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「2歳になっても歩けない…」。脳性まひと診断された三つ子の二男が、神経を切る手術を経てようやく自分の脚で歩けるように【脳室周囲白質軟化症】

更新

5歳の手術前に家族で行ったキャンプ。長男と三男が陽斗くん(写真中央)と手をつなぎ、移動のお手伝いをしてくれます。

神奈川県在住の関澤なつきさんは、夫の亮さんとともに8歳の三つ子の男の子たちを育てる母親です。三つ子は長男・1038g、二男・1042g、三男・900gで生まれました。成長するにつれて、二男の陽斗(はると)くんにほかの2人との発達の違いを感じていたなつきさん。受診すると脳室周囲白質軟化症(のうしつしゅういはくしつなんかしょう)による脳性まひと診断されました。2歳のときのことです。脳室周囲白質軟化症は、赤ちゃんが小さく生まれたときなどに、脳の血管が未熟なことから、運動神経の集まる脳の『白質』への血流が低下して起こるもので、脳性まひや運動発達の遅れなどの運動機能障害を起こします。陽斗くんは、脳性まひの影響で自立歩行が難しい状態で、リハビリやボトックス注射による治療をスタートしました。
なつきさんに、陽斗くんの成長の様子や病気との向き合い方について話を聞きました。全2回のインタビューの後編です。

足の不自由さを軽減する手術を受けることに

SDR手術の前の陽斗くん。移動は子ども用の車いすを使っていました。

三つ子が誕生してから3〜4年ほど、なつきさんの実家がある茨城県で暮らしていた関澤さん一家。夫婦の勤務先が都内で通勤に時間がかかったことや、亮さんが地元の神奈川での生活を希望していたことなどから、亮さんの実家近くに新居を構え、引っ越すことになりました。

「神奈川に引っ越し、三つ子が低出生体重児のためのフォローアップ外来に通う病院も転院しました。さらに、陽斗が脚の治療を受けるために別の病院へ通うことになりました。茨城では1カ所の病院でフォローアップの検診、リハビリ、ボトックス注射などすべてをまとまって受けていたのですが、神奈川ではすべて別の病院を受診することに。

そして、陽斗が脚の治療のために通い始めた病院で、担当医から『SDR(選択的後根切断術)という手術を受ければボトックス治療が不要になる』と聞いたのです」(なつきさん)

SDRは、脳性まひの子どもに見られる下肢の痙縮(けいしゅく・筋肉の過度な緊張)を軽減するために行われる外科手術です。背骨の下部から出ている感覚神経(後根・こうこん)のうち、痙縮に関与する信号を伝える神経だけを選んで切断することにより、筋緊張がやわらぎ、歩行や動作のしやすさを向上させることを目的とするものです。

「陽斗は、筋肉を一時的にリラックスさせて歩きやすくするためのボトックス注射治療を定期的に受けていましたが、毎回注射をとっても痛がって大泣きしていたんです。それもあって、手術で陽斗の足の不自由さが改善する可能性があると聞いてからは、夫と一緒に手術を受けることを前向きに検討しました。

それに、仲よしの三つ子たちが一緒に過ごす中で、二男だけ行動が制限される場面が多かったこともあります。二男は長距離移動にはバギーを使っていましたし、キャンプに行ったときなど、きょうだいたち2人が走りまわる中で、二男はゲームをしていました。

子どもたちが成長していく上で、二男が自分だけ歩けないことで自信をなくしたり、きょうだいと比べてしまったりすることが、親としては心配でした。それに、手術をして3人で同じように遊べるようになれば、もっと仲よく楽しく過ごせるんじゃないかと思ったんです。小学校入学も控えていたこともあります。3人でランドセルを背負って並んで通学できたらいいな、という思いもありました」(なつきさん)

SDRは20年ほど前から世界標準とされる治療ですが、日本国内では実施施設がとても少なく、陽斗くんが手術を受けるなら”沖縄か東京都の府中市のどちらかの病院”だと説明をされたそうです。

「それで府中の東京都立小児総合医療センターを紹介してもらい、手術を受けさせることに決めました。術後は毎日のリハビリが必要で、約1カ月半の入院生活が必要とのことでした。陽斗に寂しい思いをさせたくなかったので、できるだけ夫婦のどちらかが付き添うためにはどうしたらいいのか、夫と話し合いました。

夫の仕事が非常に忙しい時期だったため、私の部署に相談し、私の仕事をリモートの半日勤務に調整してもらうことに。神奈川の自宅から病院までは片道2時間弱かかるので、私は東京都立小児総合医療センターから徒歩5分ほどにある子どもの治療に付き添う家族のための滞在施設「ドナルド・マクドナルド・ハウス」を利用し、陽斗の入院中に滞在することになりました」(なつきさん)

