SHOP

内祝い

  1. トップ
  2. 赤ちゃん・育児
  3. 赤ちゃんの病気・トラブル
  4. 手術後の合併症で脳梗塞になった3歳、長男。脳のMRI画像を見た父は「元の千歳は戻ってこない」とさとり…夫婦で泣き続けた日々【クルーゾン症候群】

手術後の合併症で脳梗塞になった3歳、長男。脳のMRI画像を見た父は「元の千歳は戻ってこない」とさとり…夫婦で泣き続けた日々【クルーゾン症候群】

更新

2歳の千歳くんと、ママ・パパでいちょう並木を散歩。

整形外科医の中川知郎さんと、元看護師のあずささん夫妻には、2人の子どもがいます。4歳の長男・千歳(ちとせ)くんは、生後4カ月ごろにクルーゾン症候群と診断されました。
クルーゾン症候群とは、遺伝子の変異によって起こる生まれつきの病気です。難病情報センターの情報によると、日本での年間発症数は20~30人と予想されています。
父親の知郎さんと妻のあずささんに、千歳くんの手術のことや術後の合併症のこと、NPO法人AYAの活動について聞きました。全2回インタビューの後編です。

▼<関連記事>前編を読む

2歳で頭蓋延長術。3歳で中顔面延長術を

3歳4カ月。中顔面延長術を受ける当日の朝の様子。こんなに元気だったのに。

クルーゾン症候群の主な症状は、頭蓋骨や顔面骨の形成異常です。とくに頭蓋骨は、つなぎ目が通常よりも早くふさがってしまうので、脳の発達のためにも早めの手術が必要です。千歳くんも生後9カ月のとき、大学病院で頭蓋形成術(ずかいけいせいじゅつ)を受けました。頭蓋骨の前方を拡大する大変な手術で、その後も2回手術を行いました。

――2回目、3回目の手術について教えてください。

知郎さん(以下敬称略) 2回目の手術は、2歳1カ月で行いました。脳の発達のために、頭蓋骨の後方を延長する頭蓋延長術です。大変な手術でしたが、千歳は頑張って乗り越えてくれました。

3回目の手術も、同じ大学病院で3歳4カ月のときに行いました。中顔面延長術(ちゅうがんめんえんちょうじゅつ)です。千歳は、顔面骨の形成異常により、鼻からの気道が狭く、そのため風邪をひくと呼吸困難になって、入院することもありました。無呼吸になってしまうこともありました。この手術をすれば気管切開をしなくて済むし、いつかはしなくてはいけない手術だったので、担当医と話し合って、3歳4カ月で手術をすることにしました。

――どのような手術でしょうか?

知郎 中顔面延長術は、顔の中央部分の中顔面の骨切りをして、延長器を装着して、前方に延ばすという大変な手術でした。3歳になるまで気管切開をせずにこれているので、このまま気管切開をせずに中顔面延長術で呼吸を改善するのが目的でした。
手術時間は5時間におよびましたが、待合室であずさとずっと待っていました。千歳は、小さい体でよく頑張ってくれました。

3歳4カ月で行った中顔面延長術の後に急変

3歳4カ月で手術を受けた後の千歳くん。

千歳くんは、3歳4カ月で行った中顔面延長術の後に、合併症を起こしました。

――手術の後、どのような合併症が現れたのでしょうか。

あずささん(以下敬称略) 中顔面延長術をしたときは、第2子がまだ生後2カ月でした。千歳が退院できるまで、下の子は私の両親に見てもらって、私は付き添い入院をする予定にしていました。

ですが千歳は、術後3日目に合併症を起こし40度の熱を出し、髄膜炎(ずいまくえん)と診断されました。すぐに治療を行い、炎症はなかなか改善しなかったものの、意思疎通はできるようになっていました。でも手術から1週間が過ぎたあと、意識レベルが低下して意思疎通がとれなくなりました。前日までは、私が絵本を見せると興味津々に目で追ったり、夫が「退院したら〇〇ほしい?」などと聞くと、「うん」と言っていたのに・・・。

