どこか他人事だった夫が変わったきっかけは…。『親になったの私だけ』著者インタビュー【後編】
女性の求人サイトの連載で火がつき、書籍化されて話題となったイラストレーターゆむいさんの第1作は、タイトル(『夫の扶養から抜け出したい〜専業主婦の挑戦』)の通り、主人公がパワハラ傾向のある夫の扶養から抜けて、自立していこうとする内容で共感を呼びました。
そのゆむいさんの新刊が、かつての旧友耳たぶ吸ってたも~れさんの実体験を基にした『親になったの私だけ!?』。共働き夫婦だから対等な立場のはずなのに、母親となった主人公に比べて夫の生活が何も変わらないことへの不満と葛藤を描いたコミックです。
今回は、『親になったの私だけ!?』の作者・ゆむいさんと原作者・耳たぶ吸ってたも〜れさん(以下、耳たぶさんと略)のインタビュー後半をお届けします。どこか他人事だった夫が変わったきっかけや、仕事と家事・育児の両立はなぜ大変なのか、などについて聞きました。
夫は主体的に関わらないから家庭の最終責任者は妻になってしまう
――『親になったの私だけ!?』はwebでの連載中から、いろいろな感想が寄せられたそうですね。
ゆむい 連載中にどうやって夫が変わるのか、読んでいる方は楽しみに待たれていたようなんです。でも、ごめんなさい。きっかけは画期的なものではなく、まさかの「妻の暴飲暴食」が原因という…(笑)。
耳たぶ そうそう。「妻の暴飲暴食がきっかけで夫が変わる」というエピソードは実話です。実は私、あのまま夫に変化がなければ、いつ離婚してもいいと思っていたんです。私は、言うべきことはずっと言い続けてきたんですが、夫に変化はありませんでした。
結局、夫が自主的に動くようになったのは、ストレスから暴飲暴食をしている私の姿を見て、「コレは早死にしそう…」と思ったのがきっかけ。その時に、初めて子どもと二人きりで生活する自分を想像したようで、「これはちゃんとやらなきゃ、俺」と思ったと後から聞きました。
それまでは、私が何か言うと「ごめんね、ごめんね。◯◯ちゃんの言う通りだよー」と言って、その場をとにかく収めればいいと考えるタイプ。
最近のお父さんって、そういう傾向がありませんか。妻の機嫌をとりながら家事もちょっと手伝って、家庭が上手く回っていると思う人が多いように思います。でも主体性があるかといえば、ありません。結局、最終的に家庭の責任者はお母さんになるんですよね。
――確かに取材をしていても、とにかく妻を怒らせないように、と言ってる人が多いです。
ゆむい 私は本を出して夫と収入が逆転したんですが、「お前のほうが稼いでるんだから、俺やるよ」と言うように、夫が変に持ち上げてくるようになりました。私が言いたいのは収入の多い・少ないじゃないとずっと言ってるのに、理解されないまま逆転してしまったと思っています。
耳たぶ 収入に応じて家事負担をするという考えは変わってないってことだもんね。それはやだよね。
ゆむい やだよね。そうじゃないんだけど。
実際に仕事復帰してみると、想定外のことばかり
――家事の分担などは、出産前に決めていましたか?
