2人の子をもつ小児科医。小学校受験を検討するも、進まない勉強にイライラ…。子どもの「認知特性」を知って自分の間違いに気づかされた【小児科医】
外からインプットした情報を整理、理解、記憶し、表現する際に3つに分けられる「認知特性」を長年研究している、小児科専門医の本田真美先生。先生には21歳と17歳の子どもがいます。2人の認知特性を生かした本田家流の子育てについて詳しく聞きました。
全4回のインタビューの2回目です。
言葉で表現する問題は大苦戦。その一方、立体の問題はだれよりも得意な息子
本田先生が研究している認知特性は、外から入ってくる情報を頭の中で理解、整理、記憶、表現するときに、その人が「やりやすい」と感じる方法のことです。
大きくは言語優位、視覚優位、聴覚優位の3つのタイプに分かれます。
――本田先生の21歳の長男は、見た情報を処理するのが得意な「視覚優位」、17歳の長女は、聞いた情報を処理するのが得意な「聴覚優位」。2人の子育てで印象に残っていることを教えてください。
本田先生(以下敬称略) 私の認知特性は、文字を読んで得る情報を処理するのが得意な「言語優位」で、夫は「視覚優位」です。認知特性のタイプによって、ものの理解のしかたや表現方法がすごく異なることを、「視覚優位」の夫と結婚したことで実感したのですが、息子を育てる中で、それをさらに感じました。
5、6歳ごろの息子は言葉を介して説明するのが何より苦手。私が質問したことにうまく答えられないと、絵に描いて「こうなんだよ!」と私に説明していました。
実は、息子に小学校受験をさせたくて、幼稚園のとき「お受験」のための塾に入れたんです。小学校受験のための勉強は、先生の話を聞いて問題を解く課題が多いため、耳で聞いた言葉を理解し、考え、言葉で答えることが大の苦手だった息子は、とてもとても苦戦していました。そんな息子を見て私は「なんで何回やっても答えられないの!?」とイライラ・・・。
――小学校受験の勉強の中で、息子さんがだれよりも得意な分野があったとか。
本田 立体的に積んだ積み木の数を数える問題や、展開図、回転図形を答える問題など、視覚的なイメージで答える問題は、だれよりも早く答えて先生をびっくりさせていました。
息子は視覚優位の中でも、物を立体でとらえることが得意なタイプなので、積み上げた積み木の見えない部分の数を数えるなんて、なんでもないことだったようです。
――息子さんは現在、デザイナーになる勉強をしています。
本田 予想どおり、小学校受験は散々な結果で、中学校受験も望むような結果は得られませんでした。でも、絵を描くことが大好きな息子は、だれも教えていないのに、小さいころから奥行きのある絵を描いていました。
そして小学生になると洋服をデザインすることが大好きに。大学生の今は、洋服のデザイナーになるという夢のために、勉強を続けています。
1枚の布(平面)が洋服(立体)になるイメージが頭の中にくっきりと浮かぶので、型紙を作らなくても、イメージどおりの洋服が作れるのだそうです。
日本語で何かを説明するのは下手。でも、耳から英語を聞き取る力に秀でた娘
――小学生のころ、息子さんより娘さんのほうが絵を描くのが上手だったと聞きました。
本田 そうなんです。広告デザイナーの夫も、「娘の絵にはセンスを感じる」といっていました。ところが、娘本人は絵を描くことに興味がなかったので、成長とともに絵を描かなくなりました。
――得意なことはうまくできるから、好きになりそうに思いますが、必ずしもそうではないということですか。
本田 認知特性から考えたら得意なこと、好きになりそうなことも、本人の興味やモチベーション、置かれた環境などによっては、その能力が伸びていかないことがあります。娘の絵のセンスはその典型でした。
認知特性は子どもの興味がありそうなこと、得意なことを見つける手がかりになります。でも、重要なのは、子ども自身がそのことを「やりたい」と望むかどうか。娘を見ていてそれを強く感じました。
――「やれば得意なのにもったいない」と親は思ってしまいそうです。
