【医師監修】無痛分娩のための病院選びとは? 基準や決め方、費用などを解説

安心して無痛分娩で出産するには、「妊婦さんや家族が納得できる医療施設を選ぶこと」が大切です。どんなところをチェックして病院を選んだらいいのか、詳しく紹介していきます。
まず無痛分娩のタイプを確認
硬膜外鎮痛<こうまくがいちんつう>(硬膜外麻酔)による無痛分娩にも、大きく分けて2種類のタイプがあります。まずは、病院がどちらのタイプを採用するか調べてみてもよいでしょう。病院選びの1つの判断基準になるかもしれません。
「少しでも自然に近い無痛分娩」と出産日を決めて出産に挑む「計画無痛分娩」
無痛分娩を安全に行うためには、十分な医療スタッフと整った医療環境が重要です。日本では、365日24時間無痛分娩を行う体制を整えるのが難しいこともあり、健診の様子で出産日を決めて分娩を行う「計画無痛分娩」が主流となっています。出産日を決めるタイミングは、妊娠後期に入るころに行うところや妊娠37週以降にしているところがあります。最近では妊娠37週の健診で子宮口の開き具合などをチェックし入院日を決める医療施設が多くなっています。
さらに、普通分娩(自然分娩)と同様に自然な陣痛を待って、陣痛が10分間隔(経産婦で15分間隔くらい)になったら入院し、無痛分娩を開始する方法で行う医療施設も出てきました。この方法は欧米では一般的とはいえ、日本では行う施設が少ないのが現状です。
計画無痛分娩のメリット・デメリットとは?
計画無痛分娩は、基本、入院してから陣痛を人工的に起こし、その後麻酔を始めます。いちばんのメリットは、スタッフ的にも医療環境的にも整った状況下で無痛分娩を受けられることです。ほかにも、麻酔を始めるタイミングは医療施設の考え方や産婦さんの希望によりますが、たいていの場合、陣痛の強い痛みを感じることがほとんどないこと、また、麻酔の副作用による吐きけが強く出ないよう食事時間の調整ができることも計画無痛分娩のメリットです。
さらに、出産予定日が早めに決まるため、家族が予定を立てやすかったり、妊婦さんも心の準備をしやすいという利点があります。また、早めに入院予約を行うことで、希望する入院室や分娩室を選びやすいというのもあるでしょう。現在日本では、無痛分娩を行う医療施設はこの方法が主流なので施設を選びやすく、地域によってはこの方法のみの場合もあるかもしれません。
一方デメリットは、人工的に陣痛を起こすことになるため、子宮口を開かせる処置や陣痛促進剤を使うなどの医療処置の介入が増えることでしょう。「赤ちゃんが生まれたいタイミングに合わせていない」ことをデメリットと思う人もいますが、赤ちゃんは妊娠37週以降になれば、いつ生まれても問題のない状態になっています。陣痛が起きるタイミングは、妊婦さん側のホルモン分泌などの関係によるものなので、赤ちゃんのタイミングに反しているということはありません。
なお、37週以降に入院日を決める方法のメリットは、母体が出産に向けて変化してきている状況を確認してから出産日を決めるため、自然に陣痛が発来するタイミングに近い日に入院でき、医療処置の介入を少なくできる可能性があるということです。その半面、入院日より早く陣痛がきたり、破水が起こることもあります。その場合は緊急入院となりますが、医療施設によっては無痛分娩ができなくなる場合もあります。
自然な陣痛を待って行う無痛分娩のメリット・デメリット
自然な陣痛の発来を待って入院し、無痛分娩を行う方法は、ある程度子宮口が開いてきているので、子宮口を開く処置や陣痛促進剤を使わずにすむ場合もあるというのがメリットです。自然分娩に近いタイミングで出産できるので、陣痛の痛みも少し経験できるというのも利点かもしれません。
デメリットは、入院して麻酔を行うまでには、準備などによって早くても30分~1時間ぐらいかかり、その間は陣痛の痛みを感じるということです。分娩が早く進んでしまうと、まれに麻酔の効果が出る前に赤ちゃんが生まれる場合もでてきます。
また、自然分娩と同様、陣痛が来たと思って入院しても、子宮口の開きが不十分だったり、有効な陣痛にならなかった場合は退院になることもあります。
このタイプの無痛分娩を行うには、365日24時間、スタッフ的にも医療環境的にも整った状況にする必要があります。そのため、東京・大阪などの都市部以外、日本では行っている医療機関が少ないのが現状です。希望しても選べない可能性が高いというのが、いちばんのデメリットかもしれません。