知郎 妻から急変したと連絡があり、私も病院に駆けつけました。私が到着したとき、千歳は呼吸が悪化していて、たくさんの医師に囲まれていました。妻は激しく泣いていて、自分で歩けないような状態でした。
翌日、担当医から、術後の合併症で脳梗塞になったと言われました。MRI画像を見た瞬間に「もう、元の千歳は戻ってこない・・・」とすぐにわかりました。

私も医師なので、死亡のリスクがある手術だと覚悟はしていました。でも無事に手術が終わったので大丈夫だと思っていました。
もちろん医師として術後の合併症のリスクについても十分理解しています。しかし、ここまでひどい合併症は予測しづらいことです。まさか髄膜炎になるとは思っていませんでしたし、その結果脳梗塞になるなんて・・・。考えうる限りの最悪の合併症が起きたんだと思いました。

夫婦で泣き続ける日々。千歳くんのおもちゃは全部片づけた

リハビリを頑張る3歳10カ月の千歳くん。

千歳くんが急変して、あずささんは平常心が保てなかったと言います。

――千歳くんが急変して、いろいろ大変だった思うのですが・・・。

あずさ 千歳が急変して、私はすぐに自宅のリビングにある千歳のおもちゃを全部片づけました。「もう千歳は、このおもちゃは使えない」という投げやりのような気持ちと、おもちゃを見ると、千歳が元気だったころのことが思い出されるつらさとで、おもちゃを見るのも耐えられませんでした。

千歳の急変を私の両親に伝えたら、預けていた生後2カ月の二男を連れて新幹線に乗って、すぐに来てくれました。でも千歳のことがあって、二男を受け入れる気持ちになれませんでした。抱っこしたり、授乳することができないんです。元気な二男を見るのがつらくて、二男を育てられるような精神状態ではありませんでした。私の様子を見て、母が心配して、ずっと付き添ってくれました。

知郎 当時は、夫婦で励まし合うような日々でした。毎日、毎日、泣いていて、夫婦でどうにか支え合っていました。私も千歳のことを考えると、二男とどのようにかかわったらいいかわかりませんでした。

「いつかは必要と言われていても、急ぐ手術ではなかったのだから、このタイミングで手術をしなかったほうがよかったのではないか・・・」「手術をしなければ千歳は、この状態にならなかったのに・・・」と自問自答を繰り返しました。

同じマンションの住人に千歳のことを知ってほしくて、チラシを貼って・・・

マンションの住人や友人たちが折ってくれた、4000羽もの折り鶴。

千歳くんは、大学病院に3カ月ほど入院。その後、小児のリハビリテーション病院に転院します。

――千歳くんのリハビリについて教えてください。

知郎 小児のリハビリテーション病院は限られているので、千歳は自宅から離れた病院に入院しました。あずさとあずさのお母さんが、交代で付き添っていました。
リハビリテーション病院には、3カ月ほど入院しました。現在も週5日療育施設に通って遊びや運動を通してリハビリを行うほか、週2回訪問リハビリを受けています。リハビリを続けることで、少しずつですが表情が出てきたり、動ける範囲が広がってきたりしています。

1歳半になる二男とボールで遊んだりすることも、いい刺激になっているようです。

あずさ 千歳が退院して自宅に戻るとき不安だったのが、周囲の人に受け入れてもらえるかな?ということでした。
千歳が元気だったころも、外に連れて行くと特徴的な顔をジロジロ見られたり、小さい子から「怖い」と言われこともあったので・・・。
そのため夫と相談して自宅マンションのエントランスに、千歳の状況を説明したチラシを貼って「病気と闘って頑張っている子がいます!鶴を折ってもらえませんか?」と呼びかけて、折り紙と箱を置きました。すると4000羽もの折り鶴が集まりました。住人以外の、私たちの知り合いも折り鶴を折ってくれました。

