「保育園・幼稚園に行きたくない」子どもの気持ちにどう向き合う?対処する?
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「保育園・幼稚園に行きたくない」と子どもが言い出したら心配ですよね。まだ小さくて、自分の言葉では理由などをうまく話せないのに、「行きたくない」とボソッと言ったり、そのような行動が見受けられる場合はどうしたらいいのでしょうか?
『ウィメンズパーク』に寄せられたママの悩みについて、接し方・対処法などについて、教育学の専門家である、汐見稔幸先生にアドバイスをいただきました。
なんだか様子がおかしい…保育園・幼稚園に行きたくないのサインは?
今まで毎日楽しく保育園・幼稚園に通っていたのに、ある日突然「行きたくない」と言い出した、徐々に行くのをしぶるようになったなど、そんなとき子どもはどんなサインを出すのでしょうか。
■「あしたようちえんいく…?」
不安そうな顔で「あしたようちえんいく…?」と聞いてきたり、朝のバス停まで歩きたがらず「ねむいねむい」(家にいる時は元気だった)といって、ぎゅーっと抱きついてバスを待っている状態です。2日前に参観日があったのですが、笑顔が全くなくて、とても我慢して頑張ってる様子でした。
■教室の前で逃亡!硬直…
教室の前で逃亡したり、動かなくなって保育園の入り口から教室まで抱っこで行ったりとか…(汗)
楽しい様子を思い出させたり,甘えさせることで気分転換を
ーーー(汐見先生)「行きたくないというのがどの程度の気持ちかを確かめるためにも、最初から『ダメ』と言わないで、例えばぎゅっと抱きしめて『ママもそういうことがあったけど大丈夫だよ』と言ってあげるとか、『〇〇ちゃんはどうしている?』『△△ちゃんのお母さん、園に来ていた?』等、さりげなく園の楽しい様子を思い出させて、気分の転換を図るといいでしょう。
園ではそれなりに緊張しますから、家で十分甘えさせてあげるということが大事になります。それで解消するのであれば、しばらく行きたくないということが繰り返されるかもしれませんが、慣れてくれば大丈夫になります。園には友だちもいるしいろいろな遊びもできるのですから、元来楽しいことがたくさんなのです。一過性のことが多いので焦らないで甘えさせてあげて下さい」
子どもが行きたくない理由は?
子どもたちが行きたくない理由は何なのでしょうか。原因が明確な場合も、聞いてもわからない場合もあるようです。
■理由を言わないので不安
行きたくない理由は特に言わないんです…だからなおさらわからなくて…年少だから、みんなそんなもんだよ!と言われるけど、なんだか不安がとれなくて。
■クラス替えで担任の先生が変ったから
保育園のクラスがかわって、担任の先生が違う人になり…大好きな先生がお辞めになったことで、子どもなりにすごくショックだった感じでした。
■休み明けだから
土日や長期休み明けは、どうしても子どももテンションが上がらないようです。家が楽しかったんでしょうね。
行きたくない理由をはっきり言えないことも
ーーー(汐見先生)「理由を言えない場合に必ずはっきりした原因があるとは断定できませんが、多くの場合、下記の二つが重なっていることが原因と考えてよいと思います。
●自分で自分の気持ちがまだよく分析できない
はっきりした理由がある場合は別ですが、ちょっとした直接要因がきっかけになって気分が行きたくないとなった場合、その気分をうまく説明することは困難です。だから『わけを言ってごらん』といっても黙るしかない、ということです。
●理由を言うことが、自分のダメなところを親に伝えることになる、ということを警戒している
子どもは親を悲しませるということを避けようとします。ダメな自分を見せること、さらすことは、親にダメな子ねと思われてしまうことになる、それはしたくない、ということで黙ってしまうということです。
多くの場合、あまり深刻に考える必要はないと思います。子どものその日の気分でそうなることが多いからです。子どもだって人間です。われわれも、ときどき今日は仕事休みたいなと思うときがあるでしょう。子どもだって同じです。何かがあって、今日は行きたくないなという気分になる。そういうことがあるのです。気分ですので、理由をといわれても言えないことが多い。1~2日様子を見て、気分が変わるのを待つ。これがこういう場合の基本対応です。
ただ、行きたくないというのに、それなりの、もう少しはっきりした理由がある場合もあります。
●性格的に集団があまり好きでない
一人で遊ぶことが好きで集団は気を遣って疲れる、と感じている子です。この場合、園長先生や担任の先生にそういう子であることを話して、しばらくは園で一人で遊んでいてもあまり気にせず、無理に集団に誘わないようにお願いすることが必要でしょう。やがて、ほとんどのこうした子は、友だちを見つけ、集団が気にならなくなります。
●できないことをさせられると思っている
人の評価が気になる年齢になってきたのに、園で競わされるとか、自分はできないのに、みんなの前でさせられるとか、それがいやなので行きたくないと思っている子です。この場合は、したくないことはしなくていいんだよ、と何回も言ってあげて、他方で、家で練習する等、園でも劣等感を持たなくて済むようにしてあげてもいいです。
●園で誰かにいじめられている、と思っている
ジャイアンのような子がいて、その子にいじめられていると感じている子です。登園したくても、その子のことを思い出すと気が滅入って行きたくなくなるのです。この場合、やはり園長先生や担任の先生に、どうも気にしている子がいて、それで登園を渋っているようだ。申し訳ないが、しばらく注意してわが子を見てくれないか、とお願いすることが大切かもしれません。
それ以外に、担任の先生が怖いと感じているということもたまにはありますね。その場合も、どうもうちの子は先生を誤解しているみたいなので、よろしくお願いしたいと話すことも一つの対応策です。
こうしたケースも、多くの場合、気分的なものですから、この年齢ではあまり気にしすぎないことが大事です。園ではときどきイヤなことがあるけど、行きたくなという子でも、一日の大部分は楽しいことをしているんです。友だちもいますし、家ではできない遊びもできます。ですから、そういうことをできるだけ思い出すような会話をするなどして、行きたくなるように配慮してあげて下さい」
そんなとき、子どもへの接し方や対処法はみんなどうしている?
