早く帰る後ろめたさ、仕事を全うできてないかも。私だけが時短でいいの?
「資生堂ショック」という言葉を知っていますか?大手化粧品メーカーである資生堂が、短時間勤務制度を利用している美容部員に対し、遅番のシフトや土日の勤務をするように2014年度から運用を変えたことをいいます。
昨年、新聞やテレビのニュース番組で取り上げられたことで、インターネットやSNSで話題となり、広く知られるようになりました。今回は、この資生堂ショックを通して、ママたちの働き方について考えてみたいと思います。
「資生堂ショック」、あなたは賛成?反対?
ニュース番組を見た人の反応は、当初「時代に逆行している」「資生堂の商品はもう買わない」など否定的なものが目立ちました。
マイナスな反応が起きた一因は、ニュースの中で、
・会社の業績が落ちたことが原因
・短時間勤務の社員と通常勤務の社員は接客数のノルマが同じ
と、伝えられたことが大きく影響していました。しかし、この2点については、どうやらテレビ局側の解釈が入っているようです。
一方、「女性が活躍するためには、それも必要ではないか」「女性活躍の次のステージは、こういう方向ではないか」という、冷静な受け止め方もありました。短時間勤務制度利用者の多くは、育児をしているママです。「育児期でも職場での責任を果たし、その後の活躍につなげることができる」という意見がありました。また、「周りでカバーする社員との対立を防ぐこともできる」というのです。
育児をする社員のための両立支援制度が充実していると、母親である女性社員が働く時間を減らし、育児に多くの時間を費やすことになります。その結果、夫は妻に育児を任せきりにし、働く時間を減らさなくてよい状況になります。これは、「両立支援制度を充実させた会社にとってマイナスになり、夫の勤め先に恩恵をもたらすことになっている」「両立支援制度を充実させた会社ほど損をするのでは」という論調もありました。
また、「デパートなどが夜遅くまで営業していて、そこで働く人が長時間労働になっていること自体を見直すべきではないか」という考え方も展開されました。化粧品に限らず、「24時間営業しているコンビニエンスストアや、年末年始に営業している小売店などは、それを利用する人がいるから営業するのであって、働き方に問題意識があるなら、そういった時間帯や期間には買い物をしないようにすべきだ」というのです。
ネット通販にしても、注文したその日や次の日に届かなくても、それほど困らないにもかかわらず、その便利さを享受してしまっているところが、私自身にもあります。これは、社会全体で考えなければならない課題でしょう。
働くママ、働きたいママが知っておくべき、本当の「資生堂ショック」
今回、資生堂がこのような取り組みを行いましたが、私たちが知っておかなければならないことがあります。
それは、資生堂が女性にとって働きやすい会社になるまで、長期間かけて取り組み続けてきたことです。
育児休業や短時間勤務制度を法律よりも充実させ、事業所内保育所をいち早く作りました。現在では、他社と比べて女性の離職率が著しく低いことから、両立支援制度を「作った」だけでなく、本当に「使える制度」として運用してきたことがうかがえます。
美容部員に関しては、2006年時点では短時間勤務制度取得者がいなかったのですが、今や全美容部員の1割が取得するところまできています。こういった施策を経て、資生堂は「子育てしながら当たり前に働ける」という段階に達したと判断しました。そして、次にめざしたのが、育児期でも活躍できる会社にすることです。
時短勤務の人にも、遅番のシフト勤務や土日勤務をしてもらうために行った方法は、ひとりひとりと面談をすることでした。家族の状況などを確認した上で、その人が可能な形で勤務時間を広げていくという、地道ではあるものの、丁寧で確実な方法を取りました。会社からのメッセージが間違って伝わることを避けるため、面談をする上司たちに、伝える内容についてきちんとレクチャーしたそうです。
さらに、育休中であっても昇格対象者にはその旨を伝え、育児が活躍の妨げにならない会社を一貫してめざしているのです。「資生堂ショック」は、表面的なことだけを見るとセンセーショナルですが、トップダウンでの徹底した女性活躍推進の進め方は、愚直といってもいいほど一歩一歩着実なものだと感じました。
ほかの会社が表面的にまねしたりすると、それこそ社内は混乱に陥り、優秀な社員の離脱につながりかねませんので注意が必要です。
「資生堂ショック」が「ショック」だった真の理由
「資生堂ショック」が私たちに突きつけている本質的な問題はなんでしょうか。
それは、子どもを持つことによって、女性だけが働く時間を減らさざるを得ない現状です。早く帰ることによる後ろめたさを感じているのは、ほとんどが女性、ママたちです。父親となった男性はそれを感じることを避けるために、そして出世に響くことを恐れ、長時間労働を止めようとしないのです。
妻は時短だからと、自分の働き方を変えようとしない夫。
子育て期の男性を早く帰さない会社。
早く帰らない夫に何も言わず、自分が我慢することで解決しようとする妻。
「資生堂ショック」は、これらに対する「ショック」だと私は感じます。
社会を変えるためには、一人一人が「おかしいことはおかしい」と声を上げていく必要があります。今回の騒動は、そのことを私たちに問いかけているような気がしてなりません。まず、自分は本当はどんな働き方をしたいのか、内なる声に耳を傾けてみましょう。そして、夫にもそれを話し、理解し、協力してもらうための働きかけを。また、職場の上司とのコミュニケーションが不足していると感じたら、時間を取ってもらい、自分の率直な考えを伝えることが大切です。
さあ、一歩を踏み出してみませんか。
☆プロフィール☆
山口理栄(育休後コンサルタント)
総合電機メーカーにてソフトウェアの設計開発、製品企画に従事。社内の女性活躍推進プロジェクトのリーダーを経て2010年より現職。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。共著に「さあ、育休後からはじめよう 働くママへの応援歌」(労働調査会)。育休後の働き方を考え、情報共有し、交流するための「育休後カフェ」を随時開催。
※この記事は「たまひよONLINE」で過去に公開されたものです。