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体重約400gで生まれ、命の危機を乗り越えた赤ちゃん。命が助かったその後、どんなふうに成長する?~新生児医療の現場から~【新生児科医・豊島勝昭】

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1歳になったころのみぃちゃん。視力も守られました。

近年、新生児医療の目覚ましい進歩により1000g未満で小さく生まれた赤ちゃんの命が助かるようになりました。一方で、小さく生まれた赤ちゃんがどのように成長するのか、成長していく上でどんな応援が必要なのかも気になる点です。テレビドラマ『コウノドリ』(2015年、2017年)でも監修を務めた神奈川県立こども医療センター(以下、神奈川こども)周産期医療センター長の豊島勝昭先生に、新生児集中治療室(NICU)の赤ちゃんたちの成長について聞く不定期連載。第16回は小さく生まれた赤ちゃんのNICU退院後のことについて聞きます。

約400gで生まれ、失明の危機があったみぃちゃん

生後すぐのみぃちゃんを守ろうとしている医療スタッフたち。

――神奈川こどもで小さく生まれた赤ちゃんのうち、長くフォローを続けている患者さんのエピソードを教えてください。

豊島先生(以下敬称略) 15年前、予定日より4カ月早く約400gで生まれたみぃちゃんという女の子がいます。生まれてからいくつもの生命の危機に直面し、両親には何度も厳しい話をせざるをえない状況でした。
壊死性腸炎で手術を繰り返し、なかなか具合がよくならない時期が続きました。未熟児網膜症による失明の危機もあり、眼底検査を行うこと自体で体調が大きく悪化してしまう時期もありました。

お母さんは「たとえ失明しようとも、今頑張っているみぃちゃんがさらにつらい思いをするなら眼底検査や未熟児網膜症に対するレーザー治療はしなくていい。視力を失おうとも生きてほしい」とまっすぐに僕たち医療スタッフに伝えてくださいました。そして当時の担当医は、みぃちゃんのお母さんの気持ちに心を寄せながら「きっと未熟児網膜症の治療を行なっても、みぃちゃんなら乗りきれると思えるから、視力を守りながら命を守りたい」と、検査や治療に力をつくしてくれました。

スタッフと家族みんなで、みぃちゃんのためにどうしてあげることがいいかをそれぞれの立場で一生懸命考えていたことを思い出します。

――その後、みぃちゃんはどのように成長したのでしょうか。

豊島 1歳を過ぎてNICUから外科病棟に移ったのちに、在宅での中心静脈栄養輸液などとともに退院となりました。感染症などで入退院を繰り返す時期もありましたが、両親と多くの医療者に大切に見守られながら、力強く回復を重ねていくみぃちゃんの生命力を実感していました。
在宅医療などもすべて終え、チキンナゲットをたくさん食べている光景を見たときには、とても感動したことを覚えています。

今年、中学卒業を迎える年齢になったみぃちゃんは、外来で会ったときに修学旅行の写真を見せてくれながら、修学旅行で楽しかったことや受験に向けて頑張っていることを話してくれて、うれしく感じました。穏やかで思慮深い女の子に成長しているようです。NICUからずっと変わらず、あたたかく成長を見守り続けてこられた、ご両親の15年間を讃えたい気持ちです。

臓器が未熟な状態で生まれると、成人期まで健康上のリスクがあることも

さまざまな取り組みで少しずつ体重が増え、生後半年を過ぎて少しふっくらし始めたころのみぃちゃん。

――小さく生まれた赤ちゃんが成長した後の心配はあるのでしょうか?

豊島 最近、医療者の間では「Small Vulnerable Baby(スモール・バルネラブル・ベイビー)」という考え方が広まりつつあります。これは、小さく生まれた赤ちゃんには、病気とは言えないものの、体や心の面で健康と病気の境界にあるような“体質”をもつことがある、というとらえ方です。“小さく脆弱な赤ちゃん”という意味で、早産児、低出生体重児、SGA(在胎週数のわりに体が小さい赤ちゃん)などが含まれます。SGAというのは、たとえば妊娠37週の正期産だけれど体重は1500gであるような、在胎週数に対して体格が小さい赤ちゃんのことです。

新生児医療の進歩によって、早産・低出生体重児・SGAの赤ちゃんたちの命は助かるようになりました。しかし、成長を長い目で見ていくと、体格や心肺機能、腎機能などに“脆さ(もろさ)”を残したまま育つことがあり、発達のしかたにもアンバランスさがみられることがある、ということが世界的に注目されるようになっています。

これらの特性は、ひとつひとつだけを見ると病気とはみなされない場合も多いです。ただ、いくつかが重なったときに、学校生活や日常生活の中で「生きづらさ」や「困りごと」として表れてくることがあります。

そのため、小さく生まれた赤ちゃんについては、NICUで命が救われてよかったで終わらず、NICU退院後も成長段階に応じて、心身の健康や生活のしやすさを継続して見守っていくことが大切だと考えています。

――リスクというと具体的にはどのようなことですか?

