低出生体重児、早産児の母乳・ミルク・離乳食の気がかり
低出生体重児、早産児でいちばん気がかりなのが成長のこと。「飲む・食べる」で悩みがちなことを集めました。
低出生体重児、早産児の母乳育児のQ&A
飲んでくれない、ずっと飲んでいるなど、出生体重児、早産児の母乳・ミルクについての気がかりを先生に聞きました。
Q 一日中母乳を飲みたがります
A 退院していつでも飲ませられるようになると、昼夜一緒にいますから、しょっちゅうおっぱいを求めるかもしれませんね。赤ちゃんは環境が変わって不安になり、ママにしがみつくことで安心するのでしょう。また赤ちゃんはまだ昼夜の区別がなく、昼間寝て、夜起きている時間が長いのです。母乳は夜のほうがよく出るようになっているので、赤ちゃんに合わせた生活リズムをつくる気持ちも必要でしょう。
赤ちゃんが欲しがるときに飲ませていくと、母乳の出がよくなります。
Q 母乳を飲んでくれません。
A 赤ちゃんが入院中、哺乳びんを使っている場合によく見られます。人工の乳首に慣れてしまい、ママの乳首との感触が違うので、吸いつかないのです。家に帰ったら母乳で育てようと思っていたママからは、「拒否されたようで悲しい」という声も聞きますが、決してそうではありません。
赤ちゃんに「ママのおっぱいを吸ってね」と話しかけながら、乳輪部まで加えさせて根気強く与えてみてください。ママのおっぱいが少しかたくて吸えないこともあります。乳頭を軽くもみほぐし、やわらかくすると赤ちゃんが吸いつきやすくなります。どうしてもうまくいかないようなら、母乳外来で相談してみてください。
Q 飲みながら寝てしまったり、飲むのに時間がかかります。
A おっぱいを飲みながらうとうとしたり、いつまでもおっぱいを離さず、飲み終わるのに時間がかかる赤ちゃんはたくさんいます。小さく生まれたからではなく、多くの赤ちゃんに見られます。ママはちょっと疲れてしまうかもしれませんが、しばらく赤ちゃんにつき合ってあげましょう。
おっぱいを飲む時間が長い場合、乳管が数本しか開いていなくて出る量が少ないこともあります。乳首をつまんでみて、10数本開通しているか調べてみても。心配な場合は、母乳外来などで相談するといいでしょう。
Q 入院中は混合栄養でしたが、退院後は完全母乳に戻したいです。
A 入院中にミルクをどのくらいたしていたかにもよりますが、一度に母乳だけに戻すのは無理です。母乳外来に通いながら、ミルクの量を減らしつつ、おっぱいを飲ませるといいでしょう。あせりは禁物です。徐々に増やしていければ大丈夫。母乳を与えることだけで頭がいっぱいになっては、せっかくの育児を楽しむことができませんよ。
低出生体重児、早産児のミルク育児に関するQ&A
ミルクをたすタイミングや量の心配について先生に聞きました。
Q ミルクをどのくらい増やしたらいいかわかりません。
A 低出生体重児や早産児で生まれた赤ちゃんが長期で入院していた場合、母乳の出を維持するのが難しく、ミルクが主体となってしまうこともあります。ミルクを飲ませる場合は、抱っこして、赤ちゃんの目を見て、話しかけながら飲ませてください。
ミルクの赤ちゃんの場合、1日に飲む量の目安は、以下になります。100ml/1日程度の誤差はしばしばあります。
体重2500gぐらい:500ml前後/1日
40~60ml/1回(3~4時間おき、1日7~8回の場合)
体重3000gぐらい:600ml前後/1日
体重3500gぐらい:700ml前後/1日
1回の量は、飲みむらがあるなど、常に同じではないので、1日の総量で考えてかまいません。また、総量が目安の量にたりなくても、もっと多く飲ませようとする必要はありません。
家に帰ると、赤ちゃんは環境が変わって不安で泣くことがあります。これをおなかがすいていると受け止めて、ミルクをつい与えすぎることがあります。飲ませすぎ?と思ったら減らしてみましょう。1日1~2回、20mlくらいたしている場合は、1回減らして母乳にすることもできます。赤ちゃんが満足そうだったら切り上げて、ミルクが残っていても無理強いしないようにしましょう。
Q ミルクをたすタイミングがわかりません。
A 母乳の出が不足しているかどうかの見分け方は、難しいもの。たりないと思っても、赤ちゃんに頻回に吸ってもらうことで出がよくなることもあります。ミルクをたすとママのおっぱいを吸う回数が減り、どんどん出なくなってしまう心配が。おっぱいを吸わせる回数を減らさないようにたしていきましょう。心配のあまり必要以上にミルクを与えがちです。ミルクをたしたほうがいい?と思ったときは、次のようなことを目安にし、まず病院に相談しましょう。
・赤ちゃんがいつもより長く、30分以上吸いついて離れない
・いつも機嫌が悪く、眠りが浅いように感じる
・うんち、おしっこがいつもより少なくなる
・健診で体重の増えが悪いと言われた
ミルクをたすときは、まず母乳を飲ませ、少なめにミルクを飲ませる、夕方母乳の出が少なくなるときにたす、などの方法があります。
母乳育児を続けるためには、ママのおっぱいを1回でも多く飲んでもらうことが大事です。
成長の目安は体重だけではありません。胎児発育不全があったお子さんや子宮外発育不全があったお子さんは、多少ミルクをたしたからといって体重がどんどん増えるわけではありません。身長が着実に増えており、発達も着実に進歩しているのであれば、あまり体重増加にこだわる必要はありません。母乳の出が十分あるなら、母乳のみのほうが好ましいでしょう。どんどんミルクの量を増やし、母乳の量が減ってしまうことは、お子さんの内臓脂肪の増加を招く心配があります。
低出生体重児や早産児の離乳食に関するQ&A
離乳食を始める時期や、始め方など、小さく生まれた赤ちゃんに合わせた進め方について、先生に聞きました。
Q 離乳食はいつから始めたらいいですか?
