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「うんちの呪い」が怖すぎる…!一度かかると治療に数年かかることも。「慢性機能性便秘症」とは?【専門医】

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健康な消化子供の概念, プロバイオティクスとマイクロバイオーム腸のプレバイオティクス.
●写真はイメージです
Elena Nechaeva/gettyimages

大阪母子医療センター消化器・内分泌科副部長の萩原真一郎先生は、便秘が慢性化してこじれるメカニズムを「うんちの呪い」と名づけました。「うんちの呪い」がかかった子どもの多くが、移行してしまうという「小児慢性機能性便秘症」。その治療方法などについて聞きました。
全2回のインタビューの後編です。

▼<関連記事>前編を読む

うんちがたまる→かたくなる→痛くて出すのをがまんする・・・これが「うんちの呪い」

「うんちの呪い」を図式化したもの。うんちを出すのがまんすることで、どんどん「呪い」が悪化していきます。(図版作成:萩原真一郎先生)

――「うんちの呪い」という名称は萩原先生が考えたものですか?

萩原先生(以下敬称略) 2024年日本小児科学会のシンポジウムで、「うんちの呪い」を初めて使いました。といっても、実は私の上司が時々「呪い」という言葉を使っていたんです。「こんなことが起きるなんてまるで〇〇の呪いだ!」っていう感じで。
便秘が重症になると、あたかも「呪い」がかかったかのように、排便そのものがトラウマになり、本人、ママ・パパの日常生活に大きく影響を及ぼすことがあります。便秘をほうっておくと怖いことになる、その「呪い」を便秘治療で断ち切ることが大事ということを、ママ・パパに知ってもらうにはぴったりの言葉だなと思い、採用させてもらいました。

――子どもに「うんちの呪い」がかかるメカニズムを教えてください。

萩原 直腸の中に長い間うんちがたまっている(=便秘になる)と、うんちの水分が直腸に吸収され、うんちがかたくなります。すると、うんちを出すときに痛みを感じるようになるので、子どもはうんちを出すのをがまんしてしまいます。そして、しばらくがまんしていると、便意がなくなります。
でも、うんちは直腸内に残ったままですから、いすわったうんちはますますかたくなり、その重みで直腸が広がっていきます。

かたい便がたくさんたまることで、次に便意が起こり、うんちを出そうとしたとき、さらに強い痛みを感じ、またもや出すのをがまんする…という悪循環に陥ってしまうんです。しかも、常にうんちがたまっていると、直腸が「うんちがたまった」と感じられなくなり、便意が起こらなくなってしまいます。
この一連のサイクルが、私が名づけた「うんちの呪い」です。

――「うんちの呪い」がかかりやすい年齢はありますか。

萩原 離乳食開始以降は、どの年齢でも可能性があります。でもとくに、トイレトレーニングの最中で、トイレでうんちをすることに抵抗感や恐怖心を抱いている子どもは、「うんちの呪い」がかかりやすいと言えます。

――トイレトレーニング中に、子どもはどんなことを「怖い」と感じるのでしょうか。

萩原 さまざまな原因が考えられますが、トイレでうんちを出せずに怒られた。何らかの理由で一時的に便がかたくなり、排便時に痛い思いをした。この2つが大きな原因になるようです。「うんちをするとしかられる」「うんちをするのは痛い」と感じることで、うんちをすることに恐怖心を抱くようになります。

「呪い」と聞くと、ちょっとコミカルな印象を受けるかもしれませんが、「うんちの呪い」にかかった子どもの多くは、「小児慢性機能性便秘症」という病気に移行しています。
これは、週2回以下しか排便がない日が1カ月以上続く病気。薬によって治療をしないと治りません。

伸びきった腸が元に戻るには時間がかかる。治療を中断すると再発することも

――小児慢性機能性便秘症の治療について教えてください。

萩原 まずは腸にたまったうんちを出しきって腸を空にすることが重要。グリセリン浣腸や下剤でうんちを出すことが治療のスタートになります。

その後は、うんちをやわらかくして出しやすくする薬を服用します。2歳以上の子どもであれは、私はモビコールという薬を処方することが多いです。これを1日1回もしくは2回服用すると、数日でうんちがやわらかくなります。ただ、かなり塩からい味がする薬のため、水に溶くと非常に飲みにくいのが難点。乳酸菌飲料やジュースなどに溶くと比較的飲みやすくなります。

うんちが出しやすいやわらかさになっても、長い期間便秘だった子どもの直腸は、便意を感じにくくなっていて、自力でうんちを出すことが難しくなっています。そのため浣腸を定期的に使い、強制的に排便を促すことも多いです。

――小児慢性機能性便秘症の治療は長期にわたることが多いと聞きます。たまったうんちを出して、腸内を一度空にしただけでは治らないのですか。

萩原 長期間うんちがたまった状態だった直腸は、伸びきったゴムのようになっています。正常な子どもの直腸の口径は3㎝前後ですが、小児慢性機能性便秘症の子どもの場合は4㎝以上になることも。たまったうんちのせいで広がってしまうんです。そんな直腸が本来あるべき状態に戻るには、時間がかかります。