無痛分娩をしたい! 病院を選ぶときのポイントとは
無痛分娩でも普通分娩(自然分娩)は、一般的な病院選びのポイントに加えて、医療スタッフと医療設備についてしっかり確認しておくことが、安心感につながります。
無痛分娩の病院選び、7つのポイント
どんな分娩方法を選ぶとしても、産婦さんが納得のいく施設で納得のいく出産をすることがとても重要です。その分娩の体験から得られる達成感、満足感がその後の育児にも大きく影響してくるからです。
健診をある程度受けてから無痛分娩のための病院を選ぶことも全く不可能ではありませんが、週数が進むほど難しくなります。無痛分娩を希望する場合は、できれば妊娠前から病院の目星をつけておき、以下の項目をチェックしておくと安心でしょう。
病院選びポイント1 家から近いか
これはどんな分娩方法でも同じですが、陣痛や破水が起きたときになるべく早めに入院できるところ、少なくとも1時間以内ぐらいで到着できる施設を選ぶのが一般的です。
ただ、無痛分娩を行う医療機関は少ないこともあり、希望する施設が遠い場合もあるでしょう。私たちのクリニックでも、出産日が近くなってきた時点で、クリニックの近くに仮住まいして分娩まで待機していただくということで、自宅が遠い妊婦さんをお引き受けすることもあります。
病院選びポイント2 評判がいいか
体験した人の意見や感想は、身近な内容でとても参考になるでしょう。ただ、ネットの口コミは、どのような意図を持ってあげているかがわからないものもあります。とくに匿名での評価は、意図的に歪曲しているものが混ざっている場合もないとは言えないので、参考までにとどめておくのがいいかもしれません。
病院選びポイント3 病院の雰囲気やスタッフの対応がいいか
不安や緊張をかかえて健診を受け、出産を迎える妊婦さんにとって、病院の雰囲気やスタッフの対応はとても大切です。また妊婦さんにていねいな対応ができる医療施設は、医療技術やスタッフ教育にもすぐれている施設です。安心して出産に臨むことができるでしょう。さらに無痛分娩の場合は、助産師や看護師など医師以外のスタッフも無痛分娩の知識や経験を十分に持っていることがとても重要です。ホームページやブログで無痛分娩の解説がくわしく行われているか、健診時に質問したときに、図解をしてくれるなどていねいに対応してもらえるかを確認するのも一案です。
病院選びポイント4 出産費用は予算内か
正常分娩の出産費用は健康保険適応ではありませんが、健康保険に加入している人は出産育児一時金が支払われます。そのため、差し引きすると施設によっては実際の出産費用がほとんどかからないで済む場合もありますが、20万円、30万円と追加でかかることも。加えて、無痛分娩の場合は、一般的な分娩費用よりも3~20万円ほど高くなる場合が多いです。どこまでの金額なら可能なのか、予算を決めておくことは大切でしょう。
病院選びポイント5 希望のタイプの無痛分娩を行っているか
無痛分娩を希望する際は、前で解説した「計画無痛分娩」か「自然な陣痛を待って行う無痛分娩」か…希望するタイプの方法を行っているかどうかをチェックしましょう。先にふれたように、日本では計画無痛分娩のみ行う医療施設が多いので、もう一方のタイプを希望する場合は、施設選びが難しいかもしれません。
さらに以下についても調べておくと「思っていたのと違った」ということになりにくいでしょう。
・どの程度痛みが取れるのか
医療施設の考え方によっては、ある程度分娩が進んでから麻酔を行ったり、陣痛の痛みをあえて残すよう麻酔を行うところもあります。そういう施設では、「和痛分娩」という呼び方をしているかもしれません。とくに最初から痛みを感じないようにしたい、完全に痛みを感じないようにしたいと思っている場合は、「無痛分娩なのに痛みがあった」ということにならないよう、医師やスタッフに確認したほうがいいでしょう。
・入院日より前にお産が始まったときの対応
入院日より少し前に陣痛や破水が生じて緊急入院となった際にも無痛分娩が可能かどうかは、その施設が休日や夜間の無痛分娩に対応できるかどうかで異なります。施設によってはできない場合もあるので、確認しておくといいでしょう。
・立ち合い出産が可能か
施設によっては、無痛分娩では立ち合い出産ができないところもあります。立ち合い出産を希望している人は、確認しておいたほうがいいでしょう。
病院選びポイント6 総合病院か個人産院か?