A 離乳食を始める目安は、生まれたときの条件やその後の発育によって違いますが、目安は、修正月齢で5~6カ月になり、赤ちゃんの様子を見て始めるようにします。離乳食を始めたら、進め方は、修正月齢をもとに正期産の赤ちゃんと同じように進めてかまいません。
<離乳食開始のサイン>
・よだれの量が増える
・スプーンを口に当てても嫌がらない
・大人が食べていると興味を示す
・授乳のリズムが整ってきた
・支えがあれば座っていられる
Q 食べる量が少なくて心配です。
A たくさん食べてほしいというママの気持ちはわかりますが、無理に食べさせようとするとするのは逆効果です。せっかく作ったのに食べてくれないと多くのママが言いますが、赤ちゃんは自分の必要な量しか食べないのです。少しでもいつもより食べてくれたらほめてあげましょう。小さくても着実に成長・発達していれば、必ず食べるようになります。
無理に食べさせようとすると、ママの顔は知らず知らずのうちに怖い顔つきになっているので、ますます赤ちゃんは食べなくなってしまいます。おなかがすけば食べる、というくらいに考えて、あせらずに進めましょう。
Q 丸のみしてばかり。小さく生まれた子は、かむ力の発達も遅れるのでしょうか?
A 低出生体重児や早産児で生まれた子も正期産の子も、離乳食を段階ごとに進めることで、かんだり食べたりする能力が徐々に発達します。丸のみしているのなら、食べ物がやわらかすぎたり、小さすぎたりするのかもしれません。大きさや固さを見直してみましょう。
時に出生体重が1000g未満で出生した赤ちゃんは、修正月齢にしたがって離乳食を進めてもうまくいかないことがあります。食べる機能が追いついていないためです。そのようなときはフォローアップ担当医に相談してみてください。
小さく生まれた赤ちゃんに対応した「母子手帳アプリ」も!
修正月齢をもとに赤ちゃんの身長体重を記録するのに、アプリを使用する方法があります。特定非営利活動法人ひまわりの会と、株式会社NTTドコモ提供の「母子健康手帳アプリ」には、「修正月齢に対応できる身長・体重のグラフ」と「低出生体重児向け子育てQ&A」が掲載されています。
「修正月齢のグラフ」は、出産予定日より早く産まれた赤ちゃんが実際に生まれた日ではなく、出産 予定日を基準に発育・発達状況の目安を確認することができるグラフです。また、「低出生体重児向け子育てQ&A」は、小さく生まれた赤ちゃんのママやパパによくある子育ての不安や悩みに対して、専門家が回答しています。
紙の母子手帳にはないアプリならではの便利さがあります。上手に活用して不安な日々の支えにしてみるのもよいでしょう。
https://www.boshi-techo.com/service/
「退院後のおっぱい・ミルク、離乳食の気がかり」体験談
早産児や低出生体重児で生まれたわが子がNICUを卒業して自宅に帰ったあと、体重の増えに直接関係あることだけに、授乳や離乳食で悩むママやパパは多いようです。いったいどんなことで悩んだのか、そして悩みがどう解決したのかを聞きました。
●ミルクの最低必要量を何とかクリア
おっぱいを吸うのが上手ではなく、搾乳して飲ませていたけれど、吸ってくれないために出が悪くなり、退院後1カ月からミルクのみに。缶の表示の半量程度しか飲めないので医師に相談したところ、最低限必要な量を教えてくれ、それは何とかクリアできていました。(1才2カ月男の子、出生体重:902g、在胎週数27週2日)
●ミルクの飲みすぎが心配に
健診のとき「ミルクは減らしていいかも」と言われたけれど、あげないと泣くので混合を続けたところ、体重が急激に増加。大丈夫なのかと心配しました。7カ月から始めた離乳食もよく食べます。今も成長直曲線の標準の下のほうだけど、バランスよく成長しています。(1才2カ月男の子、出生体重:1914g、在胎週数34週4日)
●小食が一転、モリモリ食べる子に
NICUで哺乳びんに慣れてしまい、家でもおっぱいを拒否。3カ月で母乳が出なくなりました。また、修正月齢の5カ月で始めた離乳食は、食べないのが悩みの種でした。ところが、1才になったらいきなりよく食べるように! 今は何でもモリモリ食べます。(1才5カ月女の子、出生体重:1744g、在胎週数34週1日)
授乳や離乳食は、成長と直結するイメージがあるだけに、心配がつきもの。けれども、進み具合は個人差が大きいので、「あせるより子どものペースで進めるほうが、結果的にいい影響が出ると思う」と板橋先生はおっしゃいます。心配があれば、フォローアップ外来はもちろん、かかりつけの小児科、自治体で行っている離乳食相談を利用するのもオススメです。(取材・文/東 裕美、ひよこクラブ編集部)
監修/板橋家頭夫先生
昭和大学病院病院長。専門は、小児科学、新生児学。極低出生体重児の成長・栄養管理に詳しく、低出生体重児・早産児の生活習慣病リスクを研究。赤ちゃんや家族の幸せをモットーに診療をされています。