「当たり前のことがすごく幸せ」460gで生まれた娘の成長。退院後も続くフォローアップの大切さ~新生児医療の現場から~【新生児科医・豊島勝昭】
新生児集中治療室(NICU)に入院した赤ちゃんの治療や、その後の成長、家族のかかわりについて、専門家に聞く不定期連載。テレビドラマ『コウノドリ』(2015年、2017年)でも監修を務めた神奈川県立こども医療センター(以下、神奈川こども)周産期医療センター長の豊島勝昭先生に話を聞きます。
第20回は、低出生体重で生まれた赤ちゃんの成長と、NICUを退院したあとのフォローアップの大切さについてです。
460gで生まれ、3回の手術を受けた女の子
――現在、神奈川こどものフォローアップ外来に通っているお子さんで、低出生体重で生まれたエピソードを教えてください。
豊島先生(以下敬称略) 2012年に4カ月以上早産となり、体重460gで生まれたゆうきさんという女の子がいます。ゆうきさんは腸閉塞(ちょうへいそく)と未熟児網膜症(みじゅくじもうまくしょう)があり、とても重症な経過でした。3カ月の人工呼吸器管理、3回の手術のほか、さまざまな集中治療を受けながらNICUで頑張っていたゆうきさん。ご両親が、保育器のそばで涙ぐみながらほほえんで、ゆうきさんの手を握り応援していた様子を、今でもよく覚えています。
NICUでさまざまな治療を乗り越えたゆうきさんは、生後7カ月ほどで退院となります。退院後の経過は、1歳10カ月のころには1人で歩き、「バイバイ」などのあいさつもできるようになっていました。
――両親はゆうきさんの成長をどのように見守っていましたか?
豊島 ご両親は「できないかもと心配したことが1つ1つできるようになってうれしい」と、
ゆうきさんの成長に奇跡が続いていると感じていたようです。退院後、ゆうきさんが定期的にフォローアップ外来を受診する際は、毎回ご両親がそろって来てくれています。いつも笑顔で、ゆうきさんのいいところに気づき、ゆうきさんができるようになっていることを家族みんなで気づき、喜びながら育てているように見受けられます。
小学校入学前のフォローアップ外来で、ランドセルを背負って見せてくれたこともあります。その後も、年に1回の診察のときに小学校生活のことを話してくれたゆうきさん。満点の答案用紙や、通信簿を持ってきて見せてくれたり、英語やダンスなどの習い事を頑張っていることも伝えてくれたり。ゆうきさんが一生懸命に成長する姿と、ご両親がそれをあたたかく見守る姿に、いつも感動で胸が熱くなります。小学校生活を頑張って過ごしたゆうきさんは、現在は中学生になっています。
1000g未満で生まれた子、10歳以降もフォローアップを続けることも
――小さく生まれた子どもたちがNICUを退院した後は、どのように経過を見ていますか?
豊島 早産児や低出生体重児、SGA(Small for Gestational Age※1)の子どもたちは、臓器が成長途中の段階で生まれてくるため、正期産で生まれた子どもとは少し異なる体質をもつことがあります。病気というわけではありませんが、少し違う体質で成長していくのです。
日本において、早産児や低出生体重児が適切な治療を受けられる体制が全国的に整えられたのはわずか40年ほど前のことです。そのころ治療を受けた子どもたちは、今ようやく40歳前後です。早産児や低出生体重児のその後の成長の見守りについての研究も、まだ約40年の蓄積ということになります。でもわかってきたこともたくさんあります。大人になって自分自身で健康管理ができるよう、成人期を見すえた長期的なフォローアップが必要だと考えています。
――NICUを退院した子どもたちは、何歳くらいになるまでフォローアップ外来での診察が必要なのでしょうか。
豊島 神奈川こどもでは、この20年間、とくに出生体重1000g以下の子どもたちについては約9割を9歳までフォローアップしてきました。
以前、NICU退院児のその後の成長発達を支援するために設立されたハイリスク児フォローアップ研究会では、「社会性や学習面を評価・支援するため、少なくとも9歳までフォローアップを継続することが望ましい」と示されていました。学校生活が始まり、学習面や生活面でどのような課題が出てくるのかを確認し、小学校4年生で学習内容や友だち関係に難しさが出てくる時期の手前まで経過を見るためです。
ところが、2021年に神奈川こどもで小学校4年生以上の超低出生体重児(※2)の保護者にアンケート調査をしたところ、保護者の85%が10歳以降にもフォローがあったほうがいいと回答しました。その後、思春期にさしかかる年齢になっても相談したいことがあったというのです。そこで神奈川こどもでは、現在はお子さん自身とご家族と相談して、希望があれば、9歳以降もフォローアップ外来を継続しています。
※1 在胎週数(妊娠期間)に対して、体重や身長が標準よりも小さく生まれた状態
※2 出生体重1000g未満の赤ちゃん
学童期に体の機能や発達面に影響が出ることも
――小さく生まれたことでの合併症など、その後の経過はどうなのでしょうか?