無理やり連れて行くのもかわいそうだし、だからといって休ませるわけにもいかないし、行きたくないときにいつも休ませていたら怠け癖がついてしまいそうだし…。ママたちはどう対処しているのでしょうか。
■親がぶれないスタンスで接する
転園しても、退園しても、小学校になれば必ず集団生活が待っているので、無理やり…というと言葉は悪いですが、「幼稚園は病気の時以外は毎日行くところ」というスタンスで、ぶれない姿勢で連れて行っています。
■行きたくなければいかなくてもいいという気持ちで接する
うちは小学校受験なども考えていないし、幼稚園なんて、行きたくなければ行かなくてもいい、という気持ちを親側が忘れないようにしようと心がけています。
なにがなんでも行かせる!と思っていると、子どもにもそれがつたわって、プレッシャーになりそうだから。
■楽しいことを考えさせる
「お友だちといっぱい遊んでね!今日も絶対楽しいよ!また家に帰ってきたらお話し聞かせてね~!いっぱい家に帰ったら遊ぼうね!今日のおやつ何がいい?ママ、買っておくね?」というと、本人が少し前向きに保育園に行けるみたいです。
■ギューッと抱きしめる
抱っこしながら「お家で遊ぶの楽しかったんだね~!保育園はママがいないから寂しくなっちゃった?」と聞いたらうなずくので、「じゃあいっぱいい~っぱいギュ~ってしよ!!頑張る力注入~!!」とギューってしてると、ニコニコになります。
■帰ってきたらいっぱい甘えさせてあげる
帰ったらワガママ言っても対処してあげる、いっぱい抱っこしてあげる。そうすれば落ち着くと思います。
子どもに強い意志がある場合は、無理強いは禁物
ーーー(汐見先生)「あれこれ試してもどうしても行こうとしない場合。この場合は、子どもの側に強い意志があるわけですから、無理強いは禁物でしょう。それほど強い拒否の気持ちがあるわけではなさそうという場合の対応と強く拒否する場合は別です。
こういう場合、子どものことだから、そのうち諦めると思って、無理にでも行かせるということが、たいていの場合、強いしこりを残します。大人になったときに、あのとき親は僕の気持ち、私の気持ちを無視して、いやだというのに聞いてくれなかった、と恨みの気持ちを打ち明けることがよくあります。ずっと残るのですね。ですから、子どもとしっかりと話し合い、合意することを抜いて、無理にでも連れて行くことはやらないでほしいと思います。家庭で様子を見ながら、まずは園とじっくりと相談し続けることが大事ですね。
その過程で、この園はわが子のそうした悩みにあまり真剣に向き合ってくれなさそうだ、と感じた場合は、無理に戻そうとすることは止めて、別の園に転園することを考えてあげて下さい。幼稚園や保育園は、園ごとにずいぶんと雰囲気が異なり、A園はいやという子でも、B園は好き、というようなことがよくあります。園を休んでいる間に、他の園の情報を集め、ここならばというところを見つけてください。見つかったら、わが子に、『もうあの園に行かなくていいよ、ママがとてもいいと思った園を見つけたので、一回行ってみない?』と誘い出してあげて下さい。その子にあう雰囲気であれば、きっと行くと言うと思います。その場合、園側に正直に事情を打ち明けておくことが大事ですね。
それでも行こうとしないときは、幼稚園や保育園に通わせることは止めよう、小学校に通ってくれればいい、というぐらいのスタンスで、焦らないようにすることが大事です。親の焦りの気持ちが、子どもに、僕は、私は、悪いことをしているのかなという気持ちを育ててしまうからです。たいてい、自信のない子になってしまいます」
大人だって、休み明けは「行きたくない」と思うことがありますよね。子どもも小さいながらも頑張って通っているのかもしれませんね。その気持ちを受け止めて、家では思いっきり甘えさせてあげることも必要かもしれませんね。
(取材・文/武田さくら・真山りせ)
■汐見 稔幸先生
東京大学名誉教授・白梅学園大学名誉学長
1947年 大阪府生れ
東京大学教育学部卒、同大学院博士課程修了。
東京大学大学院教育学研究科教授を経て、2007年4月から白梅学園大学教授・副学長、
同年10月より2018年3月まで学長。