国民生活センターが注意喚起! アームリングつき浮具の逆向き着用で子どもがおぼれる事故が発生!浮具をつけても油断しないで【専門家監修】
国民生活センターは「アームリング付き浮き具による子どもの溺水事故が発生!-浮き具をつけても安心しないで-」のリリースを発表しました。リリースでは、2023年8月、3歳の男の子が、屋外のレジャープールでアームリングつき浮具を商品の想定とは逆向きにつけて使用し、溺水した事例が紹介されています。
公益財団法人日本ライフセービング協会 松本貴行副理事長に、溺水事故の原因や子ども用浮具の選び方について聞きました。
胸側にくる浮具を背中側に装着。溺水して一時は心停止に
国民生活センターのリリースで紹介された事故事例の概要は、次のとおりです。
浮具を誤って背中側につけて溺水事故が発生
2023年8月、3歳の男の子が、アームリングつき浮具を着用し、屋外レジャープールで保護者とともに遊んでいました。保護者がわずかに目を離したすきに溺水して、浮いているところを発見されました。すぐにプールの外に救出されましたが、呼吸はなく、四肢脱力し顔面そう白の状態でした。約3分後、救護所へ搬送し、心停止と判断され、心肺蘇生を開始。4分後に心拍再開が確認されました。その後、ドクターヘリで医療機関に向かい、5日間入院しました。
男の子が着用していたアームリングつき浮具は、本来は浮力体が胸側にくるように着用するものでしたが、男の子は浮力体を背中側に着用していました。注意表示は、英語による表示のみで、日本語の表示などはありませんでした。
背中に浮力体があると、水の中でうつぶせになり、顔が水につかりやすい
日本ライフセービング協会は、国民生活センターからの依頼を受け、この事故の検証実験を行いました。
――実験の内容を教えてください。
松本副理事長(以下敬称略) 実験は、ダミー人形(2歳児想定・体重10kg)を使いました。
アームリングつき浮具の浮力体を背中側につけて、プールに入れると、浮力体が水面上に浮かび上がることで、子どもがうつぶせになりやすい傾向があることがわかりました。
水中でうつぶせになると、鼻と口が水につかり呼吸ができにくくなります。うつぶせからあお向けになる場合は、背中にある浮力体を水中に沈める必要があり、幼児の力では難しいでしょう。
上記で紹介した事故も3歳の子が溺水していますが、うつぶせからあお向けに姿勢を反転できなかったことが原因と考えられます。
一方、浮力体を胸側につけたダミー人形は、落水実験ではあお向けに浮かびやすい傾向がありました。しかし、入水(じゅすい)する角度や、水中ではバランスがとりにくいため、うつぶせになる場合があることもわかりました。子どもは水の中だと容易にバランスをくずすので、浮力体を胸側につけていても注意が必要です。
――バックルなどの留め方も注意が必要でしょうか。
松本 バックルがはずれていたり、ベルトにゆるみがあると、大人がダミー人形の足を持ってうつぶせからあお向けに姿勢を変えようとする実験では、水の抵抗が強く、かなり力が必要ということがわかりました。浮力体の向きだけではなく、バックルやベルトを正しく装着することも大切です。
浮具をつけても過信は禁物! プールではママ・パパがそばで見守って
インターネットで調べると、子ども用の浮具はさまざまな種類のものが売られています。
――インターネットで調べると、背中側に浮具があるものもあります。
松本 背中側に浮具があれば、前述のように、水の中でうつぶせになりやすいの傾向があるので危険です。ママ・パパにはデザインだけで選ばないでほしいと思います。
――アームリングつき浮具は、胸側に浮力体を装着すれば問題ないのでしょうか。
松本 前述のとおり、実験では胸側に浮具がついていても、バランスをくずすとうつぶせになる場合があることがわかっています。
またアームリングつき浮具の中には、立ち姿勢で水に入るとアーム部分がわきのしたで固定されますが、水の中で体を横にして泳ぐ姿勢をとるとアーム部分がずれることがあるので注意が必要です。
――胸側と背中側に浮力体がある、ベストタイプを選ぶといいのでしょうか。
松本 胸側と背中側に浮力体があれば、水に入ったときにバランスよく浮くことはできます。ただしベストタイプだからといって過信は禁物です。
プールでよく使われるビニール製のものは空気がもれていないか、十分にふくらませて浮力があるかきちんと確認してください。体にフィットしない大きめサイズのものを着用させるのも危険です。
――プールで遊ぶときにもライフジャケットを着用したほうがいいのでしょうか。
松本 まずはプールによって定められた浮具などを確認しましょう。安全なのはライフジャケットですが、ライフジャケットにはさまざまな種類があります。品質が確かなもの、体のサイズに合ったものを選び、使用説明書をよく読んで正しく着用することが大切です。
プールでの溺水事故を防ぐには、子どものそばに付いて目を離さないことが第一
日本ライフセービング協会 松本副理事長は、子どもを溺水事故から守るには浮具の正しい装着と、保護者が常にそばに付いて見守ることが第1だと言います。
――プールでの溺水事故を防ぐために、浮具以外で注意することを教えてください。
松本 ママ・パパには溺水事故は、ほんの一瞬、目を離したすきに起きるということを知ってほしいです。
オーストラリアのプールでは「KEEP WATCH(見守り続けて!) ライフガードは、ベビーシッターではありません!」というポスターなどがいたるところに貼られています。
プールなどで遊ぶときは、子どもがおぼれるような状況になる前に、すぐに手を差し伸べられる距離感で、ママ・パパが必ずそばに付いて見守ることが第一です。
――「人は静かにおぼれる」と言いますが、子どものすぐそばにいないと気づけないものなのでしょうか。
松本 実際にあった海外の溺水事故では、庭のプールで子どもがおぼれているのに、保護者はまったく気がつかず、プールの横で庭掃除をしているケースもありました。上の子が「おぼれている!」と教えて、初めて保護者が気づいて、プールに入って助けました。
プールのそばに保護者がいても、子どもを見ていなければ溺水には気づかないものなんです。
また幼児は水の中でも、陸地を歩くような感覚で歩きます。水の中だと、水の抵抗で足が思うように運べずに上半身だけが前傾姿勢になってバランスを崩したりして、おぼれてしまうのも幼児の特徴です。
浅いプールでも溺水事故は起きます。悲しい事故を防ぐためには、レジャープールでも、家庭用の子どもプールでも遊ばせるときには、そばに付いて目を離さないことをまずは徹底してください。
お話・監修・写真提供/公益財団法人日本ライフセービング協会 松本貴行副理事長 協力・写真・図提供/独立行政法人 国民生活センター 取材・文/麻生珠恵 たまひよONLINE編集部
松本貴行さんは、子どもの浮具を選ぶときは値段やデザイン性ばかりを重視しないで、安全性を第1に考えて選び、正しい使い方をしてほしいと話しています。
松本貴行先生(まつもとたかゆき)
PROFILE
日本体育大学 体育学部健康学科卒。横浜国立大学大学院 教育学研究科修士課程 修了。成城学園中学校高等学校保健体育科教諭。内閣府消費者庁消費者安全調査委員会 専門委員。2019年より公益財団法人日本ライフセービング協会副理事長を務める。溺水事故はレスキュー(救助)よりも、「いかに事故を未然に防ぐか?(事故予防)」が最重要であると、日本で初めて水辺の安全を誰もが学べるICT教材「e-Lifesaving」を開発。
●記事の内容は2024年7月の情報であり、現在と異なる場合があります。