豊島 小さく生まれた子どもの中には、慢性肺疾患を持つ子どもが少なくありません。人工呼吸器を使用する子もいます。小学校中学年ごろまでは、成長とともに肺機能も向上していくと考えられていました。しかし2017年の大阪母子医療センターの研究報告などでは、高学年でほかの子どもほど肺機能が伸びず、年齢でみると相対的に低くなるというデータも出てきています。
神奈川こどもでも小児循環器医の先生たちと協力し、小学校高学年で運動負荷検査を実施しています。NICU卒業生の子にルームランナーのような医療機器で実際に走ってもらい、どの程度の負荷まで苦しくならないかを確認しながら心肺機能を評価する検査です。
すると、日常生活には支障がなくても、運動するとチアノーゼなどの症状が生じる子どもがいることがわかりました。中学生以降になると体育や部活動などでの運動負荷も高くなります。小さく生まれた子が運動後などに疲れやすさを訴える場合には、こうした心肺機能を改めて調べることも必要だと感じています。
――発達面などにも影響するのでしょうか。
豊島 発達面については、学習内容が難しくなってきたときに苦手な部分が出てこないか、友だち関係が複雑になったときに悩みが出てこないかを見ています。
学習や人間関係の負荷が高くなると、集中力が続かない、気が散りやすいといった特性が目立つことがあります。勉強の難易度が上がるにつれて、こうした部分が顕在化しやすくなるのです。
――集団生活の中で、勉強についていけなくなったり、先生に注意されたり、友だちの何気ない言葉で傷ついてしまったりするお子さんもいるということですか。
豊島 そういうこともあります。本当に頑張っている子どもたちがとても多いですが、できることに少しムラやばらつきが生じていることがあります。そういう場合、自分自身でも「できるところもあるのに、なぜこれはできないんだろう」と歯がゆさを感じることがあると思います。
さらに周囲から「サボっている」「真面目にやっていない」と受け取られると傷ついてしまいますし、ご両親などから「頑張ればできるよ」と励まされることがつらくなる場合もあります。そうしたことがストレスにつながることもあります。
本人が学校にいくことにつらさがあるようなら、まずは環境調整が必要になります。学習環境が負担になっているのであれば、学校の先生と相談して宿題や学習内容の負荷を減らす工夫を考えます。落ち着きのなさが増したり、気持ちが落ち込んでしまうような症状が増していくようなら、児童思春期精神科の専門医と相談しながら内服治療も検討します。全員ではありませんが、そうした支援を必要とする子どもたちもいます。
自信をなくしたNICU卒業生に、生まれたときのことを伝える理由
――そのような壁にぶつかったとき、どんな支援をしていますか。
豊島 NICUの卒業生たちが成長の段階で自信をなくしてしまうような様子が見られたとき、以前の記事(不定期連載第7回)でも紹介したように、NICUへ里帰り訪問を行うことがあります。本来、NICUは関係者以外立ち入り禁止ですが、卒業生の子と保護者に見学してもらったり、入院しているご家族を紹介したりします。
NICUを案内して、「君はここにいたんだよ」「お父さんとお母さんはこんなふうに保育器のそばで応援していたんだよ」「ご両親がいないときには、看護師たちがこんなふうにお世話していたんだよ」などと伝えたりします。ある子は「自分がたくさんの人たちに、大切にされていたことがわかりました」というひと言を残して帰っていきました。
――保護者の方にとっても、子どもが生まれたときのことを思い出す機会になりますね。
豊島 ご家族はお子さんを大切に育てながら一生懸命応援してきた方ばかりです。生まれたときには「どんな状態でも助かってほしい」と願いながら、「できることはなんでもしてあげたい」と思っていたことでしょう。
