AI時代の到来!子どもの読解力を上げたければ親が”読める人”になれ
近年、AI(人工知能)が将来人間の生活に与える影響についての議論が白熱しています。今の子どもたちが大人になるころには、AIは人間の能力をはるかに超え、現在ある多くの仕事が奪われるともいわれます。
しかし、人工知能「東ロボくん」の生みの親・数学者の新井紀子先生は
「確かにAIに代替される仕事はあるでしょう。その多くが情報に基づいて、決まった処理をするような仕事でしょうね。ただ、どんなにAI技術が発展しても、人間を超越することはない。人間だけが持てる能力がある」
と言います。人間だけが持てる能力。
その一つが、「読解力」だというのです。
教科書レベルの読解力がたりない人が増えている!
新井先生は、著書『AI vs.教科書が読めない子どもたち』(東洋経済新報社)にもあるように、基礎的読解力を調査するための、独自のリーディングスキルテスト(RST)を開発。全国2万5000人の基礎的読解力を調査した結果、中高生の読解力の低さに驚いたと言います。
「読解力とは、国語力があるということではありません。まず教科書がきちんと読めるか。文章を正確にきちんと理解できているか、ということです。RSTでは、これができている中高生が想定以上に少ないことがわかりました。
とくに気になったのが、2つの文が同じ意味かを『同じ/異なる』の二択で答える『同義文判定』の問題。答えあわせをするのに必須の能力なのですが、その正答率が低い。多くの生徒が、サイコロ並みにしか当てられない。となると、問題の答えあわせをするとき、正解と一字一句同じでないと、意味があっていてもXをつけて、模範解答例に書き直してしまう子も多い。あるいは記述式のテストで、キーワードだけあっていれば文章の意味が違っていても正解だと勘違いする。これではAIと同じです。文脈を理解できていないということですよね。また語彙も非常に少なく、『からす』という言葉を知らない高校生もいたのです」(新井先生・以下同)
小3の子どもに勉強を教えてあげられる親になれ
教科書が正確に読めていれば、東大合格も夢ではないと語る新井先生。中高生になったときに教科書が読めている子と、そうでない子の分かれ目は、いったいどこにあるのでしょうか? 実は小学3年生ごろに、読解力の壁にぶつかる子が多いようです。
「小学3年生にもなると、算数の文章問題が難しくなって、つまずく子が出てきます。『どうして間違えるのよ!』『先生の言った通りにしなさい!』と怒ったり、『この子は勉強ができないんだ…』と決めつけたりしないでください。子どもは読むことができるようになれば、ちゃんと理解できるはずです。子どもが算数を理解するには、親がきちんと教科書を読むことができ、子どもに論理的に説明してあげられるかどうか。親の読解力が問われます」
子どもより先に親の読解力を高めよう
親が読解力を高め、きちんと「読んで理解する」ことができれば、子どもと論理的な話ができるようになる。結果的に、子どもの読解力も高まる、と新井先生は言います。そこで、親自身が読解力を高めるための簡単な方法を2つ聞きました。
レシピ通りに料理を作れるか
「レシピ通りにおいしい料理が作れる人は、読解力がある人です。料理が不得意だ、と思っている人も、よいレシピをきちんと読んで、レシピ通りの材料を買ってきて、必要な道具も事前にそろえて、火加減や調味料もすべてレシピ通りに作れば、必ずおいしい料理が作れます。でも、レシピ通りの材料をそろえなかったり、材料や調味料を量らなかったりするから失敗する。『あらかじめA以外の調味料を混ぜ合わせておく』と書いてあるのに、鍋を火にかけてからそのことに気づいて焦がしたり。間違った読み方をしているから、失敗するんです。まず、レシピをしっかり読んで、レシピ通りに実行する、ということを一度やってみてください。すごくおいしく仕上がります。意外とできていない人が多いんですよ。試してみてくださいね」
雑誌をすみずみまで読めるか
「レシピがうまく読めるようになったら、次に雑誌を読んでみてください。雑誌は斜め読みしてしまいがちですよね。そうではなくて、情報をすみずみまで読んでみてください。インターネットで知りたい情報だけを検索して、自分に都合のいいところだけをかいつまんで納得するのと違って、雑誌には読者のプラスになるような情報がぎっしり詰まっています。知っていたつもりで知らなかったこともたくさん書いてあります。雑誌をきちんと読んで自分の日常に生かせば、人生はいい方向に進むはずですよ。これも読解力を高める身近な方法です」
AIに負けない人材を育てるには、読解力を高めること。そのためには、まず親が手本になることが大切! 確かに、情報がはんらんする今の時代、いろいろな文章を自分勝手に読み飛ばしてしまう人が多いかもしれません…。自分の読解力を図るいい機会だと思って、新聞、雑誌、料理のレシピなどをじっくり読んでみませんか? ぜひ、挑戦してみてください。(取材・文/玉居子泰子・ひよこクラブ編集部 撮影/なべ)
■監修:新井紀子先生
数学者。国立情報学研究所センター長・教授。人工知能「東ロボくん」研究開発プロジェクトのディレクターを務める。著書は『AI vs.教科書が読めない子どもたち』(東洋経済新報社)など多数。