日本の子どもの睡眠は危機的状況!?「脳をはぐくむために、子ども時代は睡眠を最優先で考えてほしい」【乳幼児睡眠コンサルタント】
0〜2歳の乳児期は、寝かしつけや夜泣きに悩んでいたりするママ・パパたちが多いようです。しかし、3歳以降になると「お昼寝はいつまで?」「1人寝の練習はいつから?」といった新たな悩みが出てくるよう。そんな3~5歳ごろの睡眠の悩みについて、アメリカ・ニューヨークを拠点に活動する、乳幼児睡眠コンサルタントの愛波あやさんに聞きました。
全2回インタビューの1回目です。
日本の子どもは寝不足? 日本とアメリカで異なる睡眠への関心度
――著書『忙しくても能力がどんどん引き出される 子どものためのベスト睡眠』では、「ニューヨークで教育に力を入れている家庭は睡眠を大切にしている」とあります。
愛波さん(以下敬称略) ニューヨークにはいろいろな人種の方、いろいろな考え方の人が住んでいるので、もちろんすべての家庭がそうというわけではありません。ですが、教育に力を入れている家庭では「睡眠時間を優先しないと学業に影響する」という考え方がしっかりと根づいています。そのような家庭では、とくに子どものうちは睡眠時間をしっかりとることが大切で、自己肯定感の向上や学習能力の面でも確実にプラスになると考えられています。
たとえば、サッカーなどの習い事も、夜遅い時間まで練習があるクラブは避ける人も。たとえば練習時間が1時間というクラブでも、開始が19時では、練習後に帰宅して、シャワーを浴びて夕食を食べたらもう21時半ごろになってしまいます。「それでは子どもの睡眠時間が減ってしまう。じゃあこのクラブはやめておこう」「練習時間が早いこっちのクラブにしよう」といったふうに考える親が多い印象です。
でも、日本では小学校の低学年から夕食のお弁当を持って21時ごろまで学習塾にいる・・・、という子も少なくないですよね。その生活では、やはり睡眠時間がたりなくなりがちです。この問題は、会社員が当たり前のように残業をするなど、日本社会全体の長時間労働問題を軽視する雰囲気が根底にあるように感じます。ここ数年で少しずついい方向へ変わってきていると思いますが、「子どもの睡眠時間を優先して考えること」がまだ常識と言えるほどには浸透していないのではないでしょうか。
――3〜5歳の子どもの「いい睡眠」がとれている目安と、この時期に多い睡眠の問題について教えてください。
愛波 朝、1人で機嫌よく起きられることが1つの目安です。親がたたき起こさないと起きられないのは、十分に睡眠がとれていない証拠です。たたき起こされた子どもはだいたい不機嫌で、朝食もなかなか食べてくれなかったり、行動も遅かったりして、親もイライラしがちですよね。未就学児のうちは親が保育園や幼稚園に連れて行くのでそれでもまわるかもしれませんが、問題は小学校に入ってからです。眠い、朝食も食べたくない、学校へ行きたくない・・・、といった悪循環に陥ると、学習意欲そのものが低下してしまいます。
もう1つの目安は、夜中に目を覚まさないことです。本来、3〜5歳は夜通し寝られる年齢ですが、この年齢でも抱っこや添い寝じゃないと寝られなかったり、夜中に何回も起きてしまったりする場合は、睡眠環境や生活リズムの見直しが必要でしょう。まとまった睡眠を取れているということは、成長ホルモンの分泌や体を休めるという点でもとても大切です。
子どもの睡眠の質を高めるためにできることは? 意外と見落としがちで有効なのは?
――子どもの睡眠の質を高めるために、家庭でできる対策はありますか?
愛波 意外と気にしている家庭が少ない印象がありますが、実は「室温」はとても重要です。私はよく、子どもの睡眠で悩んでいる人に「今日から室温を1度下げてみて」とアドバイスしています。とくに夏は室温が高くなりやすいので、涼しい環境をつくれているか、注意してみてほしいですね。
あとは、春・夏は朝4時ごろから外が明るくなるので、遮光カーテンなどで部屋に光が入らない工夫をすることも大切ですよ。
よく「おふろや夕食の順番がよくないのかも」と気にする人がいますが、実は順番はあまり関係ありません。大切なのは、「寝る前のルーティンがしっかり決まっている」かどうかで、おふろに入ったあとに夕食を食べるのでも、夕食を食べたあとにおふろに入るのでも、どちらでもOKです。ただ、入浴直後よりも、入浴後1時間〜1時間半の体温が下がってくるタイミングで寝かしつけができるほうがいいですね。
――おふろに入らず子どもが寝てしまった日は、どうしたらいいでしょうか?