あのころは、千歳が頑張っているんだから、私たちも千歳のために何かしないと!と必死でした。
マンションの人たちに千歳のことを知ってもらえたおかげで、今、千歳を見かけると「千歳くんだ!」と声をかけてもらえたりして、心地いい環境で住むことができています。

知郎 現在、千歳は四肢麻痺、高次機能障害があり、意思疎通もうまくできません。今後も自身の力だけで生きていくのは難しいとは思いますが、子どもらしくたくさんの体験をさせてあげたいと思っています。多くの経験をすることで、いつか意思表示ができるようになってほしいと願っています。

大きな病気や障がいをもつ子どもたちにも、ワクワクするような体験を届けたい

子どもたちと父親の知郎さん。

中川知郎さんは、病気や障がいをもつ子どもたちに、スポーツ・芸術・文化と触れ合う機会を提供する、NPO法人AYAのメンバーとして活動しています。

――NPO法人AYAの活動について教えてください。

知郎 AYAは、2022年から活動をスタートしました。代表理事の中川悠樹医師は、救急科専門医・外科専門医で、私が以前に働いていたことがある医療機関の先輩医師です。長男・千歳に先天性の疾患があったこともあり、私も微力ながら力になれれば・・・と思い、活動に参加しました。

AYAの活動は、障がいや大きな病気をもつ子どもとその家族を対象に、映画館を貸し切ったインクルーシブ映画上映会や、スポーツ観戦、音楽鑑賞会などの体験の機会を届けることです。

千歳も、映画上映会などに参加したことがあります。大きな病気や障がいがあると、したいことがあっても「無理だから・・・」とあきらめてしまいがちです。ですがあきらめざるを得なかった体験を、子どもたちとその家族に、安心して楽しめるカタチで届けたい!子どもたちの体験格差を少しでも減らしたいという思いで、これからも活動を続けていきたいと思います。

――千歳くんのこれからの子育てを、どのように考えていますか?

知郎 AYAの活動とも重なるのですが、千歳はまだ4歳。できるだけいろいろな体験させてあげたいと思っています。

元気だったころ千歳は、幼稚園に通っていました。退院してから、私たち夫婦は、幼稚園に通うことをあきらめていたのですが、幼稚園の先生が「ママかパパが付き添ってくれるなら、週1回でも来てみたらどうですか?」と言ってくれました。久しぶりに幼稚園の先生に会ったら、千歳が笑ってくれました!その笑顔を見て驚いたし、うれしかったです。千歳の心を刺激するような体験を今後もできるだけさせてあげたいと思っています。

自分は医療者なので医師としてできることは、なんでもしてあげたいと思うものの、自分にできることはほとんどなく、つらい部分もあります。医師としてよりも、父としてしっかり接してあげたいと感じています。

お話・写真提供/中川知郎さん、あずささん 取材・文/麻生珠恵、たまひよONLINE編集部

取材中も、いろいろなことが思い出されて、涙を流していたあずささん。「今は、どこまで理解できているかはわからないけれど、千歳が時折見せてくれる笑顔が、私たち夫婦の心の支えです」と話しています。

「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。

中川知郎(なかがわともお)さん・あずささん

知郎さん:広島大学医学部医学科卒。整形外科医として勤務する。専門は救急外傷、小児整形外科。小児外傷について研究しながら、NPO法人AYAを通じて病気や障がいのある子やその家族にイベントや体験の機会を提供している。
あずささん:看護師として大学病院で勤務後、リハビリテーション病院や訪問看護師としても勤務。妊娠を機に退職し、現在は2人の子どもの育児に奮闘している。

NPO法人AYAのHP

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2025年11月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

赤ちゃん・育児の人気記事ランキング
関連記事
赤ちゃん・育児の人気テーマ
新着記事
ABJマーク 11091000

ABJマークは、この電子書店・電子書籍配信サービスが、著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスであることを示す登録商標(登録番号 第11091000号)です。 ABJマークの詳細、ABJマークを掲示しているサービスの一覧はこちら→ https://aebs.or.jp/

本サイトに掲載されている記事・写真・イラスト等のコンテンツの無断転載を禁じます。