耳たぶ めちゃくちゃ準備していましたが、やってみないとわからないことが大半でした。私の想像力が貧困だったからかもしれませんが。
仕事を終えて帰ってご飯を食べさせて、夜9時に寝かせるくらいのことはできるだろう、家事も普通にできるだろうと思っていたんです。平日にできないから、じゃあ土日にたまった家事をしようとしても、疲れちゃって、これも全くできなかったんです。
ゆむい 私は会社員をやったことがないので、耳たぶさんの話は知らないことばかりでした。保活の苦労も厳しさも、全然違いますね。保活が必要な人の危機感はほんとにスゴイと思いました。
耳たぶ 夫と半々の負担になるように決めた分担も、まったく半々ではなかったことに後から気づくわけです。
例えば、朝の保育園へは夫が送って行き、帰りは私が迎えに行くことにしました。これは一見、半々に分担しているようで、帰りのほうが負担が大きいんだということが、送迎をしてみてから気づくんです。
夕方の迎えは、決められた時間までに絶対に仕事を終わらせて、迎えに行かなければいけなくて、これがかなり大変なことでした。
だから後輩には「送迎の分担は曜日で分けたほうがいい。送りと迎えで分けるのは、全然平等じゃないから」と伝えています。
やっておいて良かったと思ったのは、毎週末に「翌週、子どもが体調不良の時にどちらが休むのか」を予め決めておいたことです。保育園から呼び出された当日に、どっちが迎えに行くかを相談すると揉めるからです。
――漫画の題材となった頃から少し年月が経っていますが、何か変化はありますか?
耳たぶ 私は子どもを産んでみて、赤ちゃんと母親って単純に幸せなわけじゃないんだなというのが実感です。
母親は不安をいっぱい背負い込んでいるんです。小児科の先生は「ちょっと赤ちゃん、ちっちゃいから」とか軽く言うんですよ。でもそんなことを言われたら、お母さんはめちゃくちゃネットで調べて、どんどん不安になっていくんです。
妊婦さんや、赤ちゃんを連れているお母さんって、周りから見たら幸せなイメージがあるけど、実際には随分違うと思います。
ゆむい 子どもに何かあると、母親ってすべて自分のせいにしてしまうんですよね。特に一人目は先が見えないし、お母さんにとって赤ちゃんは得体のしれない存在なので。
「赤ちゃん、死なせちゃったら、どうしよう」とか、ずっと恐怖が頭の中にありました。だから幼稚園児になった時に「死なせなくて済んだ!」と思えて、そこで随分ラクになりました。
何でも自分でやろうとしないで、家族と自分のいい落としどころを見つけて
――最後に、これから子育てする人たちに伝えたいことはありますか?
耳たぶ 「こうでなければならない」って自分のこだわりは削いでいったほうがいいと思います。自分のこだわりが強いと他の人を頼れないので。
その上で自分が何を大事にしたいのかを掘り下げたほうがいい。子どもがいても家事はしっかりやるのか、家事は簡素にして子どもと遊ぶ時間をとるのか、全体的にほどほどにするのか、などですね。
自分の心と家族のいい落としどころを見つけるのがラクになるポイントだと思います。
ゆむい 私は幼稚園の迎えの時に、一度倒れたことがあるんです。いきなり過呼吸になって、でも、「倒れるなら人目につく所で倒れないと、子どもがひとりぼっちになって危ない!」って思ったのを覚えています。
その後、幼稚園のママたちが「何かあったら、子どもを預かるよ」と言ってくれて。その時に、周りの人を頼っていいんだ、周りの人って優しんだって思いました。
耳たぶ そうなんですよね。なんでも自分だけでやろうとせずに、「女にしかできないことは出産と授乳だけ」くらいの意識でいいと思います。
夫婦間で何か偏りがあるなら、「それは本当に妻が(夫が)やらなきゃいけない作業なのか。分担しない理由はあるのか。偏りがあるままで先々問題はないか」など、夫婦でとことこん話しあったほうがいいと思います。
私たちの世代はすぐに変わらないかもしれません。でも、娘や息子が育児する頃にはもっと育児しやすい世の中になっているようにしていって欲しいですね。
ゆむいさんも、耳たぶさんも、「もやもやしていることを言語化するだけでもスッキリする」し、「子どもがある程度成長すると育児は少しラクになる」と語ってくれいました。ママには、時にはグチをこぼしたり、不安を吐き出したりしながら、大変な時期を乗り切ってほしいと思います。(取材・文/橋本真理子)
『親になったの私だけ!?』(KADOKAWA)