妊婦さんが妊娠・出産に影響しやすい病気を持っていたり、妊娠経過に問題があるなど健康上のリスクを持っている場合は、無痛分娩にかかわらず、高度医療を行っている総合病院を選ぶほうがいいでしょう。一方、健康上に問題がない人なら、個人産院で無痛分娩を受けることを心配する必要はありません。
むしろ次の項目にあげている各医療施設の内容をチェックしましょう。無痛分娩にしっかり取り組んでいる施設であれば、病院の大きさは基本関係ありません。
病院選びポイント7 無痛分娩の件数、医療スタッフや医療体制はどうか
各病院の無痛分娩の経験値が高いかどうかは、病院を選ぶ際の安心材料になります。
以下、確認しておきたい項目をあげておきます。
・分娩件数
医師1人に対して月10件程度分娩件数があればキャリアが高いと考えていいでしょう。
・無痛分娩率
たとえば年間2000件の分娩を行っている施設でも無痛分娩が200件だとしたら、無痛分娩率は10%。同じ200件でも無痛分娩率が50%の施設のほうが、無痛分娩の経験値が高いと考えていいでしょう。
・医療スタッフの人数
無痛分娩では医師だけでなく助産師や看護師の働きもとても重要なので、医師だけでなくスタッフの人数も確認できると安心です。
・麻酔科医の有無
麻酔科医、とくに産科の麻酔に慣れている医師が常駐しているかどうか確認しましょう。とはいえ現状、麻酔科医の絶対数は少なく、硬膜外鎮痛は経験豊富な産科医が担当している場合も少なくなくありませんし、それが一概に安心でないというわけではありません。いずれにしても、研修を定期的に行っていたり、危機管理が充実しているかどうかも確認しておくといいでしょう。
・施設の無痛分娩に対する姿勢
ホームページなどで無痛分娩について詳しく情報発信をしたり、妊婦さんに講習会を開いたりしている施設は、無痛分娩を積極的に行っている施設と考えていいでしょう。厚生労働省のサイトには、施設の希望により掲載をしている「無痛分娩取り扱い施設の一覧」もあるので、そちらも参考にするといいでしょう。
また、平成29年に厚生労働省から公表された、「安全な無痛分娩を行うための医療設備などに関する提言」には、妊婦さんや家族に向けて以下のような情報を各施設のホームページや「無痛分娩関係学会・団体連絡協議会(JALA)」のサイトで公開することをあげています。以下を公表しているところも、意識の高い施設と考えていいと思います。
・無痛分娩の医療実績
・無痛分娩に関する標準的な説明文書
・無痛分娩の標準的な方法
・分娩に関連した急変時の体制
・危機対応シミュレーションの実績麗
・無痛分娩麻酔管理者の麻酔科研修歴、無痛分娩実施歴、講習会受講歴
・麻酔担当医の麻酔科研修歴、無痛分娩実施歴、講習会受講歴、救急蘇生コースの有効期限
・日本産婦人科医会偶発事例報告・妊産婦死亡報告事業への参画状況
・ウェブサイトの更新日時
里帰り出産で無痛分娩をしたいときに気をつけること
里帰り出産で無痛分娩を希望することももちろん可能です。一般的に、里帰り出産の場合は、妊娠20週までに申し込みが必要なところが多いようです。けれども、無痛分娩を希望する場合は、もっと早い週数での申し込みが必要なところもあります。早めに確認しておいたほうがいいでしょう。
取材・文/笹川千絵、ひよこクラブ編集部
無痛分娩を行う施設は限られていることもあり、都市部以外では複数の中から選ぶのが難しい場合もあるかもしれません。それでも確認できることは確認し、「納得した施設で無痛分娩を受けることが大切」と先生は言います。できれば妊娠前から確認してある程度病院を決めておくとあわてずにすみますね。