愛波 私は「そのまま寝かせてOK」と伝えています。おふろは絶対に入れないといけないものではないですし、「今日はシャワーだけ」という日があってもいいです。子どもが疲れている日は、おふろよりも早く寝かせることを優先してほしいなと思います。
お昼寝は何歳まで続ける? 知りたい卒業のタイミング
――睡眠が大切ということは、お昼寝も大切なのでしょうか。
愛波 一番大切なのは夜の睡眠で、夜の睡眠だけではたりない年齢の場合に、質のいいお昼寝が必要ということになります。著書には「3歳になるとだいたい半数ぐらい、4歳では7割ぐらい、5歳になると9割ぐらいの子がお昼寝をしなくなる」と書きました。子どもは成長に合わせてお昼寝を卒業していくものです。ただし、お昼寝は個人差が大きくて、「同じ年齢でもまだお昼寝が必要な子もいれば、もう必要ない子」もいます。
たとえば夜12時間たっぷり寝ている3歳児を親が頑張ってお昼寝させようとしても、寝ないことが多いです。「まだ3歳なのに全然お昼寝をしてくれなくて・・・」と悩まれる方もいますが、私は「夜にしっかり眠れているから大丈夫ですよ!」と伝えています。
逆に、お昼寝をしていることで就寝時間が22〜23時ごろになってしまう場合は、「お昼寝をやめてみては?」とアドバイスします。夜に寝ない分をお昼寝で補うのではなく、お昼寝を短くして、夜にぐっすり寝てほしいです。始めのうちは、子どもが疲れて19時より前に眠くなるかもしれませんが、体力がついてくると19〜20時ごろに寝られるようになっていきます。
5歳になると9割ぐらいの子がお昼寝を必要としなくなりますが、お昼寝が必要な子も1割います。繰り返しになりますが、体力も、必要な睡眠の量も個人差がとても大きいです。その子に合った対応ができるとベストですね。
――保育園でお昼寝の時間が決まっていて、調整が難しいこともあります。
愛波 保護者のお仕事の関係で夜どうしてもそんなに早く寝かせられない場合には保育園のお昼寝時間も貴重な睡眠時間です。
でも、もし、子どもが夜寝ないことで悩んでいるならば、お昼寝のときに1時間くらいで起こしてもらって、お気に入りの本を読んでいてもいいようにしてもらうとか、お昼寝の時間を短縮する方法を一度保育園に相談してみてもいいと思います。時間があれば降園後に外で遊ばせるのも効果的です。
1人寝の練習はいつスタートしたらいい? 子どもが安心できる導入方法も
――日本では乳幼児期は添い寝をしている家庭が多いようです。小学校入学ごろまでには1人寝をさせたほうがいいのでしょうか?
愛波 私自身は「1人寝をさせないといけない」とは思っていません。ですが、子育て中のママ・パパにヒアリングをすると、「学校の宿泊行事までに1人寝ができていないと不安」と考えている人はとても多いですね。
私は、1人寝の練習は、「いつ始めてもOK」と考えています。たとえば親も子もしっかり睡眠がとれていないときは、親子別々に寝ることを検討するタイミングだと思います。添い寝をしていて子どもが夜中に何度も起きるとか、子どもの寝相で親が夜中に起こされるといったケースなどがそうですね。それ以外でも、親が子に1人寝をさせたいと思い始めたり、子どもが自分から「1人で寝たい」と言い出したりした場合も、いい機会だと思いますよ。
――1人寝の練習は、具体的にどんなことから始めたらいいでしょうか?
愛波 子どもが好きなベッドシーツやぬいぐるみを一緒に買いに行くことをおすすめしています。親が一方的に買い与えるのではなくて、子どもが自ら「これと一緒に寝たい」と思えるものを買ってあげることがポイントです。
あとは、「◯曜日から練習しよう」と口頭で伝えても子どもにはわかりにくいので、カレンダーを一緒に見ながら「この日から1人寝の練習をしてみようね」と毎日伝えていくのもいいと思いますよ。
実際に1人寝をさせるときは、子どもが選んだシーツやぬいぐるみなどをセッティングして「ここがあなたの寝る場所だよ」ということをしっかり伝えてあげてください。そしてベッドの隣に親が座って、「あなたが寝るまで絶対にここにいるからね」と伝えて、見守ります。少し慣れてきたら、見守る前に「おやすみなさい」をしたら「ちょっと待っていてね」と伝えて、親がいったん寝室から離れ、5分後くらいに寝室に戻ります。寝室から離れる時間を徐々に10分、15分と長くしていくと、自然な形で1人寝ができるようになっていきますよ。徐々に親がフェードアウトしていくのがいいと思います。
――子どもがまだ親に添い寝を求めるときは、どうするといいでしょう?
子どもが「ママ(パパ)と一緒に寝たい」と言ったときは、カレンダーを見ながら「◯曜日は一緒に寝ようね」と約束してあげると安心できると思います。あとは夜通し1人で寝ることができた日には、「おかげでママ(パパ)もよく寝られたよ。ありがとう!」と翌朝たくさんほめてあげることが大切です。
日本の家庭では、布団を川の字に並べて親子一緒に寝ている、というケースが多いですが、その場合、子どもからすると、どこからどこまでが自分の寝る場所かがわかりにくくなってしまうんですね。ベビーベッドの卒業後はそのまま添い寝に移行…という家庭が多いですが、たとえば子ども用布団に囲いをつけてあげるのでもいいので、親と子どもの寝るスペースをはっきり区別してあげることをおすすめしています。
お話・監修/愛波あやさん 取材・文/高本亜紀、たまひよONLINE編集部
睡眠は個人差が大きいからこそ比較がしにくく、親も「うちの子の場合はどうしたらいいの?」と悩みがつきないもののようです。
インタビューの2回目は、休日明けの子どもの時差ボケや、親の睡眠不足について詳しく聞きます。
●記事の内容は2024年9月の情報で、現在と異なる場合があります。
『忙しくても能力がどんどん引き出される 子どものためのベスト睡眠』
幼児〜中高生、とくに小学生の睡眠にスポットを当てて、勉強にもスポーツでも最大限の能力を発揮でき、賢い子に育つための睡眠メソッドを紹介。とくに中学受験のための通塾などで睡眠時間の確保が課題となっている家庭は必見! 愛波あや著・三池輝久監修/1650円(KADOKAWA)