生後3日目に緊急搬送された娘。判明したのは皮膚が魚の鱗のように剥がれる約100万人に1人の病だった~ネザートン症候群体験談~
今、約100万人に1人と言われる病気と闘っている赤ちゃんがいます。その病気とは、ネザートン症候群。あまり聞きなれないこの病気は、先天性魚鱗癬(せんてんせいぎょりんせん)と重度のアトピー性疾患、そして毛髪異常を伴うものです。愛知県に住むふゆきさんの娘さんは生後4カ月でこの病気であることが判明し、家族一丸となって、この病気に向き合う毎日を送っています。病気のことやお世話のこと、日々の暮らしでの苦労などについて聞きました。全2回インタビューの前編です。
母子同室だったのに、生後3日目で赤ちゃんだけ別の病院へ緊急搬送。その理由は…
愛知県在住のふゆきさん(30歳)は、夫婦とも子どもが大好き。「授かれるのなら、子どもはすぐにでも欲しい」と思っていた2人にとって、念願の妊娠でした。
妊娠中は貧血に悩まされることはあったものの、とくに大きなトラブルもなく迎えた妊娠38週目、無事にかわいい女の子を出産。2442gと少し小さめではありましたが、NICU(新生児集中治療室)には入らず、すぐに母子同室になれるくらい元気な赤ちゃんだったそうです。
「生まれたばかりの娘を見た瞬間から、私はもういとしくていとしくてしかたありませんでした。夫も無事に生まれたばかりの娘を見て、大号泣していました。
ただ、赤いなぁ、皮がむけているなぁとは思ったんです。そのときはまだ魚鱗癬(ぎょりんせん)とはわかっておらず、医師にも『赤ちゃんだから赤いだけ。皮膚も新生児落屑(しんせいじらくせつ)で皮膚が一時的に剝がれているだけだよ』と言われていたので、私も『そうなんだ』くらいにしか思っていませんでした。
しかし、生まれて3日目の朝、皮膚のむけ具合がひどすぎるから、出産時に細菌に感染したのかもしれないと医師に言われ、娘だけが急に総合病院に搬送されることになったんです。それまで母子同室で一緒に過ごせていたのに、その場で無菌カプセルに入れられて、急に娘だけ連れていかれて…。
私はもうびっくりでした。院内では生まれたばかりの赤ちゃんがママと一緒に過ごしているのにと思うと、悲しくてその日はずっと泣いていました」(ふゆきさん)
魚鱗癬とは、皮膚が乾燥して、かたく魚の鱗(うろこ)のようになったり、剝がれ落ちやすくなる状態を言います。ふゆきさんの娘さんは、その後この魚鱗癬であることがわかるのですが、搬送された時点ではまだそれもわかっていなかったと言います。
「娘が搬送された翌日には私も退院することができたので、その足で夫と一緒に娘の元に向かいました。車で1時間ほどかかる場所にある総合病院で、娘はNICUに入っていて、黄色ブドウ球菌への感染が疑わしいとのことで、抗菌薬を点滴されていました。
病院での面会時間は、大人1人のみで30分。2人一緒ではダメでどちらかのみだったので、夫と交代で娘に会いました。無菌カプセルの中に手を入れて抱っこして、持って行った母乳を哺乳びんであげたりして…。毎日母乳を届けに行っていましたが、面会時間の30分は毎回本当にあっという間でした。
夫はもともと育休を取得予定でしたが、娘の病気について上司に相談をしたら、会社側も理解してくれて、育休以降も休みを取りやすいように配慮してくれているので、できるだけ2人で通えたのは助かりましたね。
総合病院では、娘は呼吸も安定していたし、体重の増えも問題ないということで、入院して1週間でNICUを出てGCU(新生児回復室)に移ることができました。しかし、皮膚の状態は抗菌薬を続けても効果が見られなかったので、今度は皮膚を採取して検査をしてみます、と。その検査で、皮膚がかたくなる角化症(かくかしょう)、中でも魚鱗癬ではないかと思われるという診断がつきました。娘が総合病院に搬送されてから約3週間目のことです」(ふゆきさん)
診断をした総合病院でも、先天性魚鱗癬で生まれた赤ちゃんの診察例は初めて、というくらい珍しい病気。そして魚鱗癬には、今のところ根本治療の方法はありません。対症療法で、とにかく保湿してあげることしかできないのです。
ただ、皮膚がめくれあがっている分、魚鱗癬の子は細菌感染しやすいというリスクがあります。入院していれば無菌カプセルの中にいる分、細菌感染のリスクはかなり低くなります。かといって、いつまでも無菌カプセルの中で過ごせるわけでもありません。
調べてみると、魚鱗癬に力を入れている大学病院があり、大学病院で見てもらうには退院してからでないと紹介状を書けないと言われたこともあり、ふゆきさん夫婦は、娘さんを退院させて、家族との暮らしをスタートさせることにしたのです。
退院後の生活は2~3時間ごとの保湿がマスト。とにかく眠れない…!
