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背骨が曲がる、耳と指の欠損…数々の先天異常をもって生まれた二男。退院時「どうして連れて帰ってきたの?」という長女の言葉に涙が出たことも【VATER症候群・体験談】

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ハーフバースデーのとき、初めてきょうだいとの面会が実現。

児童発達支援・放課後等デイサービス「ふたば」の管理者で、看護師の折本弥子さんには、19歳、16歳、14歳、5歳の4人の子どもがいます。第4子の巧輝(こうき)くんは、複数の臓器に先天異常が見られるVATER症候群(ふぁーたーしょうこうぐん)と診断されています。VATER症候群は、原因不明の指定難病です。
巧輝くんが、胃と食道がつながっていないことや、脳室拡大などが判明したのは、妊娠8カ月になってから。妊婦健診を受けていた産院では「順調」と言われていたのですが、分娩を予定していた産院で初めて胃と食道がつながっていないことがわかりました。
折本さんに、VATER症候群と診断されたときのことや手術のこと、きょうだいたちの葛とうなどについて聞きました。全2回インタビューの後編です。

▼<関連記事>前編を読む

遺伝子や染色体、胎盤の検査などをしても原因がわからない

4歳の巧輝くん。耳の欠損で、骨伝導タイプの補聴器を使用。

巧輝くんの症状は、背骨が曲がる側弯症、食道閉鎖症、肛門の位置がずれている鎖肛、心奇形、耳と右親指の欠損などです。

「巧輝は、生まれてすぐにこども病院に搬送されました。人工呼吸器が欠かせませんでした。遺伝子や染色体、胎盤の検査などをしたのですが原因はわかりませんでした。

医師は、ひとつひとつの症状が重いから、初めはVATER症候群ではないと考えたようです。しかし検査をしても原因がわからず、VATER症候群と診断されました。VATER症候群は原因不明の難病です。

医師に『この先、どんなことに注意しながら育てていけばいいですか?』と質問したところ、『事例が少ないからわからない。成長発達の予測ができず、何歳まで生きられるかもわからない』と言われました。

VATER症候群は、まれな病気で1人1人症状が違うんです。そのためインターネットで調べても、成長の見通しはもちろん、生活の見通しももてませんでした」(折本さん)

巧輝くんは1歳までに5回もの手術をしています。

「1回目の手術は、生まれてすぐに行った胃ろう造設術です。一番命の危険を感じたのは、胃ろうの手術から約1週間後の腹膜炎です。腸に穴が開いてうんちなどが腹腔内にもれ出てしまって炎症を起こした状態でした。炎症を抑えるために緊急手術で穴を閉じて、腹腔内をきれいにしなくてはなりません。

私は、帝王切開で巧輝を産んで、退院したばかりで自宅で過ごしていたのですが、こども病院から『すぐに来てほしい』と電話があり、フラフラの状態で行きました。人工肛門造設術が必要でした。

医師に、腸に穴が開いた理由を聞いたところ『わからない』と言われたんです。さまざまな検査をしても異常は見つからない。腸に穴が開いた理由もわからない・・・。私は看護師をしていますが、『原因がわからない』『理由がわからない』ということが、この先も続くのかと思うと本当に怖かったです」(折本さん)

その後は、生後2カ月で上部食道と下部食道をつなげる手術、生後5カ月で気管切開の手術、生後10カ月で心臓の穴をふさぐ手術をしました。

生まれて1カ月がたち、初めて抱っこできた

生後1カ月で、初めて抱っこ。

折本さんが巧輝くんを初めて抱っこできたのは、生まれて1カ月がたったころです。

「NICU(新生児集中治療室)に入院していて、ある日思いきって看護師さんに『抱っこできますか?』と聞いたら、『いいですよ!』と言われたんです。

小さな巧輝を抱っこしたときは、涙が止まりませんでした。いろいろな管につながれた巧輝を、ただ見守るだけだったので・・・。抱っこして、ぬくもりを感じて初めて『私の子どもだ』と実感できました」(折本さん)

