩酌するのが大好きだったんですが、今の生活では夜、お酒なんて飲んでいたら、もちません。
「食べられるときにしっかり食べる」ことも心がけていて、よくバナナを食べていますね。忙しくて大変なときは、納豆ごはんとか卵かけごはんなどすぐ食べられるものでいいから、添加物が少ない、栄養がとれそうなものを食べるようにして。授乳もしているから、食べないとすぐ痩せちゃって、「大丈夫ですか?」なんて心配されたりするので…。
――著書「貞鏡 講談絵巻本 写真と文で綴る講談師 一龍齋貞鏡半世紀」では、17時以降はスマホやパソコンを見ない…という話もありましたが、そうやって仕事と家庭のメリハリをつけているんでしょうか?
貞鏡 メールなんかを見ちゃうと、すぐに返信しないと…と気になってしまうし、でも、子どもといるときに見ると、打ち合わせの日時なんかを覚えられなかったり、忘れてしまったりすることもあるから、両方がおろそかになってしまいがち。集中できずに、何か落ち度があったら怖いので。それに、スマホを見ているときに子どもたちに呼ばれると「ちょっと待って!」となりますよね。その「ちょっと待って」が増えてしまうのが嫌なんです。私が。だから、子どもたちを寝かしつけたあとにまとめて見て、返信するようにしています。
余裕がないと、子どもたちにもきつくなってしまうことが。子どもたちを大事にするには、まずは自分を大事にしないと!
――こんな母親になりたいというような、理想はありますか?
貞鏡 いろいろ理想は描いてみたりするんですが、なかなか。でも、私が思うのは「母親は常に穏やかに笑顔でいなきゃならない」とかそういう呪縛にとらわれると息苦しくなるので、長い目で見て自然に過ごして
ます。親とても人間だもの。みんな違って、みんないいんです。
あと、子どもたちが何よりも大事ですけれど、それにはまず自分を大事にしなきゃいけない…と思うようになりました。そうしないと、気持ちにも余裕がなくなって、なんでも「子どもたちのせい」という思考になってしまいがち。「ああ、子どもたちのせいで台本覚えられなかった」「子どもたちのせいで看病しないといけないから仕事を休むことになってしまった」と。
でも、全部自分が決めたことで、自分が子どもたちと一緒にいたいと思って、今の生活をしているんです。だから、自分を大事にして、余裕を持って子どもたちに接するほうがいいなって。私の場合、余裕がないと、「やめなさい!」「早くして!」とか、子どもたちにきつい言葉を言ってしまうことが多くなってしまいます。子どもたちが寝たあとに、「なんで今日あんなに強く言っちゃったんだろう。本当にかわいそうなことしちゃったな。もう絶対こんなふうに言わない!」と反省して。でも、夜が明けて朝が来ると、また「ほら早くして~!!!(怒)」から始まって、くり返しになってしまう。だから、ちゃんと自分を大事にして、余裕を持って子どもに接したいと思っています。
――自分を大事にするために、具体的にはどんなことをしているんですか?
貞鏡 私は、今、高座の時間が本当に幸せで、自分へのごほうびのようなもの。お客さまに喜んでもらえて、そのために全力で講談の世界に没頭する。その時間だけは、子どもたちのことは考えないで集中する。高座に立つ緊張感や達成感も、いい刺激に。子育てをするようになってから、高座の時間がますます貴重で、楽しいものになったと実感しています。
自分でオリジナルの講談をつくったりもしているんですが、最近、『育児奮闘講談』という新作を自分で作って独演会で申し上げました。思い通りにいかない子育てのことを笑い話に変えて、それをお客さんに「あはは」って笑ってもらえたとき、「ああ、あの大変さが成仏できたな…」って感慨無量でした。また、プレママパパや、私と同じ育児奮闘中のパパママの心の荷を少しでも軽くしていただけたら…という目論見もありました。『育児奮闘講談』はおかげさまでとても好評で、皆さんに「あるある」「わかる」と共感していただけました。
私のように5人も子どもを育てながら講談をしているのは珍しいから、ありがたいことにメディアなどに取り上げていただく機会も増えました。ただ、ご縁があって5人を授かることができて、私自身、自分もまだまだ育ててもらっている最中ですし、「5人のママです」をアピールして、それを売りにした講談師にはなりたくないし、そう思われたくないという気持ちもあるんです。やはり芸人なので、まずは芸をしっかり磨き、そこを評価していただけたのでしたら本望です。
子どもたちには、大人の価値観を押し付けず、それぞれ好きなことをしてほしい!
――お子さんたちには、将来、講談師になってほしいとか考えていますか?こんな子になってほしい…という思いなどもあれば教えてください。
貞鏡 「お寺を継ぐの?」とか「講談師になるの?」とかよく聞かれることがあるんですが、子どもたちの将来は、子どもたちの好きにしてほしいな…と思っています。講談師になりたいと言われたら、自分も「講談師になりたい!」と思って弟子入りさせていただき講談師になることができたので、反対はできないですよね。でも、自分の子どもってべらぼうにかわいいから、親心が出てしまうとちゃんと指導ができないんじゃないかという不安が。そうなると苦労するのは本人なので、もし子どもが講談師になりたいと望むのなら、ほかの師匠のもとでしっかり厳しい修業をさせていただきたいというのが本音です。
子どもたちにはそれぞれが自分の好きなことをやってほしいと思っているので、習い事もそれぞれが「やりたい」と言ったものをやらせています。だから、水泳、サッカー、ピアノ、体操…など、みんなバラバラ。
子どもたちは、1人ずつそれぞれ違うし、1人ずつ無限の可能性があるから、大人の価値観は押しつけずに、自分が好きなことを大切にしてほしいです。私は、子どもたちが無事に生まれてきてくれて、無事に元気に育ってくれて、それだけで本当に奇跡だと思っているんです。だから、まずはその奇跡の命を何よりも大事にしてもらいたい。そしておのおのの個性を大事に、のびのび育ってほしいなと思っています。
お話・写真提供/一龍齋貞鏡さん 撮影(プロフィール写真)/橘 蓮二 取材・文/渡辺有紀子、たまひよONLINE編集部
旦那さんへの不満大爆発など、育児中のあるある経験をもとに生まれた『育児奮闘講談』は、子育て中のママにこそぜひ見ていただきたい演目。
貞鏡さんのインスタグラムやYouTubeなどでもダイジェスト版を視聴することができるので、ぜひ、checkしてみてくださいね。
一龍齋貞鏡さん(いちりゅうさいていきょう)
PROFILE
1986年東京都渋谷区生まれ。祖父は七代目一龍齋貞山、父は八代目一龍齋貞山。講談とは全く無縁の生活を送っていた大学2年生のとき、たまたま友人と聴きに行った父である八代目一龍齋貞山の講談に心を打たれて、講談師になることを決意。2008年1月に入門し、4月より前座修行開始。2012年2月に二ツ目昇進、2023年10月真打に昇進。現在は5人の子どもの母として芸道と育児の両立に奮闘中。
●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●掲載している情報は2025年5月現在のものです。
貞鏡 講談絵巻本 写真と文で綴る講談師 一龍齋貞鏡半世紀
●一龍齋貞鏡さんが自身の半生記をロングインタビューと豊富な写真でを綴った1冊。3500円(竹書房)