料理講師が知っている、料理が上達しない人の共通点とは?
「毎日、一生懸命料理をしているのにいつまで経ってもうまくならない……」という悩みはないですか? そんなあなたはもしかしたら料理を作るうえで大事なことを見落としている、あるいは誤解しているからかもしれません。今回、自身の料理教室で延べ5500人に料理を教えてきた料理家の平井一代さんに、料理が上達しない人の共通点を教えてもらいました。「自分は料理に向いていないかも……」と諦めている方も必見です。
平井一代(料理家・フードコンサルタント)
「食は楽しいこと、笑顔は台所から」をコンセプトに千葉県佐倉市を拠点に2016年まで料理教室事業を展開。20~40代の女性に支持され、独自開催からイベント教室まで幅広く対応。8年間で延べ5500人を教えた実績をもつ。手に入りやすい食材、作りやすく、再現性の高いレシピが主婦層に喜ばれている。また美容に特化した料理も得意。現在は企業の商品開発、レシピ開発、フードコンサルティングを手掛ける。
スマイルキッチン
料理が上達しない人に共通するポイント
筆者は今まで、開催している料理教室でたくさんの生徒さんと接してきました。教室に通うことで「見違えるほど上達していく」方もいれば、「入ったときとずっと同じような感じ」という方もいます。それにはいろいろな理由がありますが、教えていくなかで「ずっと同じ感じ」の生徒さんには共通するポイントがあることがわかりました。
そのポイントは大きく分けて、
1.ゴールの味を知らない
2.独自にアレンジしてしまう
3.本当の火加減を知らない
の3つがあります。
これらは1つだけに当てはまる生徒さんもいれば、2つ以上に当てはまる生徒さんもいました。それでは、それぞれのポイントを具体的に説明していきます。
1.ゴールの味を知らない~食体験を増やそう~
生徒さんと話していると、食生活の話になることが多く、その際に料理教室に来ようと思った理由を聞くことがあるのですが、「いつも同じような味になってしまう」「メニューがワンパターンになっている」という方が一定数いました。そういうお悩みがあるから料理教室に通うのですが、どうしてそうなってしまうかというと、「作り方を知らないから」ということ以前に「ゴールの味を知らないから」ということが多いようです。
例えば、旅行でも目的地が分からずに出発しても迷子になるだけですよね。それと同じで、料理も「こんな味、こんな見た目にしたい」という明確な目指す味のイメージ(ゴール)がなく成り行きで作っていると、最終的に曖昧な味になってしまうのです。
「メニュー名さえ知らない異国の料理」を作れないのは、当然作り方を知らないことに加え、本を見てレシピ通りに作ったとしても、その料理を食べたことがなければ味の正解がわからないからです。上記は極端な例ですが、一般的なメニューであったとしても、そのメニューの「正解の味(美味しい味)」を知らなければ、その味を作り出すことは難しいと思います。
ですから料理が上達するようになるためには、「美味しい味」を知ること、食体験を増やすこと、つまりは美味しいものを食べて、いろいろな味を知るということが非常に重要です。外食もそうですし、他の人が作った美味しい料理を食べるというのもその一つです。食べるのが好きな人は、だいたい料理が上手か、レシピを覚えればすぐ上達する人が多いように思います。
余談ですが、筆者の知り合いから聞いたこんな話があります。ある男性社員が社長に「うちの嫁の料理まずくって……」と愚痴をこぼしたところ、その社長は「じゃあお前は嫁に美味いもんを食わせてやってんのか」と聞いたそうです。その社長曰く「嫁に美味しいものを食わせないで、美味しいものを作れって言ったって無理があるだろう」とのこと。その話を聞いたとき筆者も「なるほどな~」と思いました。
2.独自にアレンジしてしまう~初めは同じものを作ろう~
こちらも生徒さんあるあるなのですが「この前作った教室のレシピ、先生から教わった通りにやったんだけどうまく行きません」と言われることがありました。「レッスンで習ったレシピをレシピ通りやっても再現できないとはどういうことなのか?」と思い詳しく聞いてみると、復習で料理する初回から謎のアレンジをしていることがしばしば。本人には自覚がないのですが、ところどころで独自のアレンジを加えてしまっているのです(笑)。
例えば、「キャベツが無かったので白菜で回鍋肉作ったんですが、何故かびちゃびちゃになりました」とか、「片栗粉が無かったので、小麦粉で代用しました」とか、「同じ」「習った通り」と言いつつ微妙にアレンジを加えていたり端折っていたりしました。自宅にある材料で何とかしようとしてしまうみたいですね。
レシピによっては代替えが可能なものもありますが、それは料理の基本をわかっていて、代替えが可能なもの、下処理が必要なもの、端折っても良い部分などが正確に判断できるようになっていればの話。それまでは、まずは同じものを問題なく作れるようになりましょう。アレンジはそれからしましょうね。
レシピの一つひとつの工程には、おいしい味に仕上げるための理由があります。自己判断で省いてしまうのではなく、まずはちゃんと作ること。急がば回れ、ですよ。
本当の火加減の意味を知らない~材料への加熱度合いを見よう~
例えば、レシピ本に「弱火」と書いてあるから火を弱くすればOKと思ってしまう方が多いかと思います。でも実は、火加減とは、火そのものの強さを言うのではありません。材料への加熱の度合いを言います。
どういうことかというと、同じレシピ、同じ材料、分量でも、使っている鍋(具体的には容量と表面積)が違えば水の量も変わり、加熱時間も変わります。
「じゃあレシピ本の火加減はアテにならないの…?」というとそうではなくて、あくまでも目安として具材の量に合った鍋のサイズを使えば火加減はレシピ通りで大丈夫です。
料理によって、火加減というのはある程度決まっています。
煮物やスープを例にした場合、弱火では表面がコトコト揺れる状態、中火では微沸状態で鍋の中の水分が対流しているような状態、強火であれば水分を煮詰めるときのぐつぐつ音を立てているような状態です。
炒め物に関しては、基本弱火で炒めるということはほとんどないと思いますので、強火にして中の具材がはじけるような状態です。
最初はレシピ通りの火加減でスタートし、火を見るのではなく鍋の中を見ながら調整していけば問題ありません。
「レシピ動画やレシピ本を見て作っても料理が上達しない」と思ったら、「もしかしたら自己流のやり方が間違っているかも?」と疑ってみてください。料理上手になる一番の近道は「料理上手な人の料理を食べる(お店で美味しいものを食べる)こと」と「料理の基本を知ること」に尽きると思います。今は共働き家庭が増えたこともあり時短レシピや簡単レシピ、手抜きレシピが人気です。とても重宝するのですが、一方で料理が苦手な人が美味しく作りたい場合は、やはり基本を知ってからアレンジすることが大事です。