きょうだいには、本当のことがなかなか言い出せなかった

医師や看護師も同行し、二女と一緒に院内を散歩して、退院後の外出練習。

巧輝くんには、上に3人のきょうだいがいます。巧輝くんが生まれたときは、長男は13歳、長女は10歳、二女は8歳でした。

「子どもたちには、すぐに巧輝の状態を伝えられませんでした。子どもたちの様子を見ながら、『巧輝、体中に管がつながっていてまだ入院しないといけないんだ』など、少しずつ状態を伝えたような感じです。長男と長女は、思春期だったのでとくに伝え方が難しかったです。

またコロナ禍だったので、子どもたちは面会もできず、弟が生まれた実感もわかなかったようです」(折本さん)

折本さん夫妻は、きょうだいへの説明と巧輝くんとの面会について、病院のチャイルド・ライフ・スペシャリスト(以下CLS)にも相談をしました。

「コロナ禍でしたが、特例で巧輝と面会をさせてもらいました。子どもたちのこれまでの予防接種の記録や、面会前1週間ほどの検温記録などの健康情報を提出して面会がかないました。
面会では、巧輝を抱っこすることもできたのですが、体についている管が気になったり、まわりに数人看護師さんが待機していたので、そうした雰囲気に圧倒されてしまったようで、子どもたちも緊張しながら抱っこしていました。

また私と夫は同席せずに、CLSさんと子どもたちだけの時間を作ってもらいました。CLSさんは、アニメーションを通して、巧輝の状態やなぜ人工呼吸器が必要かなどをわかりやすく伝えてくれたようです。
子どもたちの気持ちもじっくり聞いてくれました。そして『お母さんのことを心配していましたよ』と子どもたちの様子を教えてくれました」(折本さん)

思春期の長女に『普通は連れて帰って来ない』と言われて涙が

長女と巧輝くん。

巧輝くんは2歳半になって退院できました。

「状態が落ち着き、やっと退院できました。とはいえ管をつけていたりして医療的ケアは必要です。
自宅に帰ると、12歳になる長女が反発しました。長女から『お母さんは看護師だから連れて帰ってきたけれど、普通の人は連れて帰って来ないでしょ!』『なんで、こんな状態で連れて帰ってきたの!?』と強く言われました。長女の気持ちもよくわかるので、私は隠れて泣きました」(折本さん)

しかし時間とともに、長女は巧輝くんを受け入れるようになっていきます。

「巧輝が退院して2年ぐらいたったころ、長女が『巧輝、普通だね』って言ったんです。

巧輝も成長して、喜怒哀楽の感情を豊かに表現するようになったり、ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめたり、ひとり遊びをするようになり、そうした姿を見て、長女は『ほかの子と一緒だ』と思えたようです。
また、たんの吸引や胃ろうなど、医療的ケアばかりに目がいっていたけれど、時間の経過とともに巧輝自身に目が向くようになったのだと思います。

今では、長女がいちばん巧輝のことをかわいがってくれます」(折本さん)

退院後も看護師を続けるつもりだったのに、預け先がない現実に直面

好奇心旺盛な巧輝くん。

折本さんは巧輝くんの妊娠前から、総合病院で看護師として勤務していました。巧輝くんが退院したあとも、看護師を続けるつもりでしたが、厳しい現実と直面します。

「私は、巧輝が生まれて1歳になり、育休が終了したタイミングで職場に復帰しました。そのときは、巧輝はまだ入院中でした。退院後ももちろん看護師の仕事を続けるつもりでいたのですが、医療的ケアが必要な巧輝の預け先がありませんでした。入院先の看護師さんに聞くと『仕事を辞める人が多い』と言われました。

夫に相談すると『自分で、医療的ケア児を預かる施設を作ったほうがいいのかな』と言うんです」(折本さん)

