妊娠20週の妊婦健診で「手足が短い」と言われ、32週の検査で「99.9%障害がある」と。涙が止まらない・・・【スティックラー症候群1型】
大塚まどかさんには、2人の子どもがいます。第2子のらんちゃん(小学6年生)は、2型コラーゲン異常症関連疾患の1種である、スティックラー症候群1型と診断されています。2型コラーゲン異常症関連疾患の患者数は全国に約1500人と推定されていますが、治療法が確立されていません。代表的な症状の1つに低身長があり、生活するうえで不自由さがあるのも、この病気の特徴です。
母親のまどかさんに、スティックラー症候群1型と判明するまでのことや、らんちゃんの症状について聞きました。
全2回インタビューの前編です。
妊娠20週ごろの妊婦健診で、「手足が短い」と言われる
らんちゃんを授かったのは、まどかさんが30歳のときです。
――夫婦の出会いについて教えてください。
まどかさん(以下敬称略) 夫は私と同じ歳で、大学の陸上サークルで知り合いました。
私が通っていた公立小学校は、陸上に力を入れていたんです。上級生が陸上をする姿にあこがれて、私も陸上を始めました。中学の陸上部では短・長距離の練習をして、100メートルハードルと駅伝で、県大会にも出たことがあります。
うちの子は、長男が走太。長女がらんです。2人とも“走る”から名前をつけました。
――らんちゃんに気になる様子が見られたのは、いつからでしょうか。
まどか らんは、里帰り出産を予定していて、自宅近くの産科クリニックで診てもらいながら、出産予定の大学病院でも妊婦健診を受けていました。
妊娠20週ごろ、産科クリニックで「手足が短い」「おでこが出っ張っているかも」と言われたんです。その後、大学病院でも同じことを言われました。
妊娠31週のとき、大学病院で妊婦健診を受けたところ、超音波の専門医がいる大学病院に行くように言われて、紹介状をもらいました。
――上の子の妊娠のときと、何か違うと思ったことはありますか。
まどか 上の子は、おなかの中で元気に動いていたのですが、らんは、あまり胎動を感じませんでした。でもエコー検査をすると、動いているんです。もしかしたら手足が短かかったために、胎動をあまり感じなかったのかもしれません。
妊娠32週で、詳しく超音波検査を行い、軟骨無形成症の疑いが
まどかさんは、紹介された大学病院で、詳しく超音波検査を受けることに。妊娠32週のことでした。
――超音波の専門医がいる大学病院を受診したときのことを教えてください。
まどか その日は、夫が仕事を休めなかったので、上の子を私の実家に預けて、私1人で行きました。高性能の超音波診断装置で詳しく検査をしたところ医師から「軟骨無形成症かもしれないけれど、言いきることはできない。でも99.9%障害をもっている」と言われて、カルテに「ハイリスク患者」と赤いスタンプを押されました。そのスタンプが、本当にショックでした。
軟骨無形成症とは、軟骨が正常に形成されないことにより、低身長になったり、手足が短くなったりする病気です。
医師からは「夫は来てないのか?」と2回ぐらい聞かれたのですが、診察室を出て待合室を改めて見ると、みんなパートナーと来ていたんです。
トイレに入ったら、いろいろな思いや不安が込み上げてきて、涙が止まらなくなってしまって・・・。トイレには検尿ボックスがあって、こちらの様子が看護師さんにわかるんです。声を出して泣いていると、看護師さんが「大丈夫ですか?」と声をかけてくれました。
帰りのバスの中でも、涙が止まらなくて・・・。「長男の前では泣いちゃいけない」と思い、カフェで時間をつぶして、涙が止まってから、私の実家に長男を迎えに行きました。
――両親からは、どのような言葉をかけられましたか?
