重症化しやすい感染症から赤ちゃんを守るために、妊娠中のママができること【小児科医】
「小児科医・太田先生からママ・パパへ、今伝えたいこと」連載の#46は、妊婦が接種するワクチンについて。妊婦が接種するワクチンは2つに分類されますが、2024年1月に日本国内での製造が承認され、2024年6月から発売されたRSウイルスワクチン「アブリスボ®」は、妊婦に接種することで、母体が作り出した抗体が胎盤を通しておなかの赤ちゃんに移行するしくみ。「母体にワクチン接種をすることで、生まれたばかりの赤ちゃんを感染症から守る、という時代になってきた」と太田先生は言います。
妊婦に接種するワクチンは、母体を守るワクチンと赤ちゃんを守るワクチンに分類
かつては、妊娠中の母体にワクチン接種をするのはダメと言われていましたが、今は様変わりしていて、妊娠中だからこそ接種したほうがいいとされるワクチンが出てきました。
妊婦が接種するワクチンは、妊婦自身を感染症から守るワクチンと、出生後の赤ちゃんを感染症から守るワクチンに分けられます。
母体にワクチン接種をすることで、生まれたばかりの赤ちゃんを感染から守る、という時代になってきたのです。
ただし、妊娠中に生ワクチン(※)を接種できないことに変わりはありません。
※生ワクチン/生きたウイルスや細菌の病原性を、症状が出ないように免疫が作れるぎりぎりまで弱めた製剤
母体を守るワクチンは、「インフルエンザ」と「新型コロナ」
15年前に新型インフルエンザが流行したとき、妊婦でも安全にワクチン接種ができることを私たちは経験しました。今では積極的に接種されていますね。
新型コロナウイルスワクチンも妊婦を守るワクチンです。
どちらも母体が感染しない、感染しても軽症で済むことを期待しての接種です。
妊婦が接種して赤ちゃんを守るワクチンは、「RSウイルス」と「百日せき」
生まれたときには赤ちゃんに免疫がついているように、というワクチンです。
この度新しく国内での製造が承認されたRSウイルスワクチンは、妊婦に接種して母体内の免疫を上げて、出産するときには赤ちゃんの免疫状態を高めて、新生児期から乳児初期の間に感染から守ることができます。接種時期は妊娠24週~36週(推奨は28週~36週)です。
もう一つは、わが国ではまだ取り入れられていませんが、百日せきのワクチンです。欧米では妊娠中に接種して、生まれた赤ちゃんをワクチン接種開始前の感染から守っています。接種時期は妊娠27週~36週です。
低月齢でかかると入院治療が必要になることもあるRSウイルス感染症、そのワクチンとは?
RSウイルス感染症には、2歳までにほどんどの子どもが一度はかかるといわれています。特効薬はなく、症状をやわらげる対症療法が基本です。かかると細気管支炎や肺炎など呼吸が苦しくなることが多く、生後6カ月までだと入院治療が必要となることが多くなります。
その予防としてワクチンが使えるようになったことは朗報です。
ワクチンは母体に接種します。接種は主に産婦人科で行われていますが、小児科でも接種できるそうです。任意接種なので、接種料金が3万円くらいと少々高いです。それでも接種を希望される妊婦が増えていると聞きます。「重症になりやすい感染症だと聞いている」とか「上の子がかかってつらい思いをさせたので、おなかの中の子は守りたい」などというのが希望理由だそうです。
妊娠24週~36週までの妊婦が接種対象で、筋肉内注射となります。
赤ちゃんがかかると重症化しやすい百日せき、そのワクチンは?
百日せきは、出生後まもなくかかると無呼吸や脳症などに重症化し、中には命を落とすことになることもある怖い病気です。現在日本では生まれた赤ちゃんへのワクチン接種は、生後2カ月から行われていますが、早いとその前にも罹患(りかん)することもあります。
赤ちゃんには乳児期に4回接種しますが、免疫はそんなに長くは持たないことがわかってきました。5歳になると、もうかかってしまうくらいまで免疫が下がっています。そして、それ以上の年齢では年々免疫は強くなってきます。5歳で下がっていた免疫がそれ以上の年齢では上がっている理由は、どの世代でも百日せきにかかるけれど、乳児ほど重症化はしないので、多くの人は、知らないうちにかかって、いつのまにか治っているからです。
生後2カ月の予防接種を受ける前に赤ちゃんがかかってしまうのは、知らないうちにかかって症状が重くない人がいるからです。
欧米・南米では、赤ちゃんが生まれたときには免疫を持っておかせようと、母体へのワクチン接種が行われています。
また、生まれてすぐの赤ちゃんが百日せきに感染するのを防ぐために、免疫が下がっている小学校就学ごろに5回目のワクチン接種、その後の二種混合接種時期にも、百日せきの入った三種混合ワクチンに代えて接種したり、いろいろ努力しています。
しかし、いちばん効果が高いのは母体へのワクチン接種だろうという研究結果が出ているそうです。
百日せきは、新型コロナウイルス感染症が下火になってから中国や欧米で流行が起きています。今治療に使っている抗菌薬に耐性を持つ菌の割合が高くなっているとも言われています。そろそろ日本でも何か手を打たないといけない時期かもしれません。
わが国でも、母体に接種して生まれてきた子への感染を防ぐことができるRSウイルスワクチンが使えるようになりました。海外では、赤ちゃんを百日せきから守るため母体へのワクチン接種が行われています。ほかにも出産時前後に感染を起こしやすい菌に対してのワクチンも開発されているとか。今後ますます母体に接種するワクチンが増えていきそうです。
構成/たまひよONLINE編集部
予防接種とは、毒性を弱めた病原体や毒素をワクチンで投与しておくことで、その病気にかかりにくくすること。赤ちゃんを重症化しやすい感染症から守るために「妊婦さんは、妊婦健診で受診したときになどにRSウイルスワクチンができるかどうかかかりつけの産科もしくは小児科に問い合わせておくといいと思います」と、太田先生は言います。
●記事の内容は2024年11月の情報であり、現在と異なる場合があります。