泣き言ひとつ言わず、リハビリを頑張った二男

入院中に6歳の誕生日を迎えた陽斗くん。会いに来てくれたきょうだいたちと窓ガラス越しに「ハッピーバースデー」の歌を歌ってお祝いしました。

6歳を迎える直前の3月、陽斗くんはSDR手術を受けました。

「手術前には、どんな手術をするのかをしっかりと説明し、本人も理解して手術に臨みました。当日、『頑張るね!』と言って手術室に向かっていったことをよく覚えています。手術は全身麻酔で行われ、約3時間半かかりました。手術のあとはPICU(小児集中治療室)に2日間入り、薬でずっと眠ったまま。その後一般病棟に移って目を覚ました陽斗は、手術によって腰のあたりできた7cmほどの傷をとても痛がっていました」(なつきさん)

陽斗くんが受けた手術は筋肉の痙縮を軽減するものでしたが、手術の際に全身麻酔をして初めて、右足首の関節がかたくなっていることがわかりました。

「神経の手術をしても関節のかたさは改善されないものらしく、手術後もかかとは完全に地面につかない状態です。そのため、今後も長距離を歩いたり、早く走ったりすることは難しいそうです」(なつきさん)

しばらくして陽斗くんの術後の傷の痛みが治まるとリハビリが始まりました。

「リハビリは、術後の脚の状態に慣れることから始め、立ち上がる練習、歩く練習などを毎日1時間ほど、退院するまで継続して行いました。リハビリの時間以外も病室でストレッチやマッサージをしたり、病棟内を歩き回ったり、身体を動かすことを意識して生活していました。術後はそれまでと脚の感覚がまったく違ったようで、まるで別物に感じるのだそうです。陽斗は慣れない感覚で大変な中、泣き言ひとつ言わずにリハビリに取り組んでいました」(なつきさん)

ドナルド・マクドナルド・ハウスに滞在し、面会とリモートワークを両立

入院中の陽斗くんと、なつきさん。

入院中の陽斗くんが寂しい思いをしないように、なつきさんは面会時間の9時から21時まで付き添うようにしていました。

「入院期間中は、3人きょうだいの二男の陽斗と1対1で向き合うことができた貴重な時間でもありました。陽斗はもともとすごく甘えん坊な子だったんです。足が不自由だったこともあって、保育園でもお兄さんお姉さんにお世話してもらっているタイプでした。でも、入院中の病棟では陽斗がいちばん年上だったこともあり、小さい子を心配したり、気配りしたりする姿が見られました。

隣のベッドの子が朝ごはんをちゃんと食べているか気にして声をかけたり、泣いている子がいたら看護師さんに知らせたり。ずっと一緒に過ごしたからこそ、知らなかった陽斗の一面を見ることもできました」(なつきさん)

ドナルド・マクドナルド・ハウスに滞在したなつきさんは、面会時間前の早朝や、昼食の時間、面会後の夜間にと分けて、半日の時短勤務になるように仕事をこなしていました。

「そのような働き方はイレギュラーでしたが、人事に相談して調整してもらうことができました。大変な生活ではありましたが、仕事をすることで気分を切り替えることができたし、社会とのつながりを感じることもできて、ありがたかったです。

また、病院からほど近いドナルド・マクドナルド・ハウスを利用できたことで、心の余裕を持って陽斗に接することができたと思います。陽斗には笑顔でやさしくできたから、陽斗も『あれをやりたい』『これが見たい』と素直に甘えてくれていたと思います」(なつきさん)

きょうだいと同じように走れるわけではないけれど

8歳になった三つ子たち。地域の夏祭りで山車を引きます。一番右が陽斗くん。

手術後1カ月半入院してのリハビリ生活を経て、陽斗くんは少しの距離なら自分で歩けるようになりました。

「退院する際、医師から『家に帰ってからの毎日のマッサージやリハビリが大切』と言われ、寝る前やおふろ上がりなどに股関節を中心にやわらかくするマッサージを続けました。また、週に1回、療育センターでのリハビリも続けています。脚の状態に合わせてマッサージやストレッチ、歩く練習などをしています。

手術により脚の緊張がとれ、毎日のマッサージなどの効果もあって、陽斗は自力歩行ができるようになりました。自分で歩けるようになったことで、家族でキャンプに行ったときには、テントの設営を手伝ったり、木の実や貝殻を拾いに行ったりできるようになり、とてもうれしそうでした。私たちは家族そろって過ごす日常が当たり前ではないことに改めて気づき、それまで以上に家族で過ごす時間を大切にするようになりました」(なつきさん)