退院後、2週間ほどふゆきさんの実家で過ごし、その後家族3人での生活がスタートしました。娘さんは大学病院で定期的に診てもらうように。
「わかっていたことですが、退院後は、無菌カプセルの中にいたときよりも、皮膚の状態はやはり悪化してしまって。皮膚がもうそこからすごいむけて、『ああ、やっぱり魚鱗癬なんだな』って感じるようになりましたね。
魚鱗癬はとにかく保湿するしかないので、おむつ替えのたび、だいたい2~3時間おきには“プロペト“(白色ワセリン)を体中に塗るんです。もちろん夜中も同じスパンで保湿をしなくちゃいけないので、夜中のおっぱいでおなかいっぱいになって、ウトウトしているところで全身を保湿するから、娘もせっかく寝ていても起きちゃってかわいそうだし、結局そのまま寝つけなかったりするとこっちも寝られなくて…それが本当につらかったです。
皮膚のターンオーバーも早いので、沐浴(もくよく)は朝晩1日2回がマスト。これは、1歳8カ月になった今でも続けています。しかも、かいて血が出ちゃったりしたところはお湯がしみて痛いのでしょうね、娘はおふろがあまり好きじゃないんです。それでも、皮膚のためには入れないわけにもいかなくて…。
魚鱗癬だと、皮膚が、日焼けしたあとみたいにポロポロとたくさん落ちてくるのですが、それを全部剝がさないと、かゆいらしいんですね。だから、カサカサを取りながらおふろに入れているので、夫と2人で、なんだかんだで毎回1時間ぐらいかかりますね。どうしても最初は泣くので、動画を見せたりして気を紛らわせながら、入れるようにしています。
服は綿100%ものを着せています。“プロペト”をとにかく全身に厚めに塗るので、しばらくすると肌に直接触れていたものは重くなるんですよね。ワセリンは普通の洗濯では落ちづらく、熱湯で洗えば落ちるそうなのですが、娘のお世話もあってなかなか特別な洗い方はできないので、重くなってきたら、安物でもいいので新しいものに換えるようにしています。
あと、大変なのは寝かしつけですね。なかなか寝なくて、だいたい1時間はかかりますし、寝ても1~2時間に1回は自分でひっかいて起きちゃうんです。痛くてもかゆいし、赤ちゃんだから我慢もできないんですよね。それで保湿したり、血が出てたらガーゼで覆ったりってしているとあっという間に時間がたっちゃう。しかも、娘はどうしても私でないと寝ないので…。寝不足は本当につらいですね。娘が生まれてから1歳8カ月になる今まで、6時間とか連続して寝られたことはないです。続けて2時間寝られればいい、って感じかな。
わが家では、どのお世話をどっちがやる、みたいな担当はなくて、夫もひと通りのお世話はできますし、育児にも積極的なので、2人一緒にやることも多いです。寝かしつけだけは、私でしか寝てくれないので、夫も、時々手伝いに来てくれる母も『申し訳ない』って言ってくれていますが、こればっかりはしかたないかなと頑張っています。
夫は基本的に娘のことは何より優先してくれて、仕事もほぼ定時であがって帰ってきてくれます。理解ある会社ということもありますが、夫もだいぶ頑張ってくれているなと感じてます」(ふゆきさん)
その後、遺伝子検査の結果が出て、娘さんの詳しい病名が判明。病名は、魚鱗癬症候群のひとつである「ネザートン症候群」であるとわかったのです。
「症状が皮膚だけか、ほかにも症状があるのかで異なるんですが、娘の場合、魚鱗癬に加え、重度のアトピー、そして髪の毛が枝毛みたいに切れてしまって伸びない毛髪の異常があり、魚鱗癬の中の、魚鱗癬症候群のひとつであるネザートン症候群と診断されました。魚鱗癬は30万人に1人、ネザートン症候群は約100万人に1人だそうです。
魚鱗癬にもいろいろあるのですが、娘の皮膚が赤いことから、私たちは『先天性魚鱗癬様紅皮症(せんてんせいぎょりんせんようこうひしょう)』のことばかり毎日調べまくっていたので、検査結果でネザートン症候群と聞いたときには、『なにそれ…』と先生の話もまともに聞けないくらい、とても不安でした。
あとは成長障害もあるようです。実は、入院して無菌カプセルに入っている間は順調に体重も増えていたんですが、その後、退院後1カ月健診では、まったく体重が増えていなかったんです。ミルクもすごく飲んでいたので、栄養を取っているはずなのに不思議だなと思っていたんですが、それが病気の特徴でもあるよと言われて。娘の場合、皮膚がすごくむけるので、その再生にすごくエネルギーを使われちゃうみたいです。
娘は1歳のときで身長70㎝、体重は7㎏ほどで、成長曲線のいちばん下にいるって感じです。10カ月でようやく首がすわったくらいで、そのころには寝返りもできませんでした。でも、1歳半になって、寝返り、はいはいができるようになったと思ったらすぐに立ち上がり、あんよもできるようになりました。
最近の成長には目を見張るところがありますし、できることも着実に増えています。ほかの子と比べるとゆっくりかもしれませんが、娘のペースで、娘らしく成長してほしいと思いますね」(ふゆきさん)
お話・写真提供/ふゆきさん 取材・文/酒井有美、たまひよONLINE編集部
ようやく赤ちゃんとの暮らしが始まると思ったら、まさかの救急搬送。聞いたことのない病名のオンパレードに、昼夜関係なく続く保湿ケア…。怒涛の展開に、ふゆきさん夫婦の戸惑い、不安、疲労はどれほどだったかと考えると胸が痛みます。それでも、娘さんが少しでも心地よく生活ができるようにと続けられてきた毎日のケアは、いとしい小さな命を守りたいママ・パパとの心のコミュニケーションの時間でもあるのだなと感じました。後編では、今後のことや心配なこと、社会に望むことなどを聞きます。
「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指して様々な課題を取材し、発信していきます。
ふゆきさん
PROFILE
愛知県在住の1児の母で、現在、仕事は育休中。2023年生まれの娘が、魚鱗癬症候群の中の「ネザートン症候群」という、約100万人に1人と言われる難病を患っており、毎日むける皮膚と闘いながら育児に奮闘中。患者数も少ない病気のため、情報共有できればという思いでブログも執筆中。
参考
●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●掲載している情報は2025年1月現在のものです。