本田 その気持ち、親としてとてもよくわかります。でも無理にやらせてもその才能は伸びていかないし、子どもにとっては苦痛になるだけ。親子関係がこじれてしまうかもしれません。やるかどうかを決める選択権は子どもにあるんです。
――娘さんは英会話が得意になり、高校からはインターナショナルスクールに通っています。
本田 中高一貫の女子高に通っていたのですが、中学生のとき耳から英語を聞き取るのが得意だと気づき、どんどん英語力がアップ。彼女の場合、英語を言語として論理的に文法を理解するというより、音楽のように理解、吸収しているように見えます。文法は得意ではなさそうですが、聞き取った英語をそのまま発音できるから、発音はすごくきれいです。
息子同様、言語での認知は苦手。日本語で何かを説明させると、要領を得ないことが多いです。娘にとっては英語のほうが心地よくて話すのもラクらしいので、海外の大学への進学を検討しているようです。
やりたいことが見つかると、子どもは1人で歩いていけるようになる
――認知特性を知ることは、子どもにとってどのようないいことがあるでしょうか。
本田 人にはさまざまな能力が備わっているので、認知特性だけで、その子のすべてが決まるわけではありません。でも、認知特性は人生を切りひらく上で重要なカギになると私は考えています。自分の認知特性を知っていれば、何かアクションを起こすときや進路を選ぶときなどに、自分がやりやすい方法を見つける判断材料になるからです。
また、自分は何が苦手なのかもわかるので、その部分を周囲の人にサポートを求めるなどして、困難にも立ち向かいやすくなります。
1つでも得意なことがあれば、人はそれを武器にして人生を切りひらいていけます、その「一芸」を見つけるヒントになるのが認知特性です。
自分のやりたいことが見つかると、子どもは自分の足で歩いていけるようになります。
――本田先生は認知特性の研究と子育てを同時にしてきました。子育てにおいて、認知特性を知っていてよかったと思うことはありますか。
本田 子どもが選ぶ道を応援できるようになったことです。小学校受験のための勉強は視覚優位の息子には向いていなくて、苦痛でしかないと気づけたのは、息子の認知特性を理解したからです。
息子の小学校受験に取り組んでいたころ、私は自分が描いた理想像や価値観を、息子に押しつけていたと思います。それを軌道修正し、子育てを見つめ直すことができたのは、認知特性のおかげだと思っています。
私のおなかから出てきたのに、息子も娘も私とは全然違う特性がある。そのことが理解できたら、子どもたちを認め、肯定できるようになりました。
子どものことをより深く知るための方法の一つに認知特性がある、ということを知っていると、子育てが今より楽しくなるんじゃないかと思います。
お話・監修・写真提供/本田真美先生 取材・文/東裕美、たまひよONLINE編集部
認知特性は子どもが自分のやりたいことを見つけるカギになり、ママ・パパには子育てのあり方を考えるヒントをくれるもの。認知特性を生かした子育てで、子どもの生きる力を育んでいってみませんか。
インタビュー3回目は、子どもの認知特性から考える、「言いたいことが伝わらない」を解決する方法についてです。
本田真美先生(ほんだまなみ)
PROFILE
医学博士、小児科専門医、小児神経専門医。あのねコドモくりにっく院長。東京慈恵会医科大学卒業。国立小児病院にて研修後、国立成育医療センター、都立多摩療育園、都立東武療育センターなどを経て、2016年みくりキッズくりにっくを開院。2024年8月より現職。2022年に認知特性に関する研究を行う「本田式認知特性研究所LLP」を設立。
『子どもの「ほんとうの才能」を最大限に伸ばす方法』
絵を描くのが得意、歌や演奏が上手、絵本を読むのが好き・・・などなど、子どもの好きなこと、得意なことと関係している 「認知特性」。認知特性を知ると、子どもへの理解が深まり、また、ママ・パパ自身の認知特性を知ることは、夫婦間のコミュニケーション力アップにもつながる。本田真美著/1650円(河出書房新社)
●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2024年9月の情報であり、現在と異なる場合があります。