便秘が多少改善しても、自己判断で薬をやめたり量を減らしたりすると、拡張した直腸が本来の状態まで戻ることができず、便秘が再発してしまうことがあります。主治医の指示に従い、あせらずに治療を続けることが重要です。

――萩原先生が小児慢性機能性便秘症の治療をしている子どもたちの中で、最も長い治療期間はどれくらいですか。

萩原 大阪母子医療センターで私が治療した中では、今のところ2年が最長です。この子は、浣腸を使わずに自力でうんちを出せるようになるまでに2年かかりました。でも、現在もうんちをやわらかくする薬は服用しているので、「何の助けもなしにうんちを出せる=うんちの呪いから解き放たれた」と言えるようになるには、まだ時間がかかりそうです。

――「浣腸や下剤はクセになってしまうので使いたくない」と考えるママ・パパもいます。

萩原 浣腸や下剤もしくは緩下剤は、便秘治療の中心になるものです。受診した保護者には「浣腸や下剤がクセになることはなく、これらの薬を使わないことで、便秘がクセになります」とお伝えしています。みなさん納得してくださいます。

便秘症は病気。過剰な心配は不要だけれど、気になるときは早めに受診を

――ママ・パパが抱きがちな、便秘に関する疑問について教えてください。まず、親が便秘がちだと、子どもも便秘になりやすいですか。

萩原 子どもの便秘は、遺伝的な要因が関係している可能性があるといわれています。でも、要因はそれだけではありません。食物繊維が少ない食生活、不規則な生活、牛乳アレルギーなども便秘に影響することが知られています。
しかも、どのような体質だと便秘になりやすいかはわかっていないので、ママ・パパが便秘になりやすいとしても、そのことだけで子どもの便秘に神経質にならなくて大丈夫ですよ。

――大腸が長いと便秘をしやすいと聞いたことがあります。真偽のほどはいかがでしょうか。

萩原 明確なエビデンスはないと思います。ちなみに、日本人成人(男女)の大腸の長さの平均は154.7cmという報告があり、長いと2mを超す人もいます。
子どもの場合は海外からの報告になりますが、0歳~2歳は約52cm、4歳~6歳は約73cm、9歳~11歳は約95cm。成長とともに大腸の長さが伸びていき、身長の伸びが止まるころに、腸の長さが伸びるのも止まると考えられます。

――うんちをもらすようになったときも、便秘の可能性があるとか。

萩原 「便失禁」といいます。便秘が続くと、かたくなったうんちの上に、新しくできたやわらかいうんちがたまります。すると、かたいうんちのすき間からやわ らかいうんちがもれ出て、パンツを汚してしまうことがあります。
その様子を見た保護者は「下痢をしてトイレまで間に合わなかったんだ」と考えることが多いのですが、実際は便秘をしているのです。

――子どもが1人でトイレに入るようになると、うんちの状態を確認しづらくなります。

萩原 小さいうちから、家庭内でうんちのことを話せる環境を作ることは大切だと思います。子どもが1人でトイレに行くようになったら、「どんなうんちが出たか教えてね」と、お願いしてみるのはどうでしょうか。
職業柄もあるとは思いますが、現在17歳、13歳、10歳の私の子どもたちは、今でも便秘など腸の調子が悪いときは教えてくれます。

――「便秘くらいでは受診しにくい」と考えるママ・パパもいるようです。海外ではどうでしょうか。

萩原 欧米では、子どもの便秘は機能性消化管障害の1つと認知され、治療するのが当たり前になっています。日本でも小児科医は、便秘症は治療すべき重要な病気だと認識しているはずです。でも残念ながら、一般にはまだ「便秘は病気ではない」と思われていることが多いような気がします。実際、当センターを受診した保護者の中には、「便秘くらいで小児科を受診するのは気がひけて、長年相談できずにいた」という人もいます。

子どもの便秘が気になったらそのままにせず、ぜひ、かかりつけの小児科医に相談してください。

お話・監修・図版提供/萩原真一郎先生 取材・文/東裕美、たまひよONLINE編集部

子どもに「うんちの呪い」がかからないようにするには、便秘かなと思ったら早めにケアをすることが大切。それでも「呪い」がかかってしまったら、主治医の指示どおり、根気よく治療を続けることが大切です。

萩原真一郎先生(はぎわらしんいちろう)

PROFILE
大阪母子医療センター消化器・内分泌科 副部長。2004年東京慈恵会医科大学卒業。2010年埼玉県立小児医療センター総合診療科、2016年UCSF research fellow、2018年大阪母子医療センター消化器・内分泌科医長を経て、 2020年より現職。専門領域は 小児消化器・肝臓・栄養、炎症性腸疾患、消化管内視鏡。3人の子の父親。

●記事の内容は2024年10月の情報であり、現在と異なる場合があります。

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