「やっと世界レベル…」9年かけてついに定期化、ロタウイルスワクチンを詳細に解説【専門医】
激しい嘔吐と水のような下痢が赤ちゃんを襲い、時に重症化する「ロタウイルス胃腸炎」。春に流行することが多いウイルス感染症です。日本でワクチンが承認されて接種がスタートしてから今まで任意接種だったワクチンが、2020年10月から定期接種になりました。2020年8月以降に生まれたお子さんが対象です。
今あらためてロタウイルスワクチンを接種することの重要性について、小児科医で神奈川県衛生研究所 所長多屋馨子先生に聞きました。
9年間という長い年月をかけて、さまざまな検証を重ねて定期化に
日本でロタウイルスワクチンが最初に導入されたのが2011年。今年9月までは任意接種でしたが10月から定期接種になりました。定期接種にするためにはさまざまな検証が必要だったと多屋先生は言います。
「ロタウイルスワクチンはアメリカで開発されたワクチンですが、同国で導入した当初、腸重積症の副反応が報告され、一時中止されました。その後研究を重ね今のワクチンが開発され、2009年には世界保健機関(WHO)で定期接種が推奨されるようになりました。2011年からわが国でも導入されましたが、定期化に向けて感染症の抑制率や副反応の発症率、費用対効果などさまざまな検証を行ってきました。これらの課題について問題ないことが確認され、昨年、2020年10月1日から定期接種を開始する方針が決まりました。
定期接種でも任意接種でも赤ちゃん・子どもを病気から守る予防接種はぜひ受けてほしいのですが、どうしても任意ということで受けていないケースがありました。
自治体の費用助成が進んだことでだいぶ上がったものの、2018年の感染症流行予測調査では60~70%程度の接種率でした。今回の定期化でさらに接種率が上がることが期待されます」(多屋先生)。
副反応を防ぐために2カ月になったら接種して
心配な声があがる副反応については、9年間、とくに慎重に検証を重ねてきたと言います。
「0才の赤ちゃんは月齢が進むと、腸重積症にかかりやすくなります。また、ロタウイルスワクチンの初回接種1~2週間は腸重積症のリスクが増すという研究結果を得ています。そのため、腸重積症の副反応リスクを抑えるには最初の接種時期がとても大切です。遅くとも出生14週6日後までに1回目の接種をすることと定めていますが、2カ月になったら受ける、が基本です。できるだけ腸重積症の起こりにくい時期に受けていただくために接種時期を指定しています。
ただし、出生14週6日後までに受けても、腸重積症が起こることがあります。そのため、接種から1~2週間の間に「突然はげしく泣く」、「機嫌がよかったり不機嫌になったりを繰り返す」、「嘔吐する」、「血便がでる」、「ぐったりして顔色が悪い」などの症状が一つでもみられた場合や、いつもと様子が違うと感じた場合は、すぐに医療機関を受診してください。」(多屋先生)。
重症化すると脱水症、まれに脳症になることも
赤ちゃんが生まれたばかりのママにとって、ロタウイルス胃腸炎と聞いてもどんな病気なのかわかりにくいかもしれません。
多屋先生によれば、赤ちゃんに負担が大きく、重症化も怖い病気と言います。
「ロタウイルス胃腸炎は数ある胃腸炎ウイルスの中でも感染力が高く、激しい嘔吐と水のような下痢を伴います。治療薬はなく、対症療法と水分補給をしながら通常は1~2週間程度で治ります。しかし、重症化すると、脱水を起こし、けいれん、肝機能障害、腎不全などを併発する恐れもあり入院治療が必要になります。5才未満の乳幼児では、全国で年間2万6500~7万8000人が入院治療を受けているというデータもあります(厚生労働省ロタウイルスに関するQ&Aから引用)。
脳症という重い合併症を併発することもあり、後遺症が出ることもあります。ワクチンは感染を完全に防ぐことはできませんが、重症化を防ぐ効果があります。とくに初回感染は重症化リスクが高いので、2カ月になったら早めにワクチンを受けほしいと思います」(多屋先生)。
こんなに怖い!ロタウイルス胃腸炎体験談
実際、ロタウイルス胃腸炎に赤ちゃんがかかってしまったというケースと、ワクチンを赤ちゃんに受けさせた体験談を紹介します。いちばん怖いのは重症化ですが、重症化しなくても親子ともに大きな負担がかかる病気です。
●上の子はワクチン導入前で受けていませんでしたが、下の子は受けました。2人ともロタウイルス胃腸炎にかかりました。
上の子は8カ月ごろに嘔吐一晩中、病院で点滴3時間、下痢10分おきが5日間くらい、最後のほうは肛門が切れて流血…。おむつかぶれもひどかったです。乳児はねらっては吐けませんから、部屋の中は壮絶です。
下の子は9カ月ごろかかりましたが嘔吐なし、下痢1日に2回くらい、とワクチンのおかげで軽く済み、本当に助かりました。
●上の子と下の子が同時にロタにかかり、下の子は入院に。つきそいが必要になり、義母に上の子の面倒を頼みました。翌日には私と夫にロタの症状が出始め、その夜に今度は義母が疲れで体調を崩しダウン。一家全滅しました……。
●子ども2人です。上の子のときはロタの予防接種がまだなくて、ロタウイルス胃腸炎なんてあることすら知りませんでした。2才のとき保育園に入ると数日でロタになり…。もうひどかったです。嘔吐が数日続き、下痢もひどく、1週間近く寝たきりでした。下の子は今8カ月ですが、この経験から、即決で接種しました。
ロタウイルスワクチン基本情報
ロタウイルスワクチンには2種類あります。2つのワクチンの効果に差はなく、どちらも定期接種になります。一部に接種できないケースもあります。医師に相談し、予診票は正しく記入しましょう。※
●『ロタリックスⓇ』
回数:4週間隔で2回接種。
時期:できれば2カ月で接種開始。遅くとも生後14週6日(生後3カ月半過ぎ)までに1回目を受け、生後24週(168日)までに接種を完了します。生後24週以降は接種できません。
●『ロタテックⓇ』
回数:4週間隔で3回接種。
時期:できれば2カ月で接種開始。遅くとも生後14週6日(生後3カ月半過ぎ)までに1回目を受け、生後32週(224日)までに接種を完了します。生後32週以降は接種できません。
※過去にロタウイルスワクチンを受けて過敏症や疑われる症状があった人、先天性消化管障害の持病を持っている人(手術等により治療が完了した場合は、接種を受けることができる可能性があります)、これまでに腸重積症にかかったことのある人、重症複合型免疫不全の持病がある人、接種前に発熱していた人、重篤な急性疾患にかかっている人は受けることができません。また、妊娠中にお母さんが免疫機能を抑制する薬(免疫抑制薬、膠原病・リウマチの治療薬など)を使っていた場合には、受けられないことがありますので、必ず接種前に医師に伝えて相談してください。予診票にもれなく記載するようにしましょう。
取材・文/岩崎緑、ひよこクラブ編集部
●記事の内容は掲載当時の情報で、現在と異なる場合があります。
いかがでしたか?自費で自治体の助成がない場合、約3万円だったワクチンが無料になるのは家計的にはとても助かりますね。それだけ国が力を入れて接種を推奨しているのがロタウイルスワクチンです。
参考資料/厚生労働省ホームページ「ロタウイルスに関するQ&A」、「ロタウイルスワクチンに関するQ&A」
※文中のコメントは口コミサイト「ウィメンズパーク」の投稿からの抜粋です