折本さんは今、振り返ると、夫のこの言葉が大きなきっかけになったと言います。

「夫は、巧輝にさまざまな先天異常が見つかったときもそうでしたが、とことん前向きな人だと思います。
夫の言葉を受け、同僚の看護師に相談したところ『折本さんがそんなに困っているなら、ほかにも困っているママ・パパもいるんじゃない? そういう人たちを助けないといけないんじゃない?』と言われました。私もじっくり考えて、同僚に『もしよければ障害をもったり、医療ケアが必要な子どもを預かる場所を、一緒に作ってくれない?』と相談すると、すぐに快諾してくれました。その同僚が内藤さんで、現在も私たちと一緒に働き、代表取締役を務めています。

それからはめまぐるしいスピードで、重症心身障害児および医療的ケア児を預かる、児童発達支援・放課後等デイサービスふたばの開設に向けて準備を進めました」(折本さん)

児童発達支援・放課後等デイサービスふたばを千葉県袖ケ浦市に開設したのは、2023年4月。内藤さんに相談し始めてから、わずか1年での開設でした。

「ふたばのオープンに向けて、私は1年がかりで勉強して保育士の資格も取りました。ふたばの特徴は、看護師が基準配置より多いことです。重症心身障害児や医療的ケア児の預け先がなくて困っているママ・パパを1人でも減らしたくて、つてをたどり看護師に声をかけて集まってもらいました」(折本さん)

現在ふたばには、巧輝くんも通っています。

「巧輝は、2025年4月からろう学校の幼稚部に通っていて、午後からはふたばに行きます。ろう学校に入ってから、先生やいろいろな子どもたちとかかわることが刺激になっているようで、手で丸を作ったり、『赤』と言うと口を触ったり、できることが本当に増えたんです。

ふたばでは、母子分離のためにほかのスタッフが巧輝を担当してくれているのですが、私がそばにいないほうが、巧輝の成長を促すようです。母子分離の必要性を実感しています」(折本さん)

【石田智己先生から] 巧輝くんの成長を楽しみに しています

巧輝くんの入院治療は2年以上にわたりましたが、さまざまな合併症の治療を乗り越えてきましたね。さらにはコロナ禍が重なってしまい、巧輝くんにとっても、ご両親・ごきょうだいにとっても、非常に制限の多い入院生活だったことと思います。それでも巧輝くんが退院して、在宅医療への移行が実現できたのは、折本さんの愛情の賜物だと思います。施設の運営と育児の両立は大変だと思いますが、家族で力を合わせて乗り越えてください。巧輝くんの更なる成長を楽しみにしています。

お話・写真提供/折本弥子さん 監修/石田智己先生 取材・文/麻生珠恵、たまひよONLINE編集部

児童発達支援・放課後等デイサービスふたば、開設1カ月で満員に。2025年4月には、千葉県市原市にもふたばをオープンしました。折本さんは「私が、巧輝の預け先がなくて途方に暮れたように、困っているママ・パパたちが、今もたくさんいます。どんなにケアが必要な子どもがいても、ママ・パパが自分の時間をもち、苦渋の決断をして仕事を辞めたりしないですむような社会になってほしい」と言います。

「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2025年6月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

折本弥子さん(おりもと やこ)

PROFILE
看護師として、総合病院などで勤務。巧輝くんの誕生をきっかけに、重症心身障害児および医療的ケア児とその家族が、安心して暮らせる社会の実現を目指して、保育士資格も取得し、2023年4月、千葉県袖ケ浦市に医療的ケア児や重症心身障害児を対象にした児童発達支援・放課後等デイサービス「ふたば」を開設。2025年4月には、千葉県市原市にも同施設をオープン。株式会社HIMAWARI取締役。

児童発達支援・放課後等デイサービス「ふたば」のHP

石田智己先生(いしだ ともき)

PROFILE
君津中央病院 医務局新生児センター新生児科部長。平成19年東海大学医学部卒。日本小児科学会小児科専門医。日本周産期・新生児医学会周産期専門医(新生児)。日本周産期・新生児医学会指導医。日本周産期・新生児医学会新生児蘇生法「専門コース」インストラクター。日本新生児成育医学会暫定フォローアップ認定医。災害時小児周産期リエゾン。

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