運動会なのに 練習ナシ!競争ナシ! 今どき保育園ってそうなの?!
練習を重ね、本番で成果を披露する――。そんな運動会を思い浮かべるパパ・ママは多いでしょう。一方、最近では、子どものやりたいことを取り入れ、親子で楽しむ行事へ変える園も増えています。
群馬県のひまわりこども園もその一つ。コロナ禍を機に運動会を見直し、「ひまわり親子ふれあいスポーツフェスティバル(ひまふれ)」へと名前を変えました。その変化の背景について、ママライター田中が副園長の赤石理恵子先生にうかがいます。
園児が泣きながら参加する運動会への違和感
ライター田中(以下、田中):「運動会」を「ひまわり親子ふれあいスポーツフェスティバル」に変えたのは、どんな経緯があったのでしょうか。
赤石先生:以前の運動会は、子どもが競技や演技を披露し、パパ・ママは観覧席から見る成果発表の場でした。よい姿を見せようとすると、どうしても子どもに何度も繰り返し練習をさせることになります。
「日々の保育では子どものやりたいことを大切にする保育を目指しているのに、行事では大人がやらせている。それでいいのだろうか」と違和感を持つようになりました。
田中:とくに0~1歳の子は、普段と違う雰囲気だけでも不安になりますよね。
赤石先生:そうなんです。泣く子をママから離して並ばせ、走らせることもありました。顔を伏せる子や、先生がおんぶしたり手を引いたりして参加する子、練習続きで疲れてしまう子もいました。「いったいだれのための運動会なんだろう、こんなにしてまでやらせる必要があるのかな」と考えたんです。そこで、他園の先駆的な運動会事例を参考にし、子どもの思いを大切にする保育を学びながら、数年かけて内容を見直しました。コロナ禍を機に、人とのふれあいのなかで育つことを改めて大切にしたいと考えたのと、子どもたちからも、パパ・ママと一緒にやりたいという意見があって「親子ふれあい」と名づけたんです。
おにぎりを転がす!? バッタを捕まえる!? 子どもの「やりたい」を種目に
田中:「ひまふれ」は従来の運動会とはかなり違う内容だそうですね。
赤石先生:はい。園全体を会場にして、パパ・ママが子どもと一緒に各プログラムの場所へ移動します。撮影場所の制限はなく、子どもへの声かけもOK。その年に子どもたちが楽しんでいる遊びが種目になり、紙のおにぎりを転がしたり、段ボールでつくった乗り物をパパが引いたり、ときには子どもたちがつくったお茶を親子で味わったりすることもありました。いい意味で「ごちゃごちゃ」に見えるかもしれません(笑)。
田中:子どもたちの意見を全面的に取り入れているのですか。
赤石先生:子どもにやりたいことを聞き、保育者も提案しながら一緒につくります。昨年印象的だったのは「お題ゲーム」です。「パパやママと何をしたい?」と聞くと、ボール投げ、抱っこ、おんぶ、虫探し、泥団子作りなどが挙がりました。「全部一つのゲームにすればいい」という意見が出て、参加者が引いたお題を会場から探して集めるという借り物競争のような競技になりました。
大人なら「これは無理かも」と外してしまいそうな「バッタを捕まえる」というお題なども、子どもはどんどん取り入れるので、おもしろいんです(笑)。
田中:種目は毎年変わるのですか。
赤石先生:そうです。昨年と今年のその子は違うので、同じ内容は繰り返しません。その年の子どもたちの興味や関心から、その年だけの「ひまふれ」をみんなで考えます。
「整列しなくて大丈夫?」パパ・ママの不安には、日々の保育を見える化
田中:行事を大きく変えると、パパ・ママから戸惑いの声もあったのではないでしょうか。
赤石先生:ありました。「学校に行ったらどうするの?」「並ぶ経験をさせなくて大丈夫?」など。従来の運動会を知っているからこそ、自由に見える活動に不安を感じるのは自然だと思います。
田中:園では、どう伝えていったのですか。
赤石先生:当日だけで理解してもらおうとせず、写真付きの保育記録「ドキュメンテーション」で、日々の子どもたちの姿を伝えてきました。みんなが楽しめる内容になるかを話し合ったり、実際に種目を試して考えたりする様子、種目に使う道具をみんなで協力してつくる様子などです。「ひまふれ」に向け、子どもたちが楽しみながら日々活動していることを理解してもらえるようになり、心配の声もかなり減りました。
田中:パパ・ママ参加型の行事になって、どんな変化がありましたか。
赤石先生:最も増えたのは親子の対話です。観覧席からわが子だけを見るのではなく、そばで声をかけ、ほかの子を応援したり親同士で話したりする姿が増えました。行事後も、「成長を感じた」だけでなく、「一緒に過ごせて楽しかった」という感想が増えました。行事の名前どおりのふれあいが実現できています。
競技は、比べるのではなく一人ひとりの「できた」をゴールに
田中:運動を競う種目は、すべてなくされたのでしょうか。