豊島 肺が未成熟な状態で生まれた赤ちゃんの中には、新生児慢性肺疾患となり、在宅酸素などの医療的ケアが必要な状態で退院する人もいます。2〜3歳までには肺が発達して酸素は不要になるのがほとんどですが、その後、小学校高学年くらいになって呼吸機能の低下が再び目立ってくることもあります。
また、心臓が未熟で生まれた赤ちゃんは、成長期に疲れやすいような症状が出ることもあります。ほかに、病気ではないけれど身長が伸びづらく、体格が小さい子もいます。その場合は小児内分泌科の先生と連携する必要があります。
また、神経発達症として自閉スペクトラム症などがある場合もあります。その場合は、その子の特性を理解した上での発達支援や生活応援が大事です。

小さく生まれた赤ちゃんたちは、体質や特性が正期産の赤ちゃんとは少し違って、健康面で、成長に応じて長く向き合っていく課題がある場合もあるので、命を助けたあと、心身の成長や発達を継続してフォローしていくことが大事だと考えています。

複数の問題を抱え、「わかってもらえない」悩みを抱える

中学生になったみぃちゃん。修学旅行の様子の写真をスマホで見せてくれているところ。

――小さく生まれた赤ちゃんは成人してからも健康上のリスクを抱えやすいのでしょうか。

豊島 一般の人と比べて、生活習慣病などを早い時期に発症する可能性が指摘されています。肺が弱い状態で育った人が、20歳を過ぎてたばこを吸うようになると、慢性肺疾患が増悪して再度の在宅酸素療法が必要な可能性があります。臓器が未熟で生まれたからこそ、健康を維持する取り組みが大事なのです。

小さく生まれた赤ちゃんたちの命が助かるようになったからこそ、その子の心身の健康を維持する取り組みをしていくべき、ということは世界的に言われていることです。僕が長年、神奈川こどもでお子さんたちを見ているなかでも、心身の健康管理はとても大事ですし、それは本人の自立支援につながると思っています。小さく生まれ、何らかの理由で通院を続けたり、生活上で苦手なことがあったり、視力に問題があったりという子は少なくありませんが、フォローアップを長期に続けている病院では、就労率が8割〜9割に達していたという報告もあり、適切なフォローアップが将来の自立につながることが示されています。

――フォローアップをしっかり行うことで、就労にも影響するというのはどういうことでしょうか。

豊島 小さく生まれて重症の病気や障害がある場合は、継続的に病院にかかっているので支援が続きます。しかし、病気というほどではないけれど視覚認知が弱いとか、肺が疲れやすいとか、集中力が続かないなど、複数の境界的な特性をあわせもつ子どもがいます。病気として大きな問題に見えなくても、本人にとっては「わかってもらえない」という悩みの原因になることがあります。そうした課題を、医療や保健、教育、生活支援の立場から一緒に整理し、コーディネートする必要があるのです。こうした悩みは、診断名がつかないからこそ、見過ごされやすいという難しさもあります。

子ども本人が、そういった問題を抱えて自信をなくすなどの二次障害を起こしてしまうと、将来的な自立にかかわることもあります。だから、子どもが自信を失わずに育っていくのを多職種で長期に応援していく必要があるのです。

発達支援や就学のサポート、生活のサポートなどについては、病院だけでなく地域と連動する体制をつくっていく必要性も感じています。

医療と福祉、地域とで連動して成長をサポートしたい

フォローアップ外来でのみぃちゃんと両親。

――地域と連動するというのは、具体的にどういうことでしょうか?

豊島 地域の保健師さんや療育センター、学校など、子どもの育ちを応援する支援者たちと、多職種で相談し合いながら、地域全体での育ちを支える体制を整えることです。

小さく生まれた赤ちゃんが健康に育っていくために、地域の保健師さんの役割は大きいと思いますし、療育センターには理学療法士(PT)や作業療法士(OT)という発達支援の専門家もいます。保育園や幼稚園の先生にもNICUでどのように赤ちゃんやご家族が頑張っていたかを知ってもらうことが大切だと考えています。NICUでの治療で終わらずに、そういった地域と連動した体制を作っていきたい、というのが今の僕の願いであり、それが「認定フォローアップ医」の役目かなと思っています。

――「認定フォローアップ医」とはどういうものですか?

豊島 僕が所属している日本新生児成育学会では、2023年から認定フォローアップ医制度が設けられました。周産期・新生児期に医療を受けた児が、退院後も健全に成長発達をするため、フォローアップに関する専門的な医学知識や技能を有し、多職種の支援者と連携しながらNICU卒業を応援していける認定医を育成する制度です。
現在、認定フォローアップ医は全国に250人ほどいます。これからも増えていくでしょう。

小さく生まれた赤ちゃんがNICUを退院したあとのフォローアップについては、病院や地域の機能の違いでフォローアップに難しさを抱えているケースもあります。そのような地域差をなくし、日本中どこで生まれても赤ちゃんの育ちをフォローアップできるような体制を、多職種の人・社会・地域と一緒につくることが目標です。

ご家族にとって、お子さんが退院したあとの成長段階で「あれ、うちの子、まわりのことちょっと違うな」と感じたときに相談できる場所や、一緒に考えてくれる人がいると、きっと心強いはずです。

――医療と地域は実際どのように連動するのでしょうか。

豊島 たとえば神奈川県の場合は、僕のような新生児科医が県や市の保健師さんの研修会で早産児についての話をさせてもらう機会もあります。今はリトルベビーハンドブックの存在もあって、各都道府県で小さく生まれた赤ちゃんのフォローについて関心が高まっています。そういった場所で、医療機関と地域の保健師さんたちとつながり、多職種間のお互いの取り組みを理解し合い、連動していくことができるのではないかと思います。

小さく生まれて命が助かった子たちが、成人後に健康を害して生活が苦しくなってしまうのを避けるためにも、心身の健康を保つための応援を続けることを目指しています。

お話・監修/豊島勝昭先生 写真提供/ブログ「がんばれ!小さき生命たちよ Ver.2」 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部

小さく生まれた赤ちゃんを育てる親にとって、子どもの健康上のちょっとした気がかりについても、相談できる体制があることは心強いのではないでしょうか。豊島先生の「命が救えるようになったからこそ、継続して成長をフォローアップしていく必要がある」という言葉が印象的でした。

神奈川こどもNICU 早産児の育児応援サイト

がんばれ!小さき生命たちよ Ver.2

●記事の内容は2026年1月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

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