ところが子どもが成長してくると、「何とかしてあげなければ」という気持ちが強くなりすぎて、ときに子どもたちに叱咤激励が多くなってしまうことがあるようです。一方で子ども側にも自我が芽生えてくるので、お父さんやお母さんの言うとおりにはならなくなりますし、そのとおりになることを求められるのも苦しくなります。ときどき、親子関係に緊張が走ることがあるんですよね。
里帰り訪問では、子どもたちには大切に育てられてきたことを感じてほしいし、ご両親には、その子に合った生き方や応援のしかたを改めて見つめる機会になればと思っています。
ただ、どこのNICUでも里帰り訪問を実施しているわけではありません。長期間フォローアップを続けている施設だからこそできる取り組みだと思っています。
小さく生まれた子の中には、第二次性徴が早く訪れるケースも
――思春期のフォローアップではどんなことを見るのでしょうか?
豊島 まず身体の成長です。男の子も女の子も、第二次性徴によって男性らしい身体、女性らしい身体へと変化していきますが、小さく生まれた子どもの場合、その変化が少し早く訪れることがあるのです。
女の子の場合、第二次性徴が早く始まると一時的に身長が伸びますが、初潮が来ると身長の伸びが止まってしまいます。これは正期産児でも同じですが、早産児の場合はもともと体格が小さいため、第二次性徴が早いと最終的に低身長につながりやすいのです。
そのため第二次性徴が早く来ていないかを確認し、必要があれば小児内分泌科の専門医と相談して、初潮を遅らせる治療を検討することもあります。
――男の子の場合はどうでしょうか?
豊島 男の子の多くは高学年を過ぎてから第二次性徴が始まるので、9歳までのフォローアップでは気づきにくく難しい面がありました。NICUのフォローアップ外来を卒業するまでは低身長ではなかった子が、大人になって再会すると低身長だったこともあります。
おそらく第二次性徴が少し早かったり、成長の伸び方が十分でなかったりするのではないかと考えています。ですから、高学年以降は男の子も女の子も、第二次性徴が早く来ていないかを確認しています。
――思春期を過ぎたあとはどのようにサポートするのでしょうか。
豊島 進学や就職についても、必要な場合は相談を受けています。一般の進学や就職を目指す子どももいれば、福祉的就労や障害者雇用枠での就職を考える子どももいます。それぞれの状況に応じて将来を一緒に考えています。
近年は、生まれ方や赤ちゃんのころの体の特徴が、成人後の健康とどのようにかかわっていくのか、世界各地で研究が進められています。私は、今年からこども家庭庁の「低出生体重児の就学前・就学期における支援手法確立に向けた研究― 分野横断的アセスメントに基づく継続的家族支援 ―」という研究班の代表を務めており、現在、全国調査の準備を進めているところです。
医療者目線だけではなく、本人や家族がどのようなことに困るのか、どんな支援を必要としているのか、NICU卒業生とその家族の実際の声を調査していく予定です。NICUにこれから入院する赤ちゃんとご家族の応援のために、全国調査の際には多くの先輩家族の皆さまにご意見をいただければと願っています。
お話・監修/豊島勝昭先生 写真提供/ブログ「がんばれ!小さき生命たちよ Ver.2」 取材・文/早川奈緒子 編集・構成/仲村教子(entente)、たまひよONLINE編集部
低出生体重児や早産児は、思春期以降に身体や発達面で課題が見られることもあるため、成長に応じたフォローアップが大切です。豊島先生のお話からは、1人ひとりの個性や可能性を大切にしながら、子どもと家族に寄り添い続ける支援の重要性が伝わります。
●記事の内容は2026年10月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。


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