現在8歳の陽斗くん。ほかのきょうだいと一緒に公立小学校の普通級に通っています。

「入学前に小学校に相談すると、学校側は陽斗を受け入れるためにスロープの設置などの準備を進めてくださいました。陽斗はランドセルを背負って長距離を歩くのはまだ難しいため、登校は両親どちらかがバギーを押して、登校班の子どもたちと一緒に登校しています。
私と夫は、平日はどちらかが在宅勤務できるように調整して登校に付き添っています。

体育の授業では走る距離を短くするなど、担任の先生と相談しながら、陽斗ができる範囲で取り組んでいます。足が少し不自由なこと以外はとくに問題なく、クラスメイトと同じように学校生活を送ることができています」(なつきさん)

8歳になった三つ子たち。それぞれ好きなことがバラバラで、個性豊かに成長しています。

「長男は勉強や読書が大好きで、授業中は積極的に発言しすぎるタイプ。陽斗はレゴに夢中で歌やダンスも大好きです。三男は外遊びが大好きで、毎日汗だくになって走りまわっています。3人それぞれの好きなことを大事に、得意なことを伸ばしてあげられたらな、と思っています。

陽斗は、今後も足の不自由さと付き合いながら生きていくことになりますが、だれかの手伝いが必要になったり、困ったりしたときに、周囲の人に助けを求められるようになってほしいと考えています。そのために、普段から親が日常的にあれこれ指示するのではなく、子どもたちの声を聞いてサポートするようなかかわりを心がけています。それは、陽斗だけでなくほかの2人も同じです」(なつきさん)

妊娠中から産後しばらくするまで三つ子の育児に不安を感じていたなつきさんですが、陽斗くんの手術などの経験を経て、「今は5人家族のにぎやかな毎日が幸せ」と話します。

「出産当初は『この子たちは話せるようになるのかな』『歩けるかな?』と不安ばかりでしたが、三つ子たちの成長によって不安が少しずつ取り除かれ、忙しい中でも幸せを感じるようになれました。3人の息子のにぎやかな様子に、日々励まされています。

陽斗は今後、脳室周囲白質軟化症による新たな症状が出ることはないのですが、成長に伴って姿勢が崩れたり、歩きにくさが増したりすることがあるようです。来年か再来年には、整形の手術を検討しています」(なつきさん)

【井原哲先生より】SDR手術後は、リハビリやストレッチの地道な努力も欠かせない

6歳の陽斗くん。保育園の柔軟発表会で。手術後はブリッジも1人でできるようになりました。

脳性まひによる下肢の痙縮のために、リハビリでは歩行練習をできているものの実用性が上がらない程度の症状の改善にSDRは有効です。SDRの効果を最大限発揮させるためには術後のリハビリやストレッチなどの地道な努力も欠かせません。陽斗くんはご家族のサポートを得ながらしっかりと取り組んでくれ、運動能力が飛躍的に向上しました。SDRのために遠方から入院される方も多く、ドナルド・マクドナルド・ハウスの存在には私たちも非常に感謝しています。

お話・写真提供/関澤なつきさん 監修/井原 哲先生 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部

SDRは国内では対応できる医療機関もまだ少ないのだそう。
手術によって、ほかのきょうだいと同じようにとはいかないまでも、自分で歩けるようになった陽斗くん。手術を選択したことで、将来の可能性が広がったと言えるのではないでしょうか。

「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。

井原 哲先生(いはらさとし)

PROFILE
地方独立行政法人東京都立病院機構 東京都立小児総合医療センター 脳神経外科部長。1997年より脳神経外科医師としてキャリアを始める。2005年より小児脳神経外科を専門とし、国立成育医療センター、筑波大学を経て2013年には東京都立小児総合医療センター脳神経外科医長に就任。小児脳神経外科手術を手がけている。

ドナルド・マクドナルド・ハウス ふちゅう

病気と向き合う子どもとその家族を支える滞在施設「ドナルド・マクドナルド・ハウス」は、全国に12施設あり、いずれも小児病院のすぐ近くに位置していて1日1人1000円で利用することができます。
ふちゅうハウスは東京都立小児医療センターの隣接地にあり、12家族が滞在可能。運営はすべて寄付・募金とボランティアの活動によって支えられています。詳細は財団ホームページから確認できます。

公益財団法人ドナルド・マクドナルド・ハウス・チャリティーズ・ジャパンの公式HP

ドナルド・マクドナルド・ハウス ふちゅうの公式X

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2025年9月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

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