赤石先生:いいえ。成長を見たいというパパ・ママの思いも大切にし、心と体の健康づくりにも力を入れているため、リレーや鉄棒、上り棒、クライミングなどは残しています。ただし「練習」とは表現せず、優劣や順位もつけません。子ども自身が「マットでジャンプを見せたい」「鉄棒で前回りを見せたい」など、自分の目標を決めて披露します。できることが違っても、一人ひとりの頑張りに同じように拍手が送られます。
子どもたちが変化。自分なりの挑戦が自信になり、友だちを認める気持ちも育つ
田中:運動会のあり方が変わって、子どもたちにはどんな変化が見られましたか。
赤石先生:以前は、練習から憂鬱になる子や、嫌がる子などがいましたが、今はみんな「ひまふれ」を楽しみにしています。
また、「あの子は逆上がりができる。でも私は前回りを見せたい」というように、自分なりの基準を持てるようになっています。「あの子はあの子、自分はこれで大丈夫」と思える自信がついているようです。
田中:自分を認められることが、友だちとのかかわりにもつながるのでしょうか。
赤石先生:そう感じます。ありのままの自分を認めてもらえると、友だちにもそれぞれの思いや得意・不得意があると受け止めやすくなります。困っている子に声をかけ、相手の立場を考える姿にもつながっています。「ひまふれ」を通して、子どもたちの成長を感じます。
行事は育ちを知る機会。親子で同じ体験を楽しんでほしい
田中:「ひまふれ」には、従来の運動会にはない価値があると感じました。
赤石先生:学校生活が始まると、親子で行事を楽しめる時間は減っていきます。完成度を競うより、その場にいる親子が同じものを見て、聞いて、見つけ、心を動かすことを大切にしたいと思っています。
子どもが話していた遊びをパパ・ママが体験し、「あの話はこれだったのか」と知る。わが子の意外な一面や、友だちとのかかわりにも気づけます。子どもは園での出来事を十分に言葉で説明できないからこそ、親子で同じ時間を過ごし、その世界を一緒に味わうことに意味があると思います。
田中:運動会は「上手にできた姿を見る日」だけでなく、園で過ごすわが子の世界にふれ、親子で同じ体験を楽しむ日にもなっているのですね。パパ・ママと保育者も一緒に、一人ひとりの育ちを喜び合う。そんな新しい形が広がっていると感じました。
大豆生田先生の視点 : 行事当日だけじゃない。その過程にも豊かな学びと育ちがある
大豆生田先生:ひまわりこども園の取り組みで注目したいのは、単に練習や競技を減らしたのではなく、先生たちが子どもの姿を見つめ、「この行事は、だれのため、何のためにあるのか」と運動会そのものを問い直した点です。
もちろん、競争そのものがいけないわけではありません。年長児になると、自分と他者との関係を意識し、友だちと協力して目標を達成したいという気持ちも育ちます。リレーなど、チームで競い合うからこそ育つものもあります。
また、本番前に何度か走ったり作戦を考えたりと、それを「練習」と呼ぶかは別として、事前の準備が必要なこともあります。大切なのは、ひまわりこども園のように、大人の決めた枠で統制するのではなく、子どもの声を尊重し、運動会が生まれるプロセスに目を向けることです。そして、子どもも保育者も保護者も、ワクワクしながら参加できる場であることが大切です。ひまわりこども園のドキュメンテーションからも、子どもたちや保育者が「みんなが楽しむには?」「道具はどうつくる?」と考え、試し、協力しながら「ひまふれ」を楽しんでつくる姿がわかります。
保護者には、連絡帳やドキュメンテーションを通して、当日だけでなく、そこに至る過程にも目を向けてほしいと思います。子どもの成長や心の動き、学びを知ることで、家では見られない姿や行事に込められた意味にも気づけるでしょう。そして園の先生と一緒に子どもの成長を喜びながら、親子で行事を楽しんでほしいですね。
取材・文/田中あすか、たまひよONLINE編集部
●記事の内容は2026年10月の情報であり、現在と異なる場合があります。
<次回のテーマ>
ただ遊んでるだけじゃない!園が見ている子どもの育ち
保育ドキュメンテーションとは?
保育ドキュメンテーションとは、子どもの遊びや生活の様子を、写真や言葉で記録し、その過程にある育ちや学びを伝える取り組みです。単なる活動報告ではなく、「子どもが何に興味をもち、どう成長しているのか」を保護者と共有するための保育の記録です。
<取材先>ひまわりこども園(群馬県)
「その子らしさ」を大切に、一人ひとりのありのままの姿を受け止めている。子どもたちの「やってみたい」という気持ちに寄り添い、一人ひとりが自分で遊びを見つけ、その世界を広げられるよう、日々工夫を重ねている。園外保育や運動遊び、絵本の読み聞かせなど、多様な体験を通して心と体を動かし、健やかに成長してほしいという願いを込めて保育を行っている


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