人と違うのは”かわいそう”なこと?人気絵本作家が語る「自己肯定感」
子どもの自己肯定感について悩んでいるお母さんお父さんの声をよく聞きます。「わたしはあかねこ」「うんこ!」などの作品で知られる人気絵本作家のサトシンさんが、ご自身の経験を振り返り、子どもや親の自己肯定感についてお話してくれました。
「そんなんじゃダメ」と怒られてばかり。でも自己肯定感は高かった
僕は物心ついた頃から、ひたすらしゃべってばかりいる子どもでした。そして、いろいろなことを考えることも大好きで、頭の中でお話を想像してその展開を楽しんでいたんです。そんなふうに想像の世界を楽しめて、自分の口で表現できることは自分の面白いところだし良いところだなと、3~4歳くらいから思っていました。だからこうして絵本作家にもなることができたと思っています。
でも、そんなふうに想像の世界に夢中になっているものだから、「そんなんじゃ大人になれないよ!」って先生に怒られてばかりだったし、母親からも「お口チャック!」とよく言われていました。夏休み帳の「くまのぬり絵」をよかれと思って七色にぬったら、母親に「そんなクマいないでしょ!」とぬり直されたり、作文を書いたら「こう書かないとだめでしょ」と書き直されたり…。小学2年生の時、母親が 8 割がた書いた作文が優秀賞に選ばれて褒められた時の、恥ずかしさと悔しさは今でも覚えています。
自己肯定感と「あかねこ」
僕の体験からいうと、子どもは自分の存在をもともと当たり前に認めているんだけど、周りの大人から「そんなんじゃダメだ」と言われて初めて、「ああ、自分ってダメなんだな」って自分を認められなくなることって結構あるんじゃないかなと思います。
僕の場合は、もともと自己肯定感が強かったからそれを跳ね返すことができました。「自分は自分で、こうでしかない」と思えたから良かったのかな。そんな考えを投影して、「わたしはあかねこ」(文溪堂)という絵本を描きました。
「わたしはあかねこ」は、赤い猫のあかねこが主人公です。生まれつきの自分の赤い色がきれいで可愛くて気に入っているけれど、お父さんやお母さん、きょうだいたちからは「どうしてあの子だけ色が違うんだろう?」「かわいそう」と心配されてしまいます。あかねこは、みんながあれこれ言ってくれることも愛情表現として受け止めているけれど、「私らしさをわかってくれないのは悲しい」と、家を飛び出します。
そんなあかねこの姿は、周りからダメだといわれるけれど「表現できるのって面白いじゃん!」と思っている僕の姿でもありました。ダメだと言われ続けたけれど、描いた絵本を面白いと思ってくれた人がいた。「そんな自分でもいいじゃない!」と言っているのが、あかねこであり、僕なんです。
「ま、いっか!」で割り切れば人生がもっと面白くなる
僕の座右の銘は、自分の絵本のタイトルにもなっているんですが、「ま、いっか!」という言葉です。一生懸命やるとか、頑張ることは必要ですけども、頑張ってばかりいると息苦しくなるでしょ。親も子も、「ま、いっか」と思えることって大事かなと思います。
「私は親なのに、自己肯定感が低くてつらいです」と悩む親御さんもいらっしゃいます。僕もね、昔、成果を上げている有名な絵本作家さんたちを見て「あんなふうになりたいな」って思っていたんです。でも、その人たちを目指しているとだんだんその人たちに似てきて、自分らしさってなくなっちゃうんですよね。「そういう人たちと僕は違う。僕は僕でいい」と自分の思いをストレートに出すようになったら、物語がスルスルと出るようになりました。
人間だから、「自分に自信がない」とか、「もっとすごいパパママたちがいるのに、これじゃダメだ」なんて悩むこともあるかもしれません。でも、自分はこういう人なんだって自分を認めるところから始まるんじゃないかな。ぜひ自分なりの「ま、いっか」を考えてもらいたいなと思います。
【サトシンさん】プロフィール
絵本作家、大垣女子短期大学客員教授など
広告制作プロダクション勤務、専業主夫、フリーのコピーライターを経て絵本作家に。作家活動の傍ら、コミュニケーション遊び「おてて絵本」を発案、普及活動に力を入れている。
絵本の主な作品に「うんこ!」(西村敏雄・絵/文溪堂)、「わたしはあかねこ」(西村敏雄・絵/文溪堂)、「とこやにいったライオン」(おくはらゆめ・絵/教育画劇)等。
この記事では、2019年3月に立教大学で開催されたイベント「たまひよカレッジin立教大学2019年春講座」で行われたサトシンさん・大熊玄先生の講義「人気絵本『わたしはあかねこ』から考える子育て・自己肯定感」の内容を抜粋して紹介しました。
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