まどか 病院で説明されたおなかの赤ちゃんの様子を母に伝えると、母は「チームまどかで支えるよ!」と言ってくれました。本当にうれしかったです。
遺伝子検査で、スティックラー症候群1型と判明
らんちゃんは、生まれてすぐにNICU(新生児集中治療室)に入院。妊娠中に疑われていた、軟骨無形成症ではないことがわかります。
――らんちゃんが生まれたときのことを教えてください。
まどか 長男は、胎盤が低い位置に形成されている低置胎盤と診断されて、帝王切開で出産しました。
そのため、らんも帝王切開でした。医師の「どんな障害があるかわからないから」という判断もありました。出産したのは、予定どおり実家近くの大学病院です。らんは2013年5月に、2578gで生まれました。親子で写真を撮ってもらい、らんはすぐにNICUに運ばれていきました。
――生まれてすぐにスティックラー症候群1型とわかったのでしょうか。
まどか 妊娠中は、軟骨無形成症を疑われていて、99.9%障害があると言われたので、残りの0.1%に願いを託しながら、同じような人はいないか、いろんな人のブログを読みあさっていました。
生まれたら「軟骨無形成症ではない」ということになり、ほかの大学病院の医師にもらんのX線画像などを診てもらい、「スティックラー症候群だろう」という話になったそうです。
――スティックラー症候群という病名は、知っていましたか。
まどか 私は、スティックラー症候群も、2型コラーゲン異常症も知りませんでした。初めて医師から病名を聞いたときは、医師に「2型コラーゲン異常症ということは、コラーゲンを飲むと治るのでしょうか?」と質問したぐらいです。
医師から説明されたのは「治療法は確立されていない」ということでした。
また目と耳の検査は、何度行っても判定不能と出てしまうことや、身長は成長に従ってそこそこ伸びていくことなどを、ていねいに教えてくれました。らんの出生時の身長は40cm。成長曲線から大きくはずれていました。
そして医師から、遺伝子検査をすすめられました。「かかとから少量の血液を採取するだけだから」と言われて、赤ちゃんに負担が少ないことも説明されました。
――スティックラー症候群1型と診断されたのは、いつでしょうか。
まどか 遺伝子検査をしても診断はなかなか出ませんでした。その間は、毎日、ネット検索をして「仲間はいないか? 新しい情報はないか?」と探していました。軟骨無形成症で背が低くても頑張っている子どものブログを読んで励まされたこともあります。
確定診断が出たのは、らんが1歳になってからです。生まれたときにかかとから採った血液の遺伝子検査の結果が、やっと出て、遺伝子の突然変異と説明されました。
代表的な症状である口蓋裂。2歳4カ月で手術を
らんちゃんが診断された、スティックラー症候群1型を含む、2型コラーゲン異常症関連疾患は、口蓋裂、難聴、網膜剥離、重度近視、低身長、脊柱弯曲、頸椎狭窄などが主な症状です。
――新生児のときから見られた症状を教えてください。
まどか らんは、生まれてすぐに首の骨のずれと、口の中の上部に裂がある口蓋裂(こうがいれつ)がわかりました。口蓋裂は、口唇口蓋裂の治療で有名な大学病院を紹介されて、そこで手術をすることになりました。手術をしたのは2歳4カ月です。
軽度難聴も見つかったので、鼓膜にチューブを挿入するチュービングも併せて行いました。
らんは、摂食障害があり、とにかく食が細いんです。食べさせることにかなり苦労しました。医師からは「口蓋裂の手術をするには、体重7kgが目標」と言われていたのですが、1歳代の終わりごろにようやく6900gぐらいになり、でもそこから体重が増えなくて・・・。
また「感染症に注意が必要だから、冬は手術をやめたほうがいい」と言われて、なかなか手術ができませんでした。
2歳4カ月になり、やっと手術ができました。
――口蓋裂の治療により、摂食障害は改善されたのでしょうか?
まどか 手術後も摂食障害は改善しなかったので、3歳前から摂食えん下リハビリテーションに通いました。そこでは「軽度の難聴があるから、らんちゃんは視覚情報で、食べられるものを判断しているのだと思います」と言われました。らんは、スティック状のスナック菓子を好んで食べていました。
また、らんは0歳から寝つきが悪いんです。抱っこして寝かせようとしても、なかなか寝ないんです。今でも、布団に入ってから寝つくまで1~2時間はかかります。
私としては、しっかり食べて、よく眠って大きくなってほしいのに、うまくいかなくてモヤモヤしていた時期もあります。
【澤井先生から】体を支えるコラーゲンにかかわる遺伝子の変異によって起こるまれな病気
スティックラー症候群1型は、体を支えるコラーゲンにかかわる遺伝子の特徴から起こるまれな病気です。成長がゆっくりだったり、耳や目に不調が出たりすることがあります。らんちゃんの場合も、生まれてすぐに口の中の裂け目や首の骨のずれが見つかり、検査で病気がわかりました。
手術やリハビリを重ねながら、ご家族と一緒に少しずつできることを広げてこられました。
お話・写真提供/大塚まどかさん 医療監修/澤井英明先生 協力/2型コラーゲン異常症患者・家族の会 取材・文/麻生珠恵、たまひよONLINE編集部
らんちゃんが診断された、スティックラー症候群1型を含む、2型コラーゲン異常症関連疾患は、治療法が確立されていません。そのため対症療法が中心です。
後編は、保育園、小学校のらんちゃんの様子や、病気のことを知ってもらうための活動を紹介します。
「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。
澤井英明先生(さわいひであき)
PROFILE
医学博士。兵庫医科大学大学院看護学研究科特命教授。1984 年高知医科大学医学部卒。同年兵庫医科大学産科婦人科学入局。2006年京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻遺伝カウンセラー・コーディネータユニット准教授。2010年兵庫医科大学産科婦人科准教授。2017年同病院遺伝子医療部教授を経て、2025年4月より現職。
●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2025年10月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。


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