「父と子」に迷うパパが殺到、僧侶で保護司、ベストセラー作家・向谷匡史さんインタビュー
園の送り迎えや食事や入浴のお世話だけが、”育児”にあらず。
「子どもにとって、親は最初の“人生の師”。日常の何気ない行動や言葉でも、子どもにはズシリと響き、子育てにも大きな影響を与えます」。
こう話すのは、『子どもが自慢したいパパになる 最強の「お父さん道」』(新泉社)の著者で僧侶の向谷匡史(むかいだに ただし)さん。
空手道場館長、保護司としても活動し、多くの親子関係を見つめてきた向谷さん。最近感じるのは親子といってもとくに父と子、父子関係で迷っている父親が増えているということ。そこで今回は「悩んでいる子育て中の父親」に、向谷さんが日頃伝えていることを特別に教えてもらいました。
小さい子にとって親は特別な存在
ひと昔前と比べて、積極的に子育てするお父さんたちがとても増えました。とても素晴らしい時代になってきていると思います。
ただ、「子どもの面倒を見るパパ=いいパパ」というイメージが広がりすぎて、子どものお世話をすることだけに一生懸命になってしまう若いお父さんが増えていないか、少し心配になります。
世の中のお父さん自身が思っている以上に、小さい子どもにとって親は大きな存在です。実際、道場に来る子たちの話を聞いていると「パパ自慢」で盛り上がっていることが非常に多い。「パパがこう言ったから」「パパがいつもこうしてるから」と、父親の行動を通して、考え方や行いの基本を学んでいるように思います。そのぐらい親の行動や言葉は、小さい子どもにとって意味が大きいのです。
親は子どもの人生の師として振る舞う
小さい子どもは、親が信じていることを、信じます。
いわば親は、子どもにとって最初の「人生の師」です。
ですから、お父さん達にはぜひ、子どもの面倒をみつつも、「師」として子どもに伝えたいこと、自分が信じる価値観や人生観を、ブレない態度で示すことを意識して欲しいのです。
といっても、何も特別に改まる必要はなく、普段の生活の中で十分できます。
たとえば電車の中で、こんな声かけをしていた若いお父さんがいました。
ドアが開いた途端、走って席を取った子どもが、「お父さん、ここ空いてるよ!」と父親を呼びました。ところが、父親はドアのところに立ち、来ようとしません。ちょっと険しい顔をして、逆に子どもを手招きしています。そして、席を立って父親のところにきた子どもに、こう言ったのです。
「お前は元気な子だろう?電車の席は限られているんだ。元気なお前は立って、他の人に譲りなさい。それがカッコいいことなんだ。席を立ったお前、カッコいいぞ」と。
疲れていても、自分は立つ。父親が実際やっているのを見て、子どもはその言葉に納得します。そして、先にも述べたように、お父さんがカッコイイと思っていることは、言われなくても子どもは真似するのです。
「注意されるからしない」のではなく、次からは自ら率先して行動できるようになります。
子どもが見習いたくなる背中を目指す
「あれはだめ」「これはいい」と口で注意するだけで、子どもがその通りに育つのであれば、何も苦労はいりません。
子どもが大きくなったとき、どんな行動が取れる子になって欲しいか。
それは、背中を見つめられる親自身が、自分の生き方を問うことでもあります。
公共の場ではどう振る舞うべきか、自分より小さい子や困っている人への態度、自分が悪い場合の謝り方……。こうした、社会生活における他者との関係や、自分のあり方を、子どもはいつもお父さんの背中を通じて学んでいくことができるのです。
親は、子どもの人生の師。
子どもの前だけいい格好をしていても、背中は嘘をつけないものです。子どもが見ていないところでも、お父さん自身がまず、「子どもが見習いたくなる背中」を目指す必要があります。
それが、しつけや子育てをしやすくし、やがて社会に出ていく子どもを守ることにもつながるのだということを、忘れないで欲しいのです。
このようなことを悩まれているお父さんに、いつも伝えています。
監修 向谷匡史
浄土真宗本願寺僧侶として仏法を説く傍ら、日本空手道「昇空館」館長、および保護司として、青少年の育成に携わる。人間関係術の書籍で数々のベストセラーを誇る作家。近著に『子どもが自慢したいパパになる 最強の「お父さん道」』(新泉社)
取材・文 大上ミカ
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