パパの「見せる育児」で夫婦円満に!? 漫画家・宮川サトシさんインタビュー(前編)
育児に奮闘する新米パパの心の内を描いたエッセイ漫画『そのオムツ、俺が換えます』第1巻を上梓した、漫画家の宮川サトシさん。娘のおむつを換える行為を、なぜわざわざ「俺が~」と宣言するのか。ママたちにはちょっとわかりにくい、「見せる育児」に走るパパたちの葛藤(かっとう)に迫りました。
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同世代パパからは絶賛の嵐も、兄にしかられる
©宮川サトシ/講談社
――『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』、『情熱大陸への執拗な情熱』といったエッセイ漫画が話題となった宮川さんですが、今回なぜ、育児をテーマにされたのでしょう?
宮川:実を言うと、最初は育児漫画を描きたくありませんでした。育児をしている自分をあまり見られたくないというか、漫画家として「まだ尖(とが)っていたい」というのもあって(笑)。でも、編集者さんからお話をもらって、「今しかできないな」と思い直しました。僕が以前、母を亡くした時のことを描いたのは、「自分の感情がこんなふうになるのか」という面白さを残したかったからでした。その時のテーマが喪失だとしたら、今度はその逆。今までいなかった人間が、いる状態になる。僕はいつも、その時に思ったことを携帯電話でメモにして残しているので、娘が生まれる前後や今の自分の気持ちくらいは描けるかなと思いました。
――作品の中では、新米パパの男性の心理を赤裸々につづっています。夫婦喧嘩の勢いで離婚を考えるところまで・・・。奥さまの反応はいかがでしたか?
宮川:漫画にされることには妻も喜んでいます。「だからあの時、パッと動いてくれなかったんだ」とか、「だからあの時苦い顔していたんだ」と、漫画を読んで腑に落ちるようで。離婚を考えているシーンも、「喧嘩のあとはああだったのね」と笑っていました(笑)。漫画という形で娘の成長が生々しい記録として残るので、「私はすごくツイてる」とも言っていました。妻は6ヶ月ごろまで育児記録をつけていましたが、それ以降は忙しくてできなくなっていたんです。将来、娘にも読ませたいみたいですね。
――パパ友からはどんな反応がありましたか? 男性の手の内をバラしすぎのような気もしますが……。
宮川:3人の娘を持つ7つ年上の兄からは、「おまえはナヨナヨしすぎだ」と怒られました。でも僕が、「兄ちゃんもナヨナヨしたこと言っていたよ」と切り返すと、「もう忘れたよそんなこと」と答えていました。兄は恐らく、娘を育てる過程でタフになって、新米パパだったころの感覚を忘れてしまったんです。みんな最初は、ナヨナヨするのが普通だと思います。奥さんがどんどんお母さんになっていく一方で、父親に切り替わるタイミングのない男性はなかなか育児に入っていけない部分があるので。先輩パパからのおしかりは兄から受けたものくらいで、実際、同世代のパパからは絶賛の嵐でした。「よく言ってくれた」と。妻に内緒で娘と散歩に出かける「秘密の朝散歩」という話はとくに評判がよくて、「自分もこういうことをすれば夫婦関係も悪くならずに済んだのに」という人もいました。
――宮川さんがお子さんと2人で散歩中、誘拐犯だと思われないかビクビクしてしまうのはどうしてですか?
宮川:フランケンみたいな自分がこんな小さい子を連れていることに、なぜか罪悪感みたいなのがあって……。心のどこかでやっぱり、「子どもは母親のもの」と思っているのかもしれません。できれば親子証明書みたいなのが欲しいですね。警察官に誘拐を疑われた時に、パッと出せるようなものがあれば、もうちょっと堂々とできるのに。あ、親子証明書は第2巻のおまけで作りましょう(笑)。
賛否両論、「育児ポイントカード」の謎に迫る
©宮川サトシ/講談社
――育児を手伝うことで自分を甘やかすことのできる「育児ポイントカード」について、ひよこクラブ編集部内では意見が分かれました。父親からは納得する声がある一方、母親からは「何これ?」という反応。宮川さんは「見せる育児」を掲げていますが、母親には家で誰かの目を気にしながら育児をする感覚がないのです。
宮川:ネットなどでは、「自分の子どもの面倒を見るのは当たり前じゃん」という声があります。でも僕は「当たり前じゃない」とは言っていないんです。当たり前なんだけど、心の中で、「オムツを換える時にウエットティッシュの枚数を最小限に抑えるのはエコだし、赤ちゃんのおしりにもやさしいことだから、上手にできた自分をほめてね」という気持ちがあるというだけで(笑)。仕事でも同じですよね。営業の人は仕事を取ってくるのが当たり前だけど、実際に取ってきたらほめてもらいたいでしょう。男女関係なく、人間誰しもほめてほしいという気持ちがある。だから僕も、妻をほめています。娘が「いただきます」って言えるようになったこととかを目ざとく見つけて、「マリちゃん(妻)のおかげで、いただきますって言えるようになったね」とか。いいと思ったら相手をほめる。それだけで夫婦喧嘩もなくなると思います。
――「見せる育児」というのは、本当はほめてもらいたいパパの照れ隠し?
宮川:パパは育児をしていることが恥ずかしいというか、こそばゆい。昔の僕は、自分に子どもがいる状態というのが、自由を奪われたり、夢をあきらめたりしなきゃいけないんじゃないかというマイナスなイメージしかなかった。ロックンローラーじゃなくなるというか、男としてステージを降りる感じがしたんです。自分の人生が、子どもに侵食されるんじゃないかと思っていたこともありました。でも実際はそうではなかった。時間は確かに取られるけれど、その分ダラダラと過ごさなくなったので、子どもが生まれる前よりも、生まれてからのほうがこなせる仕事量も増えました。家族がいると稼がないといけないし、モチベーションも上がる。実は自分の人生にもプラスだということが最近やっとわかってきました。
――「オムツ換えます」とアピールできるパパは、いいパパなのかもしれませんね。育児に消極的なパパは、それが言えないパパなのかも。
宮川:たとえばオムツを換える時に「ちょっと足あげて~」と言うのも妻へのアピールの一つです。言わなくても子どもは足をあげているんですけどね(笑)。「そんなのロックじゃねえからやんねえよ」じゃなくて、「見せる育児やってんだぜ俺は」というのも、ロックですから(笑)。
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育児での声がけ(アピール含む)がいかに大事であるかということを、日々痛感しているという宮川さん。インタビューは後編に続きます。(取材・文・写真/香川 誠、ひよこクラブ編集部)
■profile /宮川サトシさん
漫画家。1978年生まれ。岐阜県出身。大学卒業後、学習塾を経営するも、34歳で漫画家を志し上京。2012年に漫画家デビュー。作品に、『情熱大陸への執拗な情熱』『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』など。『そのオムツ、俺が換えます』は、ベビモフで連載中。